準確定申告とは、亡くなった人が行うべきだった確定申告を相続人が代わりに行うことです。
準確定申告は相続開始から4ヶ月以内に行う必要があり、相続税申告よりも期限が早いのでご注意ください。
準確定申告はすべての人が行わなければならないのではなく、亡くなった人が不動産経営などをしていた場合などに必要です。
準確定申告をしないでいると、無申告加算税や延滞税などのペナルティが発生してしまいます。
本記事では、準確定申告をしないとどうなるのか、ペナルティや申告方法を解説します。
なお、家族や親族が亡くなると準確定申告以外にも様々な手続きが必要です。
家族や親族が亡くなったときの手続きの流れは、下記の記事でも解説しているのでご参考にしてください。
1章 準確定申告しないとどうなる?
亡くなった人の所得が一定額を超える場合、準確定申告が必要です。
準確定申告の期限は相続開始から4ヶ月以内であり、準確定申告をしないでいると、無申告加算税や延滞税などのペナルティが発生してしまいます。
それぞれのペナルティについて詳しくみていきましょう。
1-1 無申告加算税が発生する
準確定申告が必要にもかかわらず期限までにしないでいると、無申告加算税がかかります。
無申告加算税の税率は、自主的に申告した場合と税務署に指摘を受けた後に申告した場合で下記のように税率が変わります。
申告時期 | 税率 |
自主的に申告した | 追加で納めた税金の5% |
税務調査後に申告した |
|
1-2 延滞税が発生する
準確定申告を期限内に申告しないでいると、延滞税が日割りで発生します。
延滞税の税率は下記の通りです。
延滞期間 | 税率 |
納付期限の翌日から2ヶ月後まで | 年利7.3% |
納付期限の翌日から2ヶ月を経過した日以降 | 年利14.6% |
なお、上記の延滞税の税率は原則であり令和5年の税率は2.4%と8.7%となっています。
2章 準確定申告が必要なケース
準確定申告は必ず行うべき手続きではなく、亡くなった人が不動産経営をしていた場合などで必要です。
準確定申告をしなければならないケースは、主に亡くなった人が下記に該当する場合です。
- 自営業者や個人事業主だった
- 2ヶ所以上から給与を受けていた
- 給与所得と退職所得以外の所得が合計20万円以上あった
- 給与の年間収入が2,000万円以上だった
- 給料の年末調整を行っていなかった
- 公的年金などによる収入が400万円を超えていた
- 公的年金などによる雑所得が20万円を超えていた
- 土地建物や株式の譲渡所得があった
- 不動産所得があった
- 貸付金の利子収入や家賃などの不動産収入を受け取っていた
- 生命保険などの満期金や一時金を受け取っていた
なお、上記以外のケースでも所得税の還付を受けられる場合は準確定申告をすることによって、亡くなった人が払い過ぎた税金を還付してもらえます。
準確定申告によって還付を受けられるケースは、主に下記の通りです。
- 給与所得者または年金所得者で源泉徴収されている所得税があった
- 生前、医療費を多く支払っていた
- 配偶者控除、扶養控除、寄付金控除などの各種控除を受けられる
3章 準確定申告が不要なケース
先ほどの章で解説したように、準確定申告はすべての人が行わなければならないわけではありません。
下記に該当するケースでは、家族や親族が亡くなっても準確定申告が不要です。
- 勤務先が1ヶ所ですでに年末調整を行っていた
- 公的年金等による収入が400万円以下で公的年金等による雑所得以外の所得が20万円以下だった
- 亡くなった人が会社員やパート、アルバイトなどの給与所得者だった
- 相続人が相続放棄をした
4章 準確定申告の申告方法
準確定申告は必要書類の収集や作成を行い、故人の住所地を管轄する税務署に提出します。
具体的には、下記の流れで申告書の作成や準備を進めていきましょう。
- 必要書類を準備する
- 提出書類を作成する
- 申告書および必要書類を税務署に提出する
準確定申告の提出方法および必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 |
|
提出先 | 故人の住所地の所轄税務署 |
提出方法 |
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必要書類 |
|
準確定申告は相続人や包括受遺者全員で行いますが、相続放棄をした人は準確定申告をする義務から外れます。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったとして扱われるからです。
そのため、相続人の一部が相続放棄した場合は、相続放棄していない残りの相続人が共同で準確定申告を行います。
相続人全員が相続放棄した場合は、相続財産法人が設立し準確定申告書を行います。
5章 準確定申告をするときの注意点
準確定申告をするときには、故人の医療費や生命保険料の支払い日を確認しておくなどの点に注意が必要です。
他にも、故人が事業を営んでいた場合は所得税だけでなく消費税の準確定申告も必要な可能性があります。
準確定申告を行う際の注意点は、主に下記の通りです。
- 医療費や生命保険料の支払い日を確認する
