遺言で「〇〇に遺産を承継させる」と書かれていたけど、実は遺産を承継したくない。
そんなとき遺言の内容を無視して、相続の放棄ができるのか悩んでいる方もご安心ください。
遺言があっても相続を放棄することは可能です!
ただし具体的な「放棄の方法」は遺言の内容によって異なるので注意が必要です。
今回は遺言によって遺産の承継を指定されたときに「放棄する方法」をパターンごとに詳しく解説します。
相続放棄を検討すべきケースは、下記の記事で解説していますのでご参考にしてください。
目次
1章 遺言をされても相続の放棄はできる!
遺言に「〇〇(特定の人)に遺産を承継させる」と書かれていても、本人の判断で「相続の放棄」ができます。
なぜなら、何らかの事情で遺産を承継したくないと考える人もいるので、個人の判断で遺産を承継するかどうかを選ぶことができるのです。
注意しなければならないのは、相続を放棄するための「手続方法」が、遺言に記載されている内容によって異なることです。
2章 まずは自身のケースが「遺贈」なのか「相続」なのか正しく判断しよう!
遺言によって財産を承継させる場合、「遺贈」と「相続」の2つの方法があり、相続を放棄にするにはそれに応じた手続きを行う必要があります。
ですので、まずはご自身のケースが「遺贈」なのか「相続」なのかを、正しく判断する必要があります。
2-1 「遺贈」か「相続」の判断基準
遺贈か相続かは、基本的に受け取る人が法定相続人かどうかで決まります。法定相続人とは、法律上決められた相続人のことです。
法定相続人が財産を譲り受ける場合は相続、それ以外の人に向けられたものなら遺贈です。
カテゴライズすると以下のとおりです。
【相続人以外へ財産を譲る「遺贈」】
遺贈とは一般に相続人以外の人に財産を譲ることです。たとえば孫や甥姪、愛人、お世話になった人などに財産を残すと遺贈です。ただし相続人にも特定の財産を遺贈できます。
なお、遺贈には特定遺贈と包括遺贈の2種類があります。これについてはすぐあとで説明します。
【相続人へ財産を譲る「相続」】
相続は民法の定める法定相続人に遺産を引き継がせることです。たとえば配偶者や子どもなどに財産を残すと相続になります。
2-2 遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類がある
遺贈には「特定遺贈」と「法定遺贈」の2種類があり、遺言書に記載された内容をもとに判断することになります。どちらの遺贈かによって、相続放棄の手続方法が変わるのでしっかりと確認しておきましょう。
【特定遺贈】
特定遺贈とは、特定の財産を指定して遺贈する方法です。たとえば「自宅不動産を遺贈する」「〇〇銀行の預貯金を遺贈する」と書かれていたら特定遺贈です。
特定遺贈では受贈者が負債を引き継ぐ可能性はありません。遺言者が「長男に〇〇の借金を引き継がせる」と遺言をしていても無効です。
【包括遺贈】
包括遺贈とは、財産全体を割合的に遺贈する方法です。たとえば「遺産の3分の1を遺贈する」「遺産をすべて遺贈する」などと書かれていたら包括遺贈です。
包括遺贈の場合には負債を引き継ぐ可能性があります。たとえば遺産の3分の1の遺贈を受けた人は、負債も3分の1引継ぎ返済する必要があります。
これらの知識を前提に「遺贈(特定または包括)」か「相続」の判断を行いましょう。
遺言書では、「遺贈する」「相続させる」などの文言だけでなく、「承継させる」「わたす」「与える」など、遺贈か相続か判断が難しい文言で記載されていることも少なくありません。
また、法定相続人でない人へ「相続させる」と記載されていることもあります。
そのような場合は、遺言書の内容や関係性などを考慮して、遺言者の意図をくみ取る必要があります。
ご自身での判断が難しい場合は、司法書士や弁護士などに相談しましょう。
3章 「遺贈」か「相続」で相続放棄の手続方法は変わる!
