- 独身でも養子縁組できるのか
- 独身者が養子縁組したときの相続の取り扱い
- 独身者が養子縁組をするときの注意点
独身で配偶者がいない人であっても、養子縁組により自分の子を持てます。
また、養子縁組ではなくても里親制度を利用すれば独身の人でも子供を育てることが可能です。
養子は実子同様に相続権を持ち、家族や親族の状況によっては養子縁組が原因で相続トラブルに発展する恐れもあるので慎重に検討する必要があります。
本記事では、独身者も養子縁組できるのか、養子縁組をする際の注意点について解説します。
1章 独身でも養子縁組はできる
本記事の冒頭で解説したように、独身であっても養子縁組は可能です。
養子縁組には①普通養子縁組と②特別養子縁組の2種類があり、独身者が利用できるのは普通養子縁組のみです。
また、独身の人が子供を育てる目的で養子縁組を検討しているのであれば、養子縁組でなくても里親制度の利用で事足りる場合もあります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1-1 独身者が利用できるのは普通養子縁組のみである
養子縁組には①普通養子縁組と②特別養子縁組の2種類がありますが、独身者が利用できるのは普通養子縁組のみ
普通養子縁組と特別養子縁組の違いは、それぞれ下記の通りです。
上記のように、特別養子縁組は子供の福祉を目的とした制度であり、2024年時点では養親になれるのは結婚している夫婦のみです。
したがって、独身者は特別養子縁組を利用して養子を迎えることはできません。
一方で、普通養子縁組をするには、養親との養子の同意があればよく役所に必要書類を提出すれば手続きが完了します。
普通養子縁組の手続きは、養子縁組の当事者である養親または養子が、本籍地の市区町村に届出をして行います。
必要書類は、下記の通りです。
- 養子縁組届【ダウンロード】
- 届出人の本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
- 養子縁組許可審判書の謄本(養子が未成年の場合のみ)
- 養親と養子の戸籍謄本(本籍地の市区町村に届出をする場合は不要)
- 養子縁組に関する配偶者の同意書(配偶者がいる場合のみ)
- 外国の法律に関する資料(外国籍の人を養子縁組する場合のみ)
1-2 独身者でも里親制度に登録できる
里親制度を利用すれば、独身の人も養子縁組をせずに子供を育てられます。
里親制度とは、一時的に親元を離れて生活する子供たちに家庭環境を提供するための制度です。
里親になれば、一時的ではありますが子供を育て家庭を作ることができます。
養子縁組の目的が法律上の親子関係を作ることではなく「独身だが子供を育てたい」「育児を通じて社会貢献したい、次世代のために何かしたい」といったものであれば、里親制度の利用を検討しましょう。
里親制度の認定、登録をするための要件は、下記の通りです。
- 児童の養育について理解および熱意、児童に対して深い愛情を有している
- 養育可能な年齢である(子供が20歳に達したときに里親年齢が65歳以下であることが望ましい)
里親制度の認定、登録を受けるには、所定の研修を受けた上で地域の児童相談所に申請する必要があります。
研修受講から、里親の委託を受けるまでの流れは、下記の通りです。
- 所定の研修を受ける
- 児童相談所に申請する
- 児童の紹介を受ける
- 児童と交流する
- 児童相談所から委託を受ける
2章 独身者が普通養子縁組をしたときの相続の取扱い
養子の相続は実子と同様に扱われ、独身の人が養子をとると養子が相続権を持ちます。
養子縁組した場合の相続の取り扱いを本章では詳しく解説していきます。
2-1 養子が実子同様に相続権を持つ
養子は実子同様にに相続権を持ち、相続割合についても実子と変わりありません。
相続順位は、法律によって下記のように決められています。
常に相続人になる | 配偶者 |
第一順位 | 子供や孫 |
第二順位 | 両親や祖父母 |
第三順位 | 兄弟姉妹や甥・姪 |
上記のように、子供は相続順位が1位であり、実子も養子も扱いは変わりません。
独身者に実子がいなく養子を取った場合は、養子のみが遺産を相続します。
独身者に実子がいる場合は、実子と養子で遺産を等分します。
例えば、今は独身であっても過去に婚姻歴があり別れた配偶子との間に子供がいる場合などは、養子だけが遺産を受け継ぐわけではないのでご注意ください。
2-2 相続人が変わる場合がある
独身者が養子をとることで、相続人になる人物が変わる場合があります。
相続順位が高い人物が1人でもいる場合は、相続順位が低い人物は相続権を持たないからです。
例えば、下記のケースを考えてみましょう。
上記のケースでは、養子縁組をしない場合、独身者が亡くなると兄弟姉妹が遺産を受け継ぎます。
一方で、養子縁組をすると養子が相続順位1位となり、独身者の兄弟姉妹は遺産を受け取れなくなります。
