不動産の相続税評価額は市場価格の約8割程度なので、現金や預貯金ではなく投資用不動産として遺産を残せば相続税を節税できる可能性があります。
また、不動産投資目的で借入を行っておけば、相続発生時に他の相続財産と債務控除し課税対象財産の金額を減らせます。
一方で、相続税対策として不動産投資を行うのであれば、不動産選びや遺産分割方法、認知症対策にも注意しなければなりません。
本記事では、不動産投資が相続税対策になる理由、注意点を解説します。
不動産の相続税対策については、下記の記事もご参考にしてください。
目次
1章 不動産投資が相続税対策になる理由2つ
不動産投資はサラリーマンや老後の資産形成に役立つだけでなく、相続税対策としても有効です。
不動産は現金や預貯金よりも相続税評価額が低いので、預貯金を不動産にしておけば相続財産を減らせるからです。
詳しく解説していきます。
1-1 現金・預貯金より不動産は相続税評価額が低い
相続時には、現金や預貯金、不動産、株式などすべての相続財産を合計して相続税を計算します。
相続財産を計算する際には、相続税評価額を用います。
現金や預貯金は「相続税評価額=相続発生日の残高」です。
それに対して、故人が所有していた不動産は下記のように相続税評価額を計算します。
土地 | 【路線価方式】 路線価×土地面積 【倍率方式】 固定資産税評価額×倍率 |
建物 | 固定資産税評価額 |
路線価(相続税評価額)や固定資産税評価額は、不動産の市場価格の約7~8割程度です。
そのため、現金や預貯金で財産を遺すよりも不動産として遺した方が相続税を節税できる可能性があります。
また、アパートやマンションなど他人に貸している不動産は使用目的が限定されることから、さらに相続税評価額を下げられるのもメリットです。
1-2 不動産投資目的で借入を行えば相続時に債務控除できる
自分が所有しているアパートやマンションを投資用不動産として活用するだけでも相続税対策になりますが、借入によって不動産投資を行うのも相続税対策として有効です。
不動産投資目的で行った借入は相続財産に含まれます。
故人が借りた借金は相続人が返済義務を負いますが、相続税計算時には借金を他の相続財産から控除可能です。
- 現金・預貯金:5,000万円
- 不動産(相続税評価額):5,000万円
- 借金:3,000万円
故人が上記のように財産を遺して亡くなった場合、相続税の課税対象財産は「5,000万円+5,000万円-3,000万円=7,000万円」と計算可能です。
相続税は累進課税制度を採用しており、課税対象財産が多ければ多いほど税率が高くなります。
そのため、債務控除によって課税対象財産の金額を減らせれば、それだけ相続税節税効果も大きくなります。
不動産投資用のローンには、団体信用生命保険(団信)が付いていることが多いです。
団信が付いていれば、ローンの名義人が死亡したときに残債相当額の保険金が支払われ、遺された家族がローンを返済する必要がなくなります。
一方で、ローンで購入した投資用不動産は相続人が受け継ぐので、遺された家族の収入を確保しつつ債務を遺さないことも可能です。
このように、団信付きの不動産投資ローンは生命保険に似た役割も果たします。
2章 相続税対策効果が高い投資用不動産の特徴
相続税対策で不動産投資を行うのであれば、投資用の不動産選びも重要です。
具体的には、下記に該当する不動産を選びましょう。
- 実勢価格と相続税評価額の差が大きい不動産
- 利回りが高い不動産
- 流動性が高い不動産
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 実勢価格と相続税評価額の差が大きい不動産
相続税対策として不動産投資を行うのであれば、実勢価格と相続税評価額の差が大きい不動産を投資対象として選びましょう。
実勢価格とは、いわゆる不動産の時価です。
本記事の冒頭で、不動産の相続税評価額は市場価格の約8割と解説しましたが、実際には地域によって違いがあります。
例えば東京都23区内のように、都心で地価が高騰している土地ほど実勢価格と相続税評価額の違いは大きくなります。
一方で、田舎の土地の場合は実勢価格と相続税評価額にほとんど違いがないケースもあるので注意が必要です。
- 人口が多い地域
- 駅から近くアクセスが良い
- 接道条件や地形が良く使い勝手が良い
上記に当てはまる土地は、実勢価格と相続税評価額の差も大きくなりやすいですし、相続後に売却を考えたときにも好条件で売却しやすくおすすめです。
2-2 利回りが高い不動産
不動産投資を行うときには、利回りを意識して対象となる不動産を選ばなければなりません。
利回りは「年間家賃収入÷物件価格×100」で計算可能です。
利回りが低い不動産は、そもそも投資対象として不適切であり、保有していてもコストがかかるだけで利益を生み出さないリスクがあります。
「相続財産を減らすために投資用不動産を購入したが、赤字になってしまった」なんてならないようにご注意ください。
なお、利回りは比較的人気の少ない地方の不動産が高い傾向にありますが、地方の物件は後述する流動性が低くなりやすいです。
2-3 流動性が高い不動産
不動産を現金化しなければならなくなったときのために、投資用不動産を選ぶ際には流動性も意識しておきましょう。
流動性とは交換のしやすさを指していて「流動性が高い不動産=売却しやすい不動産」です。
相続税対策で投資用不動産を購入しても、急に現金が必要なる可能性はゼロではありません。
また、家族が不動産を相続した後に保有して運用し続けるよりも、売却した方が良いと考えるケースもあるでしょう。
流動性が高ければ、不動産を換金しやすくなり相続人が投資の出口戦略を考えやすくなります。
流動性の高い不動産を購入するときには、本記事の2-1で解説した条件の他に物件の価格も意識しましょう。
極端な話ですが、10億円のビルよりも2億円のマンションの方が購入希望者は多くなりやすいです。
3章 不動産投資で相続税対策をするときの注意点
