家族や親族が亡くなり相続が発生すると、遺産だけでなく故人が加入していた生命保険の死亡保険金を受け取れる場合があります。
死亡保険金は故人の遺産ではなく、受取人固有の財産として扱われるため、兄弟同士で分け合う必要がありません。
死亡保険金は遺留分の計算対象にも含まれず、遺言書などで死亡保険金の分割方法が指定されていたとしても無効になります。
一方で、相続財産に対して死亡保険金が高額だった場合は、特別受益として遺産分割や遺留分の計算対象に含める場合もあるのでご注意ください。
本記事では、親の死亡保険金を兄弟で分ける必要があるのか、分けるときの注意点を解説します。
兄弟で発生しやすい相続トラブルについては、下記の記事でも詳しく紹介しているのでご参考にしてください。
目次
1章 死亡保険金は相続人で分け合う必要がない
故人の死亡後に受け取った死亡保険金は亡くなった人の配偶者や子供などと分け合う必要はありません。
死亡保険金は亡くなった人の相続財産ではなく、受取人固有の財産として扱われるからです。
そのため、死亡保険金は遺産分割の対象になりませんし、亡くなった人が死亡保険金の分割方法を指定しても従う必要はありません。
死亡保険金は原則として遺留分の計算対象にも含まれませんが、一方で相続財産に対して死亡保険金が高額な場合は特別受益や遺留分の対象に死亡保険金を含める場合があります。
下記のケースでは、特別受益や遺留分の対象になるか確認するため、相続トラブルに詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
- 特定の相続人が高額な死亡保険金を受け取っていて不信感がある場合
- 相続対策として相続人を受取人とした生命保険に加入する場合
2章 死亡保険金を兄弟で分けると贈与税がかかる恐れがある
死亡保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産なので、兄弟同士で分けた際に贈与税がかかる場合があります。
死亡保険金を分けることは遺産分割ではなく、受取人の財産である死亡保険金を他の兄弟に贈与したとして扱われるからです。
例えば、父親が亡くなったときに長男が1,000万円の死亡保険金を受け取った場合を考えましょう。
【条件】
- 父親が亡くなり長男が1,000万円の死亡保険金を受け取った
- 次男や三男は死亡保険金を受け取っていない
- 相続財産は預貯金2,000万円、不動産1,000万円でありそれぞれの相続人が1,000万円ずつ相続した
上記のケースで長男が自分だけ死亡保険金を受け取ったことを心苦しく思い、次男や三男に死亡保険金を300万円ずつ渡したとします。
この場合、遺産分割ではなく贈与にあたるので次男および三男は「(300万円−110万円)×10%=19万円」の贈与税がかかります。
このように相続人たちが死亡保険金を分け合うと、相続税とは別に贈与税がかかってしまう恐れもあるので注意が必要です。
贈与税がかかることを知らず期限内に申告や納税をしなかった場合は、延滞税や無申告加算税などのペナルティが発生してしまいます。
3章 兄弟同士で死亡保険金を分ける方法
死亡保険金を兄弟同士で分け合うと贈与税がかかる恐れがあるので、死亡保険金も兄弟で公平にしたい場合は生命保険加入時点で下記の対策が必要です。
- 子供たちを共同受取人とした生命保険に加入する
- 子供たちそれぞれを受取人とした生命保険に加入する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 子供たちを共同受取人とした生命保険に加入する
生命保険加入時に長男のみを受取人とするのではなく、子供たち全員を共同受取人にすれば公平に死亡保険金を分けられます。
死亡保険金の受取人を複数人にするには、生命保険加入時に申込書の受取人に子供全員の氏名を記載した上で持分を指定します。
なお、すでに加入している生命保険の受取人を子供1人だけではなく子供たち全員に変更することも可能です。
詳しい手続きに関しては、加入予定の生命保険や加入している生命保険によって異なるので確認してみましょう。
ただし、死亡保険金の受取人を子供たち全員にする場合でも振込先の口座はひとつと決められていることが多いです。
そのため、子供たちの中で代表で死亡保険金を受け取る人物を決める必要があります。
子供たち全員を共同受取人にしたにもかかわらず、代表者が残りの兄弟に保険金を分配しない場合は、下記の方法で死亡保険金の持分を主張できます。
