離婚した父親が再婚していた場合、前妻の子だけでなく後妻も配偶者として相続権を持ちます。
また後妻の子に関しては、亡くなった父親と血縁関係のない子や養子縁組をしていない後妻の連れ子は相続権を持ちません。
離婚、再婚歴のある人が亡くなった場合、後妻と前妻の子がともに相続人になり、相続手続きを協力して進める必要があります。
後妻や後妻の子が遺産を独占しようとして勝手に相続手続きを進めてしまう、遺産を隠そうとするなどのトラブルもあるのでご注意ください。
本記事では、父親の後妻は相続人となるのか、後妻と前妻の子に起きやすい相続トラブルや相続発生時の注意点を解説します。
前妻の子の相続権に関しては、下記の記事で詳しく解説しているのでご参考にしてください。
目次
1章 父が死亡すると後妻・前妻の子両方が相続権を持つ
上記のように、両親が離婚して父親と疎遠になったとしても、法律上の親子関係は消滅しません。
そのため、父親が死亡したときには前妻の子も相続人になりますし、父が再婚していれば後妻も相続人となり遺留分も保障されています。
また、後妻の子に関しては父親との血縁関係の有無や父親が養子縁組をしていたかによって相続人になるかの扱いが異なります。
父親が亡くなったときに後妻の子が相続権を持つのか詳しく見ていきましょう。
1-1 再婚した父親と後妻の子にも相続権がある
離婚した父親が再婚し、後妻との子供が生まれていた場合は後妻の子にも相続権があります。
例えば、上記の家系図では後妻の連れ子である義兄は父親が亡くなっても相続権を持ちませんが、義弟は子供として相続権を持ちます。
1-2 後妻の連れ子には養子縁組していなければ相続権がない
後妻の連れ子は、父親が亡くなり相続が発生しても相続権を持ちません。
たとえ一緒に生活をしていたとしても、父親と後妻の連れ子には法律上の親子関係が生じていないからです。
ただし、父親と後妻の連れ子が養子縁組をしていたら、法律上の親子関係が生まれ実子同様の相続権を持ちます。
このように離婚歴があり前妻との間に子供がいた場合は、後妻と前妻の子が相続人になり相続トラブルが起きやすいのでご注意ください。
次の章では、後妻と前妻の子の間で起きやすい相続トラブルを紹介します。
後妻と前妻の子には親子関係が生じていないため、後妻が亡くなっても前妻の子が相続権を持つことはありません。 br>
後妻が亡くなったときには、配偶者や後妻の子が遺産を受け継ぎます。 br>
後妻が亡くなったときに前妻の子に財産を遺したい場合は、養子縁組や遺言書の作成などの相続手続きが必要です。
2章 父の後妻と前妻の子の間で起きやすい相続トラブル
離婚歴があり前妻との間に子供がいる人が亡くなった場合、後妻と前妻の子が相続人になるので相続トラブルが発生しやすいです。
相続が発生した際には下記の5点に注意しましょう。
- 後妻や後妻の子が勝手に相続手続きを進めようとする
- 再婚した父親が遺留分を侵害した遺言書を用意していた
- 後妻や後妻の子に相続財産を隠される恐れがある
- 前妻の子が借金を知らずに相続する恐れがある
- 再婚した父親の財産が後妻の親族に受け継がれてしまう
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 後妻や後妻の子が勝手に相続手続きを進めようとする
父親が亡くなった際に前妻の子を相続手続きに関わらせまいとして、後妻や後妻の子が勝手に相続手続きを進めようとするケースも多いです。
前妻の子も相続権や遺留分を主張する権利を持っているので、後妻や後妻の子が父親の遺産をすべて相続すると主張しても応じる必要はありません。
- 納得がいかない遺産分割協議書に署名、押印を求められた
- 遺産の全容について教えてもらえない
- 早く遺産分割協議に合意するように後妻や後妻の子に求められる
上記のように後妻や後妻の子が進めようとする相続手続きに不信感を持った場合は、遺産分割協議書に署名や押印をせず自分でも相続財産調査を行うのが良いでしょう。
2-2 再婚した父親が遺留分を侵害した遺言書を用意していた
再婚して疎遠になった父親が「全財産を後妻に相続させる」などの遺言書を用意している場合もあります。
しかし、本記事の1章で解説したように前妻の子にも遺留分が用意されており、遺言書の内容にそのまま従う必要はありません。
遺留分とは、亡くなった人の配偶者や子供、両親に保障されている遺産を最低限度受け取れる権利です。
