- 遺言執行者とは何か
- 遺言執行者の業務の流れ
- 遺言執行者を選任すべきケース
遺言を作成しておこう(作成してもらいたい)とお考えの方は「遺言執行者(遺言執行人)」について、しっかりと理解しておく必要があります。
なぜなら「遺言執行者(遺言執行人)」を決めておけば、遺言内容を速やかに実行することができ、相続人トラブルを予防する効果もあるからです。
とはいえ聞き馴染みのない言葉で、「遺言執行者って何?」「どんなことをする人?」「誰がなるの?」と疑問がたくさんあるでしょう。
遺言執行者(遺言執行人)とは、名前の通り「遺言を執行する人」、つまり遺言の内容を実現するために手続きを行う人です。
未成年や破産者以外であれば誰でもなることができ、遺言書を作成する人が指名することも可能ですし、裁判所に判断を委ねることもできます。
遺言執行者は絶対に必要なものではありませんが、亡くなったあとのことは自分でどうすることもできませんので、安心して遺言を実行するためにも選任しておくことをおすすめします。
この記事では遺言執行者について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1章 遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するための相続手続きを単独で行う義務・権限を持つ人であり、具体的に以下のような手続きを行います。
- 相続人の調査
- 遺産の調査
- 法定相続人への連絡
- 相続財産目録の作成
- 預金解約手続き
- 不動産名義変更手続き
- 相続財産の分配
通常、遺言の内容を実行するためには、相続人全員で協議して、全員分の戸籍関係書類や印鑑証明書などの書類を集めなければいけませんが、遺言執行者が選任されていれば単独で手続きを進めることができるため、非常にスムーズな遺言の実現が可能となります。
1−1 遺言執行者の必要性
遺言執行者は必ずしも必要なものではありませんが、遺言を作成するのであれば遺言執行者を選任することをおすすめしています。
遺言を作成しても、自身が亡くなった後のことは分かりません。
そのため以下のような不安もあるでしょう。
- 「ちゃんと遺言通りに相続してくれるかな?」
- 「遺言の存在に気づいてもらえるだろうか?」
- 「遺言をきっかけに相続人間でトラブルにならないだろうか・・・」
遺言執行者を選任しておけば、確実に遺言の内容を実現してもらうことができます。遺言執行者には遺言を作成した人の思いを受け継ぎ、実現する役割があるのです。
また、前述したとおり、遺言執行者には単独で相続手続きをする権限がありますので、必要な手続きをスムーズに進めることができます。
2章 遺言執行者が行う業務の流れ
遺言執行者の業務は以下のような流れで進めます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①相続開始
遺言執行者の業務は、遺言者が亡くなった直後から開始されます。
速やかに準備に入りましょう。
②遺言執行者の承諾
相続が開始したらまず、遺言執行者に選任された人は、自身が遺言執行者に就任するかどうか決めます。
この段階で、遺言執行者に就任したくないときは拒否することも可能です。
③相続人の調査
遺言執行者に就任したら、はじめに「相続人が誰か」を明確するため、相続人の調査をしましょう。非常に稀なケースではありますが、隠し子など把握していない相続人がいることも否めないためです。
相続人の調査は、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本などの公的な書類を取り寄せることで行います。
④遺言執行者就任の通知
遺言執行者に就任したら、相続人調査で明らかになった相続人全員に「遺言執行者就任通知書」を送付します。
通知書には以下の内容を記載しましょう。
⑤遺産の調査
遺産を遺言書通りに分配するためには、遺産の全容を把握する必要があります。
遺産は、「プラスの財産」と「マイナスの財産」どちらも明らかにしなければいけません。
遺産の種類ごとの調査方法については、以下のとおりです。
遺産の種類 | 調査方法 |
不動産 | 登記識別情報通知や権利証を確認し、法務局で不動産の登記事項証明書を取得 |
預貯金 | 自宅に保管されている証書や通帳を確認し、各金融機関へ残高証明書または取引明細書を取得 |
株式・有価証券 | 取引していた株式会社を調査し、各証券会社へ取引状況の照会を申請。 |
借金 | 通帳からの引き落とし履歴や、債権者から届いた請求書などの郵送物を確認。 借入状況が分からない場合には、各信用情報機関へ情報公開を請求。 |