- 消費税も準確定申告が必要になる
- 準確定申告による還付金は相続税の課税対象に含まれる
- 相続人の1人が還付を受けるなら委任状が必要
- 準確定申告はe-taxで提出できる
- 相続人が事業を受け継ぐ場合は青色申告承認申請書の提出が必要
- 期限のある相続手続きは準確定申告だけでない
それぞれ詳しく見ていきましょう。
5-1 医療費や生命保険料の支払い日を確認する
準確定申告で故人の医療費控除や生命保険料控除を行う場合は、支払い日を確認しておきましょう。
相続開始前(故人が死亡する前)に医療費や生命保険料を支払っていないと、医療費控除や生命保険料控除を適用できないからです。
5-2 消費税も準確定申告が必要になる
亡くなった人が個人事業主などで事業を営んでおり、消費税の課税事業者だった場合は消費税の準確定申告だけでなく消費税の準確定申告も必要です。
消費税の準確定申告に関しても、相続開始から4ヶ月以内に申告しなければなりません。
5-3 準確定申告による還付金は相続税の課税対象に含まれる
準確定申告は原則として相続人や包括受遺者全員で行う必要があり、準確定申告によって受けられる還付金も相続財産に含まれます。
したがって、準確定申告の還付金は相続税の計算対象に含める必要がありますし、遺産分割の対象にもなります。
5-4 相続人の1人が還付を受けるなら委任状が必要
準確定申告時に相続人の1人が還付金を受け取る場合は、他の相続人の委任状が必要です。
先ほど解説したように、準確定申告の還付金は相続財産に含まれるからです。
5-5 準確定申告はe-taxで提出できる
令和2年より準確定申告もe-Taxで申告できるようになりました。
そのため、準確定申告であってもe-Taxによる申告を行うなどの条件を満たしていれば、65万円の青色申告特別控除を適用可能です。
生前、故人が事業を営んでおり、青色申告特別控除の適用要件を満たす場合はe-Taxでの申告を検討するのが良いでしょう。
ただし、委任状の提出に関してはe-Taxでは対応できず、紙での提出が必要なのでご注意ください。
5-6 相続人が事業を受け継ぐ場合は青色申告承認申請書の提出が必要
故人が青色申告を適用していた場合でも、相続人が故人から事業を受け継ぐ場合は、新たに「青色申告承認申請書」を提出しなければなりません。
なお、青色申告承認申請書の提出期限は相続開始日によって、下記のように設定されています。
相続開始日(死亡日) | 提出期限 |
故人が1月1日から8月31日に死亡 | 死亡日から4ヶ月以内 |
故人が9月1日から10月31日に死亡 | その年の12月31日 |
故人が11月1日から12月31日に死亡 | 翌年2月15日 |
上記のように、故人の死亡日によっては青色申告承認申請書の提出期限が非常に短いのでご注意ください。
万が一、青色申告承認申請書の提出期限に間に合わないと故人が死亡した年の確定申告は白色申告で行わなければなりません。
また、上記の提出期限は「故人が青色申告を適用していた場合」のものです。
故人が白色申告をしていた場合で、相続人が青色申告をする場合は事業を受け継いだ日から2ヶ月以内に青色申告承認申請書を提出しなければなりません。
5-7 期限のある相続手続きは準確定申告だけでない
準確定申告の期限は「相続開始から4ヶ月以内」ですが、それ以外にも期限の決まっている相続手続きはいくつかあります。
具体的には、下記の手続きは期限が設定されているので、手続き漏れのないように注意しましょう。
- 【3ヶ月以内】限定承認・相続放棄の申立て
- 【4ヶ月以内】所得税の準確定申告
- 【10ヶ月以内】相続税の申告
- 【1年以内】遺留分侵害額請求
- 【2年以内】健康保険の埋葬料・葬祭費の請求
- 【3年以内】生命保険金の請求
- 【5年以内】遺族年金の請求
また遺産分割協議や遺言書の検認、相続人調査などは期限が決まっていませんが、上記に記載されている相続税の申告前に終わらせておくのが理想なので、実質的には相続開始から10ヶ月以内に行う必要があります。
相続手続きを効率よく行うためには、手続きの流れや種類を理解することが大切です。
何から手続きをすればよいかわからない場合や平日日中は仕事をしていて手続きするのが難しい場合は、相続に詳しい司法書士や行政書士に依頼することもご検討ください。
まとめ
準確定申告が必要にもかかわらず相続人が申告しないでいると、無申告加算税や延滞税などのペナルティが発生してしまうのでご注意ください。
準確定申告はすべての人に必要なわけではなく、故人が不動産経営をしていたケースなどで必要です。
また準確定申告が必要ないケースでも、故人の支払っていた医療費や生命保険料の金額によっては医療費控除や生命保険料控除を行い還付金を受け取れます。
準確定申告をはじめとして、家族や親族が亡くなると様々な手続きが発生します。
どんな流れで手続きを行えばよいかわからない場合や仕事や家事、育児で忙しく手続きをするのが難しい場合や相続に詳しい司法書士や行政書士に手続きを依頼するのも良いでしょう。
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