親の介護を放棄してしまいたい、やりたくないと悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
在宅で親の介護をする場合には、体力的にも精神的にも負担が大きくなってしまいますし、親を介護施設に入居させる場合には、誰が費用を負担するかも大きな問題です。
結論から言うと、子供は親に対して扶養義務があるので、親の介護を完全に放棄することはできません。
親の介護を放棄してしまうと、場合によっては罪に問われることもあるのでご注意ください。
とはいえ、親の介護は自分の生活の余力部分で行えば良いとされていますし、兄弟間で親の介護の負担に不公平感があるのであれば、相続後に寄与分を主張できます。
本記事では、親の介護を放棄できない理由や親の介護が難しいときの対処法を解説していきます。
目次
1章 親の介護は放棄できない
法律で「直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務がある」と定められています。
そのため、子供は自立できない親に対して扶養する義務があり、介護を放棄することはできません。
扶養義務に関しては、相続と異なり放棄もできないので、法律上は親の介護から完全に逃げ出すのは難しいです。
扶養義務者の範囲や内容について、もっと詳しく解説していきます。
2章 扶養義務者には介護義務がある
介護義務があるのは子供だけではなく、直系血族及び兄弟姉妹、配偶者などの扶養義務者です。
扶養義務者の範囲と優先順位、扶養義務者が行わなければならない介護の範囲について解説します。
2-1 扶養義務者の範囲と優先順位
民法で定められている扶養義務者の範囲は、以下の通りです。
上記のように扶養義務者に該当する人物は、直系血族及び兄弟姉妹、配偶者です。
なお、上記の図を見てわかるように、子供の配偶者には扶養義務がありません。
また、扶養義務は子供たち全員にあり、同居の有無や長男、次男などは扶養義務の優先順位に影響しません。
そのため、親と長男夫婦が同居していたとしても、次男も親に対して扶養義務を負う必要があります。
2-2 扶養義務者は介護費用を負担する必要がある
扶養義務は、直接的な介護をするだけではなく、生活費や医療費、介護費などの金銭的な支援も含まれています。
そのため、仕事が忙しく在宅介護が難しい場合には、介護施設への入居費用を工面したり、親に対して生活費の援助をしたりするだけでも問題ありません。
また、あくまでも扶養義務は、経済的に余裕がある場合にのみ発生します。
そのため、経済的に余裕がなく親の面倒を見る余力がないと裁判所が判断した場合には、扶養義務を果たせていなくても、問題にはなりません。
経済的に余力があるかどうかの判断基準は、生活保護制度で扶助する必要があるかどうかを判断する際に用いられる「生活扶助基準額」を利用される場合が多いです。
次の章では、経済的に余力があるにもかかわらず、親の介護を放棄すると罪に問われるのかを解説していきます。
3章 親の介護を放棄すると罪に問われる?
