故人が負っていた損害賠償債務は、相続財産に含まれます。
損害賠償債務の金額が大きい場合は、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄すれば、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなるので、損害賠償債務も受け継がずにすみます。
ただし、損害賠償債務を相続放棄する際には、預貯金や不動産などプラスの財産も一切相続できなくなる点には注意しなければなりません。
そのため、相続放棄するかどうかは、損害賠償債務の金額や本人が遺した遺産の金額によって決めるのが良いでしょう。
本記事では、損害賠償債務は相続放棄できるのか、相続放棄する際の注意点を詳しく解説していきます。
相続放棄については、下記の記事で詳しく紹介しているので、あわせてお読みください。
目次
1章 相続放棄すれば損害賠償債務を受け継がずにすむ
損害賠償債務も相続放棄の対象に含まれるため、相続放棄すれば故人が負っていた損害賠償債務を受け継がずにすみます。
損害賠償債務とは、法律などに違反して他人の身体や財産に損害を与えたときに、損害分を被害者に支払う義務です。
例えば、借りていたものを壊したときの弁償費用や他人に怪我をさせてしまったときの医療費などが該当します。
そして、相続放棄とは、亡くなった人のプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなる手続きです。
相続放棄すれば相続人が故人の損害賠償債務を受け継ぐことはありません。
相続放棄をするには、自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で申立てをする必要があります。
相続放棄の申立て方法および必要書類は、下記の通りです。
提出先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手続きする人 | 相続放棄する人(または法定代理人) |
手数料の目安 |
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必要なもの |
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2章 損害賠償債務を相続放棄するときの注意点
故人が遺した損害賠償債務を相続放棄する際には、プラスの財産も一切受け継ぐことができなくなる点や申立てには期限が設定されていることに注意しておきましょう。
相続放棄の注意点は、主に下記の通りです。
- プラスの財産も一切受け継ぐことができなくなる
- 相続放棄は自分が相続人になってから3ヶ月以内と申立て期限が設定されている
- 相続放棄が一度受理されると原則として取り消せない
- 同順位の相続人全員が相続放棄すると次の順位の相続人に相続権が移る
- 故人の遺品を処分すると相続放棄が認められなく恐れがある
- 故人の債務を一部でも支払うと相続放棄が認められなく恐れがある
- 相続放棄しても相続人自身の損害賠償債務は免責されない
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 プラスの財産も一切受け継ぐことができなくなる
相続放棄すると、預貯金や不動産などプラスの財産についても、一切相続できなくなってしまいます。
例えば、故人が遺した損害賠償債務よりも、プラスの遺産の金額の方が多いのであれば、相続放棄するよりも遺産から損害賠償債務を支払った方が得なケースもあります。
後述しますが、相続放棄が一度認められると原則として取り消すことはできないため、相続放棄する際には相続財産調査をし相続放棄した方が良いか検討しなければなりません。
2-2 相続放棄は自分が相続人になってから3ヶ月以内と申立て期限が設定されている
相続放棄の申立て期限は「自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内」と決められています。
期限を過ぎてしまうと、原則として申立てが認められないのでご注意ください。
なお、相続放棄の申立て期限の「自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内」は自己申告で問題ありません。
また、相続放棄の申立てに必要な書類がすべて揃わないケースでも、期限内に申立てをすませ後から必要書類を追加で提出することが認められています。
そのため、相続放棄の期限が迫っている場合は、相続放棄申述書だけでも家庭裁判所に提出して受付してもらいましょう。
他にも、相続財産調査が間に合わず相続放棄するか期限内に決められないケースなどでは、期限の伸長申立ても行えます。
期限の伸長申立てが認められれば、相続放棄の期限を1~3ヶ月ほど延長してもらえます。
相続放棄の期限伸長の申立て方法および必要書類は、下記の通りです。
申立てする人 | 相続放棄の期限を延長したい人 |
申立て先 | 故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
