- 嫁いだ娘も両親の遺産を相続できるのか
- 嫁いだ娘が両親の遺産を相続できないと誤解される理由
- 「嫁いだ娘は相続人ではない」と主張されたときの対処法
結婚し、嫁に行った娘であっても、両親が亡くなったときには相続人となり相続権を持ちます。
嫁いだ娘は相続権がないと誤解される場合がありますが、これは明治から昭和にかけて実施されていた家督相続の名残りで誤解されていることが多いです。
そのため、両親が亡くなり「あなたは嫁に行ったんだから遺産はもらえないよ」と言われても、冷静に現在の相続制度を説明し、相続人同士で遺産分割協議や相続手続きを進めていきましょう。
万が一、当事者同士で解決が難しい場合には、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのもおすすめです。
本記事では、嫁いだ娘には相続権があるのか、嫁いでから両親が亡くなり相続が発生したときの注意点を解説します。
目次
1章 嫁いだ娘も両親の遺産の相続権を持つ
本記事の冒頭で解説したように、結婚して嫁に行った娘も両親の遺産を相続する権利を持ちます。
子供は相続順位1位であり、結婚しても実親との親子関係は解消されないからです。
嫁いだ娘が両親の相続権を持つかどうかは、下記のポイントを押さえておきましょう。
- 子供は相続順位1位である
- 嫁に行っても実親との親子関係は解消されない
- 娘が夫の両親と養子縁組していても実親の相続人になれる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1-1 子供は相続順位1位である
子供は相続順位1位であり、父親もしくは母親が亡くなると遺された配偶者と共に相続人になります。
すでに配偶者も死亡している場合は、子供のみが相続人になります。
相続人になれる人物および優先順位は法律によって決められており、下記の通りです。
常に相続人になる | 配偶者 |
相続順位1位 | 子供や孫 |
相続順位2位 | 両親や祖父母 |
相続順位3位 | 兄弟姉妹や甥・姪 |
優先順位の高い相続人が1人でもいる場合、順位が下の人物が相続権を持つことはできません。
1-2 嫁に行っても実親との親子関係は解消されない
結婚して嫁に行ったとしても、実親との親子関係は解消されません。
結婚すると親の戸籍を抜け、配偶者と新たな戸籍を作ります。
新たな戸籍を作りそこに入ったとしても、実親との親子関係は残り続けますし、兄弟姉妹の関係も残り続けます。
1-3 娘が夫の両親と養子縁組していても実親の相続人になれる
結婚して嫁に行った娘が、嫁ぎ先の両親と養子縁組をすることもあるでしょう。
嫁いだ娘が夫の両親と養子縁組した場合、実親と養親の両方の相続人になることが可能です。
養子縁組には①普通養子縁組と②特別養子縁組の2種類がありますが、このうち特別養子縁組は子供の福祉のために行われ、養子となれる年齢も原則15歳までと決められています。
したがって、結婚後に夫の両親と養子縁組する場合、普通養子縁組をすることになります。
普通養子縁組は、養親との親子関係が生じるだけで実親との親子関係は解消されません。
2章 嫁いだ娘は相続権がないと誤解される理由
本記事の1章で解説したように、嫁いだ娘も実親が亡くなったときには相続権を持ち遺産を受け継げます。
しかし、それでも家族や親族が相続について知識がなく、嫁いだ娘に対して「嫁に行ったんだから遺産はもらえないよ」と言ってくることもあるでしょう。
このように、嫁いだ娘に相続権がないと誤解されるのは、明治から昭和にかけては家督相続という制度があったからです。
家督相続とは、長男がすべての遺産を相続する制度であり、他の兄弟姉妹や遺された妻には一切相続権がありません。
家督制度は「明治31年7月16日から昭和22年5月2日まで」実施されていた制度であり、昭和22年5月2日までに死亡した人の相続で適用されます。
昭和22年5月3日以降に発生した相続については家督相続が適用されないため、嫁いだ娘でも相続権を持ちます。
3章 「嫁いだ娘は相続人ではない」と言われたときの対処法
両親が亡くなり相続が発生したものの「嫁いだ娘は相続人にはなれないよ」と他の家族に言われた場合、まずは冷静に現在の相続制度を説明しましょう。
万が一、当事者同士で解決できない場合は、相続に強い司法書士や弁護士に間に入ってもらうこともご検討ください。
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 冷静に現在の相続制度を説明する
まずは、本記事の1章で解説した相続人になれる人物や優先順位など、現在の相続制度について説明しましょう。
本記事の2章で解説した家督制度が現在も続いていると誤解しており「長男が遺産を多く相続できる」「嫁いだ娘は相続できない」と考えている人もいるからです。
現在の制度を説明すれば、嫁いだ娘にも相続権があることや相続人全員で遺産分割協議などの手続きを進める必要があると理解してくれる可能性もあるはずです。
相続手続きは様々なものがあり、行う順番が重要になってきますので、両親が亡くなったときには、下記の記事も参考にしてください。
3-2 相続に強い司法書士・弁護士に相談する
