- 成年後見人は複数人がなっても良いのか
- 複数人が成年後見人になるときの権利行使方法
- 成年後見人を複数人で行うメリット
成年後見制度とは認知症になり判断能力を失った人や知的障害の人の生活をサポートする制度です。
制度を利用する被後見人のかわりに成年後見人が契約行為や法的手続きを行います。
成年後見人は1人ではなく複数人が就くことも可能です。
複数人で成年後見人になると一人あたりの負担が軽減される一方で、共同権限の場合は法的手続きや財産の処分時に成年後見人全員の合意が必要など手間がかかる可能性もあります。
複数人で成年後見人となる場合はメリットとデメリットを理解した上で、申立て手続きを行いましょう。
本記事では、複数人で成年後見人となるケースやメリット、デメリットを解説します。
成年後見制度については、下記の記事で詳しく解説しています。
目次
1章 成年後見人は複数人がなることも可能
認知症になり判断能力を失った人や知的障害を持つ人の生活をサポートする成年後見人は、1人だけでなく複数人がなることも認められています。
また、成年後見人の権限の行使方法もいくつか種類がありますので、財産の種類や成年後見人に合う対応を選べます。
2章 複数人が成年後見人になるときの権利行使方法
成年後見人が複数いる場合、権利行使方法はそれぞれの成年後見人が単独で権限を行使する、共同して行使するなど下記の3つの方法を選べます。
- 各後見人が単独で権限を行使できる
- 後見人全員が共同して権限を行使する
- 権限を分掌し各後見人が行使する
それぞれ解説していきます。
2-1 各後見人が単独で権限を行使できる
成年後見人の申立て時に家庭裁判所が権限について定めなかった場合は、複数の成年後見人がそれぞれ単独で権限を行使可能です。
2-2 後見人全員が共同して権限を行使する
成年後見人の申立て時に家庭裁判所が権限行使について個別に定めた場合、複数の成年後見人が共同で権限を行使します。
例えば、成年後見人が2人いる場合は2人が合意しなければ契約手続きや法的行為を行えません。
2-3 権限を分掌し各後見人が行使する
家庭裁判所が申立て時に認められば、成年後見人ごとに担当する後見事務を割り当てられます。
このように、複数の成年後見人が各後見事務を割り当てられることを「権限分掌」といい、各後見人は自らの権限の範囲内で契約や法的手続きを行います。
3章 複数人が成年後見人になるケース
1人ではなく複数人が成年後見人となり後見事務を行うことで、1人あたりの業務量を減らせる場合があります。
複数の成年後見人が就任し、後見事務を行う代表的なケースは、下記の3つです。
- 兄弟同士が成年後見人になり監督しあうケース
- 専門家と家族・親族が成年後見人になるケース
- 財産の所在地ごとに成年後見人を用意するケース
それぞれ解説していきます。
3-1 兄弟同士が成年後見人になり監督しあうケース
親が認知症になり判断能力を失い成年後見制度を利用する際に、子供たち全員が成年後見人となれば1人あたりの負担を軽減できますし、それぞれが行う後見事務を監督し合えます。
成年後見制度は一度利用すれば原則として被後見人が死亡するまで続きますし、成年後見人の負担は大きいです。
子供たち全員で成年後見人となれば、それぞれの事務負担を減らせます。
また、成年後見人となった兄弟姉妹が単独で被後見人の財産を管理や処分することもなくせます。
3-2 専門家と家族・親族が成年後見人になるケース
成年後見人は被後見人の家族や親族だけでなく、司法書士や弁護士などの専門家も就任可能です。
成年後見人を家族や親族、専門家が職務を分担して行えば、下記のように後見事務を分担できます。
成年後見人 | 後見事務 |
司法書士や弁護士 | 法律行為(入院や入所、賃貸住宅の契約) |
家族や親族 |
|
3-3 財産の所在地ごとに成年後見人を用意するケース
被後見人が各地に不動産を所有しているなど、成年後見人1人では管理が難しいケースも複数人が後見人に就任すれば後見事務を分担可能です。
- 大阪:被後見人の自宅や他人に貸している賃貸物件、預貯金
- 東京:被後見人が入居している施設がある
例えば、上記のケースでは大阪に住む親族が成年後見人となって管理し、東京で行う必要がある被後見人の身上監護や財産管理は東京に住む別の親族が成年後見人に就任するのも良いでしょう。
複数人で成年後見人となれば、1人あたりの後見事務の負担を軽減可能です。
4章 成年後見人を複数人で行うメリット