遺産の調査方法について、詳しくはこちらを御覧ください。
⑥財産目録の作成
財産目録とは、財産(遺産)を一覧にまとめたものです。
遺産の調査が完了したら、調査の内容をまとめて「財産目録」を作成しましょう。
以下の記事では、財産目録の作成方法や雛形など詳しく解説していますので、参考にしてください。
⑦遺言内容実現のための手続き
遺言内容の実行に向けて以下のような手続きを進めます。
- 法務局での登記申請(不動産の名義変更)
- 各金融機関の解約または名義変更手続き
- 株式などの名義変更手続き
- 換価(売却し、お金に替える)手続き
それぞれの手続きについて詳しく見ていきましょう。
1.法務局での登記申請(不動産の名義変更)
遺言によって相続人が不動産を取得する場合には、該当する不動産を取得する人の名義に変更する手続き(法務局への登記申請)をします。
登記申請は、該当する不動産を管轄する法務局で申請します。
ご自身で行うことが難しい場合は、司法書士へ依頼することもできます。
2.各金融機関の解約または名義変更手続き
銀行口座などに、遺産として預貯金がある場合には、各金融機関で銀行口座の解約または名義変更の手続きをします。
なお、通帳やキャッシュカードを使ってATMから引き出すような行為は決してやってはいけません。このような行為は、相続トラブルの元にもなります。
3.株式などの名義変更手続き
株式や投資信託などの財産がある場合には、その名義変更も必要です。
所有している株などがある口座の証券会社に問い合わせをして、案内に従って手続きをするようにしましょう。
4.換価(売却し、お金に替える)手続き
不動産や車など、現物として取得する人がいない場合や、遺言書で売却してから分配するように決められていたときは、売却してお金に替える手続きをしましょう。
お金に替えた上で、遺言の内容に沿って分配します。
不動産の場合は、不動産業者に査定してもらい、売却を進めます。車であれば、中古車販売会社で問題ありません。
不動産の売却は、物件の状態や価値によっては一筋縄では行かない可能性があるので、早めに手続きを進めておきましょう。
2−8 ⑧遺言の執行
預貯金や不動産などの手続きが終わったら、遺言の内容に沿って遺産を受け取るに相続財産を分配します。
2−9 ⑨業務完了の報告
遺言の執行が完了したら、相続人全員に「遺言執行完了通知」をもって業務完了の報告をします。
これで遺言執行者の業務は終了です。
3章 遺言執行者になれる人|専門家にお願いするのがおすすめ!
遺言執行者は、未成年・破産者以外であれば誰でもなることができます。
相続人の中の誰かでも良いですし、極端な話相続に関係のない信頼できる友人でも良いのです。
しかし、実務上、以下の人が遺言執行者になることが一般的です。
- 相続人
- 司法書士、弁護士、銀行などの専門家(専門機関)
なお、遺言執行者の業務内容を見て分かる通り、遺言執行者の業務は非常に大変です。
また、法的知識も必要なため専門家へ依頼しておく方も多いのが現実です。
3−1 相続人
遺言執行者は未成年・破産者以外であれば誰でもなることができますので、相続人を遺言執行者に選任する方もいらっしゃいます。
しかし、遺言執行者の業務は法的な知識も必要になるので、一般の方がすべてこなすのは難しいのが現実です。選任された相続人の方にとっては、かなりの負担になるでしょう。
そのため完了まで1年以上かかってしまったり、途中で業務を中断してしまったりすることもあります。
そうすると遺言執行者を選任した効果がほとんどなくなってしまいます。
遺言執行者は司法書士や弁護士などの専門家に依頼することも検討するのが良いでしょう。
3−2 専門家
遺言執行者を依頼する専門家は主に
- 司法書士
- 弁護士
- 銀行
の3つです。
このうち、銀行の場合、依頼を受けるのは銀行ですが、実務をするのは外注を受けた司法書士や行政書士です。ですので外注費用もかかるため、割高な傾向がありあまりおすすめできません。
また、司法書士・弁護士であっても、相続発生が10年後、20年後などかなり先になった場合、相続発生時にその司法書士・弁護士が現役で活動しているとは限りません。
司法書士・弁護士に依頼する場合には、法人化している事務所に依頼するようにしましょう。
遺言執行者は、個人ではなく、法人を選任することが可能です。
つまり「司法書士法人○○事務所の、△△先生に依頼する」といった形式ではなく、「司法書士法人○○事務所」自体を遺言執行者に選任することができるということです。
法人化されている事務所に依頼することで、担当していた司法書士が退職や死亡などで、現役を退いたとしても、相続発生時点で在籍している司法書士たちが遺言執行者として業務を行ってくれます。
