結婚をするときに、配偶者の連れ子と養子縁組するケースは珍しくありません。
しかし結婚生活が上手くいかず、離婚となってしまい、連れ子との養子縁組を解消したいケースもあるでしょう。
養子縁組の解消は可能ですが、養親と養子それぞれにとって重要な問題であり、トラブルが起きないように注意しなければなりません。
本記事では養子縁組を解消する方法や養子縁組解消後に起きる変化を解説していきます。
目次
1章 養子縁組を解消すると起きる3つの変化
まずは養子縁組を解消したときに起きる変化を整理してみましょう。
1-1 養子と養親の親子関係がなくなる
養子縁組の解消によって、これまで生じていた養子と養親の法律上の親子関係がなくなります。
法的には「養子縁組を結ぶ前の関係=他人」に戻るともいえるでしょう。
1-2 互いの相続権ががなくなる
養子縁組をすれば養子は実子同様に養親の相続人になれますが、養子縁組を解消すれば、養子は養親の法定相続人から外れます。
なお養子縁組の解消によって消滅するのは、これから発生する相続の権利だけであり、すでに養親の財産を相続をしている場合でも返還する必要はありません。
具体的には、死後離縁(亡くなった養親との養子縁組解消)のようなケースです。(死後離縁については3章で解説)
相続税対策として子供の配偶者や孫と養子縁組をした場合、養子縁組を解消すれば相続税対策も無効になってしまうのでご注意ください。
1-3 互いの扶養義務がなくなる
養子縁組の解消によって法律上の親子関係が消滅すれば、互いの扶養義務もなくなります。
扶養義務とは、自身の収入だけでは生活できない家族がいる場合、仕送りなどにより経済的な援助を行う義務のことです。
2章 養子縁組解消後の名字や戸籍
養子縁組を解消すると、養子の名字や戸籍にも影響があります。
解消後の名字や戸籍の変化を解説していきます。
2-1 養子縁組解消後の名字は原則として元の名字に戻る
養子縁組を解消すれば、養子の名字は原則として養子縁組を結ぶ前の名字になります。
ただし養子縁組を結んでから7年経過していれば、解消から3ヶ月以内に「縁氏続称の届出」を提出することによって、養親の名字を名乗れます。
「縁氏続称の届出の提出方法」は、以下の通りです。
提出者 | 養子縁組の解消によって、縁組前の名字に戻った方 |
提出先 | 本籍地・住所地・所在地のうちいずれかの市区町村役場 |
提出期限 | 養子縁組の解消の翌日から3ヶ月以内 |
必要書類 | 戸籍謄本(本籍地の市区町村役場に提出する場合) |
養子縁組を結んでから7年経過していない場合でも、家庭裁判所で「氏の変更許可申立」を行い許可を得られれば、養親の名字を名乗り続けることが可能です。
しかし氏の変更許可申立が認められるには、やむを得ない理由があると判断される必要があり、全てのケースで適用できるわけではありません。
「氏の変更許可申立の手続き方法」は、以下の通りです。
提出者 | 戸籍の筆頭者及びその配偶者 |
提出先 | 申立人の住所地の家庭裁判所 |
提出期限 | 養子縁組の解消の翌日から3ヶ月以内 |
手数料 |
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必要書類 |
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氏の変更の理由を証明する資料には過去の戸籍謄本や両親の戸籍謄本などが該当しますが、申立状況によっては、家庭裁判所から個別で必要書類を指示される場合があります。
2-2 養子は養親の戸籍から抜ける
養子縁組を結ぶと、養子は養親の戸籍に入ります。
しかし養子縁組を解消すれば、養子は養親の戸籍から抜けて以下の2つの方法を選択します。
- 元の戸籍に戻る
- 新しい養子のみ戸籍を編成する
2-3 養親の戸籍には養子縁組解消と記載される
養子縁組を解消しても、養親の戸籍に大きな変化はありません。
しかし養子が戸籍から抜けたことにより、養親と養子それぞれの戸籍の身分事項欄に「〇月〇日 養子縁組解消」と記載されます。
