親が年を取って認知症が心配になってきたら「後見人になる」ことを考え始める時期です。
しかし、後見人になるといっても次のようにわからないことだらけだと思います。
- 後見人になるにはどうしたらいいの?
- 後見人になる前に知っておくべきことは?
後見人は、本人の代わりに財産を管理して本人を守る人です。後見人には「法定後見人」と「任意後見人」の2種類あり、それぞれ権限の内容や選任方法が異なります。
今回は後見人になるための方法や後見人になる前に知っておくべき注意点などの知識を後見制度の専門家が解説します。
目次
1章 後見人には2種類ある
後見人は、本人が自分で財産管理や身の上のことなど重要な判断をするのが難しくなってきたときに、本人に代わって財産管理や身上監護を行う人です。
後見人には「裁判所で選んでもらう法定後見人」と「自ら選んで契約しておく任意後見人」の2種類があります。
まずは成年後見制度の全体像を確認してみましょう。
1-1 法定後見人
法定後見人は裁判所が選任する後見人です。
本人の意思能力が低下して判断能力が失われたとき、家族や親族などが裁判所に申立することによって選任されます。本人はすでに判断能力を失っているので自分では選任できません。
1-2 任意後見人
任意後見人は、本人が元気なうちに自分で選ぶ後見人です。
意思能力が低下する前に本人が「後見人になってほしい人」を選び、契約をして将来の後見業務を託します。本人の判断能力が失われると任意後見契約を締結できないので、任意後見人は意思能力のあるうちに選任しなければなりません。
両者の違いは次のとおり覚えておきましょう。
- 本人の意思能力があり・・・裁判所が選ぶ「法定後見人」
- 本人の意思能力がなし・・・自分で選ぶ「任意後見人」
2章 法定後見人になる方法
法定後見人になる方法について、手順を追って解説します。
2-1 法定後見人になれる人/なれない人
法定後見人には特別な資格はありません。通常の一般人であれば誰でも法定後見人になれます。
ただし以下の人は法定後見人になれません。
- 未成年者
- 破産者
- 過去に家庭裁判所によって後見人を解任された人
- 本人に対し、過去に訴訟を起こしたことのある人やその親族
- 行方不明者
子どもや孫、甥姪、いとこ、はとこ、叔父叔母、親などの親族が後見人になるケースがよくあります。
もっとも、親族が後見人になるには注意点もありますので、次の記事を是非お読みください。
2-2 法定後見人になる方法
法定後見人になるには、以下の流れで手続きを進めましょう。
STEP① 必要書類を集める
法定後見人になるには家庭裁判所へ申し立てるための書類が必要です。「申立書」も作成しなければなりません。まずは書類集めと申立書の作成から始めましょう。
STEP② 家庭裁判所へ申し立てる
必要書類が揃ったら、家庭裁判所へ「後見開始審判の申立」を行います。管轄は本人の住所地の家庭裁判所です。800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手をつけて、自分で作成した申立書と集めた書類を提出しましょう。
このとき、後見人になりたい人がいたら「候補者」として裁判所に通知できます。申立書に候補者記入欄があるので、書き込みましょう。
STEP③ 調査官との面談、審理
申立をすると、家庭裁判所で後見人を選任するかどうかの審理が行われます。申立人に対しても、調査官との面談で具体的な事情について話を聞かれます。
このとき、もめている親族がいることが判明すると専門家の後見人をつけられるので、希望した親族の候補者を後見人として選任してもらえない可能性が高くなります。
STEP④ 審判
審理の結果、「後見人が必要な状態」と判断されると家庭裁判所によって後見人が選任されます。親族間で争いもなく特別難しい対応も必要ない事案であれば、候補者として立てられた親族の後見人が選任されるケースが多数です。
一方親族間で争いがあったり複雑な対応が必要だったりすると、弁護士や司法書士などの専門家の後見人が選任される可能性が高くなります。
STEP⑤ 後見登記、登記事項証明書の取得
審判が確定すると、後見登記が行われます。
後見登記を示す「登記事項証明書」を取得しておくと、自分が後見人である事実を説明しやすくなって便利なので、後見人に選任されたら1通とっておきましょう。東京法務局に申請すれば郵送で入手できます。
2-3 法定後見人になるための必要書類
法定後見人になるためには、家庭裁判所に必要書類を提出しなければなりません。以下のような書類を集めましょう。
2-3-1 自分で作成する書類
- 後見開始申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 収支状況報告書
2-3-2 役所で取得する書類
- 本人の戸籍謄本
- 候補者の戸籍謄本
- 本人の住民票または戸籍の附票
- 候補者の住民票または戸籍の附票
- 本人の後見登記されていないことの証明書
2-3-3 病院で取得する書類
- 成年後見専用書式の診断書
2-3-4 財産関係の資料
- 銀行預金通帳のコピーや残高証明書
