- 親の介護でお金をもらうケースとはどんなものがあるか
- 親の介護でお金をもらうと贈与税がかかるのか
- 親の介護でお金をもらうときの注意点
親の介護をしたことにより、お金をもらうことは決して珍しいことではありません。
介護は時間も手間もかかりますし、精神的にも身体的にも負担が大きいからです。
兄弟姉妹の中で自分だけ親の介護をしている場合は、親からお金をもらうことや兄弟姉妹に介護の費用面で負担してもらうことを検討しても良いでしょう。
本記事では、親の介護でお金をもらうケースとはどんなものがあるか、受け取るときの注意点を解説します。
目次
1章 親の介護をしてお金をもらうことはおかしいことではない
本記事の冒頭でも解説しましたが、親の介護をしたことによりお金を受け取ることは決しておかしいことではありません。
とはいえ、親は大切な家族であり、これまで育ててもらった恩もあるため面倒を見るのにお金を受け取るなんてしていいのか罪悪感を覚えることもあるでしょう。
しかし、介護には下記の負担や労力がかかります。
- 病院の送り迎えや介護の実作業などの時間的な負担
- 親が介護費用や老後の生活費を用意できない場合や介護離職が発生した場合の金銭的な負担
- 「いつまで面倒を見ればいいのか」「この先どうなるのか」といった精神的な負担
- トイレや入浴介助、買い物のサポートなどの肉体的な負担
上記のように、親の介護には様々な負担がかかりますし、どれも決して小さいとはいえないでしょう。
特に自宅で介護をするのであれば、自分の配偶者や子供にも負担がかかるはずです。
このような負担に対する対価としてお金をもらうことは決して悪いことではないですし、お金をもらうことでかえってスッキリした気持ちで介護に向き合える場合もあるでしょう。
2章 親の介護で家族からお金をもらうケース
親の介護で家族からお金を受け取る場合、介護が必要になった親本人から受け取る場合と介護に参加できない他の兄弟からお金を受け取るケースに分けられます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 親からお金を受け取る
子供が介護の報酬としてお金を受け取る場合、介護が必要になった親本人がお金を払うケースは多いです。
介護や日常生活のサポートを行ってくれる子供への感謝の気持ちや労いとして、定期的にお金を払う、実家などの資産を譲るなどが考えられます。
2-2 他の兄弟からお金を受け取る
親の介護をしていてお金をもらう場合、親本人ではなく介護にあまり参加できない兄弟姉妹がお金を払ってくれるケースもあります。
住んでいる場所や仕事の忙しさ、家族の状況によっては、特定の子供にのみ介護の負担がかかってしまうことは珍しいことではありません。
親の介護を兄弟姉妹全員で分担できることが理想ですが、現実問題として親の近くに住む子供がサポートする機会が増えていまうこともあるでしょう。
そのようなケースでは「自分は実作業でサポートできないから」と考え、介護をしてくれる兄弟姉妹に対しお金を払うこともあります。
介護を負担してくれる兄弟姉妹に感謝の気持ちとしてお金を払うケースもありますし、介護の実作業を負担することが難しい兄弟姉妹が親の介護費用を支払う場合もあります。
3章 親の介護でお金を受け取っても贈与税はかからない
親の介護を理由にお金を受け取ってしまうと、もらったお金に対して贈与税がかかるのではないかと不安になることもあるでしょう。
結論から言うと、親の介護をしたことによりお金を受け取っても贈与税の課税対象にならないケースがほとんどです。
親や兄弟は扶養義務者に該当するため、介護を理由にお金を受け取っても生活費の贈与として扱われて贈与税がかからないからです。
ただし、扶養義務者間の贈与であっても贈与の内容や金額によっては、贈与税がかかる場合があります。
そのため、親の介護をしたことでもらったお金が年間110万円を超える場合は、贈与税がかかるのか税理士や税務署に相談した方が良いでしょう。
4章 親の介護でお金をもらうときに家族で話し合うこと
親の介護でお金をもらう場合、事前に親や兄弟姉妹と話し合っておくことが大切です。
話し合いを行っていないと親が亡くなり相続が発生したときに、トラブルに発展する恐れがあるからです。
具体的には、下記を話し合っておくと良いでしょう。
- 介護にかかる労力や時間
- 親の経済状況
- 介護の役割分担