3章 養子縁組を解消する5つの方法と手続きの流れ
養子縁組を解消する方法は以下の5つがあり、それぞれ手続き方法が異なります。
- 協議離縁
- 調停離縁
- 審判離縁
- 裁判離縁
- 死後離縁
それぞれ確認していきましょう。
3-1 協議離縁
協議離縁とは、養子と養親の話し合いで養子縁組を解消する方法です。
協議離縁の手続きの流れは、以下の通りです。
- 養子離縁届を用意する
- 養親と養子が署名捺印をする
- 2名の証人にサインをもらい本籍地もしくは所在地の役所に提出する
3-2 調停離縁
調停離縁とは、協議離縁が成立しなかった場合に家庭裁判所に申立てを行い、養子縁組の解消をする方法です。
調停委員は養子縁組の解消や条件に関する合意を目的としています。
そのため、養子もしくは養親のどちらかが養子縁組の解消に合意しない場合、調停は不成立となってしまいます。
調停離縁の手続きの流れは、以下の通りです。
- 家庭裁判所で調停離婚の申立てを行う
- 調停が成立した場合、調停調書を作成してもらう
- 調停調書の謄本を家庭裁判所に申請する
- 養子離縁届と調停調書の謄本を役所に提出する
調停成立後は、自動で養子縁組の解消手続きが進むわけではなく、役所への書類提出が必要です。
養子離縁届と調停調書の謄本の提出は、調停成立後10日以内に行わなければなりません。
3-3 審判離縁
調停が不成立で終わってしまった場合には、審判離縁を行う場合もあります。
しかし、審判の結果が出たとしても養子もしくは養親の異議申立てがあれば、審判の効力がなくなるので実務ではあまり利用されていません。
そのため審判離縁が行われるケースとしては、調停では双方共に合意していたもののどちらかが途中で裁判所に来なくなった場合などと限られています。
審判離縁成立後の手続きの流れは、以下の通りです。
- 審判が成立したら自宅に審判書が届く
- 2週間経過後、審判が確定する
- 審判確定後、家庭裁判所に確定申告書を申請する
- 審判書と確定証明書、養子離縁届を役所に提出する
3-4 裁判離縁
調停で養子もしくは養親が、養子縁組の解消を強く拒み、審判での解決が難しい場合には裁判をして養子縁組の解消を行います。
裁判離縁を行う際には、以下の法律上の離縁理由が必要です。
- 離縁が認められたら自宅宛に判決書が届く
- 養子もしくは養親の控訴がなければ2週間後に確定する
- 裁判所に確定証明書の申請をする
- 判決書と確定証明書、養子離縁届を役所に提出する
3-5 死後離縁
死後離縁とは、養子もしくは養親が死亡した後に、生存している側が養子縁組の解消をする方法です。
死後離縁を行えば、養子と養親の親子関係が解消されるので、それぞれの親族との繋がりを断ち切れます。
養子が養親の死亡後に、養親の親族と縁を切るなどのケースで、死後離縁は活用される場合が多いです。
死後離縁の手続きの流れは、以下の通りです。
- 家庭裁判所に死後離縁許可審判申立書、養親の戸籍謄本、養子の戸籍謄本を提出する
- 家庭裁判所が許可したら、審判書と確定証明書、養子離縁届を役所に提出する
5章 養子縁組によって起きる5つのトラブル事例
養子と養親が法律上の親子となる養子縁組は、相続にも非常に大きな影響を与えます。
養子縁組を検討されている方は、養子縁組を解消するようなことにならないよう、トラブル事例を確認しておきましょう。
養子縁組で起きる代表的なトラブル例は以下の5つです。
- 元配偶者の子供が相続人になってしまう
- 養親の死亡後も養親親族との関係が続く
- 他の相続人が養子縁組に反対する
- 実子に養子の存在を知らせなかった
- 養子や実親が養子縁組解消を拒む
上記のトラブルに陥らないためにも、養子縁組の理由がなくなった時点で、解消を検討しておくと良いでしょう。
詳しく解説していきます。
5-1 元配偶者の子供が相続人になってしまう
結婚するときに配偶者の連れ子と養子縁組を結んだものの、離婚した場合には養子縁組の解消を検討しておきましょう。
