亡くなった方を見送るための葬儀代には多くのお金がかかります。
相続人が葬儀代を負担するのではなく「被相続人の遺産から葬儀代を払いたい」と考える方も多いのではないでしょうか。
特に相続放棄をする場合、葬儀代を遺産から支出してはいけないのか?
とお悩みになる方もいらっしゃいます。
結論から言いますと、相続放棄する場合でも葬儀代を遺産から出すことは可能です。
しかし葬儀代の金額や状況によっては、遺産で葬儀代を負担すると単純承認とみなされ相続放棄できなくなってしまうケースもあります。
今回は相続放棄するときの「葬儀代の支払い」について注意点を解説していきます。
目次
1章 相続放棄する場合の葬儀代は誰が負担する?
葬儀にかかる費用は決して安くはなく、全国平均で約200万円かかります。
本章では相続放棄する場合の葬儀代は誰が負担すべきなのか、遺産から支出してもいいのかについて解説していきます。
1-1 相続人(喪主)が葬儀代を支払うケース
まず考えられるのは相続人が葬儀代を負担するケースです。
一般的には、相続人の中でも喪主となった方が代表して葬儀代を負担するケースが多いですが、法律上は誰が払うか自由です。
また、自腹で喪主や遺族(相続人)が葬儀代を負担したとしても相続放棄に一切の影響はありません。
自腹で葬儀代を負担するのであれば全く問題なく、相続放棄できます。
1-2 遺産から葬儀代を支払うケース
相続人が葬儀代を負担するのではなく、遺産から葬儀代を出したいと考えるケースも多いですよね。
相続放棄する場合でも、遺産から葬儀代を支払うことは可能です。
しかし葬儀代の「金額」や「対応」によっては、裁判所に「相続財産の処分」と判断される可能性もあり、相続財産の処分と判断されてしまうと、相続を認めたことになり相続放棄できなくなるため注意が必要です。
次章では遺産から葬儀代を支払った上で相続放棄するときの注意点を確認していきましょう。
2章 葬儀代を遺産から支払って相続放棄するときの注意点
葬儀代を負担した相続人が相続放棄するときには、いくつか注意が必要です。
葬儀代を最終的に遺産から支払いと考えている場合には、これから解説するポイントを押さえておきましょう。
2-1 葬儀代の領収書を残しておく
葬儀代を遺産から支払うときには、相続する意思があるとみなされないよう注意が必要です。
相続する意思があるとみなされると、相続放棄できなくなっていまう可能性があるからです。
葬儀代としての支出と誰が見てもわかるように、葬儀に関する領収書や明細等は全て残しておきましょう。
また「お布施」や「心づけ」など、領収書のもらえない支払いに関してはお金を支払った日付、相手、金額をまとめて記録しておくのがおすすめです。
2-2 葬儀の規模は身分相応のものにする
相続放棄をしつつ葬儀代を遺産から支払うためには、葬儀の規模は華美になりすぎないように注意してください。
身分不相応な華美な葬儀を行うと、財産の処分にあたり単純承認と判断される可能性があるからです。
実際に過去の判例でも「身分相応の、当然営まれるべき程度の葬儀費用」ならは財産の処分に当たらないとされています。
具体的な金額が決まっているわけではないので、一般的な葬儀プランを選択するのが良いでしょう。
もし不安であれば相続に詳しい司法書士や弁護士に事前相談してみるのもおすすめです。
2-3 照会書(回答書)には正直に記入する
家庭裁判所へ提出する書類には嘘偽りのない事実を記入する必要があります。
なぜなら虚偽の事実を裁判所へ提出することは、罪に問われる可能性があるだけでなく、相続放棄が認められない可能性も高まるからです。
相続放棄の手続きを家庭裁判所に行った後、家庭裁判所から照会書及び回答書が届きますが、回答書には、亡くなった人の遺産の評価額を記入する箇所があります。
遺産から葬儀代を支出した場合には、嘘偽りなく支出理由と金額を記載しておきましょう。
3章 遺産から差し引ける葬儀代と差し引けない葬儀代
そもそも遺産から全ての葬儀代を支出できるわけではありません。
遺産から差し引ける葬儀代と差し引けない葬儀代を確認していきましょう。
3-1 葬儀代として遺産から差し引ける費用
葬儀代として遺産から支出できる費用は主に以下の通りです。
- 死体の捜索費用
- 死体や遺骨の運搬費用
- お通夜・葬式に直接かかった費用
- 火葬費用
- 埋葬、納骨費用
- お寺に払ったお布施や心づけ
上記に関する領収書や明細は、必ず保管しておきましょう。
3-2 葬儀代として遺産から差し引けない費用
葬儀に関する費用ではあるものの、遺産から差し引けない費用の例は以下の通りです。
- 香典返しにかかった費用
- 墓地・墓石の購入・借入費用
- 初七日・四十九日法要にかかった費用
特に墓地や墓石にかかる費用は高額になりがちなのでご注意ください。
4章 相続放棄しても香典や葬祭費・埋葬費は受け取れる
「相続放棄をするなら遺産を全て受け取ってはいけない。だから香典も受け取れない」と考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし香典は遺産とは関係なく、喪主や遺族に向けて行われる贈与です。
香典は遺産には含まれないので受け取っても、相続放棄を行えます。
もちろん香典から葬儀代を払った場合も、問題なく相続放棄は可能です。
また、故人か葬祭費や埋葬費は遺族に対して支払われるお金であり、相続財産には含まれません。
したがって、葬祭費や埋葬費を受け取ったとしても、相続放棄を行えます。
まとめ
葬儀代を遺産から支払った場合でも、相続放棄の手続きは可能です。
葬儀代の支出は相続財産の処分には該当しないと過去の判例でも認められています。
しかし過去の判例で認められているのは、あくまでも身分相応な葬儀代のみです。
「どこまでの費用なら身分相応と判断してもらえるのか」と不安に感じる方もいるかもしれません。
相続放棄の手続きは複雑で自己判断が難しいケースも多いため、判断や手続きで迷ったときには、相続放棄に詳しい専門家への相談もご検討ください。
グリーン司法書士法人では、相続専門の司法書士が相続放棄に関するご相談を承っております。
初回相談は無料。オンラインでのご相談も可能ですので、全国どこからでもお気軽にご相談ください。
よくあるご質問
親の葬儀代は誰が払う?
葬儀費用は誰が払うか法律では決まっていません。
そのため、喪主が全額払う必要はなく、相続人全員で分担しても問題ありません。
▶葬儀費用の支払いについて詳しくはコチラ相続放棄したら預貯金はどうなる?
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も相続しなくする手続きです。
そのため、相続放棄した場合には預貯金は他の相続人が受け継ぎます。
▶相続放棄について詳しくはコチラ相続放棄をしたら葬祭費は請求できますか?
故人が加入していた健康保険から支払われる葬祭費や埋葬費は、遺族に対して支払われるものです。
そのため、相続放棄をしても葬祭費を請求可能です。相続放棄をする場合、香典で葬儀費用を支出してもよいですか?
香典は亡くなった人に支払われるものではなく、喪主に対して支払われるものです。
そのため、相続放棄するとしても香典で葬儀費用を賄っても問題ありません。相続放棄をする際にやってはいけないこととは?
相続放棄をするのであれば、亡くなった人の遺産を勝手に使用、処分するのはやめましょう。
遺産を相続する意思があるとされ、相続放棄が認められない可能性があります。
▶相続放棄できないケースについて詳しくはコチラ