4章 遺言執行者を選任するメリット・デメリット
次に、遺言執行者を選任するメリット・デメリットについて見ていきましょう。
具体的なメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット |
|
デメリット |
|
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4−1 メリット
メリット① 遺言の内容を確実に実行できる
せっかく遺言を遺しても、相続人たちが遺言の内容に沿ってきちんと相続をしてくれるとは限りません。
相続人全員で遺産分割協議をして、遺言とは異なる内容で相続する可能性があります。
司法書士などの弁護士に依頼すれば、手続きにも慣れているので速やかに遺言の内容を実現してくれます。
メリット② 相続手続きがスムーズに行える
遺言書があっても、遺言執行者がいないと預金や不動産の名義変更など、相続人全員の協力が必要であり、戸籍謄本などの資料もすべてを収集しなければいけません。
遺言執行者にはすべての手続きを単独で進める権限があります。そのため、煩雑な相続手続きをスムーズに進めることが可能です。
メリット③ 相続人同士のトラブルを防止できる
遺言作成時から専門家に依頼しておくと、亡くなった方の想いを代弁するなどしてくれるので、遺言の信ぴょう性が高くなります。
逆に専門家に頼まない場合、一番財産を多くもらう人が遺言執行者になるケースが多いですが、そうなると他の相続人から批判が集中することがあります。
また、他の相続人に自分が遺産を多くもらうことを説明するのは、心苦しいと思うこともあるでしょう。
そのため、専門家に依頼して、遺言者の意向を代弁してもらい、矢面に立ってもらうのがおすすめです。また、第三者的な立ち位置の法律家が介在することで、不満を抱えている相続人も冷静に話を聞いてくれる可能性が高くなります。
3−2 デメリット
デメリット① 断られる可能性がある
遺言執行者に選任されたからといって、必ず遺言執行者に就任し、業務を遂行しなければいけないという義務はありません。
選任された人は、就任することを拒否することも可能です。
そのため、相続人などを遺言執行者に選任した場合、「業務が煩雑だから」「時間がない」といった理由で拒否されてしまう可能性があります。
その場合、従来どおり相続人全員で協力して遺言に基づいた相続を進めるか、裁判所に新たな遺言執行者を選任してもらうよう申し立てをしなければいけません。
一方、司法書士法人や弁護士法人などで、遺言執行者に就任する契約を締結していれば、事務所が存続する限り業務を遂行してくれます。
デメリット② 任務を遂行してもらえない可能性がある
突然「あなたを遺言執行者に選任します」と言われても、なんのことか分からず、何もせず放置してしまう方もいらっしゃいます。
その場合、相続人がわざわざ遺言執行者の解任の申し立てを裁判所で行わなければいけません。
また、解任後は、拒否された場合と同じく相続人全員で協力して遺言に基づいた相続を進めるか、裁判所に新たな遺言執行者を選任してもらうよう申し立てをしなければいけません。
デメリット③ 費用(報酬)がかかる
遺言執行者が、知人や専門家の場合は報酬を支払わなければいけません。
詳しくは後述しますが、報酬の相場は知人などの場合10〜30万円、専門家に依頼した場合、遺産総額の1〜3%(最低額30~50万円)程度かかります。
相続人が請け負う場合は、報酬を設定せず無料のケースがほとんどです。
4章 遺言執行者が特に必要なケース
遺言を作成するのであれば、遺言執行者を選任しておくに越したことはありません。
中でも、以下のようなケースでは特に遺言執行者を選任しておくべきと言えます。
- 相続トラブルになりそう
- 遺産の分配に偏りがある
- 相続する人が仕事など忙しいケース
- 相続する人が同年代のケース
- 相続人廃除や取り消しがある
- 子どもの認知など、法的手続きが必要
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4−1 相続トラブルになりそう
相続人同士があまり仲良くなかったり、疎遠だったりする場合、相続トラブルが起きやすい傾向にあります。
また、遺言によって遺産を受け取れない人がいる場合には、その内容に不満を持ち、遺言の無効を訴えたり相続トラブルに発展する可能性もあります。
相続トラブルは一度生じてしまうとこじれてしまい、争いが長期化しやすくなります。裁判にまで発展してしまうと、精神的にも経済的にも相続人の負担になってしまうでしょう。