- 生命保険の保険証券や解約返戻金見込み証明書
- 所有不動産の登記事項証明書
- 所有自動車の車検証コピー
必要書類は裁判所によって微妙に異なるので、事前に裁判所や地域の司法書士、弁護士などに相談して確認しましょう。
2-4 法定後見人になるための費用
法定後見人を選任するには、家庭裁判所に費用を払わねばなりません。
- 収入印紙800円
- 後見登記費用2600円
- 連絡用の郵便切手
その他、精神鑑定が必要になった場合には、5~10万円程度の鑑定費用がプラスされます。
また、必要書類(戸籍や診断書など)の収集に数千円から1万円前後はかかります。
なお、司法書士に申立書の作成や選任までのサポートを依頼した場合の報酬は12~20万円程度です。
法定後見人になるための詳しい手続方法を知りたい方はこちら
3章 任意後見人になる方法
次に任意後見人になる方法をみていきましょう。
3-1 任意後見人になれる人/なれない人
任意後見人になれる人の範囲も非常に広く、ほとんどの人がなれます。
任意後見人になれないのは以下のような人です。
- 未成年者
- 破産者
- 過去に家庭裁判所によって後見人を辞めさせられた人
- 過去に本人へ訴訟を起こした人やその親族
- 行方不明の人
3-2 任意後見人になる方法
任意後見人になるには、以下の手順で進めていきましょう。
STEP① 公正証書で任意後見契約をする
まずは本人と任意後見人になりたい人が「任意後見契約」を締結します。
任意後見契約では、任意後見人による具体的な後見業務の進め方や権限内容などを定めましょう。任意後見契約は公証人役場において「公正証書」で作成する必要があります。公証人役場で契約書を作成すると「登記」が行われます。
STEP② 任意後見監督人の選任申立をする
本人の判断能力が低下して任意後見人が必要な状況になったら、家庭裁判所で「任意後見監督人の選任申立」を行います。申立権者は配偶者や子どもなどの親族です。
STEP③ 任意後見監督人が選任される
裁判所で審理が行われ、本人の判断能力が低下していて後見人が必要な状況であると確認されると任意後見監督人が選任されます。
STEP④ 後見業務の開始
任意後見監督人が選任されると、その監督下において任意後見人による後見業務が開始します。は本人の財産を預かり、事前に契約で定めておいたとおりの方法で管理や処分を行います。
3-3 任意後見人になるための必要書類
任意後見人になるには、家庭裁判所へ任意後見監督人の選任申立をしなければなりません。その際の必要書類は以下の通りです。
- 申立書
- 申立書の附票
- 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 任意後見契約公正証書の謄本
- 本人の成年後見等に関する登記事項証明書
- 医師による診断書
- 財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金通帳や取引明細書、有価証券の残高が分かる書類など)
- 任意後見監督人の候補者がある場合、その人の住民票または戸籍附票
裁判所によって必要書類が異なる可能性があるので、事前に管轄の家庭裁判所へ確認しましょう。
3-4 任意後見人になるための費用
- 収入印紙800円
- 連絡用の郵便切手
- 登記費用1600円
- 公正証書作成費用2~3万円程度
その他、精神鑑定が必要になった場合には、5~10万円程度の鑑定費用がプラスされます。
また、必要書類(戸籍や診断書など)の収集に数千円から1万円前後はかかります。
なお、任意後見契約の作成およびサポートを司法書士などの専門家に依頼すると、10~15万円程度の報酬が発生します。
任意後見人になるための詳しい手続方法を知りたい方はこちら
任意後見契約を行うときは、遺言、家族信託、生前贈与、死後事務委任など認知症対策や相続対策についても検討しておくベストタイミングです。
相続対策に詳しい司法書士や弁護士に相続対策、認知症対策について総合的にプランニングしてもらうことをおススメします。弊事務所では無料相談を受け付けていますので、相談だけでもぜひご利用ください。
4章 後見人になる前に知っておくべき4つの注意点
法定後見人でも任意後見人でも、後見人になれば責任が発生します。もしあなたが後見人になろうと考えているなら、事前に以下のようなことに注意しておきましょう。
4-1 後見人が自由に財産を使える制度ではない
後見人は本人のために財産管理する立場です。家庭裁判所によって監督されることもあり、自由に財産を使えるわけではありません。
自分のために使えないのはもちろん、本人のためと思っても裁判所が許さない限り財産を処分できないケースもあります。
4-2 一度後見人に設定されると自由に辞められない
いったん後見人になると、自由に辞めることはできません。
後見人として行う業務が負担なので辞めたいと思っても、裁判所の決定により解任されるか、辞任が認められない限り、後見業務を続ける必要があります。
4-3 望んでも後見人になれないケースがある
法定後見の場合、後見人の候補者として名乗り出ても、裁判所の判断によって司法書士や弁護士が後見人として選任される可能性があります。
