権利書がない場合でも相続登記はできる?必要となるケースも紹介

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司法書士山田 愼一

 監修者:山田 愼一

この記事を読む およそ時間: 5
この記事でわかること

  • 不動産の権利書がなくても相続登記はできるのか
  • 相続登記の際に権利書が必要となるケース
  • 相続不動産の権利書がないときの注意点

相続登記をしようとしたとき、「不動産の権利書が見当たらない」「登記識別情報を紛失してしまった」というケースは少なくありません。
権利書がないと手続きができないのではと不安になる方も多いですが、実際には権利書がなくても相続登記は原則として可能です。

本記事では、不動産の権利書を紛失してしまったときの相続登記についてわかりやすく解説します。

不動産権利証と登記識別情報:相続登記での役割を分かりやすく解説

1章 不動産の権利書とは

登記済権利証の見本

一般的に「不動産の権利書」と呼ばれる書類は、正式には「登記済権利証」と呼ばれているものです。
登記済権利証とは、2005年以前の旧制度下において、不動産の売買や相続、贈与などで所有権移転登記をした際、法務局から交付されていた書類であり、登記名義人がその不動産の正当な所有者であることを証明するものです。

そして、2005年からは全国の登記所(法務局など)が段階的に「オンライン庁」に指定され、「登記済権利証」に代わって「登記識別情報」が発行されるようになりました。
登記識別情報とは、登記名義人に発行される12桁の英数字の暗号情報です。

それ以降の新たな不動産取引においては、従来の「権利書」の代わりに「登記識別情報」を用いて本人確認を行う仕組みになっています。
ただし、登記済権利証や登記識別情報は一度交付されると再発行ができず、紛失・焼失しても法務局で再度発行してもらうことはできません。

ただし、登記済権利証や登記識別情報を紛失したとしても、不動産の所有権を失うわけではありません。


2章 不動産の権利書がなくても相続登記は原則として可能

相続登記をする際に、「権利書をなくしてしまったが、相続登記はできるのか?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、権利証や登記識別情報がなくても相続登記は原則として可能です。

権利書や登記識別情報が必要になるのは、「所有権を持つ人が自ら登記を申請する場合」や「売買・贈与などで所有権を他人に移転する場合」です。
相続登記は、故人から相続人に名義を変更する手続きであるため、権利書や登記識別情報の提出は必要ありません。

ただし、一部のケースでは相続登記の際に権利書や登記識別情報の提出が求められる場合があります。
次の章では、相続登記時に不動産の権利書が必要となるケースを詳しく解説していきます。


3章 相続登記の際に権利書が必要となるケース

相続登記では原則として権利書や登記識別情報は不要ですが、一部の特殊なケースでは権利書の提示や代替書類が求められる場合があります。
本章では、代表的な2つのケースを解説します。

3-1 相続人以外が不動産を遺贈されたケース

まず注意したいのが、不動産が相続人以外に遺贈されたケースです。
例えば、「子供ではなく長年介護をしてくれた甥に土地を遺贈する」といったケースでは登記済権利証や登記識別情報の提出を求められます。

相続人以外に不動産を遺贈する場合の登記申請は、厳密には「相続による所有権移転」ではなく「被相続人の意思表示(遺言)に基づく所有権移転」として扱われます。
そのため、法務局も本人確認をより厳格に行わなければなりません。

万が一、登記済権利証や登記識別情報を紛失している場合には、事前通知制度や司法書士による本人確認手続が必要となることもあります。
登記済権利証や登記識別情報がないからといって登記ができないわけではありませんが、登記完了までに数週間かかることがあるため、早めの準備が大切です。

遺贈登記とは?かかる費用から必要書類まで詳しく解説【イラスト付】

3-2 故人の住所を証明できないケース

次に、故人の住所が登記簿と一致せず、本人であることを証明できない場合にも、登記済権利証や登記識別情報の提出を求められる場合があります。

故人が住所等変更登記の申請を怠っており、「登記簿上の住所」と「戸籍上の住所(最後の住所)」が一致しないことがあります。
このようなケースでは、住民票の除票や戸籍の附票を添付しますが、これらの書類でも登記簿上の住所から故人の最後の住所までの変遷をたどれない場合があるのです。

故人が亡くなってから長期間が経過している場合、住民票の除票が保存期間を過ぎて廃棄されているケースがあります。
このような場合、登記簿上の住所と被相続人の最終住所の連続性を証明できないため、故人が不動産の所有者だったことを証明するために、登記済権利証や登記識別情報を提出することがあります。


