- 被後見人が亡くなったときに生じる成年後見人の義務
- 被後見人が亡くなったときに成年後見人が行うべき手続き
- 被後見人が亡くなったときに成年後見人が注意すべきこと
成年後見制度を利用していた被後見人が死亡すると、その時点で成年後見人は代理権を失い職務も終了します。
ただし、被後見人の死亡後も相続人に対して成年後見制度利用期間中の収支や相続財産について伝える義務があります。
また、被後見人が死亡したときには家庭裁判所に報告を行い、成年後見終了の登記手続きを行わなければなりません。
本記事では、成年後見制度の被後見人が死亡したときに成年後見人がすべきことを解説していきます。
成年後見制度については、下記の記事でも詳しく解説しています。
目次
1章 被後見人死亡後の成年後見人の義務3つ
成年後見制度の被後見人が死亡した時、後見人は代理権がなくなり職務も終了するものの以下の3つの業務をする必要があります。
- 管理計算業務
- 引継ぎ業務
- 応急処分義務・死後事務
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 管理計算義務
成年後見人は被後見人の死亡後に、成年後見制度を行っていた間に生じた収入と支出を明らかにする管理計算を行う必要があります。
被後見人の死亡から2ヶ月以内に管理計算を行う必要があると法律によって決められています。
ただし、管理計算が期間内に終了しない場合には家庭裁判所への申立てによって期間を伸長可能です。
具体的には、以下の流れで管理計算を行いましょう。
- 後見期間中の収支の決算をする
- 財産目録を作成し、後見終了時点での後見財産を確定する
- 収支の決算および後見財産を相続人(複数いる場合には代表者)に報告する
1-2 引継ぎ義務
被後見人が死亡し成年後見制度が終了した時点で、被後見人の財産はすべて相続人のものとなります。
そのため、相続発生に伴い成年後見人がこれまで管理していた財産を相続人に引き継ぐ必要があります。
相続登記を銀行の名義変更手続きなどを成年後見人が代わりに行ってしまうと、後々トラブルに発展する恐れがあるのでご注意ください。
相続人が相続手続きに不安を感じていたとしても、手続きを代行する事はやめてやめましょう。
1-3 応急処分義務・死後事務
被後見人が亡くなった後は後見業務自体は終了するものの急を要する事態に関しては成年後見人が対応しなければならないと法律によって決められています。これが応急処分義務です。
また、義務ではないものの死後に発生する以下の事務手続きも成年後見人が行えるものとされています。
- 相続財産の保全に必要な行為(雨漏りの補修など)
- 返済期日が到来した借金の返済
- 亡くなった人の火葬や埋葬に関する契約の締結(家庭裁判所の許可が必要)
ただし、上記の応急処分義務や死後事務を行う際には、以下の条件を満たさなければなりません。
- 成年後見人がその事務を行う必要がある
- 被後見人の相続人が相続財産を管理できない状態にある
- 成年後見人が死後事務を行うことが被後見人の相続人の意思に反していない
成年後見人の死亡後は新たな後見人の申立てが必要
被後見人ではなく成年後見人が死亡した場合、後見制度の利用は中止されません。
そのため、新たな後見人の選任申立てをする必要があります。
成年後見監督人がいる場合は、成年後見監督人が成年後見人の選任申立てを行います。
2章 被後見人の死亡後は成年後見人の代理権がなくなる
成年後見制度を利用していた被後見人が死亡したときには、成年後見人は代理権を失い職務も終了になります。
ただし、被後見人の死亡で自動的に成年後見人としての役割が終了するわけではありません。
次の章で紹介する家庭裁判所への手続きや1章で紹介した成年後見人としての義務を果たす必要があります。
次の章では、被後見人が死亡した後に行う手続きについて解説していきます。
3章 被後見人が死亡時に行う手続き・必要書類
成年後見制度の被後見人が亡くなった場合には、家庭裁判所への報告と成年後見制度の終了登記をしなければなりません。
それぞれの手続き方法と必要書類について詳しく解説していきます。
3-1 家庭裁判所への報告
成年後見人は被後見人の死亡後に1章で解説した管理計算および相続人への引継ぎが完了したら家庭裁判所に後見事務終了報告をする必要があります。
手続き方法と必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 | 成年後見人 |
手続き先 | 成年後見制度申立てをした家庭裁判所 |
必要書類 |
(提出先の裁判所によって違う場合があります) |
3-2 成年後見終了の登記手続き
成年後見制度の利用開始時には登記をしているので、被後見人死亡時には終了登記を行う必要があります。
手続き方法と必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 | 成年後見人 |
