- 相続放棄すると困ることは何か
- 相続放棄するメリット
- 相続放棄できない・難しい場合の選択肢
相続放棄をすると、プラスの遺産もマイナスの遺産も一切相続できなくなります。
相続放棄をすれば故人の借金を受け継がずにすむ一方で、預貯金や不動産などの遺産も相続できなくなる、次の相続順位の相続人に迷惑がかかる恐れがあります。
また、相続放棄が認められと原則として取り消せないので、相続放棄すべきか慎重に判断しなければなりません。
本記事では、相続放棄すると困ることは何か、相続放棄できない場合の選択肢について解説します。
相続放棄については、下記の記事で詳しく解説していますので、よろしければ合わせてお読みください。
1章 相続放棄すると困ることは?
相続放棄すると、故人の借金を相続しなくてすむ一方で、他の遺産も一切相続できないなどのデメリットがあります。
相続放棄すると困ることは、主に下記の通りです。
- 遺産を一切相続できなくなる
- 次の相続順位の相続人に迷惑がかかる場合がある
- 生命保険金・死亡退職金の相続税の非課税枠を適用できない
- 一度相続放棄が認められると原則として撤回できない
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 遺産を一切相続できなくなる
相続放棄すると借金だけでなく、預貯金や不動産、株式なども相続できなくなってしまいます。
相続放棄は、故人のプラスの遺産もマイナスの遺産も一切相続しなくなる手続きだからです。
相続放棄すると先祖代々受け継いできた不動産も手放す必要がありますし、借金よりも預貯金の遺産が多い場合は相続放棄すると損をしてしまいます。
そのため故人に借金がある場合は、他にどんな遺産があるのか、本当に相続放棄すべきかを慎重に判断しなければなりません。
1-2 次の相続順位の相続人に迷惑がかかる場合がある
同順位の相続人が全員相続放棄すると、次の相続順位の相続人に相続権が移ってしまいます。
相続人になれる人物および優先順位は、法律で下記のように決められています。
常に相続人になる | 配偶者 |
---|---|
相続順位1位 | 子供や孫 |
相続順位2位 | 両親や祖父母 |
相続順位3位 | 兄弟姉妹や甥・姪 |
自分より優先順位が高い相続人が1人でもいる場合、相続人になることはできません。
例えば、故人が多額の借金を抱えており、故人の子供全員が相続放棄したとしましょう。
子供たち全員が相続放棄した場合、故人の両親や祖父母に相続権が移り、両親・祖父母がすでに他界している場合は故人の兄弟姉妹や甥・姪が相続人になります。
場合によっては、故人の兄弟姉妹や甥・姪たち全員も相続放棄しなければならなくなり非常に手続きに手間がかかります。
【注意:相続放棄したら次の相続人に連絡しよう】
相続放棄した場合、次に相続権を持っ人物に相続放棄したことを理由と共に伝えてあげましょう。
相続放棄は家庭裁判所にて手続きしますが、手続き完了後に家庭裁判所が個別に次の相続人に連絡してくれることはないからです。
相続放棄したことを連絡しないと、次の相続人が自分が相続権を持ったことをいつまでも知らないままとなりトラブルに発展する恐れもあるのでご注意ください。
1-3 生命保険金・死亡退職金の相続税の非課税枠を適用できない
相続放棄すると、生命保険金や死亡退職金の非課税枠を適用できなくなるのでご注意ください。
生命保険金や死亡退職金は、遺産ではなく受取人固有の財産として扱われるため、原則として相続放棄をしても受取可能です。
ただし、生命保険金や死亡退職金は「みなし相続財産」として相続税がかかります。
相続人が生命保険金や死亡退職金を受け取ると「500 万円×法定相続人の数」の非課税枠を適用できます。
ただし、相続放棄をすると最初から相続人ではなかったものとして扱われるため、非課税枠を適用することはできません。
1-4 一度相続放棄が認められると原則として撤回できない
相続放棄の申立てが家庭裁判所で受理されると、原則として撤回はできません。
例えば、故人に借金があると知り相続放棄したものの後からプラスの遺産が見つかった場合は、相続放棄を取り消すことはできません。
後から「相続放棄しなきゃ良かった」とならないためにも、相続放棄をする場合、念入りに相続財産調査を行う必要があります。
相続財産調査は司法書士や行政書士でも行えますので、不安な場合は専門家に相談してみるのが良いでしょう。
2章 相続放棄するメリット
相続放棄をすると、一切遺産を相続しなくなるため、故人の借金も受け継がなくてすみます。
また、相続放棄をすると遺産分割協議に参加しないため、トラブルに巻き込まれるリスクも軽減できます。
相続放棄するメリットは、下記の通りです。
- 故人の借金を受け継がずにすむ
- 相続トラブルに巻き込まれるリスクが減る
- 遺産を相続人の1人に集中させやすくなる
それぞれ詳しく紹介していきます。
2-1 故人の借金を受け継がずにすむ
相続放棄をすれば故人の遺産を一切受け継がなくなるので、借金を受け継がずにすみます。
故人に遺産がほとんどない場合や多額の借金を遺している場合は、相続放棄を検討するのが良いでしょう。
2-2 相続トラブルに巻き込まれるリスクが減る
相続放棄をすると最初から相続人ではなかった扱いになり、遺産分割協議への参加や相続手続きを行わずにすみます。
相続人同士の関係が悪く相続トラブルが起きそうな場合や遺産もいらないし相続人と関わりたくない場合も、相続放棄を検討しましょう。