遺言執行者がいれば、単独で手続きが可能になりますので、相続トラブルになりそうであれば遺言執行者を選任しておくべきです。
このようなケースでは、専門家へ依頼するようにしましょう。
4−2 遺産の分配に偏りがある
遺産の分配に偏りがある場合、遺言の内容に納得がいかない相続人が出てくるでしょう。その場合、相続トラブルになりやすくなります。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議が必要なので、希望する遺産分配に偏りが生じるときは、合意を得れなかったり、手続きに協力してくれないことがあるので、あらかじめ遺言執行者を選任しておく必要があります。
偏っている内容の遺言を残すには、それなりの理由があるかと思います。
遺言にその理由について書き記すことはできますが、文面だけではなかなか伝わらないかもしれません。
そこで、遺言執行者となってもらう人に、遺言作成時の証人にもなってもらい、遺言者の真意・想いがあったことを説明してもらうようにしましょう。そうすることで、他の相続人も納得しやすいはずです。
法律のプロである司法書士や弁護士に証人になってもらい、そのまま遺言執行者にもなってもらうのがベストです。
4−3 相続する人が仕事など忙しい
相続手続きは、以下を見ていただくと分かる通り、必要書類の収集、各機関での手続きと、非常に大変です。
- 遺言者の出生から死亡までの戸籍関係書類の収集
- 相続財産の調査
- 法務局での登記申請
- 各金融機関の解約または名義変更手続き
- 株式などの名義変更手続き
- 換価(売却し、お金に換える)手続き
しかも、手続きをする先のほとんどは平日の日中にしか開いていません。
そのため、仕事をしている人や、小さいお子さんがいる人が手続きするのはかなり大変でしょう。
相続人の方の中で余裕のある方がいらっしゃるのであれば良いですが、なかなかそうもいきません。しかも、数年後どうなっているかなどわかりません。
適当な候補者がいない場合は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
4−4 相続する人が同年代のケース
配偶者や兄弟など、同年代の人に相続させる場合、同様に年を重ねていくため、遺言の効力発生日には、すでに亡くなっていたり、体調不良や認知症などになっていたりする可能性があります。
このようなケースでは、次の世代(子供や甥姪)か司法書士や弁護士などの専門家に依頼するのがいいでしょう。
4−5 遺言で相続人廃除をしている
遺言者の不利益になる行為や、遺言者に対して著しく不快にする行為をした人の相続権を剥奪する「相続人廃除」という制度があります。
相続人廃除は生前に裁判所で手続きをする方法と、遺言で遺しておく方法があります。
遺言で相続人廃除をする場合、裁判所で手続きをしなければいけませんが、その手続きは遺言執行者にしかできませんので、必ず遺言執行者の選任が必要です。
相続人廃除の手続きは非常に重要ですので、遺言作成時に司法書士や弁護士を遺言執行者に依頼しておくことをおすすめします。
4−6 子どもの認知など、法的手続きが必要
遺言では、非嫡出子(婚姻関係のない男女の間に生まれた子供)を認知することもできます。
非嫡出子に相続人として相続させたい場合には、遺言で認知をすることもあるでしょう。
遺言で認知をする場合、遺言執行者が認知届などの手続きをしなければいけません。
相続人廃除と同様、非常に重要な手続きですので、遺言作成時に専門家を遺言執行者に依頼しておくことをおすすめします。
5章 遺言執行者の選任方法
遺言執行者を選任する方法は主に以下の3つです。
- 遺言書で指定する
- 第三者に指定してもらう
- 家庭裁判所に指定してもらう
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
5−1 遺言書で指定する
遺言書に「遺言執行者を指定する旨」「指名する人」について記載をすることで選任することが可能です。
遺言執行者に関する内容は、遺言書の最後(遺産分割方法の指定に関する内容の後)に記載します。
以下は、遺言書で指定する場合の書き方の例です。
複数人の遺言執行者を指名する場合や、遺言執行者が死亡した場合の第二順位の遺言執行者を指定する場合、遺言執行者へ報酬を定める場合には、その旨についても記載するようにしましょう。
また、指名された人は相続発生時に自身が遺言執行者であることを初めて知ると困惑してしまいます。必ず遺言作成時に、遺言執行者に指定する旨を伝えておくようにしましょう。
5−2 第三者に指定してもらう