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必要書類 |
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2-3 相続放棄が一度受理されると原則として取り消せない
相続放棄の申立てが受理されれば、原則として取り消すことはできません。
例えば、後から借金や損害賠償債務を上回るプラスの遺産があることがわかったなどの事情では、相続放棄を取り消すことはできないのでご注意ください。
「相続放棄しなければよかった」と後悔しなくてすむように、相続放棄をする前には相続財産調査を念入りにしておくことをおすすめします。
相続財産調査を漏れなく行えるかわからない場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相続財産調査を依頼するのも良いでしょう。
2-4 同順位の相続人全員が相続放棄すると次の順位の相続人に相続権が移る
同順位の相続人全員が相続放棄すると、次の順位の相続人に相続権が移る点にも注意しておきましょう。
相続順位は法律によって決められており、下記の通りです。
常に相続人になる | 配偶者 |
第一順位 | 子供や孫 |
第二順位 | 両親や祖父母 |
第三順位 | 兄弟姉妹や甥・姪 |
例えば、相続順位1位の子供全員が相続放棄した場合は、次の順位である両親祖父母が相続権を持ちます。
そして、両親祖父母がすでに他界している場合は、故人の兄弟姉妹や甥、姪が相続権を持ちます。
なお、相続人全員が相続放棄をし、次の相続順位の人物に相続権が移った場合でも、家庭裁判所などから連絡が届くことはありません。
そのため、損害賠償債務や故人の借金が原因で相続放棄するときには、次に相続人になる人物に相続放棄したことや理由を伝えておくと良いでしょう。
2-5 故人の遺品を処分すると相続放棄が認められなく恐れがある
故人の遺産や遺品を処分、使用してしまうと、相続放棄が認められなくなる恐れがあるのでご注意ください。
故人の遺産や遺品の使用、処分は「相続する意思がある」とみなされてしまうからです。
例えば、下記の行為は、遺産や遺品の使用、処分にあたる可能性があるのでご注意ください。
- 故人の預貯金を引き出し、葬儀費用や入院費用の支払いに充てる
- 故人の自宅の片付けをする
- 故人名義の自動車を運転する
- 故人名義のスマホを解約する
上記のように、自宅の片付けやスマホの解約などちょっとした行為でも、相続放棄が認められなくなる恐れがあるのでご注意ください。
相続放棄を検討している場合は、自己判断で行動せずに相続放棄に詳しい司法書士や弁護士に相談しながら片付けや遺品整理を行うことをおすすめします。
2-6 故人の債務を一部でも支払うと相続放棄が認められなく恐れがある
故人が遺した借金や損害賠償債務を一部でも支払ってしまうと、相続放棄が認められなくなる恐れがあるのでご注意ください。
故人が遺した借金や損害賠償債務を払ったことにより相続放棄が認められなくなるケースは、故人の遺産で借金などの支払いをおこなってしまった場合です。
故人の遺産で故人名義の債務の返済を行うことは、先ほど解説した相続財産の処分や使用に該当するからです。
例えば、故人の自宅を片付けているときに、債権者が訪れてきて「少しでも払ってほしい」などと言われ、自宅にあった現金で支払ってしまうケースは意外と多いです。
相続放棄をする場合、債権者の請求に応じる必要はないので「相続放棄する意思があること」を伝えておきましょう。
なお、相続人が自分の財産から故人名義の借金や損害賠償債務を支払うことは問題ありません。
しかし、相続放棄するのであれば故人名義の債務を支払う義務はありませんし、後から相続放棄したから変換してほしいといった主張は認められない点にご注意ください。
2-7 相続放棄しても相続人自身の損害賠償債務は免責されない
相続放棄によって支払い義務がなくなる損害賠償債務は、あくまでも故人名義の損害賠償債務であり、相続人自身が背負った損害賠償債務は免責されません。
故人が損害賠償債務を負ったときに、相続人も自分名義の損害賠償債務を負うケースは、主に下記の通りです。
保証債務 | 契約などで故人の損害賠償債務を連帯保証しているケース |
責任無能力者の監督義務責任 | 故人が損害賠償請求されたときに責任能力がなく、監督義務者である相続人が損害賠償債務を負うケース |
共同不法行為者の責任 | 故人と相続人が共同して他人に損害を与えており、相続人も損害賠償債務を連帯しているケース |
例えば、10~12歳未満の年少未成年者や認知症などで責任能力を失った人物が他人に危害を加えたときは、監督義務者が代わりに損害賠償債務を負わなければなりません。
このようなケースでは、相続放棄しても損害賠償債務から逃れることはできないのでご注意ください。
責任無能力者に当たるのは、年少の未成年者(10~12歳未満程度)と、認知症などの精神上の障害により、自己の行為の責任を弁識する能力を欠いた者です(民法第712条、第713条)。
