相続税申告や遺産の名義変更手続きには、遺産分割協議書の提出が必要な場合があります。
相続手続きを行う際には、どのような手続きが必要なのか、遺産分割協議書をどこに提出するのか理解しておきましょう。
また、故人の預貯金の解約手続きや不動産の名義変更手続きは、不動産の所在地や銀行口座ごとに行う必要があるため、故人の遺産の種類や数によっては遺産分割協議書の提出が増える可能性もあります。
本記事では、遺産分割協議書の提出先や提出不要なケースを解説します。
遺産分割協議書については、下記の記事でも詳しく解説しているので、ご参考にしてください。
目次
1章 遺産分割協議書の提出先は主に5つ
遺産分割協議書は、相続税申告や遺産の名義変更手続きをするときに提出が必要です。
遺産分割協議書の提出先は、主に下記の5つです。
提出先 | 提出が必要なケース |
法務局 | 不動産の名義変更を行うケース |
税務署 | 相続税申告を行うケース |
銀行などの金融機関 | 預貯金などの解約を行うケース |
証券会社 | 株式や投資信託などの名義変更を行うケース |
運輸支局 | 自動車の名義変更を行うケース |
それぞれの提出先について詳しく見ていきましょう。
1-1 法務局
亡くなった人から土地や建物などの不動産を受け継いだ場合、名義変更手続きが必要です。
不動産の名義変更手続きは法務局にて登記申請を行います。
相続登記を行う際には、遺産分割協議書や故人が生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本類など様々な書類が必要です。
相続登記の概要および必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 |
|
手続き先 | 不動産の所在地を管轄する法務局 |
費用 | 不動産固定資産評価額の0.4%(登録免許税) (目安:1,000万円の場合4万円、2,000万円の場合8万円) |
必要書類 |
|
なお、上記のように相続登記は不動産の所在地を管轄する法務局にて行わなければなりません。
故人が複数の不動産を所有していて提出先の法務局が複数ある場合は、それぞれの法務局に遺産分割協議書の提出が必要となります。
これまで相続登記は義務化されておらず、相続人の意思によって行うとされていました。
しかし、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科される恐れがあります。
なお、相続登記の義務化は過去に発生した相続においても適用されます。
そのため、まだ相続登記がおすみでない土地をお持ちの人は早めに手続きをすませましょう。
相続登記は自分でも行えますが、司法書士に依頼すれば数万円程度で代行可能です。
グリーン司法書士法人でも相続登記に関する相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
1-2 税務署
遺産が一定額を超える場合、相続税の申告が必要であり、申告時には遺産分割協議書の提出が必要です。
なお、相続税の申告期限は「相続開始から10ヶ月以内」であり、遺産分割協議書が作成できていないことを理由に申告期限を延長してもらうことはできません。
相続税の申告手続きの概要および必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 |
|
手続き先 | 故人の住所地の所轄税務署 |
必要なもの |
|
1-3 銀行などの金融機関
相続発生時には、故人が利用していた金融機関にて預貯金の解約手続きなどが必要です。
金融機関が口座名義人の死亡を確認すると、銀行口座を凍結してしまい相続手続きを行うまでは入出金や口座引き落としが一切できなくなってしまいます。
銀行などの金融機関で預貯金の解約手続きをする際にも、遺産分割協議書の提出が必要です。
ただし、金融機関の中には所定の書類に相続人全員が署名、実印を押印すれば遺産分割協議書を提出しないでも手続き可能としているところもあります。
なお、金融機関での相続手続きも故人が口座開設していたすべての銀行で手続きをしなければなりません。
故人が複数の銀行を利用していた場合、手続きの手間や遺産分割協議書を提出する機会も増えるためご注意ください。
預貯金の解約手続きに関しては、行政書士や司法書士に手続きを依頼することも可能です。
平日日中は仕事をしているなど、手続きを自分で行うのが難しい場合は依頼をご検討ください。
1-4 証券会社
亡くなった人が上場株式や投資信託を所有していた場合は、証券会社にて金融商品の名義変更手続きをしなければなりません。
そして、証券会社にて名義変更手続きを行う際にも遺産分割協議書の提出が必要です。