経済的に余力があり扶養義務があると判断されたにもかかわらず、親の介護を放棄してしまうと罪に問われる恐れもあります。
親の介護を放棄することは「保護責任者遺棄罪」に該当し、3ヶ月以上5年以下の懲役に科せられる可能性があるのでご注意ください。
さらに、親の介護を放棄したことにより、親が死亡もしくはケガをした場合には、「保護責任者遺棄致死罪」「保護責任者遺棄致傷罪」が適用される場合もあります。
しかし、親の介護が難しい全てのケースで罪に問われるわけではないのでご安心ください。
親の介護が難しいと感じたときには、適切な対処を行えば罪に問われることはありません。
次の章では、親の介護が難しいときにすべき対処法を紹介していきます。
3-1 親の介護をしなくても相続分には影響しない
なお、親の介護をしなかったとしても相続権を失うことはなく、法定相続分で遺産を受け取れます。
ただし、他の相続人や親族が故人の介護を長年してきた場合には、寄与分や特別寄与分を主張できる場合があります。
寄与分や特別寄与分は、亡くなった方の財産の維持や増加に貢献していた相続人が他の相続人よりも多く財産を相続できる制度です。
上図のように、長年にわたり介護をしていた相続人の一人が寄与分を主張し認められた結果、遺産から寄与分が支払われるので、本来の取り分よりも自分が受け取れる遺産の金額が減ってしまう可能性はあります。
4章 親の介護が難しいときの対処法3つ
親の介護が難しいときには、適切な対応をしないと罪に問われる恐れがあります。
親の介護が難しいときにすべき対処は、主に以下の3つです。
- 他の兄弟姉妹や親族を頼る
- 地域包括支援センターに相談する
- 介護施設の入居を検討する
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 他の兄弟姉妹や親族を頼る
親の介護が難しいと感じるときには、自分一人で抱えこまず、他の兄弟姉妹や親族にも相談しましょう。
1章で解説したように、扶養義務は長男のみでなく次男や長女も負っていますし、親の兄弟姉妹も扶養義務者に該当します。
万が一、他の兄弟姉妹や親族に相談しても親の介護の分担について話がまとまらない場合には、家庭裁判所にて介護費用の分担に関して決定してもらえます。
4-2 地域包括支援センターに相談する
自分に兄弟がいない場合や頼れる親族が少ない場合には、各市区町村にある地域包括支援センターに相談してみましょう。
地域包括支援センターとは、高齢者とその家族が支援や介護に関して相談できる窓口です。
地域包括支援センターでは、介護に関する相談を受け付けており、様々なノウハウを持っています。
そのため、自分たちでは答えを出せなかった問題についても、良い意見や情報をもらえる可能性があります。
4-3 介護施設の入居を検討する
自分や兄弟姉妹、親族が親を直接介護をするのが難しい場合には、介護施設への入居も検討しましょう。
在宅介護は負担が大きく、場合によっては介護離職などをしなければならない場合も出てきます。
介護離職や自分の生活に大きな影響を与える前に、介護施設に関しての情報を集めておくのがおすすめです。
介護施設の入居はお金がかかると思われがちですが、入居費用に関しては親の預貯金や健康保険制度、介護保険制度を活用すれば負担を減らせます。
万が一、親の預貯金や各種制度を活用しても介護施設の入居費用を用意できない場合には、親に生活保護を受けてもらいその範囲内で入れる施設を探すのも選択肢のひとつです。
5章 親の介護で不公平感を持ったときの対処法
親の介護は肉体的、精神的な負担も大きいです。
そのため、自分の他に兄弟がいる場合には、兄弟間で介護の分担に不公平感を持つケースも少なくありません。
親の介護負担に不公平感を持ったときに行える対処は、いくつかあります。
相続発生前後に行える対処法をそれぞれ詳しく解説していきます。
5-1 相続発生後に行える対処法は寄与分の主張のみ
相続発生後に親の介護負担の不公平感を解消してもらうには、他の相続人に対して寄与分を主張するしかありません。
寄与分とは、親の介護や身の回りなどを行った相続人に対し、貢献度に応じて相続発生時に遺産を上乗せしてもらえる制度です。
寄与分に関しては、遺産分割協議で他の相続人全員と合意できれば認められますが、合意できない場合には遺産分割調停や遺産分割審判で争う必要があります。
遺産分割調停や遺産分割審判では、寄与分の主張が認められるかどうか、家庭裁判所が合理的に判断をします。
そのため、寄与分を主張できる証拠が少ない場合には、介護をしていた子供の望む結果とならない場合もあるので、ご注意ください。
また、2019年7月からは亡くなった方の長男の嫁などに対しても寄与分が認められるようになりました。
例えば、10年にわたり義両親と同居して介護をしていた長男の嫁なども遺産相続を受け取れる可能性があります。
5-2 相続発生前に行える対処法