- 民事訴訟
- 支払督促
- 少額訴訟
- 民事調停
ただし、自分たちで請求や手続きをするのは現実的ではないので、相続トラブルに詳しい弁護士に相談するのが良いでしょう。
3-2 子供たちそれぞれを受取人とした生命保険に加入する
死亡保険金を受け取る代表者を決めるのが難しい場合や兄弟同士でトラブルが起きそうな場合は、受取人ごとに生命保険に加入するのも選択肢のひとつです。
それぞれの子供たちを受取人にした生命保険に加入しておけば、自分が亡くなった後に兄弟同士が保険金を分配する手間を減らせます。
4章 死亡保険金を受け取ったときの注意点
家族や親族が亡くなり死亡保険金を受け取ったときには、相続税の計算対象に含めることなどに注意しなければなりません。
死亡保険金を受け取ったときの注意点を2つ解説します。
4-1 死亡保険金はみなし相続財産に含まれる
死亡保険金は受取人固有の財産ですが、みなし相続財産に該当し相続税の課税対象に含める必要があります。
死亡保険金は遺産ではないものの故人の死亡が原因で発生するお金と考えられるからです。
死亡保険金のみを受け取った場合でも、相続税の申告や納税義務が発生する恐れがあるのでご注意ください。
なお、死亡保険金を相続人が受け取った場合は「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が適用されます。
非課税枠の計算や相続税の計算が難しい場合は、相続税に精通した税理士に相談するのが良いでしょう。
4-2 相続放棄をしても死亡保険金を受け取れる
死亡保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産のため、相続放棄をしても受け取れます。
相続放棄とは最初から相続人ではなかったとする手続きであり、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなります。
例えば、亡くなった人が多額の借金を遺していた場合は相続人が借金の返済義務を負わなくてすむように相続放棄を検討することが多いです。
ただし、相続放棄後にすべての死亡保険金を受け取れるわけではなく、受け取れるのは受取人が長男もしくは配偶者などと指定されているもののみです。
一方で、死亡保険金の受取人が故人の場合や相続人とされているとき、若しくは決まっていないときは、相続財産に該当するため、相続放棄をする相続人は受け取れなくなってしまいます。
このように、相続放棄後の死亡保険金を受け取って良いかの判断はケースバイケースであり、判断には専門的な知識が必要な場合もあります。
「死亡保険金を受け取ってしまい、相続放棄できなくなってしまった」なんて事態を避けるために、相続放棄時には司法書士や弁護士に相談しながら対応していきましょう。
まとめ
相続人が受取人として指定されている死亡保険金は受取人固有の財産として扱われるため、遺産分割の対象になりません。
そのため、兄弟のうち1人が受け取った死亡保険金を残りの兄弟に分配した場合、遺産分割ではなく死亡保険金を受け取った兄弟から他の兄弟への贈与として扱われてしまいます。
分配額によっては贈与税がかかる場合もあるのでご注意ください。
死亡保険金の受取額で兄弟が不公平感を持たないようにするには、子供たちを共同受取人とした生命保険に加入する、もしくは子供たちそれぞれを受取人とした生命保険に加入するのが良いでしょう。
また、相続対策には生命保険の加入以外にもいくつか方法があるので、司法書士や弁護士などの専門家に相談しながら自分に合った方法で行うのが重要です。
グリーン司法書士法人では、相続対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
死亡保険金は受取人だけのもの?
死亡保険金は亡くなった人の相続財産ではなく、受取人固有の財産として扱われるからです。
そのため、死亡保険金は遺産分割の対象になりませんし、亡くなった人が死亡保険金の分割方法を指定しても従う必要はありません。
▶相続における死亡保険金の取り扱いについて詳しくはコチラ死亡保険金は相続財産になる?
死亡保険金は相続財産ではなく、受取人固有の財産として扱われます。
ただし、死亡保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象になります。
▶相続における死亡保険金の取り扱いについて詳しくはコチラ