遺言書で具体的な人を遺言執行者に指定するのではなく、「遺言執行者を決めてください」と書き、相続発生時に第三者に遺言執行者を決めてもらう方法もあります。
この方法であれば、遺言作成時と相続発生時で状況が異なっていても、相続発生時に相続人たちの判断で最適な人を遺言執行者に選任してもらうことができます。
5−3 家庭裁判所に指定してもらう
遺言執行者は裁判所に指定してもらうことも可能です。
例えば、以下のようなケースでは家庭裁判所に指定してもらうこととなります。
- 遺言執行者が遺言書で指名されていた人が拒否した
- 遺言執行者を第三者が指定するよう書かれていたが、誰も遺言執行者になろうとしない
- 遺言書で指定されていた人がすでに亡くなっている/認知症などになっている
- 遺言執行者に指定された人が業務を行わないなどの理由で解任された など
ただし、家庭裁判所へ申し立てをする前に、遺言執行者の候補者を決めておくようにしましょう。仮に候補がいない場合は、「候補者なし」で申し立てしましょう。
遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書を含む必要書類を持参し、申し立てをします。
申し立てをする前に、遺言執行者の候補を決めておきましょう。
【必要書類】
- 申立書【記載例・申立書の書式はこちら(裁判所HP)
- 遺言者の死亡の記載がある戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本(※)
- 遺言執行者の候補者の住民票または戸籍附票
- 遺言書の写しまたは、遺言書の検認調書謄本の写し(※)
- 戸籍謄本など利害関係を証明する資料
(※)申し立て先の家庭裁判所に遺言書検認の記録が保存されている(保存期間は検認から5年間)場合には不要
【申し立て費用】
- 800円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手(金額は裁判所によりますので、各裁判所に問い合わせましょう)
6章 遺言執行者に就任するかは自由
ここまで何度かお話しはしましたが、実は、遺言執行者に指定された人であっても、実際に遺言執行者に就任するかどうかは自由です。
そのため、指定された人は「時間がないから」「面倒だから」といった理由で断ることができます。
そうすると、「遺言執行者への就任を拒否されたらどうなるのか?」が気になりますよね。その点については以下で解説します。
6−2 遺言執行者への就任を拒否したらどうなるのか
遺言執行者に指定された人が就任を拒否した場合の手続きは、2つのパターンがあります。
パターン1.相続人全員で協力して手続きをする
遺言執行者はいないものとして、相続人全員で協力をして遺言の内容を実現するよう手続きをします。
この場合、相続人全員の戸籍関係書類や印鑑証明書などの書類を集めなければいけません。
相続人が多い場合や、疎遠な相続人がいる場合には手続きが大変になります。
パターン2.家庭裁判所に新たな遺言執行者の選任を申し立てる
遺言執行者を担う人がいなくなった場合、新たな遺言執行者の選任を裁判所にしてもらうことができます。
相続人のうちの一人でも良いですが、最初から選ばれていなかった人を遺言執行者に選任するのはトラブルの原因にもなりますので、司法書士や弁護士などの専門家へ依頼するのが良いでしょう。
7章 遺言執行者をやめさせることも可能
遺言執行者に指定された人が、遺言執行者に不相応である場合には、その人を解任させることも可能です。
7−1 解任ができるケース
遺言執行者の解任は、好き勝手できるわけではありません。解任できるのは以下の2つのケースです。
ケース1.遺言執行者が業務を怠った
解任されるケースで最も多いのが「遺言執行者が業務を怠った」というケースです。
遺言執行者が行うべき業務をいつまでも行わないような場合には解任することができます。
ケース2.解任に正当な理由がある
その他、以下のようなケースでは「解任するにあたる正当な理由」として解任することができます。
- 一部の遺言内容しか執行しない
- 相続財産を不正に使い込んでいる
- 一部の相続人に利益が出るよう加担した
- 行方不明/長期不在である
- 明らかに高額な報酬を請求している
- 病気などによって役目を全うできない など
- 遺言の内容に納得が行かないから
- 専門家への報酬を支払いたくないから
- 仲が悪いから
- 態度が気に入らないから
上記のような理由では、遺言執行者を解任することはできませんので注意しましょう。
7−3 解任をする手続き
遺言執行者を解任するには、家庭裁判所に申し出る必要があります。
