亡くなった人が特定の相続人に生前贈与を行っていた場合、特別受益に該当する可能性があります。
特別受益として認められれば、相続発生後に持ち戻しを行うことで、公平な遺産分割を行うことが可能です。
平成30年に法律が改正され、特別受益の持ち戻し期間に関して変更があり、遺留分の計算を行う際の特別受益の持ち戻し期間が10年以内の贈与に限定されるようになりました。
なお、遺産分割協議に関しては変更がなかったので、特別受益の持ち戻し期間にも制限はありません。
本記事では、相続法改正内容を踏まえ、遺留分計算時と遺産分割協議時の特別受益の持ち戻し期間について詳しく解説していきます。
目次
1章 遺留分計算で特別受益の期間が10年以内の贈与に限定された
相続法が改正されたことにより、遺留分を計算する際の特別受益の期間が10年以内の贈与(生前贈与、遺贈、死因贈与)として定められました。
そのため、相続が発生する10年以内に特別受益があった場合には、特別受益を相続財産に加えて遺留分の計算を行います。
具体的には、以下のケースに該当する場合には、遺留分侵害額請求を行える可能性があります。
- 遺言により相続できる財産額と特別受益を合計しても遺留分を侵害している
- 特別受益が多すぎて遺留分を侵害している
反対に、遺留分計算時の特別受益の持ち戻しに期限が定められたことで、特別受益の持ち戻しを主張できなくなる相続人もいるでしょう。
遺留分の計算や遺留分侵害額請求には、相続に関する専門的な知識が必要な場合もあります。
自分では判断が難しい場合には、司法書士や弁護士等の専門家への相談もご検討ください。
1-1 遺産分割協議では特別受益に関する期間の定めはない
なお、多くの人に誤解されがちなポイントですが、遺産分割協議に関してはこれまで通り特別受益の持ち戻し期間は定められていません。
そのため、10年以上に行われた生前贈与に関しても、特別受益の持ち戻しを主張可能です。
もし過去の生前贈与を特別受益として扱われたくないのであれば、遺言書で「特別受益の持ち戻しは考慮しない」と明記しておくと安心です。
特別受益に関しては、以下の記事でも詳しく解説しています。ご参考にしてください。
2章 特別受益に該当するケース
相続人の中に贈与を受けた人がいる場合には、特別受益に該当する可能性があります。
特別受益に当てはまるケースは、主に以下の通りです。
- 生活費の援助
- 不動産の贈与
- 養子縁組したときに家を用意した
- 車の贈与
- 婚姻時の持参金
- 事業を始めるときの援助
- 学費の援助
- 無償で家に居住させていた
なお、特別受益は全ての人に当てはまるのではなく、法定相続人への贈与に限定されます。
次の章では、特別受益の持ち戻しを行う場合の計算例を詳しく確認していきましょう。
3章 特別受益の持戻しの計算例
特別受益があった場合には、特別受益と相続財産を合計して、各相続人が受け取る相続分を決定します。
本記事では、以下の具体例を用いて、特別受益の持ち戻しを行う場合の計算方法を解説します。
【相続人】
長男A、次男B
【相続財産】
預貯金:3,000万円
【特別受益】
- 長男Aには住宅購入費用として1,000万円生前贈与している(相続発生から4年前)
- 長男Aには婚姻費用1,000万円を生前贈与している(相続発生から20年前)
次男Bが特別受益の持ち戻しを主張した相続分の計算方法を確認していきましょう。
3-1 特別受益を持戻して遺産分割協議をする場合
1章で解説したように、遺産分割協議で特別受益の持ち戻しを行う場合、期限の定めはありません。
そのため、特別受益の合計金額2,000万円と相続財産3,000万円を合わせた5,000万円をみなし相続財産として計算します。
【各相続分の計算方法】
みなし相続財産5,000万円÷法定相続人2人=2,500万円
【各相続人が受け取れる相続分】
- 長男A:2,500万円-特別受益2,000万円=500万円
- 次男B:2,500万円をそのまま受け取れる
本記事の例であれば、長男Aと次男Bは預貯金を500万円と2,500万円ずつ分け合えば、特別受益を考慮した上で法定相続分で遺産分割を行えます。
3-2 特別受益を持戻して遺留分侵害額請求をする場合
続いて、以下の遺言書が見つかった場合に次男Bの遺留分を計算してみましょう。
【遺言書の内容】
- 長男Aに預貯金3,000万円を全て相続させる
- 特別受益の持ち戻し免除に関しては何も書かれていない
