親が認知症になったときには、起こりうるトラブルを把握し、一つひとつ対処していくのが大切です。
本記事では、親が認知症になったときのトラブル例や対処法を詳しく解説していきます。
目次
1章 親が認知症になったときに起こりうるトラブル
まずは、親が認知症になったときに起こりうる主なトラブルを8つ紹介していきます。
- 金銭管理や預貯金の引き出しができなくなる
- 不動産売却や各種契約ができなくなる
- 火の不始末により火事になる
- 食生活が偏り不健康になる
- トイレができなくなり不衛生になる
- 服薬管理ができなくなる
- ご近所関係で揉めてしまう
- 外出時の事故や行方不明になる
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 金銭管理や預貯金の引き出しができなくなる
親が認知症になると、これまで当たり前にできていた金銭管理が難しくなっていまいます。
具体的には、以下のトラブル発生に注意が必要です。
- 生活に必要ない高額な買い物をしてしまう
- 高齢者を狙った詐欺に巻き込まれる
- 公共料金や家賃、税金などの支払いを忘れてしまう
また、認知症が悪化し判断能力が失われてしまうと、親名義の財産は凍結されてしまい子供や親族が自由に処分できなくなります。
親名義の預貯金が引き出せなくなると、親の生活費や介護費用などを用意できず困ってしまいます。
1-2 不動産売却や各種契約ができなくなる
親が重度の認知症になってしまい、判断能力が失われると不動産売却や各種契約(法律行為)ができなくなってしまいます。
具体的には、以下の契約ができずに困ってしまうケースが多いです。
- 実家の売却手続き
- 実家のリフォーム
- 遺言書や生前贈与などの相続対策
例えば、認知症になった親が介護施設に入居する際に、実家を売却して介護費用を捻出するケースも多いですが、親が重度の認知症になっていると、子供であっても代わりに売却することはできません。
親名義の実家を売却できないと、親が亡くなるまで空き家のまま管理をしておくことになり、維持費や管理の手間がかかります。
他にも家族信託や遺言書の作成、生前贈与などといった相続手続きも、親が重度の認知症になり判断能力を失ったと判断されるとできなくなるのでご注意ください。
1-3 火の不始末により火事になる
火の不始末は認知症患者が起こすトラブルの中でも、命に関わる特に危険なものです。
具体的には、以下のトラブルに注意する必要があります。
- 鍋の空焚き
- 暖房器具の切り忘れ
- ガスコンロの近くに燃えやすいものがあるのに調理をしてしまう
- たばこの火の不始末
- 仏壇の線香を消し忘れる
上記のトラブルは、認知症症状による記憶力の低下や集中力の低下によって起きるものが多いです。
認知症となった方本人のみでは、注意しきれない部分もあるので子供や兄弟姉妹、親族が生活を見守り、危険になりそうなものは排除していく必要もあるでしょう。
1-4 食生活が偏り不健康になる
認知症の症状が出始めると、同じものを食べ続ける、栄養バランスに気遣わなくなるなどのトラブルが起きやすいです。
結果として、栄養バランスが偏り認知症が悪化する、別の病気になってしまうなどの恐れもあります。
1-5 トイレができなくなり不衛生になる
認知症が悪化すると、尿意のコントロールが難しくなり失禁してしまうケースもあります。
他には、食生活の乱れから便秘になってしまうケースも少なくありません。
認知症患者が便秘を解消しようとして、下剤を服用するものの量の調整ができずに、便失禁をしてしまい不衛生になることもあるでしょう。
トイレのトラブルは、衛生面だけの問題だけでなく、本人の尊厳に大きく関わる問題でもあります。
トイレのトラブルが起きたときには、本人の気持ちを尊重しつつ、適切な対処を行いましょう。
1-6 服薬管理ができなくなる
持病があり薬を服用している方が認知症になってしまうと、これまでできていた服薬管理が難しくなってしまいます。
薬を飲み忘れてしまう、薬の量を間違えてしまうなどのトラブルが起き、持病の悪化を招く恐れがあります。
特に、高血圧薬や糖尿病薬など薬の量を間違えてしまうと命の危険もある薬を飲まれている方は注意が必要です。
1-7 ご近所関係で揉めてしまう
認知症の症状が進むと、ゴミ出しができずに放置し続けてしまうケースもあります。
その結果、自宅がゴミ屋敷のような状態になり、ご近所から苦情がくる可能性があります。
また、些細なご近所トラブルをきっかけに、認知症による被害妄想が起きるかもしれません。