裁判所が「解任に値する理由があるのか?」と判断することとなり、すぐに解任できるわけではありませんので注意しましょう。
具体的な手続きは以下のとおりです。
解任を希望する利害関係者(相続人や受遺者など)の代表者が、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書を含む必要書類を持参し、申し立てをします。
【必要書類】
- 申立書【申立書の書式はこちら
- 遺言者の死亡の記載がある戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本(※)
- 遺言執行者の候補者の住民票または戸籍附票
- 遺言書の写しまたは、遺言書の検認調書謄本の写し(※)
- 戸籍謄本など利害関係を証明する資料
(※)申し立て先の家庭裁判所に遺言書検認の記録が保存されている(保存期間は検認から5年間)場合には不要
【申し立て費用】
- 800円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手(金額は裁判所によりますので、各裁判所に問い合わせましょう)
8章 遺言執行者への報酬
遺言執行者を選任した場合、相続人はその人に対して報酬を支払う必要があります。
自己資金で支払うのではなく、相続財産の中から支払い、差し引いた分を遺言の内容に沿って分け合うのが一般的です。
報酬は、誰が遺言執行者に就任するかによって異なりますので、それぞれ見ていきましょう。
8−1 相続人が遺言執行者に就任した場合
相続人などの一般の方が就任する場合、報酬を定めないケースが多いです。
報酬を定めること自体はできるので、定めておきたい場合は遺言に報酬明細を書いておくようにしましょう。
8−1−1 家庭裁判所に報酬を決定してもらうことも可能
- 遺言書の中で報酬が指定されていない
- 遺言書で設定されている報酬に不満がある
- 紛争などが生じて想定よりも工数がかかった
家庭裁判所で法律にのっとった報酬額を裁判所に決定してもらうことが可能です。
家庭裁判所は、相続財産の内容や、遺言執行者が行った業務内容・難易度、遺言執行者の地位や収入、遺言者との関係性などを踏まえて報酬を決定します。
この基準は家庭裁判所の裁量に委ねられており、決定された報酬額に対して異議を唱えることは原則としてできません。
8−2 専門家が遺言執行者に就任した場合
遺言執行者に就任する専門家は主に以下の3つです。
- 司法書士
- 弁護士
- 銀行
それぞれの報酬相場を、遺産総額【5000万円以下】【1億円以下】【3億円以下】のそれぞれのケースに分けて見ていきましょう。
遺産総額 | 司法書士 | 弁護士 | 銀行 |
5,000万円以下 | 30~50万円 | 40~60万円 | 60~100万円 |
1億円以下 | 50~100万円 | 60~130万円 | 100~150万円 |
3億円以下 | 100~250万円 | 130~300万円 | 160~500万円 |
※上記の表はあくまで目安です
上記から分かるように、相場的には司法書士が相場帯がもっとも安く、次に弁護士、銀行と続きます。
特に銀行は、銀行自体が実務をするのではなく、各手続きを司法書士や弁護士などの専門家に外注することとなるため、費用が割高になっています。
また、遺産に不動産があるときは、弁護士や銀行も不動産登記手続きのプロである司法書士へ外注することになるため、初めから司法書士へ依頼しておくのがスムーズで良いでしょう。
9章 2019年の法改正による変更点
2019年に遺言執行者の権限に関する法律が改正されました。
具体的に変更されたのは、以下の点です。
- 遺言執行者の立場
- 遺言執行者の権限
- 相続人への通知の義務化
- 遺言執行者の妨害禁止
- 遺言執行者の復任権
- 遺言執行者の相続登記手続きの可否
- 遺言執行者による預貯金の払い戻し・解約権限
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①遺言執行者の立場
遺言執行者は「遺言の内容を守り、実現する」立場になった!
改正前は、遺言執行者は「相続人の代理人とみなす」とされていました。
つまり、遺言執行者は「相続人側」の立場であるととらえられ、遺言の内容が相続人の希望通りではないときに遺言執行者と相続人の利害が対立し、トラブルになることがしばしばありました。
そこで、この法改正で遺言執行者の立場を「遺言の内容を守り、実現する」という立場であると明文化されました。
②遺言執行者の権限
遺言執行者の権限が「遺言の内容を実現するため」にあることが明文化された!