相続税対策として不動産投資を行う場合には、遺産分割方法や自分の認知症対策に注意しておかなければなりません。
具体的には、下記の3点に注意しましょう。
- 不動産投資の収益性も意識しておく
- 相続対策をしておく
- 認知症対策をしておく
それぞれ解説していきます。
3-1 不動産投資の収益性も意識しておく
相続税対策として不動産投資を行おうとすると、収益性を無視してとりあえず投資用不動産を購入してしまう人も中にはいます。
しかし、収益性を重視せず利回りの低い不動産を購入してしまうと、相続時まで不動産を保有し続けることが難しくなります。
また、相続人が利回りが低く赤字になっている不動産を受け継いだ場合、コストを負担しなければなりません。
「遺された家族の相続税の負担を減らし、生活を楽にしてあげたい」という本来の目的を果たせなくなる恐れもあるのでご注意ください。
不動産投資で利益を出すのは大前提であり、その上で可能であれば相続税対策を行うという意識を持ちましょう。
3-2 相続対策をしておく
不動産投資で相続税対策をした場合、必然的に相続財産のうち不動産の占める割合が大きくなります。
相続人が複数人いる場合、遺産分割方法で揉める恐れがあるので注意が必要です。
相続税対策だけでなく、下記の方法で相続対策も行い相続人間のトラブルを防ぎましょう。
- 遺言書を作成しておく
- 生前贈与する
- 分けやすいように複数の不動産を購入しておく
なお、不動産など分割しにくい財産を遺産分割する方法のひとつに換価分割があります。
換価分割とは、相続した不動産を売却し、売却代金を相続人で分け合う遺産分割方法です。
ただし、投資用不動産を換価分割で分け税務署から指摘を受けた際には、不動産を相続税評価額ではなく時価で評価しなければならない可能性があります。
そのため、相続税対策で不動産投資を行うのであれば換価分割以外での遺産分割方法を考えなければなりません。
3-3 認知症対策をしておく
認知症になって判断能力を失うと、投資用不動産の管理や運用、処分を行えなくなります。
判断能力を失った人は契約などの法律行為を行えなくなるからです。
相続税対策として不動産投資を行う場合、原則として自分が亡くなるまで不動産を売却せず保有しようと考えるはずです。
ただし、認知症対策をしておかないと所有している不動産に問題が発生しても対処できなくなる恐れがあります。
- 投資用不動産のリフォームができない
- 投資用不動産の価値が下がっても売却できない
- 入居者からの問い合わせや交渉に対応できない
上記のトラブルが起きてしまうと、投資用の不動産を持っていても適切な管理を行えず、コストばかりがかかってしまうケースもあるでしょう。
相続税対策として不動産投資を行うのであれば、同時に認知症対策もしておきましょう。
次の章で、おすすめの認知症対策を詳しく紹介します。
4章 不動産投資時にしておきたい認知症対策3つ
先ほどの章で解説したように、高齢になってからも不動産投資をするのであれば、認知症対策をしておかなければなりません。
認知症対策には複数ありますが、中でも下記がおすすめです。
- 家族信託
- 生前贈与
- 任意後見制度
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 家族信託
家族信託とは、信頼できる家族にあらかじめ決めておいた契約内容の範囲内で財産の管理や運用、処分を行ってもらう制度です。
家族信託は財産管理に特化しているので、投資用不動産の管理や運用、処分にも適しています。
- 子供に不動産の管理を任せ、賃料(利益)は所有者である自分が受け取る
- 自分が認知症になった後に、子供に投資用不動産のリフォームや処分を任せる
- 自分が亡くなった後だけでなく、その次の相続まで指定できる
家族信託を利用すれば、上記のような対策も可能です。
ただし、家族信託は比較的新しい制度であり、利用時には相続や法律に関する知識が必要です。
対応できる専門家はまだ少ないのが現状なので、家族信託の実績を持つ司法書士や弁護士を探さなければなりません。
4-2 生前贈与
生前贈与を行えば、任意のタイミングで投資用不動産を子供や配偶者に受け継げます。
例えば、自分が所有している不動産を子供に贈与すれば、子供が不動産の管理や運用、処分を自由に行えます。
一方で、年間で110万円を超える贈与は贈与税がかかる点がデメリットです。
贈与税は相続税よりも税率が高く設定されているので、暦年贈与や相続時精算課税制度などの控除や特例を利用して節税するのがおすすめです。
4-3 任意後見制度
任意後見制度とは、将来的に判断能力が不十分になったときのために、財産の管理や生活支援をしてくれる人物を選んでおく制度です。
財産の管理をしてくれる任意後見人を選んでおけば認知症等で判断能力を失っても、任意後見人が契約の範囲内で財産の管理や運用、処分を行ってくれます。
ただし、任意後見制度では、裁判所が選んだ任意後見監督人が任意後見人の財産管理を監督します。
投資用不動産の積極的な運用は任意後見監督人が認めない可能性が高く、家族信託と比較して柔軟な財産管理を行えないデメリットがあります。
まとめ
不動産の相続税評価額は市場価格の8割程度なので、現金や預貯金で相続財産を所有しておくよりも、不動産にした方が相続税を減らせる可能性があります。
そのため、ある程度の資産がある人は相続税対策として不動産投資を行うことも検討しても良いでしょう。
一方で、不動産投資にはリスクもありますし、相続税対策で行うのであれば同時に認知症対策もしておかなければなりません。
認知症対策をしておかないと、高齢になって判断能力を失ったときに不動産の管理や運用、処分ができなくなるからです。
不動産投資をしている人が認知症対策を行うのであれば、柔軟な財産管理ができる家族信託が最も適しています。
家族信託は対応できる専門家が少ないので、実績豊富な司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
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