複数人が成年後見人に就任すれば、後見事務の負担を減らせますし後見人とそれ以外の兄弟姉妹のトラブルなどを回避できます。
また、成年後見人を専門家と家族や親族の共同で行えば、専門家に財産管理を任せ家族や親族は身上監護を行えるなどのメリットもあります。
成年後見人を複数人で行うメリットを詳しく見ていきましょう。
4-1 成年後見人の負担が軽減される
複数人で成年後見人になれば、1人あたりの後見事務の負担を軽減可能です。
成年後見制度は一度利用を開始すると被後見人が亡くなるまでやめることができませんし、成年後見人は下記のように役割や責任が大きいです。
- 家庭裁判所に成年後見人の業務を定期的に報告する
- 家庭裁判所の指示や注意に従って被後見人のために行動する
- 被後見人の意思を尊重した上で、心身と生活に配慮して財産管理を行う
被後見人の子供のうち1人が成年後見人になった場合、後見事務の多さや責任が負担になる可能性もあるでしょう。
また、他の子供たちは「成年後見人になった兄弟姉妹が財産を横領していないか」などと疑う恐れもあります。
このような1人に負担と責任が重くなることを避け、兄弟姉妹で不信感を持たないようにするためにも、複数人で成年後見人となるのは有効です。
4-2 財産管理を専門家に任せられる
成年後見人を専門家に任せれば、被後見人の財産の使い込みなどの不祥事が起きるリスクを減らせます。
被後見人の資産が多い場合や様々な種類の資産を保有している場合は、専門家に後見業務を依頼するのが良いでしょう。
複数人が成年後見人になったときは、権限を分掌し各後見人がそれぞれの後見業務を行うことも可能です。
- 財産管理や法的手続き:専門家
- 身上監護:家族や親族
上記のように、成年後見人の権限を分掌すれば、財産を適切に管理でき被後見人の生活をサポートしやすくなるはずです。
5章 成年後見人を複数人で行うデメリット
複数人が成年後見人になり家庭裁判所が共同で権限を行使すると定めた場合は、法的行為や契約締結のたびに成年後見人全員の合意が必要です。
結果として、成年後見人が1人で後見業務を行うよりも、複数人で行う方が時間と手間がかかってしまうリスクがあります。
成年後見人同士で意見が対立した場合、被後見人の生活のサポートに支障が出る恐れもあるでしょう。
重度の認知症になり判断能力を失ってしまうと成年後見制度しか利用できませんが、認知症の症状が軽度であれば家族信託や任意後見制度を利用できる可能性があります。
家族信託や任意後見制度も認知症になった人の財産管理を行う点では共通していますが、成年後見制度よりも柔軟な財産管理や運用、処分を行えるのが特徴です。
家族信託や任意後見制度を利用できるか知りたい場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談し、医師の診断を受けるのがおすすめです。
まとめ
成年後見人は1人だけで就任するのではなく、複数人で就任できます。
複数人が成年後見人となったとき、それぞれの後見人が単独で権限を行使するだけでなく、各後見人で権限を分掌することも可能です。
複数人が成年後見人となれば、1人あたりの後見事務の負担を軽減できる場合もあるので、被後見人の希望や資産状況に合った方法を選びましょう。
また、認知症の症状が軽度であり判断能力が残っていれば、家族信託や任意後見制度などを利用できる可能性もあります。
認知症対策には様々な方法があり、症状や本人の希望、資産状況によって対応が異なります。
自分に合う認知症対策を知りたい場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
グリーン司法書士法人では、成年後見制度を始めとする認知症対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
成年後見人の権限の範囲は?
成年後見人として選ばれた後は、被後見人の代わりに法的行為や契約行為を行う代理権を持ちます。
具体的には、下記の業務を行います。
・財産管理:被後見人の財産(預貯金、不動産など)を管理する
・身上監護:被後見人の生活や健康・療養に関する支援をする
▶成年後見人ができることについて詳しくはコチラ成年後見人ができないことは何?
成年後見人ができないことは、主に下記の通りです。
・事実行為
・身分行為
・一部の医療行為の同意
・日常生活上の消費の取り消し・同意
・被後見人の保証人になること
・成年後見人と被後見人の利益相反となる行為
▶成年後見人ができないことについて詳しくはコチラ