認知症は一度発症してしまうと、症状と長く付き合わなければならないケースも多いです。
患者本人と家族だけでは抱えきれないので、ご近所とも良い関係を築いて問題に対処していくのが大切です。
1-8 外出時の事故や行方不明
認知症が進行すると、住み慣れた自宅の近くでも道に迷ってしまいやすくなります。
道に迷って自宅に帰れなくなった結果、脱水症状や低体温症などになってしまう恐れもあります。
他には、出かけているときに転倒などをしてケガをしてしまうかもしれません。
認知症となった親が免許を返納していなく車の運転を行う場合には、親が交通事故の加害者となってしまうリスクもあるので、ご注意ください。
場合によっては、運転免許の返納や自家用車以外の交通手段も検討する必要があります。
このように、親が認知症になると様々なトラブルが起きる可能性があります。
次の章では、親が認知症になったときのトラブル対処法を確認していきましょう。
2章 親が認知症になったときのトラブル対処法5つ
親が認知症になりトラブルが起きたときには、患者本人や家族、地域の方など様々な方が協力して対処を進めていく必要があります。
トラブル対処時に、意識したいことは主に以下の5つです。
- 本人の暮らしぶりを確認する
- 本人の資産や財産状況を集める
- 親が孤立しないように工夫をする
- 親の希望や意見を聞く
- 発生した問題から対処していく
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 本人の暮らしぶりを確認する
トラブルの発生を防ぐために、認知症となった親の状況をまずは把握しましょう。
ただし、認知症の症状が出始めた親に直接質問をしても、満足のいく回答が得られない可能性もあります。
そのため、質問だけでなく生活の様子を実際にチェックしてみて、困っていることがないかトラブルが発生しそうにないかを確認していくのが大切です。
具体的には、以下の内容を確認しておくのが良いでしょう。
- 部屋が散らかっていないか
- ゴミを溜めていないか
- 高額なものを購入していないか
- 服用している薬や通院状況
本人の生活ぶりを確認する際には、近所の方にも話を聞いておき、第三者からの意見を得ておくのもおすすめです。
2-2 本人の資産や財産状況を集める
認知症になった親がどんな資産を所有しているか確認するために、財産状況を把握しておきましょう。
具体的には、以下の方法で情報を集めていくのがおすすめです。
- 実家を整理し預金通帳を探す
- 実家を整理し不動産に関する書類(権利証や登記識別情報など)を探す
- 実家に届く郵便物を確認する
例えば、クレジットカードの利用明細などが実家で見つかれば、カード会社でキャッシングを利用していないかなども確認できます。
他には、実家を整理して通帳や不動産の権利証、保険証書など大切な書類も見つけておくと良いでしょう。
2-3 親が孤立しないように工夫をする
認知症の症状が進むとコミュニケーションを取りづらくなり、近所から孤立してしまいがちです。
認知症になってからもできるだけ長く今の生活を続けるためにも、地域包括支援センターや民生委員に相談しておくと安心です。
もちろん、何かあったときにすぐに助けてくれる、知らせてくれる近所の方との繋がりも大切にしておきましょう。
2-4 親の希望や意見を聞く
認知症が発症したからといって、すぐに全ての判断能力を失うわけではありません。
そのため、子供が心配して親に口出ししても、なかなか行動に移してもらえなかったり嫌がられたりする可能性もあります。
認知症になった親が支援を受けるのを嫌がるときには、伝え方に工夫をしてみるのも有効です。
具体的には、以下のように伝えてみるのがおすすめです。
- ニュースや知人から聞いた話として話題に出す
- 「お父さんなら将来どうしたい?」と本人の希望を聞き出す
- 「私はお母さんが心配」と自分が心配している気持ちを伝える
本人の希望をはっきりさせ、内容にあった支援を用意すれば、受け入れてもらえる可能性も高いです。
2-5 発生した問題から対処していく
認知症の進行には個人差があり、気付いたときには複数のトラブルが発生しているケースも少なくありません。
トラブルが発生したときには、命に危険がある緊急性の高いものから順番に対処していきましょう。
具体的には、火の不始末や服薬管理のトラブルから対処していくのがおすすめです。
3章 親が認知症になったときの相続対策
1章で解説したように、親が認知症になり判断能力を失うと、親が所有している財産は凍結される恐れがあります。
具体的には、親名義の預貯金の引き出しや親が所有している不動産の売却手続きが進められなくなるかもしれません。
