相続税は物納できるの?知っておくべき要件と手続き方法【まとめ】

相続税は物納できるの?知っておくべき要件と手続き方法【まとめ】
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司法書士中川 徳将

 監修者:中川 徳将

この記事を読む およそ時間: 7

相続税は現金一括納付が原則ですが、どうしても納税資金が用意できない場合には延納や物納も認められています。
ただし、延納や物納は自由に誰でも選択できるわけではなく、納税資金が用意できない方のみが選択できる制度です。

延納が認められれば相続税を分割で支払えますし、物納が認められれば現金ではなく不動産や株式で相続税を納めることが可能です。
しかし、物納では不動産を相続税評価額で計算するため、自分で相続した不動産を売却し現金化した方が得になるケースもあります。

本記事では物納を適用する要件や手続きの流れを解説していきます。
相続税が払えないときの対処法については、下記の記事でも解説しているのでご参考ください。

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1章 相続税の物納とは

相続税の物納とは、現金で相続税を納付するかわりに不動産や株式などを使用して納税する方法です。
また相続税が払えないときの対処法としては、物納以外にも延納制度も用意されています。

ただし、物納や延納は相続人が自由に選べる制度ではなく、相続税をどうしても払えないときのみ利用できる制度です。
また、物納できる財産の種類および優先順位も細かく決められています。

1-1 物納と延納の違い

相続税が払えないときの対処法には、物納制度と延納制度が用意されています。
名前の通り物納は現金ではなく不動産や株式などで相続税を支払い、延納は最大で20年間まで相続税を分割払いできる制度です。
どちらも自由に選択できるわけではなく、現金一括での納税資金が用意できない方のみが延納や物納を利用できます。

物納や延納を利用できる順番は以下のとおりです。

  1. 現金一括納付する
  2. 現金一括納付ができない場合に延納手続きをする
  3. 延納手続きでも払えない場合には物納手続きをする

上記のように物納制度は延納制度を活用したとしても、相続税を払えないと判断したときのみ利用できます。

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1-2 相続税の物納は年間100件未満しかない

国税庁では毎年の物納件数と金額を発表していますが、令和4年度の物納申請件数は91件で実際に申請が許可されたのは100件でした。
(参考:相続税の物納処理状況等

物納は平成29年度の税制改正によって、物納に使える財産の種類と順位が定義されました。
税制改正によって物納の自由度が下がったことにより、平成29年以降は物納申請件数は年間で100件未満しかありません。

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2章 相続税の物納の要件

相続税の物納は誰でも自由に利用できる制度ではなく、物納をするには下記の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 延納をしても相続税を納付できそうにない
  2. 申告期限までに物納申請書を提出する
  3. 物納に充てることができる財産を相続している

それぞれ詳しく解説していきます。

2-1 延納をしても相続税を納付できそうにない

相続税の物納は、現金で納税資金を用意できない上に分割払いでも用意できそうにない人の納税方法として用意されています。
そのため、下記に該当する人は物納制度を利用できません。

  • 現金一括納付が可能
  • 延納を利用すれば相続税を払える

また、すべての相続税を物納で支払うことができるのではなく、期限内納付と延納による納付をしても払えない金額のみを物納で支払うことが認められます。
なお、物納を申請できる金額は下記の計算式によって算出します。

相続税額-(相続した預貯金+納税者自身の預貯金+生活費3ヶ月分+事業経費1ヶ月分+経常収支による納税資金+臨時的収支)

物納できる金額の計算方法は複雑なので、物納検討時には相続に詳しい税理士に相談するのが良いでしょう。

2-2 申告期限までに物納申請書を提出する

物納を選択する場合には、相続税の申告期限までに物納申請書と必要書類を提出しなければなりません。
相続税の申告期限は相続が開始してから10ヶ月以内です。

物納を適用できるかの判断や書類の用意は時間的猶予もあり、個人で行うのは難しい場合もあるでしょう。
必要に応じて税理士などの専門家への相談も検討するのが良いかと思います。

物納の申請方法および必要書類は、本記事の4章で詳しく解説しています。

2-3 物納に充てることができる財産を相続している

相続財産のすべてを物納に使用できるわけではなく、物納に充てられる財産は決められています。
また財産の種類だけでなく優先順位も決められているので、自分で自由に物納する財産を選べるわけではありません。


