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株式の家族信託でできること|自社株を信託する際の注意点について

株式の家族信託でできること|自社株を信託する際の注意点について
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司法書士山田 愼一

 監修者:山田 愼一

この記事を読む およそ時間: 7

家族信託とは、信頼できる家族に自分の財産の管理や運用、処分を任せられる制度です。
家族信託は柔軟な財産管理ができるので、高齢者の認知症対策としての財産管理に適しています。

家族信託の信託財産に株式を組み入れれば、委託者が認知症になって判断能力を失った後も所有している株式の管理や処分を行えます。
家族信託で株式を管理や運用、処分する際には家族信託の契約書の作成が必要です。

また、家族信託で株式を管理する際には、指図権者の設定や契約書の作成など様々なことに注意しなければなりません。
そのため、家族信託で自社株の管理や運用、処分をする際には、司法書士や弁護士などの専門家に依頼するのがおすすめです。

本記事では、株式を家族信託で管理や運用、処分する際の流れや注意点をわかりやすく解説していきます。
家族信託については、下記の記事で詳しく解説していますのでご参考にしてください。

家族信託とは|メリット・デメリットや活用事例をわかりやすく解説

1章 株式の家族信託でできること

家族信託の信託財産に株式を組み入れれば、家族が契約内容にもとづいて株式の管理や運用、処分ができるようになります。
具体的には、家族信託を利用すれば下記の3点を行えます。

  1. 受託者による株式の管理や売却
  2. 指定した人物に議決権を行使させる
  3. 同じ信託財産内での損益通算

それぞれ詳しく解説していきます。

1-1 受託者による株式の管理や売却

家族信託の信託財産に株式を組み入れておけば、所有者である委託者の代わりに受託者の判断で株式の管理や売却を行えます。
委託者が認知症になり判断能力を失った後も、受託者が市場の動向に合わせて株式を管理できるので、価値が下がった株式を保有し続けるリスクを減らせます。

認知症になった人の財産管理方法には成年後見制度もありますが、家族信託は成年後見制度よりも柔軟な財産管理を行えるのがメリットです。
契約の範囲内であれば、受託者の判断で株式を売却できますし、売却時に裁判所の許可なども必要ありません。

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1-2 指定した人物に議決権を行使させる

家族信託の信託財産に組み入れた株式の議決権は受託者以外にも設定可能です。
受託者や委託者以外の指定した人物(指図権者)に議決権を渡せるので、家族信託は事業承継や現経営者の認知症対策としても活用できます。

  1. 委託者:現会長(大株主)
  2. 受託者:現会長の長男
  3. 指図権者:現社長

例えば、上記のように設定し家族信託の信託財産に株式を組み入れたとします。
現会長が元気で判断能力がしっかりしているうちは、委託者である現会長が自分で議決権を行使し、認知症などで判断能力が衰えてきたら指図権者である現社長に議決権を渡すことも可能です。

1-3 同じ信託契約内での損益通算

家族信託の信託財産に組み入れた株式であっても、損益通算を行えます。
ただし、信託財産で損益通算が認められているのは、ひとつの信託契約内に組み入れた財産同士のみです。

具体的なケースと共に損益通算の可否を確認してみましょう。

具体例損益通算
  • 信託契約A内に株式Bと株式Cを組み入れた
  • 株式Bに損失が発生し、株式Cは利益が発生した
株式Bと株式Cは損益通算できる
  • 信託契約Aに株式Bを組み入れたが、損失が発生した
  • 信託契約外で所有している株式Cは利益が発生した
株式Bと株式Cは損益通算できない
  • 信託契約Aに株式Bを組み入れたが、損失が発生した
  • 信託契約Cに株式Dを組み入れた
  • 株式Dは利益が発生した
株式Bと株式Dは損益通算できない

上記のように、株式の損益通算をしたいのであれば、ひとつの信託契約に複数の株式をまとめておく必要があります。
自分で家族信託の契約書を作成しようとすると、内容に漏れが発生してしまい損益通算ができないなどのトラブルが発生する可能性が高いです。

家族信託の契約書を作成する際には、資産状況や家族信託の目的、将来発生しうる様々なリスクを考慮しなければなりません。
家族信託に詳しい司法書士や弁護士であれば、ご希望内容や状況に合った契約書の提案を行えます。

グリーン司法書士法人では、毎月20件以上の家族信託に関する相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。


2章 自社株を家族信託する流れ

家族信託で株式を管理や運用、処分しようとする際には、家族信託の契約書の作成や会社法上の手続きが必要です。
具体的には、下記の流れで行いましょう。

  1. 家族信託を行う目的を考える
  2. 信託契約の内容を決める
  3. 信託契約の内容を書面にする
  4. 信託契約書を公正証書にする
  5. 会社法の手続きを行う

