任意後見人とは、判断能力が不十分な方のために財産(預貯金、不動産など)の管理や生活や看護療養に関する支援を行う人です。
任意後見人となる人物は、制度を利用する本人と将来、制度利用者の判断能力が不十分になったときに備えて任意後見契約を結びます。
任意後見人は司法書士や弁護士といった専門家だけでなく、制度利用者本人の家族や知人もなれます。
ただし、任意後見人になった後は他の家族や親族とのトラブルに注意しなければなりません。
また、任意後見人は自由に財産の管理を行えるわけではなく、任意後見監督人に対する報告義務があります。
そのため、任意後見人と任意後見監督人との間でトラブルが生じてしまう可能性もゼロではありません。
本記事では、任意後見人になった後に注意したいトラブルを解説します。
任意後見人については、下記の記事でも解説しています。
目次
1章 任意後見人になってから起きやすいトラブル例
任意後見制度の利用を開始しても、任意後見人がすべて被後見人の財産を自由に管理できるわけではありません。
任意後見監督人の許可が必要ですし、そもそも事前に決めていた代理権が曖昧であり思うように財産の管理を行えないケースもあります。
- 任意後見監督人選任の申立てをしない
- 任意後見監督人に報告をしない
- 契約内容で定めていた代理権が曖昧
- 任意後見人と親族間で揉めてしまう
任意後見人になるときには、上記の4点に注意が必要です。
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 任意後見監督人選任の申立てをしない
任意後見制度は、契約を結んだ段階で制度が開始されるわけではなく、下記の流れで利用が開始されます。
- 本人の判断能力が衰える
- 任意後見人が任意後見監督人選任の申立てをする
- 裁判所が任意後見監督人を選任する
任意後見人は任意後見監督人が選ばれると、被後見人の財産状況や身体状況などを定期的に報告しなければなりません。
任意後見監督人への報告など制度利用開始と共に手間が増えることを嫌がった結果、任意後見制度の利用を開始させないケースも多いです。
任意後見制度の利用を開始しないと、被後見人の財産を任意後見人が管理することができず、被後見人の銀行口座の凍結や不動産を売却できなくなる恐れもあります。
1-2 任意後見監督人に報告をしない
任意後見人は、任意後見監督人に対して被後見人の財産状況や生活状況を報告する義務があります。
また、任意後見監督人は下記の役割を持っていて、任意後見人が契約内容通りに被後見人の財産を管理しているか監督します。
- 財産管理を適切に行っているか確認する
- 任意後見契約で後見監督人の同意が求められている行為について精査・同意する
- 調査・確認した内容を家庭裁判所に報告する
任意後見人が被後見人の親族の場合、契約内容に基づき被後見人の財産を管理しているという認識が甘くなってしまうケースがあります。
その結果、任意後見監督人への報告が少なくなり「任意後見人として不適切である」と判断される恐れがあります。
任意後見監督人は、不適切だと判断した任意後見人の解任申立ても可能です。
そのため、最悪の場合はせっかく任意後見人を被後見人が選んでいても、解任され財産管理を行えなくなってしまいます。
1-3 契約内容で定めていた代理権が曖昧
任意後見人はあらかじめ定めておいた代理権目録の範囲内でしか、被後見人の財産を管理できません。
代理権目録とは、本人の生活や療養看護、財産管理に関して任意後見人に代理で行ってもらいたいことを記載したものです。
代理権の定義が曖昧だと、任意後見人と任意後見監督人との間で代理権の範囲の判断にズレが生じる恐れがあります。
例えば、代理権目録で自宅の建て替えや売却に関して定めていたとします。
このときに、売却方法など具体的なことまで記載されていないと、任意後見監督人が売却に関する許可を出さないケースもあるでしょう。
結果として、適切なタイミングで被後見人の自宅を売却できず、施設への入居費用や入院費用を工面できなくなる可能性もあります。