いくら説明しても嫁いだ娘にも相続権があると納得してくれない場合や当事者同士で遺産分割協議がまとまらない場合は、相続に強い司法書士や弁護士に相談するのも選択肢のひとつです。
司法書士や弁護士などの専門家の意見であれば受け入れる人も多いですし、万が一、相続トラブルに発展したときにも遺産分割調停や審判などの手続きに進みやすくなるからです。
なお、遺産分割の内容について提案できる専門家は司法書士と弁護士がいますが、相続トラブルが起きそうかどうかで下記のように相談する専門家を選ぶのが良いでしょう。
- 相続トラブルが起きなさそうな場合・まだ起きていない場合:司法書士
- 相続トラブルが起きそうな場合・すでにトラブルになっている場合:弁護士
相続トラブルになっていないにもかかわらず、弁護士に間に入ってもらうと「弁護士を連れてきた」と他の相続人が身構える可能性があるからです。
場合によっては、他の相続人も別の弁護士に相談して問題が大きくなってしまうケースもあるでしょう。
一方で、司法書士は弁護士同様に法律の専門家ではあるものの、トラブル・紛争解決や代理人として交渉するというより、当事者全員にとって最も良い方法での解決を目指しやすくなります。
円満解決を求めている場合や専門家が間に入り冷静になればトラブルを回避できそうな場合は、司法書士に依頼するのが良いでしょう。
4章 嫁いだ娘が相続人になったときの注意点
父親もしくは母親が亡くなり嫁いだ娘が相続人になった場合、遺産分割協議書に自分にとって不利な内容が書かれていないか確認しましょう。
他にも、下記の点に注意しなければなりません。
- 遺産分割協議書の内容をよく確認する
- 印鑑証明書の提出や実印の押印は慎重にする
- 遺産がいらない場合は相続分の放棄・相続放棄を検討する
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 遺産分割協議書の内容をよく確認する
他の相続人が遺産分割協議書を作成した場合、署名・押印をする前に内容を細かく確認しておきましょう。
遺産分割協議書に署名・押印してしまうと、後から内容に不備があった、納得できないと感じた場合でも取り消すことが難しくなるからです。
遺産分割協議では相続人全員が合意する必要があるので、話し合いの内容や遺産分割の内容に納得できない場合は、協議書に署名・押印する必要はありません。
ただし、納得できないからといって署名や押印をせずに放置していても当事者同士で解決することは難しく、遺産の名義変更手続きを行えなくなってしまいます。
そのため、遺産分割協議がまとまらず相続人同士で解決できないのであれば、相続に強い司法書士や弁護士に相談することも検討しましょう。
4-2 印鑑証明書の提出や実印の押印は慎重にする
「代わりに遺産分割協議書に押印しておくから実印を貸して」「印鑑証明書をもらったら後は手続きしておく」などと他の相続人に言われても、安易に応じないようにしましょう。
先ほど解説したように、遺産分割協議書に署名、押印してしまった場合、後から取り消すことが難しくなるからです。
なお、勝手に押印・作成された遺産分割協議書は無効になるため、相続手続きで使用することはできません。
実印や印鑑証明書を他の相続人に預けた結果、トラブルになるリスクもあるので、遺産分割協議書は内容を確認した上で自分で署名・押印をするようにしましょう。
4-3 遺産がいらない場合は相続分の放棄・相続放棄を検討する
父親もしくは母親が亡くなったものの遺産がいらない場合や相続トラブルに巻き込まれたくない場合は、相続分の放棄や相続放棄を検討しましょう。
相続分の放棄と相続放棄は、それぞれ下記の制度です。
制度名 | 制度の概要 |
相続分の放棄 |
|
相続放棄 |
|
亡くなった両親に借金がないことが明らかであり、相続手続きや相続トラブルの手間から解放されたい場合は、相続分の放棄だけでも良いでしょう。
一方で、亡くなった両親が借金を遺しており返済義務を相続したくない場合は、相続放棄をした方が良いケースもあります。
相続分の放棄をするか相続放棄をするか迷った場合は、一度、相続放棄に詳しい司法書士や弁護士に相談してみることをおすすめします。
まとめ
結婚して嫁に行った娘も父親や母親が亡くなった場合、相続権を持ちます。
なお、嫁いだ娘が夫の両親と養子縁組していた場合、実親と養親両方の相続人になれます。
万が一「嫁いだ娘に相続権はない」と主張された場合、まずは冷静に現在の相続制度を説明しましょう。
相続人同士の話し合いでは解決できない場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのもおすすめです。
また、嫁いだ娘だからといって、他の相続人が作成した遺産分割協議書に署名・押印することを求められたとしても応じる必要はありません。
遺産分割協議書に署名・押印した後は取り消すことが難しいので、内容を確認して納得した上で署名・押印をしましょう。
万が一、相続トラブルが起きそうな場合や遺産分割協議がまとまらない場合には、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談すると解決しやすくなる場合もあります。
グリーン司法書士法人では、相続手続きについての相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。