このように、独身者が養子縁組すると、遺産を受け取れる人物が変わる場合があります。
兄弟姉妹との関係や遺産の金額によっては、トラブルが起きる可能性もゼロではないので、養子を迎える際には事前に兄弟姉妹に話しておくと良いでしょう。
3章 独身者が普通養子縁組をするときの注意点
独身者が養子を取る場合は、相続トラブルが起きないように対策しておく、認知症対策や死後事務手続きの対策を行っておく必要があります。
独身者が普通養子縁組をする場合は、下記に注意しましょう。
- 相続トラブルが起きるリスクがある
- 税控除に関する養子の人数には上限がある
- 養子縁組が相続税対策だと否認される恐れがある
- 独身者は認知症対策や死後事務手続きの対策をする必要がある
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 相続トラブルが起きるリスクがある
普通養子縁組をすることによって、養子と他の親族による相続トラブルが発生する可能性があります。
本記事の2章でも解説しましたが、養子を取ることによって相続人や相続割合が変わる場合があるからです。
例えば、本来相続人であった兄弟姉妹や甥、姪が自分が遺産を受け取れなくなることに反発し、養子縁組には反対することもあるでしょう。
兄弟姉妹や甥、姪が反対しても養子縁組は行えますが、将来の相続トラブルを避けるためにも養子を迎えることに理解してもらえるように事前に説明しておくと良いでしょう。
3-2 税控除に関する養子の人数には上限がある
相続税には基礎控除や生命保険金・死亡退職金の非課税枠などが用意されていますが、控除の対象になる養子の人数には上限があるのでご注意ください。
例えば、相続税の基礎控除は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」で計算可能です。
法定相続人の数に含められる養子の人数は、下記のように上限が決められています。
故人に実子がいない | 2人まで |
故人に実子がいる | 1人まで |
相続税対策のために養子をたくさん迎えても、控除については意味がないのでご注意ください。
相続税対策には複数の方法があるので、自分に合う方法を知りたければ相続に詳しい司法書士や弁護士に相談しましょう。
3-3 養子縁組が相続税対策だと否認される恐れがある
養子縁組の目的が相続税対策のみだと判断されると、税務署に養子縁組を否認される恐れがあります。
否認されると、先ほど解説した相続税の基礎控除や生命保険金・死亡退職金の非課税枠の計算に養子を含めれなくなってしまいます。
養子縁組が否認されるかはケースバイケースなので、相続税対策を目的として養子縁組を行う場合は、事前に税理士に相談すると良いでしょう。
3-4 独身者は認知症対策や死後事務手続きの対策をする必要がある
独身の人は養子縁組と合わせて、認知症対策や死後事務手続きの対策を行っておきましょう。
独身で親族がいないから、自分の老後や亡くなった後の手続きを任せるために養子を迎える計画を立ててる人もいるでしょう。
しかし、普通養子縁組は手続きが簡単なため、養子が養親の扶養義務などを理解しないまま手続きしてしまう恐れもあります。
その結果、養子縁組だけでは認知症対策や死後事務手続きの対策が不十分になる可能性もゼロではありません。
そのため、資産状況や老後や亡くなった後の希望によっては養子縁組以外で認知症対策や相続対策を行うことも検討しましょう。
養子縁組と異なり文書で権利と義務が明文化されるため、手続き後に義務を果たしてくれないリスクを軽減できるメリットもあるからです。
独身者が「自分の老後を誰かに任せたい」「自分が亡くなった後の手続きを依頼したい」と考えている場合は養子縁組ではなく、①身元保証サービスや②任意後見契約、③死後事務委任契約、④遺言書の作成を組み合わせるのがおすすめです。
次の章でそれぞれ詳しく紹介していきます。
4章 老後に向けて独身者がすべきこと
独身者が自分の老後に備える方法には養子縁組もありますが、養子縁組をしても養子が適切なケアをしてくれないなどの恐れがあります。
加えて、養子が適切なケアをしてくれない場合でも、養親と養子の双方が合意しないと養子縁組を解消できずトラブルに発展する可能性もゼロではありません。
したがって独身者が自分の老後に備えるためには、下記の方法で対策を立てていくのが良いでしょう。
- 身元保証サービスを活用する
- 死後事務委任契約を結ぶ
- 任意後見制度を利用する
- 遺言書を作成する
- 家族信託を活用する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 身元保証サービスを活用する
身元保証サービスとは、高齢者の日常支援や病院、買い物への付き添い、入院や入居の保証人になってくれるサービスです。
身元保証サービスでも、身寄りのない独身者でも安心して老後を過ごせます。
身元保証サービスを活用すれば、遠縁の親族に身元保証人になってくれるよう依頼する必要もなくなります。
