- 生活保護受給者が遺産を相続できるか
- 生活保護受給者が遺産を受け取ると生活保護が停止・廃止されるか
- 遺産相続が生活保護の不正受給につながるケース
生活保護を受給している人も、家族や親族を亡くした場合は遺産を相続できます。
ただし、相続した遺産の金額によっては、生活保護が受給停止もしくは廃止になる可能性があることを理解しておきましょう。
また、生活保護が停止、廃止されることを恐れ、相続についてケースワーカーに黙っておくことは絶対におやめください。
本記事では、生活保護受給者が相続人になったときの取り扱いや注意点を詳しく解説していきます。
目次
1章 生活保護受給者も遺産を相続できる
本記事冒頭でも解説しましたが、生活保護受給者でも遺産を相続できます。
ただし、遺産の金額によっては、生活保護が受給停止もしくは廃止となる可能性もあります。
生活保護受給者が遺産を相続したときの取り扱いを詳しく見ていきましょう。
1-1 相続財産の金額によっては生活保護が受給停止・廃止となる
相続した遺産の金額によっては、生活保護が受給停止、廃止となる恐れもあることを理解しておきましょう。
生活保護は何らかの理由で働けない、資産も収入もない人のために用意された制度だからです。
仮に、働いていなく収入がない人が遺産を取得した場合は、生活保護が受給停止、廃止され遺産を生活費に充てるように言われます。
そして、遺産をすべて生活費に充ててしまい、他に資産や収入がなくなったら、再び生活保護を申請できます。
いくらの遺産を受け取ったら生活保護が停止、廃止になるかは、次の章で詳しく解説します。
1-2 相続税が発生したときには通常通り申告・納税する
生活保護受給者であっても、一定額を超える遺産を受け取ったら相続税の申告や納税が必要です。
生活保護受給者は、住民税や国民年金保険料など様々なものが免除されますが、相続税は免除されないのでご注意ください。
ただし、相続税は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が用意されています。
遺産総額が相続税の基礎控除内に収まる場合は、相続税の申告や納税は必要ありません。
2章 生活保護が受給停止・廃止になる遺産の額はいくら?
先ほどの章で解説したように、遺産を受け取ると生活保護が受給停止、廃止になる恐れがあります。
受給停止、廃止の取扱いについて詳しく見ていきましょう。
2-1 受給停止・廃止の基準は明確に決められていない
「一体、いくらの遺産を受け取ると生活保護をとらえなくなるんだろう」と思われている人も多いかもしれませんが、受給停止、廃止の基準は明確には決められていません。
◯万円を超える遺産を受け取ったら、必ず生活保護が停止されるなどと一律には決められていないからです。
一般的には、臨時収入が入った場合、下記のように生活保護が停止、廃止となることが多いです。
- 停止:収入が増加してから6ヶ月以内に再び生活保護が必要になることが予測される
- 廃止:収入が増加してから6ヶ月を超えても、生活保護が必要にならないと予測される
上記の基準を参考にすれば、相続した遺産が生活保護費×6ヶ月分を上回れば、生活保護が廃止される可能性は高いといえるでしょう。
2-2 相続しても生活保護受給を続けられる遺産もある
遺産を相続しても金額や遺産の内容によっては、生活保護受給を続けられる場合があります。
例えば、遺産が少額であり最低限度の生活を維持することは難しいと判断されるケースや生活保護受給者が住んでいた自宅を相続した場合は、生活保護が受給停止、廃止とならない可能性もあるでしょう。
ただし、こちらも個々の事情によって判断されるため、遺産を相続したらまずは担当のケースワーカーに相談、報告する必要があります。
3章 相続が生活保護の不正受給につながるケース
遺産を相続したにもかかわらずケースワーカーに黙っていた場合や遺産を受け取れることを知っていたのに生活保護の申請をした場合は、不正受給と判断される恐れがあります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 相続についてケースワーカーに黙っていた
生活保護を受給している人が相続についてケースワーカーに黙っている行為は、不正受給と判断される可能性があります。
生活保護受給者は収入を得たときに、ケースワーカーに報告しなければならないからです。
先ほどの章で解説したように、遺産によって収入を得たケースでも金額によっては、生活保護が支給停止、廃止となる可能性もあります。
したがって、相続人になり遺産を受け取ったときには必ずケースワーカーや福祉事務所に報告しましょう。
3-2 遺産を受け取れることを知っていたのに受給申請をした
近いうちに相続が発生し遺産を受け取れることを知っていたにもかかわらず、生活保護の申請をすると「虚偽申請」にあたり、生活保護が廃止されます。
なお、生活保護を申請した本人が遺産を受け取らなくても、家族が受け取った場合も生活保護の支給が廃止されるのでご注意ください。
加えて、虚偽申請が悪質だと判断されると、これまでの生活保護費も返還するよう言われる恐れもあります。
4章 生活保護受給者が相続放棄することは原則認められない
生活保護を受給している人は、原則として相続放棄することは認められません。
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなる手続きです。
生活保護は、所有している資産や能力をすべて活用してもなお生活に困窮する場合にのみ受給可能であるとされています。
したがって、遺産を受け取れるにもかかわらず放棄してしまうのは、生活保護の受給要件に反すると判断されてしまいます。