なお、亡くなった人が非上場株式を所有していた場合は、証券会社ではなく発行先の会社にて名義変更手続きを行う必要があります。
金融機関と同様に証券会社で相続手続きを行う際も、各会社所定の用紙に相続人全員が署名および押印をすれば手続きが可能な場合もあります。
まずは亡くなった人が口座開設していた証券会社を特定し、必要書類について確認してみるのが良いでしょう。
上場株式や投資信託などの名義変更手続きに関しては、行政書士および司法書士にも依頼可能です。
1-5 運輸支局
亡くなった人が所有していた自動車を受け継いだ場合、名義変更手続きが必要であり、その際に遺産分割協議書を提出します。
自動車の名義変更手続きは、自動車の査定額や種類によって、下記のように手続き先が異なります。
自動車の種類 | 手続き先 | 遺産分割協議書の提出要否 |
査定額が100万円を超える普通自動車 | 相続人の住所地を管轄する運輸支局 | 必要 |
査定額が100万円以下の普通自動車 | 相続人の住所地を管轄する運輸支局 | 遺産分割協議成立申立書で手続き可能 (遺産分割協議書の提出も可能) |
軽自動車 | 相続人の住所地を管轄する軽自動車検査協会 | 不要 |
査定額が100万円以下の普通自動車の場合は、遺産分割協議書ではなく遺産分割協議成立申立書での手続きも認められています。
遺産分割協議成立申立書は遺産分割協議書と異なり相続人全員の署名や押印が不要で、自動車を受け継ぐ相続人のみが署名と押印をします。
また、軽自動車の名義変更手続きは運輸支局ではなく軽自動車検査協会で行い、手続き時には相続人と故人の関係性を証明できる書類を提出すれば遺産分割協議書は不要です。
2章 遺産分割協議書は原本の提出が必要
遺産分割協議書を提出する際には、原則としてコピーの提出は認められません。
相続手続き時には、遺産分割協議書の原本を提出する必要があるため、相続手続きをスムーズに進めるためにも相続人の人数分の遺産分割協議書を作成するのがおすすめです。
なお、遺産分割協議書の提出は原本提出が原則ですが、いずれの提出先も遺産分割協議書を確認後に原本を返却してくれます。
そのため、一度提出した遺産分割協議書も繰り返し相続手続きに使用可能です。
3章 遺産分割協議書の作成・提出が不要なケース
遺産分割協議書はすべての相続で作成しなければならないわけではなく、下記のケースでは作成や提出は不要です。
- 故人が遺言書を作成していたケース
- 相続人が一人しかいないケース
亡くなった人が遺言書を用意していた場合は、遺言書に従って遺産分割を行うため、遺産分割協議書の作成は不要です。
相続人が自分しかいない場合も、誰が遺産を受け継ぐか明白なため、遺産分割協議書の作成は必要ありません。
4章 遺産分割協議書を作成する流れ
遺産分割協議書を作成するためには、相続人全員で誰がどの遺産をどれくらいの割合で受け継ぐかを話し合い決定しなければなりません。
遺産分割協議書を作成した後に、相続人や相続財産に漏れがあると発覚した場合は遺産分割協議のやり直しが必要になってしまうのでご注意ください。
相続人や相続財産の漏れを防ぐために、遺産分割協議書を作成する際には下記の流れで行いましょう。
- 相続人を確定する
- 相続財産を調査する
- 相続人全員で遺産分割方法について話し合う
- 話し合った内容をもとに遺産分割協議書を作成する
故人に離婚歴がある場合や過去に何度も本籍地を移動している場合は、相続人調査が複雑になります。
他にも、故人が財産目録を作成していなかった場合や相続人と故人が疎遠であり、遺産の状況がわからない場合も遺産分割協議に時間や手間がかかってしまいます。
平日日中仕事をしていて相続人調査や相続財産調査を行うのが難しい場合や相続トラブルを避け公平な遺産分割を行いたい場合は、相続に詳しい司法書士や行政書士に相続手続きを依頼するのも良いでしょう。
まとめ
遺産分割協議書の提出先は、法務局や税務署、金融機関、証券会社、運輸支局であり、亡くなった人が所有していた遺産の種類や金額によっても提出先が変わってきます。
亡くなった人が様々な種類の遺産を所有していた場合や複数の金融機関と取引していた場合は、遺産分割協議書の提出回数も増えてしまいます。
スムーズに名義変更手続きを行うためには、相続人の人数分の遺産分割協議書を作成しておくのがおすすめです。
また相続人や相続財産に漏れが発生しないように、遺産分割協議を行う前には相続人調査や相続財産調査を行っておきましょう。
平日日中仕事をしていて相続人や相続財産の調査を行えない場合や何から手続きを始めるべきかわからない場合は、相続に詳しい司法書士や行政書士に依頼することもご検討ください。
グリーン司法書士法人では、相続手続きに関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。