結果として、子供や兄弟姉妹などが親の生活費や介護費用を自己資金から負担しなければならないケースもあります。
親が重度の認知症になったときに利用する成年後見制度とは
このように、親が重度の認知症となってしまった場合に、親の財産を管理する方法は、成年後見制度を利用するしかありません。
認知症などですでに判断能力が失われた方の成年後見人を指定する制度を法定後見制度といいます。
法定後見制度を活用し成年後見人が選ばれれば、認知症となった親のかわりに財産の維持や管理を行えるようになります。
法定後見制度を利用する際には、家庭裁判所での申立が必要です。
申立手続きの概要や必要書類は、下記の通りです。
申立する人 |
|
申立先 | 本人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立費用 |
|
必要書類 |
など |
4章 親が認知症になる前にしておきたいこと
最後に、親が認知症になる前にしておきたいことを4つ紹介していきます。
- 遺言書を作成してもらう
- 生前贈与をしてもらう
- 家族信託をしてもらう
- エンディングノートを作成してもらう
上記はいずれも、親の認知症が進んでしまい判断能力が失われてしまうと、実行できなくなります。
「将来自分の面倒を見てくれる子供に多くの財産を遺したい」などと、自分の希望する相手に財産を相続させたいのであれば、判断能力があるうちに相続対策を進めておくのがおすすめです。
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 遺言書を作成してもらう
親が希望する人物に財産を遺したいのであれば、遺言書を作成しておくのがおすすめです。
ただし、法的に有効な遺言書を作成するには所定の形式を守る必要があります。
また、遺言書の内容が遺留分を侵害していた場合、相続トラブルになる可能性があるのでご注意ください。
法的に有効かつ遺留分を考慮した遺言書をミスなく作成したいのであれば、司法書士や弁護士といった専門家への相談もご検討ください。
4-2 生前贈与をしてもらう
生前贈与をすれば、親が元気なうちに財産を子供などに引き継ぐことが可能です。
生前贈与を受けた側には贈与税が課税されますが、年間110万円の基礎控除の範囲内の贈与であれば、贈与税はかかりません。
親の年齢が若ければ、基礎控除内の贈与を毎年繰り返し、贈与税や将来発生する相続税を節税できます。
4-3 家族信託をしてもらう
家族信託とは、親が元気なうちに家族間で信託契約を結び、親が認知症等になったタイミングで受託者に財産を管理、運用してもらえる制度です。
成年後見制度と比較して、財産の管理や運用の範囲が広く、委託者(親など)が望めば積極的な運用もできる点が魅力です。
そのため、親が元気なうちに家族信託を結んでおけば、親が認知症になり介護施設に入居するタイミングで実家を売却するなどもできるようになります。
4-4 エンディングノートを作成してもらう
親が認知症になり様々なことを忘れてしまう前に、エンディングノートを作成してもらいましょう。
エンディングノートとは、人生の最期の希望やこれまでの人生を振り返った内容をまとめておくノートです。
遺言書と違い法的に決まった形式はないので、自分で自由に作成できるのが魅力です。
エンディングノートを書いておけば、認知症になってから伝えられなくなった子供や親族への感謝の気持ちも記せます。
まとめ
親が認知症になったときには、生活面や健康面、金銭面で様々なトラブルが発生する可能性があります。
子供や兄弟姉妹、親族は協力して親の生活を見守り、適切なサポートをしていくのが大切です。
認知症となった親の生活をサポートする際には、親の気持ちを考慮して優先順位の高い問題から対処していくのが良いでしょう。
親が認知症になってしまい判断能力が失われてしまうと、預貯金等が凍結され不動産売却などもできなくなってしまいます。
親の生活費や介護費用が用意できない場合には、法的後見制度を利用すれば親の財産を成年後見人が管理できるようになります。
一方で、親が認知症になる前もしくは軽度の認知症であれば、様々な相続対策や財産管理方法を選択可能です。
特に家族信託は、財産の管理や運用方法の自由度が高く、認知症になったときの相続対策として有効です。
グリーン司法書士法人では、家族信託や遺言書の作成など相続対策に関する相談をお受けしています。
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