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 介護にかかる労力や時間
親の介護を行う、介護の対価としてお金を受け取る際には、最初に親や兄弟姉妹と介護にかかる労力や時間を話し合っておきましょう。
介護を経験したことがない人は実際のサポート内容や作業内容のイメージができない場合があります。
そして「お金を受け取るなんておかしい」「お金をもらうなんて、これまで育ててもらったことに感謝の気持ちはないのか」なんて主張する人もいるからです。
そのため、介護によりお金を受け取る際には、下記のように具体的に介護の負担を説明できるようにしましょう。
- 夜中であっても寝返りやトイレの介助で起こされる
- 認知症が進行してしまい暴言を吐かれるときもある
- 徘徊リスクもあるため、24時間気が抜けない
- 介助をしようとしても抵抗されケガをしそうになる
上記のように、具体的な負担を伝えれば介護が特定の1人に集中しない仕組みを作りやすくなります。
万が一、介護が特定の1人に集中する場合、労力に対する対価としてお金を受け取ることに反対する人はいなくなるでしょう。
4-2 親の経済状況
介護が始まる際には、親の経済状況を子供たちで共有しておくことをおすすめします。
単純に介護費用を親の資産から出すことができるのかの確認にもなりますし、相続発生時に「親の遺産が思ったより少ない」「介護をしていた姉が使い込んでいたのでは?」などといったトラブルも避けられるからです。
介護をメインでする人が親の資産を管理しようとすると、遺産の使い込みを疑われトラブルになるリスクがあるのでご注意ください。
具体的には、下記を確認しておくと良いでしょう。
- 親の資産の内訳や金額
- 年金などの定期収入はいくらくらいか
- 介護サービスの利用料や食費、おむつ代など毎月の生活費はいくらくらいか
上記について子供たち全員で把握しておけば「思ったより遺産が少ない」などと考えることもなくなるはずです。
4-3 介護の役割分担
介護が始まるにあたり、子供たちがどの程度の介護を行えるのかや兄弟姉妹の役割分担を話し合っておくと良いでしょう。
話し合いをしておかず役割分担を決めずに介護がスタートしてしまうと、親の近くに住む子供や仕事の融通がつけやすい子供に負担が集中してしまう恐れがあるからです。
自宅が実家の遠方にある、緊急性の高い仕事をしておりどうしても休めないなどの事情がある場合は、金銭面でサポートをするなど役割分担を工夫する必要があります。
加えて、高齢になった親は急な事故や入院などで緊急時の対応が求められることも増えてきます。
緊急時には誰が対応するのかを話し合っておき、誰か1人に負担が集中することがないようにしましょう。
5章 親の介護でお金をもらうときの注意点
親の介護をするにあたりお金をもらうことは問題ではないと解説してきましたが、親本人の同意を得ていないのに預貯金を勝手に引き出すのは違法なのでご注意ください。
他にも、本記事で何度かお伝えしたように介護の対価としてお金を受け取る際には、将来的な相続トラブルを避ける工夫も必要です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
5-1 親の預貯金を勝手に引き出して受け取るのは違法である
親の合意を得ていないにもかかわらず、介護の対価として親の預貯金を勝手に引き出すことは違法です。
また、親の同意を得ていたとしても、親が認知症で判断能力を失っている場合は、同意があったと認められない恐れがあります。
認知症になり判断能力を失うと、財産管理や契約行為が行えないとされているからです。
そのため、認知症になった親の同意を得て介護の対価をもらう場合は、後からトラブルに発展する恐れがあるのでご注意ください。
親の介護を行いお金をもらうことを考えている場合は、親の認知症の症状が進む前に家族間の話し合いや認知症対策をしておく必要があります。
認知症対策や相続対策については、本記事の6章で詳しく解説しています。
5-2 相続トラブルにならないように対策しておく
親の介護の対価としてお金をもらうことを決めた場合、将来の相続トラブルを避けるために対策しておきましょう。
具体的には親子で取り決めた内容を書面に残しておく、介護に関わっていない兄弟姉妹にもお金をもらっていることを伝えておくなどの必要があります。
6章 親の介護が始まる前にしておきたい認知症対策・相続対策