それぞれ詳しく解説していきます。

STEP① 家族信託を行う目的を考える

まずは、自分たちが何のために家族信託を行い、財産をどのように管理していきたいのかをはっきりさせましょう。
家族信託では柔軟な財産管理が可能であり、目的によって契約書に記載すべき内容や組み入れる財産も変わってくるからです。

家族信託の目的の具体例は、主に下記の通りです。

  • 会社経営を退き事業継承をしたい
  • 認知症などで判断能力が低下する前に自社株や不動産などを承継する家族に託しておきたい
  • 認知症の妻に後見人をつけなくて良いように財産を遺しておきたい
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STEP② 信託契約の内容を決める

家族信託の目的が決定したら、家族信託の具体的な内容を決めていきましょう。
具体的には、下記の項目を決める必要があります。

項目説明
信託目的何のために、家族信託で財産管理をするのか
委託者財産を預ける人(現在の所有者)
受託者財産を預かって管理する人
受益者信託財産から経済的な利益を受け取る人
第二受託者当初の受託者が財産管理できなくなったときに、次に信託財産の管理を行う人
第二受益者当初の受益者の次に受益権を持つことになる人
指図権者信託財産に組み入れた株式の議決権を行使できる人
(指定しない場合は受託者=指図権者となる)
信託財産預ける株式
(不動産や現金、株式など)
信託期間信託契約を継続させる期間
(例:当初の受益者が死亡するまでなど)
残余財産の帰属先信託終了後に信託財産を取得できる人
現時点で決定できない場合は、「相続人で協議する」といった記載も可能

なお、家族信託以外にも生前贈与や遺言書作成、成年後見制度など相続対策や認知症対策にあたる制度はいくつかあります。
そのため、家族信託の内容を考える際に「本当に家族信託がベストな選択肢なのか?」といった点も考慮しておかなければなりません。

例えば、委託者が所有している会社を直ちに受託者に任せたいのであれば、家族信託ではなく自社株の生前贈与も選択肢としてあるはずです。
家族信託の内容決定や他の相続対策との比較検討は、相続に関する幅広い知識や経験が必要になります。

自分で判断するのは難しいケースがほとんどなので、相続に詳しい司法書士や弁護士への相談をおすすめします。

STEP③ 信託契約の内容を書面にする

家族信託の内容が決定したら、決定した内容をもとに契約書を作成しましょう。
信託目的を実現し、財産を適切に管理や運用、処分してもらうためには信託契約書の条文一つひとつが重要な意味を持ちます。

自分で漏れのない契約書を作成するのは非常に大変ですので、専門家に依頼することもご検討ください。

家族信託の契約書のひな形と記載内容を解説!【自分で作成できる?】

STEP④ 信託契約書を公正証書にする

作成した契約書の信頼性を高め、不測の事態に備えるために公正証書化しておきましょう。
家族信託の契約書を公正証書化するメリットは、下記の通りです。

  • 公証人が確認するので誤字や表記間違いをなくせる
  • 公証人が本人の意思確認をするので、後日の紛争になりにくい
  • 信託契約書を紛失しても再発行できる
  • 金融機関で信託口口座の作成がスムーズになる

公正証書にすると公証人役場に支払う費用が発生しますが、費用以上にメリットが大きいです。
信託契約書を公正証書にする際の手続きの概要や必要書類は、下記の通りです。

手続きする人家族信託の当事者
手続き先最寄りの公証人役場
費用数万円程度
(信託財産の評価額によって変わる)
必要書類
  • 委託者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
  • 受託者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
  • 委託者および受託者の実印
  • 財産に関する資料
  • 家族関係に関する資料(戸籍謄本など)
家族信託に公正証書が必要な理由|公正証書の必要性や作成手順を解説

STEP⑤ 会社法の手続きを行う

信託契約書を公正証書にできたら、会社法上の手続きを行います。
株式を家族信託の財産に組み入れるときには、不動産の家族信託と異なり登記手続きは必須でありません。

ただし、会社法では第三者への対抗要件として株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載すると決められています。
また、譲渡制限株式の場合には、家族信託の契約によって株式を譲渡することを取締役会や株主総会にて承認を得なければなりません。

さらに、家族信託を通じて自社株を後継者に譲渡したタイミングで、役員が変更するときには、登記手続きなども必要です。

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3章 株式を家族信託するときの注意点

最後に、家族信託で株式を管理や運用、処分するときには家族信託の目的や信託する株式に合わせていくつかの点に注意が必要です。
具体的には、下記の4点に注意しておきましょう。

  1. 指図権者がいない場合は受託者が議決権を行使できる
  2. 家族信託の目的によって契約内容が変わってくる
  3. 事業承継目的の家族信託であれば受益者指定権・変更権も設定しておく
  4. 遺留分対策をしておく