遺贈か相続かで相続を放棄する手続方法は変わります。自身の状況に応じた手続方法を選択しましょう。
3-1 遺贈の場合は特定遺贈と包括遺贈で放棄の方法が変わる
遺贈の場合には、特定遺贈か包括遺贈かで放棄の方法が異なります。
3-1-1 特定遺贈の場合
特定遺贈の場合には、受贈者と指定された人は相続人や遺言執行者に対し「遺産を受け取りません」と伝えるだけで足ります。相続人が複数人いる場合は、そのうち1人に伝えればOKです。
裁判所での手続きなどは不要ですし「いつまでに放棄しなければならない」という期限もありません。
なお、相続人から受遺者に対して、一定期間内に放棄するかどうか判断を促すことはできます。
3-1-2 包括遺贈の場合
包括遺贈を放棄するためには、家庭裁判所で「包括遺贈の放棄の申述」をしなければなりません。被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所で遺贈の放棄の申述書を提出し、申述が受理された時点ではじめて遺贈の放棄が有効になります。
放棄の申述が受理されるまでは、遺贈を受けなければならない状態が続きます。他の相続人などに「遺産は要りません」と言ったり一筆差し入れたりしても無効です。
また包括遺贈の放棄は「遺言者の死亡と遺贈を知ってから3か月以内」に行う必要があります。その期間内に家庭裁判所で手続きしなかったら、原則として遺贈を受けなければなりません。
3-2 相続の場合
遺言書で相続人に対して「相続させる」と書かれていた場合、相続人が財産承継を放棄するには基本的に「相続放棄」しなければなりません。相続放棄すると、遺言による相続部分だけではなくもともとの相続分も含めて失うので注意が必要です。
相続放棄するには、家庭裁判所で「相続放棄の申述」という手続きをする必要があります。
被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述書と戸籍謄本類などの必要書類を提出し、相続放棄の申述が受理されたら放棄が有効となります。
相続放棄の申述は「相続開始と自分が相続人であることを知ってから3か月以内」に行う必要があります。この期間を熟慮期間と言いますが、原則として熟慮期間を過ぎると相続放棄は認められなくなるので、早めに決断し行動する必要があるでしょう。
4章 相続放棄(包括遺贈の放棄)の3つの注意点
相続放棄や包括遺贈の放棄をするときには、以下のような点に注意が必要です。
4-1 一部のみを放棄できない
相続放棄するときには、自分の相続分を全体的に放棄することになります。負債だけではなく資産も相続できません。また「あの不動産は相続したくない」など特定の資産のみ相続放棄することはできず、「すべての相続権」を失います。
たとえば遺言によって自分の相続分を増やされたので他の相続人との公平のために相続放棄をすると、今度はあなた自身が遺産を一切受け取れなくなるので要注意です。
4-2 相続放棄、包括遺贈の放棄には期限がある
相続放棄や包括遺贈の放棄には「期限」がもうけられています。
相続放棄の場合には「被相続人の死亡と自分が相続人であることを知ってから3か月」
包括遺贈の放棄の場合には「遺言者の死亡と遺贈の事実を知ってから3か月」
上記の期間を過ぎると家庭裁判所に放棄の申述をしても受理してもらえず、相続または遺贈を拒絶できなくなってしまいます。
なお、期限内に手続きできなかった事情によっては、例外的に期間経過後でも手続きできる可能性もあるので、そのような場合は諦めずに司法書士や弁護士に相談しましょう。
3か月の期限を過ぎてしまった人は以下の記事をご参考にしてください。
相続や遺贈を受けたくない場合、早めに家庭裁判所での「申述」手続きを行いましょう。
4-3 相続放棄、包括遺贈の放棄の管轄裁判所とは
相続放棄や包括遺贈を放棄するときには「裁判所の管轄」についての知識が必要です。放棄の申述はどこでも受け付けてもらえるわけではなく、決まった裁判所で手続きする必要があります。
相続放棄も包括遺贈の放棄も、管轄は「被相続人(遺言者)の最終住所地を管轄する家庭裁判所」です。
相続放棄の重要ポイントまとめ
- 資産も負債も何も引き継がなくなる、一部のみの放棄はできない