3章 物納できる財産の種類・優先順位

物納に使える財産は自由に選択できるわけでなく、相続によって取得した国内財産のみとされています。
相続人が相続発生前から所有していた財産や相続によって取得した海外資産は物納に充てられません。

また、物納に充てられる財産には種類だけでなく、優先順位も下記のように決められています。

  • 第1順位:不動産、船舶、国際証券、地方債証券、上場株式等
  • 第2順位:非上場株式等
  • 第3順位:動産

例えば不動産と非上場株式を相続した場合には、まずは不動産を物納しなければなりません。
「不動産を手元に残しておきたいから非上場株式を物納に充てる」などの選択はできないのでご注意ください。

3-1 物納できない財産

物納は財産の種類および優先順位が決められているだけでなく、売却しにくい不動産などは物納できないと決められています。
物納が認められない財産の種類は、主に下記の通りです。

財産の種類概要
相続時精算課税制度によって贈与された財産相続時精算課税制度によって贈与された財産は、相続税の計算対象に含めるものの贈与財産を物納に充てられない
物納劣後財産 ・財産の自由な処分や使用が難しい財産
・他に物納できる財産がある場合は物納することが認められない
【例】
・地上権が設定されている土地
・法令や規定に違反して建築された建物および敷地
・配偶者居住権が設定されている建物および敷地
など
管理処分不適格財産管理や処分に適さず、物納が認められない財産
【例】
・担保権が設定されている土地
・権利の帰属について争われている土地
・境界が不明な土地
・共有状態の不動産(共有名義人全員が物納する場合を除く)
など

4章 物納手続きの流れ・必要書類

物納を行う場合には相続税の申告期限内に所定の手続きと必要書類の提出を行う必要があります。
物納手続きの流れは以下の通りです。

  1. 物納申請書・必要書類を税務署に提出
  2. 税務署による審査・調査
  3. 物納許可がおりる(もしくは却下される)

それぞれ詳しく解説していきます。

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4-1 物納申請書・必要書類を税務署に提出

物納をすると決めたら、まずは相続税申告期限内に物納申請書と必要書類を税務署に提出します。
主な必要書類は以下の通りです。

書類名概要・入手方法
物納申請書物納を申請する税額などを記載する
国税庁HPにてダウンロード可能
金銭納付を困難とする理由書物納を行う根拠を示すために提出する
国税庁HPにてダウンロード可能
理由書の内容を証明できる資料の写し金銭納付を困難とする理由書に添付する
【例】
収入に関する証明書
生活費に関する証明書
など
物納財産目録物納する財産の詳細情報を記載する
国税庁HPにてダウンロード可能
物納劣後財産等を物納に充てる理由書物納劣後財産を物納に充てる場合のみ提出する
国税庁HPにてダウンロード可能
物納手続関係書類物納する財産の種類ごとに必要なものが異なる
国税庁HPにてチェックリストをダウンロード可能

物納手続関係書類は物納に充てる財産の種類によって異なります。
物納手続き関係書類の期限内提出がどうしても難しい場合には、物納手続関係書類期限延長届出書を提出すれば、最長1年まで提出期限を延長可能です。

4-2 税務署による審査・調査

税務署に申請書や必要書類を提出すると、税務署による審査や調査が入ります。
物納に充てる財産に不動産が含まれる場合には、税務署や財務局が現地調査も行います。

審査の際に書類の不備を指摘された場合には、通知を受けてから20日以内に書類の訂正や追加書類の提出を行わなければなりません。

4-3 物納許可がおりる(もしくは却下される)

税務署が審査を完了すると物納の許可がおります。
審査では下記の内容が重要視されます。

  • 申請者が本当に金銭納付が難しい状況か
  • 物納申請財産が物納に適切かどうか

物納の適用要件を満たしていないと判断されると物納申請が却下されてしまいます。
物納申請が却下された場合には、通知を受けた日の翌日から20日以内であれば1回だけですが再申請も可能です。


5章 物納と不動産売却はどちらを選ぶべき?

