自分の孫に教育資金を渡したいという方は少なくありません。教育資金贈与は非課税で現金を渡せるなど様々なメリットがあります。
平成25年に登場した「教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置」では、非課税で大きな金額の教育資金を渡せると話題となり、今では人気の制度となっております。
この記事では、教育資金贈与のメリットとデメリット、注意点を解説していきます。今後利用してみたいと思っている方はぜひ参考にしてみてください。
目次
1章 教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置とは
子どもの教育費は幼稚園入園から大学卒業までの総額として、約1,000万円〜約2,500万円と莫大なお金がかかると言われています。子どものためにも「可愛い孫の教育資金をサポートしてあげたい」という方は多いのではないでしょうか。
お金でのサポートは贈与税を心配される方もいらっしゃるかと思いますが、教育資金贈与は「教育資金非課税贈与制度」(教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置)を使えば非課税の対象となります。
教育資金非課税贈与制度では、孫1人あたり1,500万円までが非課税になるため、その範囲であれば贈与税がかかることなくお金を渡すことができます。
1-1 教育資金贈与の対象項目
そもそも教育資金とは、学費や制服、教科書などの教材など学校に通うにおいて必要な資金のことを指します。
教育資金として贈与するためには、どういった教育のために使ってもらうのか目的を持って渡さなければいけません。
教育資金として贈与できる対象項目は以下の通りです。
- 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費または入学(園)試験の検定料など
- 学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用など
- 教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など
- スポーツ(水泳、野球など)または文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)その他教養の向上のための活動に係る指導への対価など
- 教育の役務の提供またはスポーツの指導で使用する物品の購入に要する金銭
- 学用品に充てるための金銭であって、学生等の全部または大部分が支払うべきものと学校等が認めたもの
- 通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費
引用:教育資金の範囲/国税庁
費用の内容や範囲について迷った場合は、文部科学省の公式ホームページをチェックしましょう。
1-2 非課税で教育資金贈与する方法
非課税で教育資金贈与をする方法は3パターンあります。
- 暦年贈与
- 都度贈与
- 特例を利用した上限一括1,500万円までの贈与
「暦年贈与」では、1年間に110万円以下であればまとまった額の贈与を受けても贈与税は発生しない贈与のことです。
「都度贈与」では教育に必要と認められるものを都度贈与していくので、例えば入学金や授業料など110万円を超える高額な額だったとしても非課税となります。
いくらまでという上限は決められていませんが、教育費用としての常識の範囲内を目安にしておきましょう。また、振り込む際は、領収書や払込書を保管し贈与額や贈与日を控えておくことをおすすめします。
また、「特例を利用した一括贈与」では、教育資金であれば直系尊属から直系卑属に対して1,500万円まで一括贈与でも非課税となります。将来に渡ってサポートしたい場合はぜひ利用しましょう。
2章 教育資金贈与のメリット
- 制度を利用すれば1,500万円まで非課税で贈与できる
- 相続税の対策になる
教育資金贈与の最大のメリットは非課税であることですが、それ以外にもメリットは存在します。
例えば、自分の財産を将来、孫の教育資金に充てたいと考えている場合は、生前に贈与することで相続税の対策にもなります。
相続税は3,600万円以上を相続する場合にかかる税金ですが、孫1人につき1,500万円まで非課税の教育資金贈与信託を使うことで相続財産を減らすことができます。
また、1人につきなので3人孫がいる場合は4,500万円までが非課税となります。相当額の財産があるという方は相続税対策としても利用することができます。
3章 教育資金贈与のデメリット
- 何に教育資金を使ったのか領収書を控える必要がある
- 教育資金に該当しなければ口座から引き出せないケースもある
一見、良いことだらけのように見える教育資金贈与ですが、デメリットもあります。
あくまで「教育資金」という理由で贈与を行うため、何に使用したのかを明確にする必要があります。ですので、信託銀行等から教育資金としてお金を引き出す際に領収証等が必要となります。
習い事費や部活の道具などを教育資金から購入した場合は、必ず領収書を取っておきましょう。
また、全てが教育資金として認められるわけではないので、信託銀行等から引き出す理由が相当でなければ使うことができない場合もあります。教育資金贈与信託の決まりに則った使い方を都度確認する必要があるのはデメリットでしょう。
4章 教育資金贈与の4つの注意点
教育資金贈与を行うにあたって注意しておくべき点が4つあります。
知らないまま教育資金贈与をしたり受け取ったりして、損をしてしまったということがないようしっかりチェックしておきましょう。
- 制度は2026年3月末まで
- 30歳までに使い切らないといけない
- 贈与者が死亡したら相続税が発生する
- 毎年領収書を金融機関に提出する必要がある
- 受贈者の所得が1,000万円を超えると利用できない
①制度は2026年3月末まで
1,500万円までの教育資金の一括贈与が非課税になるのは、2026年3月末までとなります。
元々は2023年3月末まででしたが3年延長されました。
今後また延長される可能性もありますが、制度が終わってしまった場合は課税対象になってしまうので、教育資金贈与の予定がある方は早めの対応をおすすめします。
②孫が30歳までに使い切らないといけない