改正前、条文内では「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法第1012条)」とされていました。
改正後「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(改正民法第1012条)」となっています。
これまでは、遺言執行者であれば相続財産の管理や手続きをなんでもできると思われることがありました。
しかし、改正されたことで「遺言の内容を実現するため」とう一文が追記され、遺言執行者の権限は、あくまで「遺言の内容を実行するため」にあると明文化されたことで、より遺言執行人の権限が「遺言を実現するため」の範囲内であることが明確になりました。
③相続人への通知の義務化
遺言執行者への就任と、業務開始を相続人に通知することが義務化された!
改正前は、遺言執行者が相続人に対して遺言執行者への就任と業務の開始を通知することが義務かどうかははっきりとされていませんでした。
改正後、相続人への通知が義務であることが明文化され、「相続人が知らないうちに手続きが進んでいた」といったトラブルを防げるようになりました。
④遺言執行者の妨害禁止
相続人は遺言執行者の業務を妨げられないことが明確になった!
法改正によって、相続人は遺言執行者の業務を妨げることはできないと定められ、万が一そのような行為があった場合には無効とすることが明確になりました。
ただし「善意の第三者」による妨害の場合には、その主張が保護される規定が設けられています。
また「相続人の債権者」が権利を行使する(債権を回収するための行為など)は妨げられないとして、適用外であると明確にされています。つまり、遺言執行者がいる場合でも、債権者は差し押さえや強制執行などの権利を行使することができるということです。
⑤遺言執行者の復任権
遺言執行者が、他の人に業務を手伝ってもらえるようになった!
遺言執行者が、自身の責任の範囲内で、第三者に遺言執行の業務を行わせる権利(復任権)が認められました。
これにより、遺言執行者が司法書士や弁護士などの専門家に業務を依頼するなどの行為が可能になりました。
⑥遺言執行者の相続登記手続きの可否
遺言執行者が代理人として相続登記の手続きができるようになった!
改正前、遺言執行者は相続財産に不動産がある場合の相続登記(不動産の名義変更)を代理人として行う権限はなく、相続する人が行わなければいけないとされていました。
改正後は、相続人が遺言によって特定の遺産を受け取るような場合、遺言者が代理で相続登記の手続きができるようになりました。
⑦遺言執行者による預貯金の払い戻し・解約権限
遺言執行者が代理人として預貯金の払い戻しや解約ができるようになった!
改正前、遺言執行者の銀行口座の預貯金の払い戻しや解約などの権限については明確化していませんでしたが、改正後、明確化されました。
ただし、解約が可能なのは「銀行Aにある預貯金2,000万円を、長男に相続させる」といった特定の相続人に預貯金のすべてを相続させるような遺言の場合のみです。
「銀行Bにある預貯金2,000万円のうち、1,000万円を次男に相続させる」といった、預貯金の一部を相続させる内容の場合には、払い戻ししかできませんので注意しましょう。
10章 遺言執行者ならグリーン司法書士法人にお任せください!
グリーン司法書士法人は、事務所名のとおり法人化している司法書士事務所です。そのため、数年後、数十年後であっても運営している可能性が高く、安心して遺言執行者をご依頼いただけます。
また、当事務所には相続を専門とする司法書士が複数名在籍しておりますので、遺言執行業務についてもスムーズに対応いたします。
遺言作成時から、トラブル回避のためやご相談者様の想いを最大限に実現するための内容を一緒に考えることも可能です。
初回相談は可能ですので、ぜひ一度ご相談ください。
グリーン司法書士法人の遺言サポート費用 | |
サポート | サポート料金 |
遺言書作成(自筆証書遺言) | 6万円(税込6万6,000円)~ |
遺言書作成(公正証書遺言) | 6万9,000円(税込7万5,900円)~ |
遺言の保管(年一回の安否確認含む) | 【一括】5万円(税込5万5,000円)【年払い】3,000円(税込3,300円)/年 |
遺言執行 | 50万円(税込55万円)~ |
遺言書の検認申し立て(裁判所に提出する書類の作成サポート) | 11万円(税込12万1,000円)~ |