配偶者と離婚をしたとしても、元配偶者の連れ子との養子縁組解消は別途手続きする必要があります。
養親が亡くなるまでに、養子縁組の解消手続きをしないと、元配偶者の子供が法定相続人となってしまいます。
血の繋がりがない養子が実子同様の相続権を持つことにより、他の相続人とのトラブルが発生する恐れがあります。
5-2 養親の死亡後も養親親族との関係が続く
養親が死亡したとしても、養子縁組の関係は解消されません。
そのため、養親が亡くなった後も養親の両親や兄弟などと親族関係が続きます。
養親の親族の扶養義務を負いたくない場合には、死後離縁の手続きをして、養親の親族との関係を断ち切るのが良いでしょう。
5-3 他の相続人が養子縁組に反対する
養子縁組を結ぼうとしたときに、他の相続人が養子縁組に反対する可能性もあります。
養子は実子同様に養親の法定相続人になれるので、養親の実子や兄弟からしたら、自分が将来受け取れる相続分が減る可能性があるからです。
5-4 実子に養子の存在を知らせなかった
養子縁組は養親と養子の間で合意があれば、手続き可能です。
そのため実子が親が養子をとっていた事実を知らずに生活している可能性もあります。
親が亡くなり相続が発生したタイミングで養子の存在を知ると、相続時に揉めてしまう可能性があります。
5-5 一方が養子縁組解消を拒む
養子縁組の解消は、将来の相続にも関わる問題であり、養親または養子の一方が養子縁組の解消を拒むケースもあるでしょう。
養子縁組は養子と養親の合意があれば解消できますが、双方の合意が得られない場合には、調停離縁や裁判離縁による解消をしなくてはなりません。
まとめ
養子縁組や解消は、養子や養親にとって重要な問題であり、将来の相続にも影響を与えます。
そのため養子縁組手続きを行うときには、事前にどんなトラブルが起きやすいのかを理解しておき、対策をしておくのが良いでしょう。
万が一、養子縁組をしたものの解消したいと思った場合には、養子と養親で話し合い、協議離縁を成立させるのが一番スムーズです。
養子もしくは養親が養子縁組の解消に反対している場合には、弁護士に相談してみるのも良いでしょう。
養子縁組をすれば養子と養親は法律上の親子関係が結ばれ、養子は実子同様に法定相続人になれます。
相続税対策として、養子縁組を検討中の方もいるかもしれません。
しかし相続税対策には養子縁組以外にも様々な方法がありますし、特定の人物に財産を相続させたい場合には「遺言書」「生前贈与」「家族信託」などにより、対応できる可能性もあります。
養子縁組を始めとした相続トラブル対策や遺言書の作成は、相続を専門に取り扱う司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
グリーン司法書士法人では、相続専門の司法書士が相続に関するご相談を無料で承っています。
また、オンラインでのご相談も可能ですので、お気軽にご相談ください。
よくあるご質問
-
養子縁組を解消するとどうなる?
-
養子縁組を解消すると養親と養子の間に親子関係がなくなり、互いの相続権や扶養義務がなくなります。
▶養子縁組の解消について詳しくはコチラ -
養子縁組の解消手続きのやり方は?
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養子縁組を解消する方法は、下記の5つです。
・協議離縁
・調停離縁
・審判離縁
・裁判離縁
・死後離縁
▶養子縁組の解消について詳しくはコチラ -
養子縁組を解消すると名字はどうなる?
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養子縁組を解消すれば、養子の名字は原則として養子縁組を結ぶ前の名字になります。
ただし養子縁組を結んでから7年経過していれば、解消から3ヶ月以内に「縁氏続称の届出」を提出することによって、養親の名字を名乗れます。
▶養子縁組後の名字について詳しくはコチラ