相続放棄をすると故人が遺したプラスの財産もマイナスの財産も一切受け取れなくなります。
一方で、相続放棄をしても支給要件を満たせば遺族年金や未支給年金を受給可能です。
遺族年金や未支給年金の受給権は、遺産ではなく遺族の権利だからです。
本記事では、遺族年金や未支給年金と相続放棄の関係について解説します。
相続放棄に関しては、下記の記事で詳しく解説しているのでご参考にしてください。
目次
1章 相続放棄をしても遺族年金・未支給年金を受け取れる
相続放棄をすると、亡くなった人が遺した財産を一切受け継げなくなります。
しかし、遺族年金や未支給年金は相続放棄しても受け取れます。
遺族年金を受給する権利は、遺族固有のものであり、相続財産には含まれないからです。
また、遺族年金だけでなく「国家公務員等共済組合法による共済年金」「国民年金の遺族共済年金」に関しても、相続放棄をしても受け取れます。
相続放棄時の遺族年金と未支給年金の取り扱いについて詳しく解説していきます。
1-1 遺族年金は受取人固有の財産として扱われる
亡くなった人が大黒柱で家族の収入を支えていた場合に、一定の要件を満たすと遺族年金が支給されます。
遺族年金は相続財産ではなく遺された家族や親族の固有の権利として扱われます。
そのため、相続放棄をした相続人も要件を満たせば遺族年金を受給できますし、遺族年金を受け取る人も相続放棄を行えます。
遺族年金は要件を満たす人に自動的に支給されるわけではなく、申請手続きをしないと受け取れません。
収入を支えていた家族が亡くなった際には、遺族年金の支給手続きをしましょう。
なお、遺族年金の申請手続きの時効は5年です。
期限を過ぎると、過去に発生した遺族年金を受給できない恐れがあるのでご注意ください。
1-2 要件を満たすと相続放棄の有無に関わらず未支給年金を受け取れる
年金は2ヶ月に一度支給されるので、故人が亡くなったタイミングによっては未支給年金が発生します。
年金受給権は相続財産に含まれない一方で、下記の要件を満たすと未支給年金は家族が受け取り可能です。
- 亡くなった人の配偶者や子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹
- 相続発生時に亡くなった人と生計を同じくしていた
上記の要件を満たし、未支給年金が支給される場合は相続放棄をしても受け取れます。
未支給年金は亡くなった人ではなく、残された家族のために支給されるものと考えられるからです。
2章 相続放棄をしても受け取れるお金
相続放棄をすると亡くなった人が遺した借金の返済義務がなくなる一方で、預貯金や不動産などのプラスの財産も一切相続できなくなります。
それに対して、香典や故人以外を受取人とした死亡保険金や死亡退職金は受け取っても相続放棄を行えます。
相続放棄をしても受け取れるお金は、主に下記の通りです。
- 受取人が故人以外の死亡保険金や死亡退職金
- 香典
- 仏壇やお墓などの祭祀財産
- 葬祭費や埋葬料
- 遺族年金や未支給年金
2-1 相続放棄をすると受け取れなくなるお金
亡くなった人が遺した財産を受け取り処分すると「相続する意思がある」と判断され、相続放棄が認められなくなってしまいます。
相続放棄を検討するのであれば、下記の財産は受け取らないようにしましょう。
- 故人の預貯金や不動産など
- 受取人が故人の死亡保険金や死亡退職金
- 高額療養費の還付金
- 税金や健康保険などの還付金
- 故人の未払い給与
死亡保険金や死亡退職金は受取人が誰かによって、相続時の取り扱いが変わるので注意が必要です。
受取人が故人もしくは指定されていない場合は、相続財産として扱われるので相続放棄する場合は受け取れません。
「相続放棄したいのに受け取ってしまった」とならないように、保険証券や亡くなった人がの勤務先の就業規則や退職金規定を確認しておきましょう。
3章 相続放棄をするときの注意点
相続放棄をするときには、故人の財産の処分だけでなく申立て期限についても注意しなければなりません。
相続放棄をする際には、下記の3点に注意しましょう。
- 相続放棄には期限がある
- 相続財産を勝手に処分すると相続放棄できなくなる
- 相続放棄すると次の順位の相続人に相続権が移る
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 相続放棄には期限がある
相続放棄をするには家庭裁判所への申立てが必要であり、自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内に手続きをしなければなりません。
相続放棄の申立て時には、故人と相続人の関係性や故人の死亡を証明する戸籍謄本などが必要です。
甥や姪など故人と関係の薄い人物が相続放棄する場合、必要書類の数も増え収集に手間と時間がかかるので早めに準備を始めましょう。
相続放棄の申立て方法の概要および必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 | 相続放棄する人(または法定代理人) |
手続き先 | 亡くなった人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手数料 |
|
必要書類 |
|
3-2 相続財産を勝手に処分すると相続放棄できなくなる
期限内の相続放棄であっても、故人の財産の処分状況や相続人の行動によっては申立てが認められない場合もあるのでご注意ください。
相続放棄をする際には、故人の財産を手付かずの状態で保管する必要があり、相続人が勝手に処分することはできません。
- 相続財産を勝手に売却する
- 故人の借金や請求書を遺産から勝手に支払った
- 故人の自宅の片付けや不動産の売却、取り壊しを行った
上記の行為は法定単純承認と呼ばれ、「相続する意思がある」と裁判所に判断され相続放棄が認められなくなる恐れがあります。
相続放棄をする場合は法定単純承認にあたる行為をしないように、遺品整理や賃貸住宅の片付けなどをする際に専門家に相談して指示を仰ぎながら行うのが良いでしょう。
3-3 相続放棄すると次の順位の相続人に相続権が移る
同一順位の相続人が全員相続放棄すると、次の相続順位の相続人に相続権が移ります。
相続人の順位は、法律によって下記のように決められています。
常に相続人になる | 配偶者 |
第一順位 | 子や孫 |
第二順位 | 親や祖父母 |
第三順位 | 兄弟姉妹や甥・姪 |
例えば、亡くなった人の子供が全員相続放棄すると、亡くなった人の親や祖父母が相続人となります。
優先順位の高い相続人が相続放棄したことにより相続権が移ったとしても、家庭裁判所が新たに相続人になった人物に知らせることはありません。
次に相続人になる親族が慌てないようにするためにも、相続放棄をする際には理由と相続放棄したことを次の相続人になる人物に伝えておくのが良いでしょう。
まとめ
遺族年金や未支給年金は相続財産ではなく、遺された家族や親族に対して支給されると考えられています。
そのため、相続放棄をしても支給要件を満たしていれば遺族年金や未支給年金を受け取り可能です。
遺族年金や未支給年金は自動的に支給されるわけではなく、手続きが必要なので申請を忘れないようにしましょう。
また、相続人が勝手に遺産を処分すると相続放棄が認められなくなってしまう点にもご注意ください。
相続放棄を検討する場合は遺族年金や未支給年金以外の遺産の取扱いを慎重にする必要がありますし、自己判断ではなく相続放棄に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
グリーン司法書士法人では、相続放棄に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですのでまずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
相続放棄の際にしてはいけないこととは?
相続財産を受け取り使用する行為は単純承認とみなされ、相続放棄が認められなくなってしまいます。
自己判断で遺産を使用、処分することはやめましょう。相続放棄したら何ももらえない?
相続放棄をしても、下記の財産は受け取り可能です。
・受取人が故人以外の死亡保険金や死亡退職金
・香典
・仏壇やお墓などの祭祀財産
・葬祭費や埋葬料
・遺族年金や未支給年金