遺留分は遺言書の内容よりも優先されるので、遺留分を侵害している遺言書があった場合は遺産を多く受け取る後妻や後妻の子に遺留分侵害額相当分の金銭を請求できます。
2-3 後妻や後妻の子に相続財産を隠される恐れがある
前妻の子に遺産を渡すことを避けるために、後妻や後妻の子が遺産を隠す可能性もゼロではありません。
そのため、後妻や後妻の子から「法定相続分で遺産分割しよう」と言われても、そのまま従うのではなく自分で相続財産の調査を行うのが良いでしょう。
また、後妻側の意見を参考にしすぎず遺産分割協議書に署名や押印を求められた場合には、自分で内容を確認して納得できる場合のみ署名、押印することが大切です。
2-4 前妻の子が借金を知らずに相続する恐れがある
前妻の子が父親の遺産調査をしなかった場合、父親が遺した借金を知らずに相続してしまうリスクがあります。
相続発生時には預貯金や不動産などのプラスの相続財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も相続してしまうからです。
亡くなった人の借金を相続したくない場合は、自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内に相続放棄の申立てをしなければなりません。
後妻や後妻の子が借金を相続しないために相続放棄をしたとしても、家庭裁判所から前妻の子に「あなたも相続放棄した方が良いですよ」と連絡が来ることはないのでご注意ください。
疎遠だった父親が亡くなったときには借金がないかも調べ、必要に応じて相続放棄の申立てを行いましょう。
相続放棄の申立て方法および必要書類は、下記の通りです。
申立て人 |
|
申立て先 | 亡くなった人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
|
必要書類 |
|
2-5 再婚した父親の財産が後妻の親族に受け継がれてしまう
離婚歴のある人が亡くなった場合、遺産が後妻に受け継がれます。
そして、後妻が亡くなったときには後妻の連れ子や亡くなった父親と血縁関係のない人物が財産を相続してしまいます。
先祖代々受け継いできた土地などの財産がある場合、相続対策をしていないと最終的に血縁関係のない人物がその土地を相続してしまうのでご注意ください。
「長年にわたり受け継いできた土地は前妻の子に相続してほしい」などの希望があれば、父親が元気なうちに相続対策をしなければなりません。
3章 父の後妻と前妻の子が相続人になったときの注意点
離婚した父親が亡くなり相続が発生すると後妻や前妻の子が相続人になり、協力して相続手続きを進めなければなりません。
後妻と前妻の子が相続人になったときは、下記の3点に注意して相続手続きを進めましょう。
- 遺産分割協議書への署名・押印を求められたら慎重に判断する
- 自分で財産調査を行う
- 偏った内容の遺言書が用意されていたら遺留分侵害額請求を行う
それぞれ解説していきます。
3-1 遺産分割協議書への署名・押印を求められたら慎重に判断する
離婚した父親が亡くなり、後妻や後妻の子が遺産分割協議書を用意してきたときは、安易に署名や押印をしてはいけません。
遺産分割協議書に署名や押印をしてしまうと、取り消すことが難しいからです。
- 遺産分割協議書に書かれた内容をよく確認する
- 遺産分割協議書の内容や相続財産に関して不明点があれば後妻に質問する
- 自分でも相続財産の調査を行う
遺産分割協議書に署名や押印すべきかわからない、第三者に公平な視点でアドバイスしてほしいなどとお悩みの人は相続に詳しい司法書士や弁護士に相談してみましょう。
3-2 自分で財産調査を行う
後妻や後妻の子が亡くなった父親の遺産について鵜呑みにせず、自分でも財産調査を行いましょう。
具体的には、下記の方法で相続財産調査を自分でも行うと安心です。
- 不動産の登記簿謄本を取り寄せる
- 銀行で残高証明書を取得する
- 証券保管振替機構(ほふり)に情報開示請求を行う
- 信用情報機関に情報開示請求を行う
特に亡くなった父親の借金に関する調査を行わないと、知らないうちに借金を受け継ぐ恐れもあるのでご注意ください。
相続財産の調査方法は本記事の4章で詳しく解説します。
相続財産の調査は自分で行うこともできますが、司法書士や行政書士に依頼すれば確実です。
3-3 偏った内容の遺言書が用意されていたら遺留分侵害額請求を行う