それぞれ詳しく解説していきます。

3-1 指図権者がいない場合は受託者が議決権を行使できる

株式を家族信託に組み入れる場合には、受託者や受益者の他に指図権者を指定し、議決権を特定の人物に渡せます。
指図権者を指定しなかった場合には、受託者が自動的に議決権を行使できるようになるので注意しましょう。

  • 委託者:現会長(大株主)
  • 受託者:現会長の長男
  • 現会長が保有している会社の株を家族信託に組み入れる

例えば上記のケースでは、受託者である長男が次期後継者に決定していれば、長男が議決権を行使しても問題は少ないでしょう。
一方で、長男以外の人物が後継者となる場合、後継者を指図権者に指定しないと受託者である長男が現会長の議決権を行使できてしまいます。

予定と違う人物に議決権がわたってしまう可能性もゼロではないので、家族信託の契約書作成時には慎重に内容を精査する必要があります。
特に、事業承継を目的とした家族信託の契約書は複雑ですし、様々な可能性を考慮して作成しなければなりません。
事業承継や相続に詳しい司法書士や弁護士への相談をおすすめします。

3-2 家族信託の目的によって契約内容が変わってくる

株式を信託財産に組み入れて家族信託をするといっても、信託目的によって契約内容の細かな点が変わってきます。

  • 事業承継を目的としている
  • 株式の生前贈与を目的としている
  • 認知症による委託者の証券口座の凍結対策を目的としている

上記のように、様々な目的が考えられます。
複数の株式を信託財産に組み入れようとしている場合には、信託目的に合わせて信託契約書を分けて作成することも検討しなければなりません。

信託目的に合わせた信託契約書の作成や家族信託と他の相続・認知症対策との比較検討は、相続や法律に関する専門的な知識が必要です。
相続や家族信託に詳しい専門家であれば、信託目的に合わせた契約書の内容を提案できます。

3-3 事業承継目的の家族信託であれば受益者指定権・変更権も設定しておく

事業承継を目的として株式を家族信託で管理する場合には、予定している後継者に不測の事態が発生するリスクも考慮して、受益者指定権や変更権も設定しておくと安心です。
株式の所有権を後継予定者に渡すのではなく、受益権のみを後継予定者に渡しておけば、万が一後継者が変更になったときに株式の権利を回収しやすくなります。

  • 後継予定者には株式の所有権ではなく受益権を渡す
  • 受益権指定権・変更権を指定する

上記を信託契約書内に盛り込んでおけば、後継者に不測の事態があったときにも対応可能です。

3-4 遺留分対策をしておく

中小企業経営者が事業承継目的で家族信託を行う際には、同時に遺留分対策をしておきましょう。
中小企業経営者は会社の株式が保有資産の大半を占めるケースも多く、相続発生時には後継者以外の相続人が後継者に対し遺留分侵害額請求を起こす可能性もあるからです。
遺留分とは、亡くなった人の配偶者や子供に認められている遺産を最低限度受けとれる権利です。

具体的には、後継者以外の相続人が遺留分侵害額請求をしても問題ないように、以下の方法で遺留分対策をしておくのが良いでしょう。

  • すべての財産を家族信託に組み入れない
  • 生命保険などで遺留分の支払いに必要な現金を用意しておく
  • 後継者以外に遺留分の放棄を検討してもらう
  • 遺言書の付言事項を活用する

遺言書の付言事項とは、遺言書作成時に補足として自由に記載できるメッセージです。
「遺留分侵害額請求をしないでもらえると助かる」といった内容を遺言書の付言事項に記載しておくのも良いでしょう。
ただし、遺言書の付言事項には法的拘束力はないので、あくまでも相続人の心情に訴えることになります。

家族信託で遺留分対策はできるのか?具体的な対策方法まで徹底解説!

まとめ

株式を家族信託の信託財産に組み入れれば、所有者が認知症になった後も家族が受託者として株式の管理や運用、処分を行えます。
高齢になった親の認知症対策としても家族信託は活用できますし、中小企業経営者の事業承継対策としても活用可能です。

ただし、家族信託で株式の管理や運用、処分を行う際には信託目的をハッキリとさせ、目的に合った契約書を作成しなければなりません。
契約書は様々なリスクを想定して作成する必要がありますし、そもそも本当に家族信託が最適かどうかも検討する必要があります。

家族信託で株式を管理する際には、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
専門家であれば、資産状況やご希望に合った契約書を提案できますし、家族信託以外の制度との比較検討も行えます。

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資産承継信託のデメリットは、下記の通りです。
・信託しにくい財産もある
・専門的な知識が必要になる
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資産承継信託とは?

資産承継信託とは、名前の通り親から子供など次世代への資産承継に利用される信託です。

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