3章 故人が損害賠償債務を遺したときに相続放棄すべきかの判断基準
本記事で解説してきたように、相続放棄にはデメリットも多いため、相続放棄すべきか慎重に判断すべきです。
相続放棄すべきかの基準について、詳しく見ていきましょう。
3-1 損害賠償債務と遺産の金額
まずは、損害賠償債務と遺産の金額について、確認しておきましょう。
損害賠償債務や借金などマイナスの遺産がプラスの遺産の金額よりも少ないのであれば、相続放棄せず遺産から払う形で問題ないからです。
反対に、プラスの遺産がほとんどない場合や損害賠償債務の金額がプラスの遺産を上回る場合は、相続放棄を検討しましょう。
プラスの遺産の金額がわからない場合は、相続財産調査を司法書士や弁護士に依頼するのもおすすめです。
司法書士や弁護士に依頼すれば、相続放棄すべきかのアドバイスや申立て手続きまでサポートしてもらえます。
3-2 自宅など相続したい遺産の有無
自宅や先祖代々受け継いできた土地など、相続したい財産がある場合は、単純承認や限定承認など相続放棄以外の方法を検討しましょう。
単純承認と限定承認の概要は、下記の通りです。
- 単純承認:プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する
- 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する
限定承認はプラスの遺産の範囲内で損害賠償債務などの債務を相続するため、自宅不動産などを相続したいケースや損害賠償債務とプラスの遺産のどちらが多いか判断が難しいケースに適しています。
ただし、限定承認は相続人全員で手続きをする必要がある点にはご注意ください。
限定承認の手続き方法および必要書類は、下記の通りです。
提出先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手続きする人 | 相続人全員が共同して行う |
手数料の目安 |
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必要なもの |
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4章 相続放棄後に損害賠償の支払いを求められたときの対処法
相続放棄をすれば、相続人が故人名義の損害賠償債務を支払う必要はありません。
しかし、相続放棄をしたことを知らない債権者が、相続人に対して損害賠償を請求してくるケースも中にはあるでしょう。
相続放棄後に債権者から損害賠償を請求されたときには、支払う義務はないので想像放棄したことを伝えましょう。
また、相続放棄したからといって、すでに支払ってしまっている損害賠償を返還してもらうことはできません。
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 支払い義務に応じる必要はない
相続放棄をしている相続人は、故人の損害賠償債務を支払う必要はありません。
したがって、被害者が損害賠償を請求してきたとしても、相続放棄したことを伝えましょう。
納得してもらえない場合には、相続放棄受理証明書を相手に提示するのも有効です。
ただ、被害者にとっては相続放棄をしたから損害賠償金を払ってもらえないのは、感情的に納得できない場合も考えられます。
被害者や被害者遺族が何度も相続人のもとにやってきて、損害賠償を請求してくるのであれば、相手方に裁判を起こすように伝えるか弁護士を代理人に立て対応してもらうことも検討しましょう。
4-2 すでに支払った損害賠償金を返金してもらうことは難しい
相続放棄をしたとしても、すでに被害者に支払った損害賠償金を返金してもらうことは、原則としてできません。
ただし、被害者や被害者遺族から詐欺、脅迫を受けて損害賠償金を支払ってしまった場合は、返金してもらえる可能性があります。
また、自分の他に相続放棄していない相続人がいれば、相続放棄していない相続人の損賠外相債務を肩代わりした扱いになります。
したがって、自分が支払ってしまった損害賠償金については、相続放棄していない相続人に請求可能です。
まとめ
故人が負っていた損害賠償債務は、相続放棄すれば受け継がずにすみます。
ただし、相続放棄をすると他の遺産も一切受け継ぐことができなくなるのでご注意ください。
したがって、相続放棄するかを決める際には、事前に損害賠償債務などの債務の金額とプラスの遺産の金額のどちらか多いかを調べる必要があります。
相続放棄には、自分が相続人であると知った日から3ヶ月以内と期限が設定されているため、相続財産調査が間に合わない場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
相続放棄に詳しい司法書士や弁護士であれば、相続放棄すべきかのアドバイスや相続放棄を検討している人が故人の遺品を片付ける際のアドバイスも可能です。
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