「全財産を後妻に遺す」など偏った内容の遺言書を亡くなった父親が作成していた場合は、遺留分侵害額請求を行いましょう。
遺留分侵害額請求を行えば、遺産を多く受け取った後妻から遺留分侵害額相当分の金銭を受け取れます。
遺留分侵害額請求の方法は決まっていないので、まずは後妻と話し合いをしてみましょう。
話し合いをしても解決できない場合は、内容証明郵便や遺留分侵害額請求調停の申立てもご検討ください。
また、遺留分トラブルが泥沼化すると当事者同士で解決することは難しいので、相続に詳しい司法書士や弁護士への相談も良いでしょう。
4章 父の後妻が相続財産を隠したときの調査方法
離婚した父親が亡くなったときに、後妻や後妻の子が遺産を多く相続しようとして遺産を隠すことは珍しくありません。
本記事では、主な相続財産の調査方法を紹介します。
4-1 預貯金の調査方法
相続人が金融機関に問い合わせをすれば、口座開設状況や残高証明書を発行してもらえます。
問い合わせをする際には、通帳やキャッシュカードなどで亡くなった人が利用していた銀行を特定するのが最も確実です。
しかし、後妻が管理していて難しい場合は亡くなった人の生活圏内にある金融機関すべてに問い合わせをすることもご検討ください。
4-2 不動産の調査方法
亡くなった人が所有していた不動産に関する情報は、名寄帳の確認や登記簿謄本の取得で把握できます。
名寄帳とは市区町村単位で発行している土地や家屋の情報をまとめた一覧表であり、自治体によっては「固定資産課税台帳」「土地・家屋名寄帳」などの名称で管理されている場合もあります。
- 名寄帳で亡くなった人が所有していた不動産の地番や家屋番号を特定する
- 地番や家屋番号をもとに法務局で登記簿謄本を取り寄せる
上記の方法で、相続時に必要な不動産に関する情報を集められます。
登記簿謄本の取得方法は、下記の通りです。
取得できる人 | 誰でも取得できる |
取得先 |
|
費用 | 1通600円 |
取得方法 |
|
4-3 借金などの調査方法
亡くなった父親が借金をしていたかどうかは、下記の5つの方法で行えます。
- 信用情報機関に情報開示請求を行う
- 故人の自宅や郵便物を調べる
- 故人の通帳でお金の流れを確認する
- 知人や親族に尋ねてみる
- 不動産の登記簿謄本を確認する
亡くなった父親の自宅に後妻が住んでいる場合、自宅の郵便物や通帳を調べるのは難しいかもしれません。
その場合でも、信用情報機関への情報開示請求や不動産の登記簿謄本を取得し抵当権が設定されていないかの確認は必ずしておきましょう。
日本に信用情報機関は3つあり、それぞれの請求方法は下記の通りです。
信用情報機関 | 請求方法 |
JICC |
|
CIC |
|
KSC |
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まとめ
母親と離婚後に再婚した父親が亡くなった場合、前妻の子だけでなく後妻も相続権を持ちます。
関係性が薄いもしくは悪い後妻と前妻の子が相続人になってしまうケースも少なくないので、相続発生時にはトラブルに発展しないように注意しましょう。
具体的には、前妻の子も自分で相続財産調査をする、後妻にとって有利な遺言書が用意されていた場合は遺留分侵害額請求を検討するなども大切です。
相続財産調査や相続トラブルへの対処は専門的な知識や経験も必要になるので、自分で行うのが難しい場合や後妻と必要以上に関わりたくない人は相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、相続手続きに関する相談をお受けしています。
第三者の立場から公平なアドバイスを行うことも可能ですし、相談は無料ですのでお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
後妻が亡くなると誰が相続人になる?
後妻が亡くなると、配偶者が後妻の子が相続人になります。
後妻と前妻の子には親子関係はないため、同居していたとしてもそのままでは相続人になることはできません。
後妻が亡くなったときに前妻の子に財産を遺したいのであれば、養子縁組などが必要です。後妻が亡くなると、前妻の子は相続人になる?
後妻が亡くなっても前妻の子は相続人になることはできません。
後妻と前妻の子は法律上の親子にあたらないからです。
▶再婚相手の連れ子の相続について詳しくはコチラ