4章 相続登記の必要書類

相続登記を行う際には、登記の原因となる経緯によって、必要となる書類が異なります。
本章では、代表的な3つのパターンごとに必要書類を解説します。

4-1 遺産分割による場合

遺産分割による相続登記

遺産分割による相続登記を申請する際に必要となる書類は、主に以下の通りです。

  • 故人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍・改製原戸籍
  • 故人の住民票の除票(または戸籍の附票)
  • 法定相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 不動産を取得する法定相続人の住民票
  • 相続関係説明図(家系図の様式でも可)
  • 遺産分割協議書(全員の署名・実印による押印、割印)
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 固定資産評価証明書、納税通知書(財産の評価額を確定するため)
  • 登記申請書(所有権移転登記用)
  • 登録免許税

4-2 法定相続分による場合

法定相続による相続登記

法定相続による相続登記を申請する際に必要となる書類は、主に以下の通りです。

  • 故人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍・改製原戸籍
  • 故人の住民票の除票(または戸籍の附票)
  • 法定相続人全員の現在の戸籍謄本と住民票
  • 相続関係説明図(または家系図)
  • 固定資産評価証明書、納税通知書
  • 登記申請書
  • 登録免許税

4-3 遺言による場合

遺言による相続登記

故人が遺言書を用意しており、その内容にしたがって相続登記を申請する際に必要となる書類は、主に以下の通りです。

  • 遺言書原本(自筆証書遺言・秘密証書遺言は家庭裁判所の検認済みのもの、公正証書遺言は検認不要)
  • 故人の死亡がわかる戸籍謄本(出生からの連続取得は不要)
  • 遺言で財産を取得する人の戸籍謄本・住民票
  • 相続関係説明図(家系図形式も可)
  • 固定資産評価証明書、納税通知書
  • 登記申請書
  • 登録免許税
相続登記に必要な書類を完全解説|パターン別リストと取得方法

5章 相続不動産の権利書がないときの注意点

相続登記の申請は不動産の権利書がなくても可能ですが、将来の売却や名義変更の際に影響することがあるため注意しなければなりません。
本章では、不動産の権利書がない場合に注意すべきことを解説します。

5-1 権利書や登記識別情報は再発行できない

登記済権利証や登記識別情報は、一度交付されると再発行ができません。
法務局は本人確認と不正防止のために、登記済権利証や登記識別情報を発行しており、再発行を認めてしまうと、なりすまし申請や不正登記のリスクが生じてしまうからです。

登記済権利証や登記識別情報は、相続不動産を売却する際に使用する大切な書類です。
そのため、相続登記が完了し、登記識別情報が発行されたら大切に保管しておきましょう。

5-2 権利書を紛失しても権利関係に影響はない

権利書を紛失しても、不動産の所有権そのものが失われることはありません。

そのため、登記簿に所有者として氏名が記載されている限り権利関係は何も変わらず、権利書を失くしても、所有者の地位が揺らぐことはありません。

権利書は、あくまで登記済であることを証明するための補助的な資料であると理解しておきましょう。
とはいえ、権利書を紛失したまま放置しておくと、不動産を売却するときや抵当権を設定するときに不便が生じることがあります。


まとめ

登記済権利証や登記識別情報は、登記名義人の本人確認に使われる大切な書類ですが、紛失しても所有権や相続登記の手続きには原則として影響しません。
ただし、遺贈登記や登記簿上の住所と故人の最後の住所地が異なるような特殊なケースでは補足資料として登記済権利証や登記識別情報が求められることがあります。

登記手続きに不安がある場合は、早めに司法書士へ相談し、正確かつ確実に手続きを進めましょう。

グリーン司法書士法人では、相続登記についての相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。

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よくあるご質問

権利書を紛失した場合でも相続登記は自分でできますか?

はい、登記済権利証や登記識別情報通知などの権利書を紛失していても、相続登記は自分で行うことが可能です。

司法書士に相続登記を依頼すると費用はいくらかかりますか?

司法書士に相続登記を依頼する場合の費用は、登記の内容や不動産の数によって異なりますが、おおむね5万円〜10万円程度が相場です。
登記申請の代行だけでなく、必要書類の収集や遺産分割協議書の作成補助などを含めると、トータルでは10万円を超えることも珍しくありません。

登記識別情報を再発行してもらうことはできますか?

登記識別情報は再発行できません。
法務局では、不正防止の観点から登記済権利証や登記識別情報の再発行を認めていないからです。

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