親の介護を行う際には、介護の役割分担や費用について話し合うだけでなく、認知症対策や相続対策も同時に行っておきましょう。
認知症になり判断能力を失うと、自分で財産管理や法的手続きを行えなくなるからです。
具体的には、下記の方法で認知症対策や相続対策をしておくのがおすすめです。
- 家族信託
- 遺言書の作成
- 生前贈与
- 任意後見制度の活用
それぞれ詳しく解説していきます。
6-1 家族信託
家族信託を行えば、認知症になり判断能力を失った後の財産管理を家族や親族に任せられます。
家族信託とは、信頼できる家族に自分の財産の管理や運用、処分を任せられる制度です。
家族信託は認知症対策の中でも柔軟な財産管理を行えるのが特徴であり、信託内容によっては下記の行為も任せられます。
- 実家の売却
- 賃貸用不動産のリフォーム、建て替え
- 株式の売却
預貯金だけでなく、不動産や株式などの資産をお持ちの場合は家族信託の利用を検討しましょう。
ただし、家族信託を利用する際には専門的な知識や経験が必要な場合も多いです。
自分で信託契約書の作成や各種手続きを行うことは現実的ではないので、家族信託に精通した司法書士や弁護士へ操舵することをおすすめします。
6-2 遺言書の作成
遺言書を作成すれば、財産を遺す人物を自由に設定できます。
介護をしてくれた子供に多く遺産を譲りたい場合は、遺言書を作成しておくと良いでしょう。
ただし、認知症などで判断能力を失ってしまうと遺言書を作成できなくなるのでご注意ください。
遺言書作成時に遺言書が認知症で判断能力がなかったとされると、遺言書が効力を失ってしまいます。
相続発生後に遺言書の有効性でトラブルにならないようにするためにも、遺言書を作成するときは相続に詳しい司法書士や弁護士に依頼するのが良いでしょう。
専門家であれば、遺言書作成時にビデオなどで本人の様子を残しておくなどの対策も取れますし、遺言書の内容も提案できるからです。
6-3 生前贈与
介護をしてくれる子供に財産を遺したいのであれば、生前贈与も活用しましょう。
生前贈与であれば、相続発生を待たずに財産を子供に譲れます。
例えば、介護をしてくれる子供や自分と同居してくれた子供に、資産を譲れば介護の対価として都度、お金をあげる必要がなくなります。
万が一、贈与をした後に子供が介護をしてくれなくなるのでは?と不安に感じるのであれば、負担付贈与も検討しましょう。
負担付贈与とは、財産を譲ることを条件に何らかの負担をお願いする贈与です。
例えば、将来介護をする代わりに贈与をするなどの契約であり、受贈者が「介護をする」などの義務を果たさなかった場合は贈与契約を無効にできます。
生前贈与についても、認知症になり判断能力が失われると手続きを結べないので、早めに準備しておくことが肝心です。
6-4 任意後見制度の活用
元気なうちに任意後見契約を結んでおけば、自分が認知症になり判断能力を失ったときに、任意後見人が財産管理や契約行為を行ってくれます。
認知症になった人が利用する成年後見制度には2種類ありますが、任意後見制度は法定後見制度と比較して下記のメリットがあります。
- 契約時には家庭裁判所への申立てが必要ない
- 本人が希望する人物を任意後見人に指定できる
ただし、任意後見制度は元気なうちに任意後見人を選び、後見契約を結ばなければなりません。
したがって、認知症の症状が進むと任意後見制度を利用できない恐れがあるのでご注意ください。
まとめ
親の介護をしてお金をもらうケースは珍しくなく、扶養義務者間の生活費の援助にあたるケースが多いため贈与税も原則としてかかりません。
ただし、親の介護の対価としてお金をもらう場合は、事前に家族で話し合っておき、介護にあまり参加しない兄弟姉妹にもお金をもらうことも伝えておきましょう。
介護の対価としてお金をもらうことを伝えていないと、親が亡くなったときに遺産の使い込みを疑われる恐れがあるからです。
また、親が高齢になったら元気なうちに認知症対策や相続対策を行っておきましょう。
認知症になり判断能力が失われてしまうと、自分の意思で財産管理や契約行為を行うことができなくなるからです。
認知症対策や相続対策には複数あるので、自分に合う方法を知りたい場合は司法書士や弁護士に相談することもご検討ください。
グリーン司法書士法人では、認知症対策や相続対策についての相談をお受けしています。
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