相続した預貯金で相続税を払えない場合は物納だけでなく、自分で相続した不動産を処分し納税資金に充てる選択肢もあります。

物納や不動産売却にはそれぞれメリットとデメリットがあるので、相続財産に合った方を選びましょう。
物納と不動産売却のメリット、デメリットは以下の通りです。

物納不動産売却
メリット
  • 譲渡所得税が課税されない
  • 仲介手数料はかからない
  • 売却価格を自由に決められる
デメリット
  • 測量費用がかかる
  • 相続税評価額で価格が計算される
  • 譲渡所得税がかかる
  • 買手が見つかるまで時間がかかる場合がある
  • 仲介手数料が取られる

それぞれのメリットとデメリットを詳しく確認していきましょう。

5-1 物納のメリット・デメリット

物納を選んだ場合、相続した不動産を納税資金にするので譲渡所得税がかからないメリットがあります。
一方で、物納に充てる財産は相続税評価額で価格が計算されるので、売却時より安い金額になりやすいです。

不動産売却と物納を比較した場合のメリット、デメリットを詳しく解説していきます。

5-1-1 物納のメリット

物納のメリットは不動産を納税資金に直接あてるので、譲渡所得税がかからない点です。
また納税資金として必要な分だけ土地を差し出せば良いので、計算がしやすく少しでも不動産を残しておきたいと考える方にも向いています。

5-2-2 物納のデメリット

一方で物納に使う土地は必ず測量をしなければならないので、測量費用がかかります。
測量費用は100~200㎡ほどの土地に対し、60~80万円かかるケースが多いです。

測量自体にも時間がかかるので、物納を検討する方は早めに手続きを始めるのが良いでしょう。

また物納を行う場合、不動産の評価額は相続税評価額に基づいて計算されます。
相続税評価額は時価の7~8割ほどなので、売却時よりも評価額が下がってしまう点にも注意が必要です。
さらに小規模宅地等の特例を適用すると、適用後の評価額が物納時の収納価額となるので更に価値が下がります。

これらのメリット、デメリットを踏まえると、市場価値がそれほど高くなく買手がすぐに見つからない不動産を相続した人は物納を選択するのが良いでしょう。

5-2 不動産売却のメリット・デメリット

不動産売却は物納と異なり市場取引なので、自分で価格設定や交渉できる点が魅力です。
一般的に、市場価格は相続税評価額よりも高くなりやすいので、物納を選択したときより納税資金を確保しやすくなる可能性があります。

物納と不動産売却を比較としたときの不動産売却のメリット、デメリットを解説していきます。

5-2-1 不動産売却のメリット

相続した不動産を売却して納税資金を用意するメリットは、市場取引なので自分で自由に価格設定や交渉できる点です。
例えば駅に近い利便性の高い土地などの場合、物納を活用するよりもご自身で売却手続きをした方が土地を高値で売却できる可能性があります。

少しでも納税資金を用意したい場合や土地を残す必要がなく全てまとめて現金化したい方は、物納ではなく不動産売却を検討しても良いでしょう。

5-2-2 不動産売却のデメリット

不動産売却では売却によって得た利益に対して、譲渡所得税が別途かかります。
相続税の納税資金のことだけを考えて売却額を決定してしまうと、今度は譲渡所得税の納税資金の確保が難しくなるのでご注意ください。

また不動産売却の場合、個人間取引は難しく不動産会社に仲介してもらうのが一般的です。
そのため譲渡所得税とあわせて不動産会社に支払う仲介手数料も必要になります。
納税資金と不動産売却にかかる諸費用を土地の売却価格が上回りそうなときには、不動産売却を選択を検討してみましょう。

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まとめ

相続税を現金で納付できないときには、相続財産を納税に充てる物納制度も認められています。
物納は誰でも自由に利用できる制度ではなく、現金一括納付や延納による分割払いをしても相続税を納税できない方のみに認められている制度です。
物納に充てることができる財産と優先順位も細かく決められています。

物納を行うのであれば、相続税の期限内に申請書と必要書類を提出する必要があります。
必要書類の数は多いので、物納を行うのであれば早めに書類の準備を始めましょう。

また相続財産を手放し納税資金にあてるのであれば、物納だけでなく不動産売却もご検討ください。
買手がすぐに見つかる利便性の高い土地であれば、物納よりも不動産売却を選択した方が良いケースもありますよ。

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よくあるご質問

相続税の物納とは?

相続税の物納とは、現金で相続税を納付するかわりに不動産や株式などを使用して納税する方法です。
また相続税が払えないときの対処法としては、物納以外にも延納制度も用意されています。

相続税を物納するデメリットとは?

相続税を物納するデメリットは、下記の通りです。

・物納できる財産・順位は決まっている
・土地を物納する際には測量費用がかかる
・物納する財産の価値は相続税評価額で計算する

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