手続き先 | 後見登記をした法務局 |
必要書類 |
|
4章 被後見人死亡で相続財産を引継ぐ際に注意が必要なケース
成年後見人が相続人である場合や相続人が複数いる場合には、被後見人死亡時に財産を引き継ぐ際に特に注意が必要です。
成年後見人が被後見人の財産管理を適切にしていたと証明できないと後々のトラブルに発展する恐れや家庭裁判所へ相続財産管理人選任の申立てが必要になる場合があるからです。
- 成年後見人が相続人の一人のケース
- 相続人が複数人いるケース
- 相続人が一人もいないケース
- 相続人の中に認知症患者がいるケース
- 相続人が行方不明のケース
本記事では、特に注意すべき上記のケースについて対処法と共に紹介していきます。
4-1 成年後見人が相続人の一人のケース
司法書士や弁護士が成年後見人になっているのではなく、相続人の一人が成年後見人になっている場合には他の相続人とのトラブルに注意しなければなりません。
- 管理計算と相続財産の引継ぎを誰が見ても明らかになるように証明する
- 成年後見制度の利用開始時に自分が成年後見人になることを他の相続人に同意してもらう
他の相続人から成年後見制度利用時の財産の使い込みを疑われないように細心の注意を払いましょう。
4-2 相続人が複数人いるケース
被後見人の法定相続人が複数人いる場合には、管理計算を行い相続財産を相続人の代表者に引き継ぐ必要があります。
成年後見人の判断で相続人の代表者を決定してしまうと、後々トラブルが起きる恐れもあるので、他の相続人に同意をもらってから代表者への引き継ぎを行いましょう。
また、亡くなった被後見人が遺言書を作成し遺言執行者を選任していた場合には、遺言執行者に相続財産を引き継ぎます。
4-3 相続人が一人もいないケース
被後見人の法定相続人になる人物が一人もいない場合や相続人全員が相続放棄した場合には、財産の引継ぎを行うことができません。
家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てを行い、決定した相続財産管理人に相続財産を引き継ぐ必要があります。
相続財産管理人とは、死亡した人に相続人がいないとき、その人の残した相続財産(遺産)を管理する人です。
相続財産管理人選任の申立て方法と必要書類は、下記の通りです。
申立てする人 | 利害関係人 |
申立て先 | 亡くなった人の亡くなった時の住所を管轄する家庭裁判所 |
申立て費用 |
|
必要書類 |
|
4-4 相続人の中に認知症患者がいるケース
相続人の中に認知症患者がいるケースでは、被後見人の遺産分割協議を進められません。
認知症になって判断能力を失ってしまった人は、遺産分割協議に参加できないからです。
相続人の中に認知症患者がいる場合の遺産分割協議は、認知症患者に成年後見人をつけたあとに行う必要があります。
通常の遺産分割協議や相続手続きよりも完了までに時間がかかる点に注意が必要です。
4-5 相続人が行方不明のケース
法定相続人が行方不明となっていて相続財産の引継ぎを行えない場合には、家庭裁判所への不在者財産管理人選任の申立てが必要です。
不在者財産管理人とは、行方不明になった相続人のかわりに財産を管理する人物です。
不在者財産管理人選任の申立方法と必要書類は、下記の通りです。
申立てする人 | 行方不明者の利害関係人 |
申立て先 | 行方不明者の最終の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立て費用 |
|
必要書類 |
|
まとめ
成年後見制度を利用していた被後見人が死亡すると、成年後見人は代理権を失い職務も終了します。
ただし、被後見人の死亡後は成年後見制度を利用していた間の収支計算や相続財産の引継ぎを行わなければなりません。
また、家庭裁判所への報告や後見終了登記も行う必要があります。
成年後見人の一人が相続人である場合や被後見人に相続人が複数人いる場合には、相続トラブルに発展しやすいので管理計算や引継ぎに細心の注意を払わなければなりません。
相続トラブルを少しでも回避したいのであれば、成年後見人を家族や親族ではなく司法書士や弁護士などの専門家に依頼するのも良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、成年後見制度に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
成年後見人は火葬の許可を得られる?
被後見人が亡くなった後は後見業務自体は終了するものの急を要する事態に関しては成年後見人が対応しなければならないと法律によって決められており、家庭裁判所の許可が得られれば成年後見人が火葬の手続きや契約を行えます。
▶成年後見人の死後事務について詳しくはコチラ被後見人が死亡した後に行う手続きは?
被後見人が死亡した後は、成年後見人は下記の役割を担います。
・管理計算義務
・引継ぎ義務
・応急処分義務・死後事務