2-3 遺産を相続人の1人に集中させやすくなる
相続放棄すると相続人が減り、遺産を相続人1人に集中させやすくなります。
例えば、先祖代々長男が受け継いできた土地がある場合や故人が事業を営んでいて後継者に自社株を相続させたい場合は、残りの相続人が相続放棄してしまうとスムーズです。
ただし、相続放棄は家庭裁判所で申立てを行う必要があり、手続きに時間と費用がかかります。
単純に遺産を相続人の1人に集中させたいだけであり、相続人同士の関係が良好でトラブルが起きるリスクが低いのであれば、手間がかからない相続分の放棄といった選択肢もありますし、故人が亡くなる前に遺言書や家族信託などの対策を取っておく方法もあります。
3章 相続放棄の手続き方法・必要書類
相続放棄をするには家庭裁判所での申立て手続きが必要であり、申述書の作成や添付書類の収集なども行わなければなりません。
相続放棄の申立て方法および必要書類は、下記の通りです。
提出先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
---|---|
手続きする人 | 相続放棄する人(または法定代理人) |
手数料の目安 |
|
必要なもの |
など |
相続人同士の話し合いで「自分は遺産がいらないから相続放棄するよ」と伝えただけでは、相続放棄したことにはならないのでご注意ください。
相続放棄の申立て手続きや必要書類の収集は、司法書士や弁護士でも代行できますので、お気軽にお問い合わせください。
4章 相続放棄をしたくない・難しい場合の選択肢
本記事の1章で解説したような困り事が原因で相続放棄を選択したくない、選択できないといったケースも中にはあるかもしれません。
先祖代々受け継いできた遺産を守りたいなどの理由で相続放棄したくない場合は、限定承認を選択するのが良いでしょう。
他には、相続人同士の関係が良好でトラブルが起きにくいのであれば、相続放棄ではなく相続分の放棄で事足りる可能性があります。
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 限定承認
先祖代々受け継いできた資産があり相続放棄したくない場合は、限定承認を検討しましょう。
限定承認とは、相続した遺産の範囲でしか相続した借金を払う必要がなくなる想像方法です。
限定承認を選択すれば、相続人が自分の資産から故人の借金を返済する必要がなくなります。
先祖代々受け継いできた不動産がある場合や相続した資産と負債のどちらが多いか判断つかない場合は、限定承認を選択しても良いでしょう。
ただし、限定承認をするには下記に注意しなければなりません。
- 自分が相続人になってから3ヶ月以内に家庭裁判所で申立てしなければならない
- 相続人全員で限定承認の申立てをしなければならない
- 故人の遺産を使用、処分すると限定承認が認められなくなる
限定承認の申立て方法および必要書類は、下記の通りです。
提出先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
---|---|
手続きする人 | 相続人全員が共同して行う |
手数料の目安 |
|
必要なもの |
など |
4-2 相続分の放棄
相続人同士の関係が良好であり相続トラブルに発展しないのであれば、相続放棄ではなく相続分の放棄で事足りる場合もあります。
相続分の放棄とは、相続人が自分の法定相続分を放棄することです。
相続放棄と相続分の放棄の違いは、下記の通りです。
相続分の放棄 | 相続放棄 | |
---|---|---|
手続き方法 | 遺産分割協議で相続分の放棄を主張する | 家庭裁判所で相続放棄の申立てを行い受理してもらう |
期限 | なし | 自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内に行う |
遺産分割協議への参加 | 必要 | 不要 |
自分より後の順位の法定相続人への影響 | ない | ある |
債権者に返済義務がないことを主張できるか | できない | できる |
相続分の放棄は家庭裁判所での手続きは必要なく、遺産分割協議などで相続人全員の合意が得られれば手続きが完了します。
一方、相続分の放棄は故人の借金の返済義務をなくす効果はないので、故人が借金を遺していた場合は相続放棄を選択しなければなりません。
まとめ
相続放棄すると故人の借金を受け継がずにすむ一方で、他の遺産も一切相続できなくなる、一度手続きすると取り消せないなどのデメリットがあります。
そのため、相続放棄をする前には相続財産調査をして故人にどんな遺産があったか、借金があった場合はいくらあったかを確認しなければなりません。
また、相続放棄は家庭裁判所で申立て手続きをする必要があります。
申立てには費用と時間がかかりますので、相続トラブルが起きるリスクが少ない場合や故人が借金を遺していない場合は相続分の放棄でも事足りる可能性があります。
相続に詳しい司法書士や弁護士であれば、相続放棄が適しているか他の相続方法が適しているかの判断も可能ですので、まずは相談してみるのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、相続放棄についての相談をお受けしています。
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