用途が教育資金ということもあり、孫であれば全年齢貰えるというわけではありません。
教育資金贈与が適用となる対象年齢は0〜29歳です。ただし、23歳以上は習い事代が非課税の対象外になります。
対象者が30歳を超えてしまったら、余った分の教育資金は贈与税がかかってしまうので注意しましょう。
ただし、30歳になった時点で対象者が学校等に在学している場合は、最長40歳まで延長となる可能性もあるのでどうしても延長したい時は可能だということも覚えておきましょう。
また、対象者の所得が1,000万円を超えた場合も対象外となるのでこちらも注意が必要です。
③贈与者が死亡したら相続税が発生する
教育資金贈与信託の契約中に贈与者が死亡してしまった場合、相続税が発生してしまいます。
教育資金贈与信託に入れた金額から、教育資金として使用された金額を引いた残額から一定の計算をした金額に相続税が課税されます。ですので、もし贈与者が亡くなってしまった場合は、余っていた額によっては相続税が課税される可能性もあります。
あまり死亡するケースは考えたくないものですが、途中で相続税を払うことになるかもしれないことを覚えておきましょう。
④毎年領収書を金融機関に提出する必要がある
最後は、教育費として使った証拠として毎年領収書を金融機関に提出する必要がある点です。
教育資金贈与のお金を入学費や受験費、制服代など様々なシーンで支払いをした領収書を取っておきましょう。本当に教育費に使われているのか聞かれてもすぐに回答が出せるように、お金の使い道を明確にしておくのが大切です。
ですので、贈与を受ける預金口座と普段使いしている預金口座と一緒にするのは得策とは言えません。元々のお金と教育資金贈与でもらったお金が混ざると出金履歴が見分けがつかなくなってしまうからです。
教育資金専用の口座を開設すると、入金元と出金先が一つになり分かりやすくなるためおすすめです。
⑤受贈者の所得が1,000万円を超えると利用できない
教育資金贈与は、受贈者の前年の所得が1,000万円を超える場合には利用できません。
所得要件があるのはあくまで受贈者のみなので、例えば祖父母から孫に教育資金を贈与する場合、親の所得が1,000万円を超えていたとしても制度の利用に影響はありません。
5章 教育資金贈与を使い残しがあったらどうする?
親や祖父母から教育資金贈与をもらったは良いけれど、30歳(40歳)までに使いきれなかったらどうなるのでしょうか?
答えは、教育資金として使われなかった資金については贈与税が課税されてしまいます。
教育資金贈与信託として預けた資金は、あくまで教育のために使われるお金なので、契約期間を過ぎてしまったらただお金をあげたことになってしまいます。
教育資金贈与信託は1,500万円まで非課税で渡せる便利な制度ですが、教育資金にしか使うことができないので注意しましょう。
5-1 110万円超えたら贈与税の対象になる
具体的に贈与税はどれくらいかかるのでしょうか?
贈与税の課税対象となる金額をまとめました。
贈与税の課税対象となる金額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
200万円~400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円~600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円~1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円~1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円~3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円~4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円以上 | 55% | 640万円 |
例えば、教育資金として1,000万円贈与されたが400万円余ってしまった場合、基礎控除額の110万円を差し引くと290万円になります。
表に当てはめると、200万円〜400万円以下の税率は15%、控除額は10万円となります。
ですので、贈与税の計算式は(400万円-110万円)×0.15-10万円=33万5千円
となり33万5千円の贈与税になります。
290万円に対し33万5千円も贈与税がかかってしまうので、なるべく相続税が発生しないよう都度贈与も組み合わせて対応していくのが良いでしょう。
6章 教育資金贈与に関するよくある質問
最後に、教育資金贈与に関するよくある質問を回答と共に紹介していきます。
教育資金贈与が非課税になるのはいつまで?
1,500万円までの教育資金の一括贈与が非課税になるのは、2026年3月末までとなります。
元々は2023年3月末まででしたが3年延長されました。
教育資金贈与を利用して使いきれない分はどうなるの?
教育資金贈与が適用となる対象年齢は0〜29歳です。
制度の利用者が30歳を超えたタイミングで、使いきれず残った贈与に関しては贈与税がかかってしまいます。
7章 相続税の対策をしたいなら専門家にご相談を
非課税で大切な孫に教育資金を渡すことができる教育資金贈与信託。相続税対策にも便利な制度ですが、前述の通り、教育資金にしか使うことができず余った分は贈与税が発生してしまうので注意が必要です。
教育資金以外で相続税対策をしたい場合は、相続税に詳しい税理士に相談するのも手です。
また、相続対策は「税対策」だけでなく、「争続対策」「認知症対策」も同時に行う必要があります。
なぜなら、いくら税対策を進めていても、途中で認知症になって中断せざるを得なくなったり、相続税が安くなっても、子ども同士で紛争になってしまったら元も子もありません。
たとえば、相続対策 遺言、生前贈与、認知症対策 家族信託、任意後見など…様々な手続きを行う必要があります。
特に、教育資金贈与信託以外で財産の生前贈与をしたい場合は、ぜひグリーン司法書士法人へご相談ください。損をしない生前贈与についてプロの視点で提案いたします。
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贈与税が非課税で行える生前贈与については、こちらの記事を参考にしてみてください。