特に次のようなケースでは第三者である司法書士や弁護士が選任される可能性が高くなります。
- あなたが後見人になることを反対している家族(親戚)がいる
- 本人が収益不動産や高額な預貯金を保有する
- 後見申立前の財産の動きに不明瞭な点があるとき
4-4 本人が死亡するまで家庭裁判所への報告を続けなければならない
後見業務が終了するのは本人が死亡したときです。そのときまで家庭裁判所への定期的な報告等しなければならないので、後見人の負担は重くなります。また死亡と同時に権限がなくなるので、すぐに相続人らに報告を行って相続財産の引き渡しをしなければなりません。引き続いて財産管理できないので財産の管理状況が分断され、混乱が生じる可能性もあります。
親族が後見人になるときに知っておくべきポイントはこちら
5章 新しい選択肢である家族信託も検討しよう
最近、後見人のデメリットを解消すべく「家族信託」という方法が注目され利用者数も増えています。家族信託とは、信頼できる家族に財産を託して管理処分してもらう契約です。
裁判所を利用しないので柔軟に対応できますし、裁判所への定期的な報告も不要です。財産管理をお願いする家族に余計な負担がかからず、比較的自由に財産を本人のために活用できます。
また家族信託の効果は死後にも持続させられるので、遺言書代わりに用いられるケースもよくあります。後見の場合には死亡と同時に効力が途切れてしまって財産管理体制が崩れてしまいますが、家族信託であれば継続的に財産を管理できるメリットがあります。
5-1 家族信託活用の具体例
認知症になる前に子どもなどに財産を預け、認知症になったら子どもにしっかり財産を管理してもらいます。本人の死亡後に遺された妻が心配であれば、死後は財産を妻のために管理してもらうことも可能です。さらにその後妻が亡くなったら、子どもに財産を引き継ぐことができます。
このような一連の財産の流れを作れるのは家族信託ならではの特徴です。後見でも遺言でも実現できません。
親の財産管理のために「後見人になろう」と考えたときには、家族信託も視野に入れて検討してみてください。
家族信託について詳しく知りたい方はこちら
まとめ
法定後見人も任意後見人も、選任するには複雑な手続きが必要なので専門家に任せると安心です。
当法人では法定後見の申立手続きから、任意後見契約締結のサポートまで行っています。
また、その他にも遺言書、生前贈与、家族信託、相続手続きまで幅広くを行っていますので、ご質問やご不安をお持ちの方がおられましたらいつでもお気軽にご相談ください。
よくあるご質問
成年後見人は誰でもなれるの?
成年後見人になるために特に資格は必要ありません。
欠格事由(成年後見人になれない要件)に該当していなければ誰でもなることは可能です。
ただし、法定後見人の場合は、家庭裁判所が後見人を選定するので、希望した人が選任されるとは限りません。
成年後見人の欠格事由など、詳しくは下記リンク先で解説しておりますので、ご参考にしてください。
▶成年後見人になれる人、なれない人成年後見人の報酬はいくら?
司法書士や弁護士などの専門家が成年後見人になった場合の報酬相場は月額3~5万円です。
ご家族が成年後見人になった場合は、報酬を請求しないケースも多いため、無償ということもあります。
詳しくは下記リンク先をご参考にしてください。
▶成年後見人の報酬はいくら?家族が後見人になることはできる?
結論から言えば、家族や親族も成年後見人になることは可能です。
ただし、法定後見人の場合、最終的に決定するのは家庭裁判所のため、家族や親族以外が後見人になる場合もあります。
▶後見人になれる人物について詳しくはコチラ後見人になれない人物は誰?
法定後見人になるために特別な資格は不要です。
ただし、下記に該当する人物は後見人になれません。
・未成年者
・破産者
・過去に家庭裁判所によって後見人を解任された人
・本人に対し、過去に訴訟を起こしたことのある人やその親族
・行方不明者
▶後見人になれない人物について詳しくはコチラ成年後見人になる手続き方法は?
成年後見制度の申立て方法の流れは、下記の通りです。
STEP① 申立人・申立先の確認
STEP② 診断書の取得
STEP③ 必要書類の収集
STEP④ 申立書類の作成
STEP⑤ 面接日の予約
STEP⑥ 家庭裁判所への申立て
STEP⑦ 審理開始
STEP⑧ 審判
STEP⑨ 後見の登記
STEP⑩ 成年後見人の仕事開始
▶成年後見制度の申立てについて詳しくはコチラ家族や親族が後見人になるときの注意点・デメリットは?
家族や親族が後見人になるときには、事前に下記を理解しておきましょう。
・後見人が自由に財産を使える制度ではない
・一度後見人に設定されると自由に辞められない
・望んでも後見人になれないケースがある
・本人が死亡するまで家庭裁判所への報告を続けなければならない成年後見人の申立てにかかる費用はいくら?
成年後見の申立時には、必要書類の収集や専門家に支払う報酬、鑑定費用などで16万円から数十万円程度かかります。
▶成年後見の申立て費用相場について詳しくはコチラ