ただし、亡くなった人が多額の借金を遺していたケースや、遺産が田舎の土地しかなく処分や活用に困るケースでは相続放棄が認められる可能性もあるでしょう。
相続放棄できるかの判断は遺産の金額や内容によって決まるため、相続放棄したい場合はケースワーカーや相続放棄に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
なお、相続放棄をするには、自分が相続人となってから3ヶ月以内に家庭裁判所での申立て手続きが必要です。
相続放棄の申立て方法および必要書類は、下記の通りです。
提出先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手続きする人 | 相続放棄する人(または法定代理人) |
手数料の目安 |
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必要なもの |
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5章 生活保護受給者が亡くなったときの取り扱い
先ほどの章までは、生活保護を受給している人が相続人となったケースを解説してきました。
本章では、生活保護を受給していた人が亡くなったときの取り扱いについて見ていきましょう。
生活保護受給者が亡くなったときの取り扱いで注意すべき点は、主に下記の通りです。
- 生活保護受給権は相続の対象とならない
- 相続人は役所から生活保護費の返還を求められる場合がある
- 生活保護受給者の預貯金は相続財産に含まれる
- 生活保護受給者の借金・退去費用も相続する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
5-1 生活保護受給権は相続の対象とならない
生活保護受給権は本人にのみ認められる権利ですので、相続財産には含まれません。
そのため、生活保護受給者が亡くなったとしても、相続人は生活保護を受給することはできません。
5-2 相続人は役所から生活保護費の返還を求められる場合がある
生活保護受給者が生活保護費を本来より多く受け取っていたケースでは、相続人が生活保護費の返還を求められるケースがあります。
具体的には、下記のケースでは、相続人に生活保護費の返還金が生じる可能性があります。
- 故人が年収、財産などの金額を偽って生活保護の申請をしていた場合
- 故人に資力があるにもかかわらず、生活保護を受給を続けていた場合
上記のように、亡くなった人が不正受給に当たる行為をしていた場合、生活保護費の返還を求められる可能性があります。
相続人が生活保護費を返還する必要があるかどうかわからない場合には、故人が住んでいた地域の福祉事務所やケースワーカーに問い合わせをしましょう。
なお、生活保護費の返還を求められた場合、相続放棄も可能です。
相続放棄をすれば、プラスの遺産もマイナスの遺産も一切受け継がずにすむので、面倒ごとに巻き込まれたくない場合や生活保護費の返還額が高額な場合は相続放棄も検討しましょう。
5-3 生活保護受給者の預貯金は相続財産に含まれる
生活保護受給者が所有していた預貯金は、通常の相続同様に相続財産として扱われます。
故人が預貯金を遺していた場合、故人が利用していた金融機関にて解約手続きを行いましょう。
ただし、生活保護受給者の預貯金を相続するときには、下記の点に注意が必要です。
- 死亡後に振り込まれていた生活保護費は返還しなければならない
- 故人の預貯金を引き出してしまうと、財産を相続したとみなされ相続放棄できなくなる恐れがある
先ほど解説したように、故人の生活保護費の返還を求められている場合、故人の預貯金は自己判断で引き出さず、相続放棄すべきかを司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
5-4 生活保護受給者の借金・退去費用も相続する
生活保護受給者の相続財産には、故人が残した借金や故人が住んでいた住宅の退去費用や葬儀費用も含まれます。
「生活保護を受けているのだから、借金はないはず」と考える相続人もいますが、生活保護を受ける前に借金を借りていた可能性もありますし、生活保護中を借金をすることは不可能ではありません。
故人が賃貸住宅に住んでいた場合には、退去費用と現状回復費用を相続人が支払わなければならない点にも注意しなければなりません。
このような事情から、相続できるプラスの財産がなければ念のため相続放棄をしておくのも選択肢のひとつといえるでしょう。
相続に詳しい司法書士や弁護士であれば、故人の財産調査を行い、相続放棄すべきかのアドバイスを行えます。
まとめ
生活保護を受給している人であっても、家族や親族が亡くなったときには相続人として遺産を受け継げます。
しかし、遺産を相続し生活していくだけの収入や資産があると判断されると、生活保護が停止、廃止される可能性もあるのでご注意ください。
また、生活保護を受給している人は、原則として相続放棄をすることは認められません。
ただし、故人が遺した遺産が少ない場合や処分に困る財産を遺した場合、多額の借金を遺している場合は、相続放棄が認められる可能性もあります。
生活保護受給者が相続放棄できるかの判断は、遺産の状況によって変わってくるため、自己判断せず相続放棄に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
グリーン司法書士法人では、相続放棄についての相談をお受けしています。
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