このように代理権の決め方によっては、任意後見人と任意後見監督人との間で揉めてしまい、本来の目的を果たせなくなる恐れもあるので注意が必要です。
1-4 任意後見人と親族間で揉めてしまう
あらかじめ、被後見人と任意後見人の間で契約をしていたとしても、親族の一人が任意後見人として財産管理を行っていることに対し、他の親族が不満や不公平感を持つ恐れがあります。
例えば、長男が任意後見人となり適切な財産管理をしていたとしても、親の財産を使い込んでいるのではないかと他の兄弟が疑うケースもあるでしょう。
長男にとっては、痛くもない腹を探られるので当然嫌な気持ちになるでしょうし、疑ってきた兄弟との関係は悪化してしまう可能性が高いです。
また、任意後見人は親族ではなく司法書士や弁護士がなる場合もあります。
専門家が任意後見人になった場合、財産管理や法的手続きは代理で行えますが、被後見人に行われる医療行為に関しては同意できません。
親族と任意後見人の関係性が悪い場合、親族による同意が得られず、被後見人が適切な医療行為を受けられなくなる恐れがあります。
2章 【注意】任意後見人には取消権がない
成年後見人と異なり、任意後見人には取消権がない点に注意しておきましょう。
取消権とは、本人の財産に重大な損失を与える契約や法律行為を成年後見人が本人の代わりに取り消せる制度です。
任意後見制度は、本人の意思を尊重して契約するため、成年後見制度と異なり取消権は設定されていません。
3章 任意後見人になった後のトラブルを避けるなら家族信託がおすすめ
先ほど解説したように、任意後見人になっても任意後見監督人がつくので財産を自由に管理できるわけではありません。
また、任意後見契約とは別に見守り契約や財産管理等委任契約を結び対策しておく方法もありますが、万全ではありません。
任意後見人になった後のトラブルを避けるのであれば、家族信託の活用もご検討ください。
家族信託とは、信頼できる家族が契約内容に基づいて、財産の管理や運用、処分を行う制度です。
家族信託のメリットやデメリットについて詳しく解説していきます。
3-1 家族信託のメリット
任意後見制度と家族信託を比較したときのメリットは、主に下記の通りです。
- 財産管理を家族間だけで完結できる
- 柔軟な財産管理ができる
- ランニングコストがかからない
- 自分が亡くなった後の次の相続についても指定できる
- 倒産隔離機能によって信託財産が守られる
- 不動産の共有を回避できる
最も大きなメリットは、家族信託であれば家族間だけで財産の管理や運用、処分を完結できる点といえるでしょう。
家族信託では司法書士や弁護士などによる任意後見監督人がつくこともありませんし、裁判所への報告義務もありません。
家族信託は任意後見制度よりも柔軟な財産の管理や運用、処分を行えます。
契約内容によっては、賃貸用不動産のリフォームや売却なども行えるので、認知症発症後も積極的に財産の運用をしたい人は家族信託が向いています。
また、任意後見制度と異なり家族信託はランニングコストがかかりません。
任意後見制度の利用開始後は任意後見監督人へ毎月1~2万円程度の報酬を支払う必要があります。
制度の利用期間が数年、数十年かかるとそれだけランニングコストがかかる点も考慮すべきでしょう。
3-2 家族信託のデメリット
家族信託にはメリットだけでなく、以下のデメリットもあるので慎重な判断が必要です。
- 信託不動産から出た損失を他の所得と合算できない
- 家族信託を行う事自体は節税にはならない
- 遺言に比べて手間がかかる
- 身上監護権がない
- 受託者に司法書士・弁護士等がなる事はできない
- 対応できる専門家が少ない
家族信託はあくまで家族間で信託契約を結び、財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
そのため、信頼できる家族や親族がいない人はそもそも家族信託を利用できません。
また、家族信託で目的通りの財産管理を行うには、信託契約に記載する内容が非常に重要です。
目的通りの契約書を作成するには、法律や相続に関する専門的な知識が必要ですし、対応できる専門家はまだまだ少ないのが現状です。
3-3 家族信託がおすすめな人の特徴