特別受益の持ち戻し免除が遺言書で指定されていないので、次男Bは特別受益の持ち戻しを主張できます。
ただし、相続法の改正により遺留分侵害額計算時の特別受益の持ち戻し期間は10年に限定されています。
そのため、次男Bは2つの特別受益のうち「4年前に行われた長男Aへの住宅購入資金1,000万円分の生前贈与」しか持ち戻しを主張できません。
遺留分の計算方法は、以下の通りです。
【遺留分算定時の相続財産】
預貯金3,000万円+特別受益1,000万円=4,000万円
【次男Bの遺留分】
4,000万円×1/4=1,000万円
遺留分侵害額請求を次男Bが長男Aに対して行えば、1,000万円分の金銭を支払ってもらえます。
このように、遺留分計算時の特別受益の持ち戻し期間が10年間と決められたことによって、遺産分割協議と遺留分計算時で持ち戻しを主張できる特別受益に差がでるようになりました。
また、特別受益は受け取っている側が自分から認めるケースはほとんどないので「特別受益を受け取っていなく不公平だ」と感じる相続人が主張する必要があります。
次の章では、特別受益の主張方法について詳しく解説します。
4章 特別受益を主張する方法
特別受益の持ち戻しは自動的に与えられる権利ではなく、相続に不公平感を持つ相続人が自分で主張する必要があります。
特別受益を主張する方法は、主に以下の4つです。
- 特別受益に関する証拠を集める
- 遺産分割協議で特別受益を主張する
- 遺産分割調停や審判を行う
- 特別受益を考慮した遺留分侵害額請求を行う
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 特別受益に関する証拠を集める
特別受益を主張するだけでは、過去に生前贈与を受けた相続人が認める可能性は低いです。
そのため、まずは特別受益に関する証拠を集めましょう。
具体的には、以下が特別受益の証拠になる可能性があります。
- 不動産の全部事項証明書
- 家の評価に関する書類
- 親名義の預貯金通帳
- 定額貯金の払い戻しを証明する書類
4-2 遺産分割協議で特別受益を主張する
特別受益に関する証拠を集めたら、遺産分割協議で特別受益を主張しましょう。
特別受益を受け取った相続人が納得してくれたら、遺産分割協議書にその旨を記載し、特別受益を含めた金額で遺産分割を行います。
4-3 遺産分割調停や審判を行う
遺産分割協議で相続人が納得しない場合には、遺産分割調停や審判を行うこともご検討ください。
遺産分割調停では、調停員が当事者の間に入って話し合いを進めてくれます。
遺産分割調停で解決できなかった場合には、裁判官が遺産分割の方法を決定する遺産分割審判へと手続きを進めます。
4-4 特別受益も考慮した遺留分侵害額請求を行う
遺言書の内容が特別受益を考慮しておらず、遺留分を侵害している場合には、遺留分侵害額請求を行いましょう。
遺留分侵害額請求を行えば、特別受益を含め遺産を多く相続している相続人に遺留分相当額の金銭の支払いを求めることができます。
まとめ
特別受益があった場合、遺産分割協議や遺留分計算時に特別受益の持ち戻しを行い、過去の贈与分を含めた金額で各相続分や遺留分を計算できます。
ただし、平成30年に民法の相続法が改正されたことにより、遺留分計算時の特別受益の持ち戻し期間が10年と定められるようになりました。
そのため、相続発生より10年以上前に行われた生前贈与に関しては、遺留分計算時に持ち戻しを主張することができません。
一方で、遺産分割協議に関しては特別受益の持ち戻し期間が定められていないので、過去にさかのぼって持ち戻しを主張可能です。
なお、遺留分の計算や遺留分侵害額請求、特別受益の持ち戻しを主張する際には、相続人間でトラブルが発生する可能性も高いです。
将来の相続トラブルを回避するためには、遺留分や特別受益を考慮した遺言書を作成するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、遺言書の作成や生前贈与に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
特別受益は10年で時効になる?
遺留分を計算する際の特別受益の期間が10年以内の贈与(生前贈与、遺贈、死因贈与)として定められました。
一方で、遺産分割協議を行う場合は特別受益について期間の定めはありません。