一方で、身元保証サービスを利用すると費用がかかります。
利用するサービスの内容や契約する団体や会社によっても異なりますが、身元保証サービスのみだと30〜50万円ほどの費用がかかるケースが多いです。
また、身元保証サービスの契約は長期にわたることも多いため、依頼先の団体や運営会社を見極める必要があります。
グリーン司法書士法人の関連団体でも身元保証サービスを提供していますので、お気軽にお問い合わせください。
4-2 死後事務委任契約を結ぶ
死後事務委任契約を結んでおけば、自分が亡くなった後の葬儀の手配や事務手続きを第三者に依頼できます。
人が亡くなった後に発生する手続きは、家族や親族が行うことが一般的です。
しかし、身寄りのない独身者が亡くなった場合、手続きをする人が見つからない、もしくは遠縁の親族がやらなければならないケースもあります。
死後事務委任契約を利用して第三者に任せられる手続きは、主に下記の通りです。
- 通夜や葬儀
- 納骨・埋葬
- 電気やガス等の停止
- 入院していた病院や介護施設の費用の支払い
- 自宅や介護施設の片付け
死後事務委任契約を利用すれば自分が亡くなった後の手続きの負担を軽減できますが、身元保証サービスの利用と同様に費用がかかります。
また、死後事務委任契約の利用を親族が把握していなかった場合、遺族とのトラブルが起きる可能性もゼロではありません。
そのため、死後事務委任契約を結ぶ場合は、どのような業者とどのような契約を結ぶのかを見極め、親族の理解も得ておく必要があります。
4-3 任意後見制度を利用する
独身者は自分が認知症になったときのために、任意後見制度も活用しておくと良いでしょう。
任意後見制度とは、元気なうちに任意後見人を設定しておき、認知症になったときに任意後見人に財産管理や法的手続きを行ってもらえる制度です。
任意後見制度は自分で任意後見人を選べる、後見内容を自由に設定できるので、柔軟な認知症対策を行えるのがメリットです。
一方で、任意後見人に負担がかかることが予想されるため、独身者の場合は司法書士や弁護士などの専門家を任意後見人として選ぶのが良いでしょう。
4-4 遺言書を作成する
独身者は、相続対策として遺言書を作成しておくことをおすすめします。
遺言書を作成しておけば、自分が希望する人物に財産を遺せるからです。
遺言書であれば家族や親族だけでなく、お世話になった友人や知人などにも財産を遺せます。
独身者が遺言書を作成する際には、遺言執行者も選任しておきましょう。
遺言執行者とは、名前の通り「遺言を執行する人」、つまり遺言の内容を実現するために手続きを行う人です。
遺言執行者を選任しておかないと、相続人と受遺者が全員で協力して相続手続きを進めなければなりません。
遺族の負担を減らし自分の希望通りの相続を実現するためには、遺言書の作成と共に遺言執行者の選任もしておきましょう。
遺言執行者は家族や親族、受遺者なども選べますが、トラブルを減らしたいのであれば相続に詳しい司法書士や弁護士に依頼するのがおすすめです。
遺言書の作成を担当した司法書士や弁護士を遺言執行者に選任すれば、遺言書作成時の意図も遺族や受遺者に伝えてくれます。
4-5 家族信託を活用する
賃貸用不動産や株式などの資産も所有している人は、任意後見制度や遺言書の作成だけでなく家族信託の利用も検討しましょう。
家族信託とは、信頼できる親族に自分の財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
家族信託であれば、自分が認知症になり判断能力を失っても自宅の売却や賃貸不動産のリフォームや建て替えなども行えます。
認知症対策や相続対策には様々な方法がありますが、家族信託はその中でも柔軟な財産管理を行えるのが特徴です。
一方で、家族信託を行うには専門的な知識や経験が求められることも多いです。
希望に合う信託契約書を作成することは現実的ではないので、家族信託に精通した司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
養子縁組には①特別養子縁組と②普通養子縁組の2種類があり、独身者は普通養子縁組のみ利用可能です。
独身者であれば、普通養子縁組を行えば子供を持つことができます。
養子縁組をすれば養子と親子関係が生じるため、養子が相続人となり遺産を受け継ぎます。
また、養子を迎えたことにより相続人や相続割合が変わる可能性もあるので、事前に親族に相談しておくと良いでしょう。
また、養子縁組をしたからといって老後や自分が亡くなった後の準備が万全に整うわけではありません。
養子が自分が希望した通りのケアを行ってくれるとは限らないので、養子縁組以外の認知症対策や相続対策をしておく必要があります。
グリーン司法書士法人では、認知症対策や相続対策についての相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。