ここまで紹介したメリットとデメリットを踏まえ、任意後見制度よりも家族信託をおすすめしたい人の特徴は、下記の通りです。
- 認知症になった親の空き家を管理や処分したいケース
- 賃貸用不動産の管理や運用、処分を任せたいケース
- 兄弟姉妹で不動産を管理しているケース
- 自分が亡くなった後の相続まで指定したいケース
- 孫に財産を贈与したいケース
家族信託は高齢者の認知症対策に活用できるだけでなく、生前贈与や二次相続対策にも活用可能です。
不動産を所有している人、高額な財産を所有している人は家族信託を検討してみても良いでしょう。
それでも任意後見制度を選択すべき人
家族信託は任意後見制度よりも柔軟な財産管理を行えるので、多くの人におすすめできる制度です。
ただし、下記に当てはまる人は家族信託で得られるメリットが少ない、もしくはそもそも家族信託の利用が難しいので任意後見制度の利用をおすすめします。
- 当分の間は自分で財産を管理したいけど、万が一の急病など(脳卒中など)が心配
- 家族信託を依頼できる家族がいない
家族信託や相続に精通した専門家であれば、任意後見制度と家族信託のどちらが適しているかも判断可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
3-4 家族信託を相談する専門家の選び方
家族信託は非常に複雑な制度であり、家族のニーズに合わせた信託契約を作成するには法律に関する知識が必要です。
家族信託は司法書士や弁護士、税理士などの専門家に依頼できますが、どの専門職へ相談したら良いという答えはありません。
というのも、司法書士や弁護士などの資格だけでは、家族信託に精通している証明にはならないからです。
家族信託を専門家に依頼するときには、家族信託に関する実績豊富な専門家を選ぶのが大切です。
具体的には、下記に当てはまる専門家を選ぶのが良いでしょう。
- 家族信託(民事信託)専門のホームページがある
- HPに家族信託の取扱件数が表示されている
- 不動産会社や銀行からの依頼で家族信託に関するセミナーを頻繁に開催している
- 相続専門のホームページがある
- 相続のホームページに遺産整理や成年後見など、幅広く相続に関する情報が記載されている
グリーン司法書士法人では、家族信託に関する相談を積極的にお受けしています。
初回相談は無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
まとめ
任意後見人は家族や親族もなれますが、制度利用開始後は任意後見監督人への報告義務があります。
また、あらかじめ定めていた代理権の内容によっては、財産の管理時に任意後見監督人への許可が必要です。
任意後見人と任意後見監督人との間で、代理権の範囲にズレが生じてしまい本来目的とする財産管理を行えない恐れもあります。
任意後見人になった後のトラブルを防ぐには、見守り契約や財産管理等委任契約などの対処法もありますが、家族信託も選択肢のひとつに入れるのがおすすめです。
家族信託なら、専門家や裁判所を介さずに家族間で完結して財産の管理や運用、処分を行えます。
任意後見制度よりも柔軟な財産管理を行えるので、賃貸用不動産を所有している人や財産の積極的な運用をしたい人はご検討ください。
ただし、家族信託は契約書作成時に法律や相続に関する知識が必要になるので、専門家への相談をおすすめします。
グリーン司法書士法人では、家族信託や任意後見制度に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
任意後見人のトラブル例は?
任意後見人のトラブル例は、下記の通りです。
・任意後見監督人選任の申立てをしない
・任意後見監督人に報告をしない
・契約内容で定めていた代理権が曖昧
・任意後見人と親族間で揉めてしまう任意後見人に取消権はある?
任意後見人には取消権がなく、後見人が立ち会わずに本人が不利な契約などをしてしまった場合にその契約を取り消すことができません。
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