- 相続開始と相続人であることを知ってから3か月の期間制限
- 申述できる家庭裁判所は「被相続人の住所地を管轄する裁判所」
5章 相続放棄(包括遺贈の放棄)の手続方法
相続放棄を行うときには、以下のような手順で家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出しましょう。包括遺贈の放棄の方法も基本的には同じです。
5-1 申請先
被相続人(遺言者)の最終の住所地を管轄する家庭裁判所です。全国の裁判所のホームページからお住まいの居住地を管轄する裁判所の名称や場所を調べられます。
5-2 必要書類
- 相続放棄申述書
- 申述人(相続人、受贈者)の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本または除籍謄本、改正原戸籍謄本
- 遺贈の放棄の場合、遺言書
相続放棄する人が被相続人の孫や親などの場合、上記に足して被相続人の出生時から亡くなるまでのすべての戸籍謄本類などの資料も必要となります。
5-3 費用
収入印紙800円分と連絡用の郵便切手が必要です。
5-4 流れ
相続放棄や包括遺贈の放棄をすると、以下のような流れで手続きが進みます。
- 申述書の提出
まずは管轄の家庭裁判所へ相続放棄の申述書や包括遺贈放棄の申述書を提出します。
- 照会書の送付と回答書の返送
申述書を提出すると、しばらくして家庭裁判所から申述人へ「照会書」が送られてきます。照会書には遺産の内容や被相続人の死亡を知った時期、被相続人との関係やかかわりの程度などについての質問が書かれています。質問に対する答えを「回答書」に記載して家庭裁判所に返送しましょう。
このとき「3か月の熟慮期間を過ぎている」と照会書への回答次第で申述を受け付けてもらえなくなるので、慎重に対応する必要があります。
- 放棄の受理書が届く
回答書を返送すると、しばらくして家庭裁判所から相続放棄や包括遺贈放棄の受理書が送られてきます。受理書が届いたら、正式に相続放棄や包括遺贈の放棄をできたということです。
相続放棄の申述にかかる期間は2週間~1か月程度です。
さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご参考にしてください。
6章 【番外編】遺言と異なる遺産分割協議をすることもできる
遺言によって遺贈や相続を指定されたとき、自分としてはそんなには要らないけれど多少は受け取りたいと考えるケースもあるでしょう。
相続人の方なら「遺言によって増やされた相続分は不要だけど法定相続分は受け取りたい」と考えるケースや、「A不動産よりB不動産の方が相続したい」というようなケースも多数あります。
そのようなときには相続放棄ではなく、他の相続人との遺産分割協議によって解決しましょう。
相続人が全員納得すれば、遺言内容と異なる方法での遺産分割をできるからです。たとえば遺言によって長男の相続割合が増やされていても、相続人全員が合意して法定相続割合の通りに相続できます。
相続放棄をすると遺言によって増やされた部分だけではなくその他の相続分も失ってしまうので、放棄した人が不利益を受ける可能性があります。
それよりは相続人同士で話し合って納得できる割合で遺産分割した方が良いケースも多いので、参考にしてみてください。
まとめ
遺言によって特定の財産を遺贈されたり相続分を増やされたり一定割合の財産を遺贈されたりしたとき、受け取りたくなければ状況に応じた方法での放棄の手続きが必要です。
ただし放棄よりも遺産分割協議での解決の方が適している事案もあります。
自分ではどのような対応をとるのが最適か分からない場合には、ぜひとも遺産相続の専門家までお気軽にご相談下さい。
よくあるご質問
遺言書があっても相続放棄はできる?
遺言に「〇〇(特定の人)に遺産を承継させる」と書かれていても、本人の判断で「相続の放棄」ができます。
ただし、包括遺贈の場合は、相続放棄の際に家庭裁判所への申立て手続きが必要です。相続放棄は一筆でできる?
相続放棄は口頭や一筆では認められず、正規の必要書類を揃え、家庭裁判所で申立て手続きを行う必要があります。
▶相続放棄の申立てについて詳しくはコチラ