相続発生前であれば、介護負担の不公平感を解消するために様々な対処を行えます。
具体的には、以下の通りです。
- 生命保険を活用する
- 生前贈与をしてもらう
- 介護負担分を考慮した遺言書を作成してもらう
- 扶養請求調停の申立をする
それぞれ詳しく解説していきます。
生命保険を活用する
親が亡くなったときに受け取れる生命保険金は、遺産分割協議の対象にはなりません。
そのため、介護を負担してくれている子供を生命保険の受取人にしておけば、親が亡くなったタイミングで不公平感を解消できます。
生前贈与をしてもらう
親から介護を負担している子供に対して、生前贈与をしてもらえば他の兄弟に対しての不公平感を解消しやすいです。
生前贈与に関しては、毎年110万円の基礎控除枠を活用すれば、贈与税を節税できます。
他にも親から子供に対しての贈与で利用できる控除や特例が用意されているので、生前贈与の際には活用をご検討ください。
介護負担分を考慮した遺言書を作成してもらう
親が介護負担分を考慮した遺言書を作成しておけば、子供が他の相続人に対して寄与分を主張する必要がなくなります。
ただし、遺言書を作成するときには遺留分に関して注意をしておく必要があります。
遺留分とは、亡くなった方の配偶者や子供が遺産を最低限受け取れる権利です。
そのため「介護をしてくれた長男に全ての財産を相続させる」といった遺言書は、遺留分を主張される恐れがあるので、ご注意ください。
遺留分を考慮し、法的に有効な遺言書を作成したいのであれば、司法書士や弁護士といった専門家に相談するのも良いでしょう。
扶養請求調停の申立をする
親が認知症になってしまい判断能力を失っていて、生前贈与や遺言書の作成が難しいときには、不要請求調停を申立るのも良いでしょう。
扶養請求調停の申立とは、親の介護費用の分担について家庭裁判所で決定してもらえる制度です。
扶養請求調停の申立の概要と必要書類は、以下の通りです。
申立する人 |
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申立先 | 相手の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立費用 |
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必要書類 |
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必要書類や家庭裁判所に納める郵便切手の数や種類は、申立先の家庭裁判所によって若干違う場合があります。
申立前に、家庭裁判所に問い合わせておくのが確実です。
まとめ
親子は民法上で扶養義務があると定められており、親の介護を放棄することは法律上は認められていません。
ただし、扶養義務に関しては経済的な余力の範囲内で負えば良いとされているので、経済的に余裕がないと認められれば介護を負担する必要はありません。
そのため、経済的な理由で親の介護を行うのが難しいときには、他の親族や地域包括支援センターに相談するなど適切な対処を行っておく必要があります。
また、親の介護負担に関して兄弟間で差があり不公平感を持っている場合には、相続発生後であれば寄与分の主張ができます。
相続発生前であれば、生前贈与や遺言書の作成など様々な選択肢が取れ、相続後のトラブルを回避しやすいです。
遺言書の作成や生前贈与については、自分でも行えますが、司法書士や弁護士などの専門家に相談するのも良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、遺言書の作成や生前贈与についての相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談もできるので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
親の介護は義務?
法律で「直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務がある」と決まっているので、子供は親の介護をする義務があります。
▶親の介護義務について詳しくはコチラ親の介護費用は誰が負担する?
親子の扶養義務は直接的な介護だけではなく、生活費や医療費、介護費の援助も含まれます。
そのため、親の介護費用は扶養義務者である子供などが負担する必要がありますが、経済的に余裕がない場合には援助をしなくても問題ありません。
▶親の介護義務について詳しくはコチラ親の介護を放棄すると罪に問われる?
経済的に余力があり扶養義務があると判断されたにもかかわらず、親の介護を放棄してしまうと罪に問われる恐れもあります。
親の介護を放棄することは「保護責任者遺棄罪」に該当し、3ヶ月以上5年以下の懲役に科せられる可能性があるのでご注意ください。