遺族厚生年金とは、年金加入者が亡くなったときに支給される遺族年金のひとつです。
遺族年金には、「遺族厚生年金」の他に「遺族基礎年金」もあります。
遺族厚生年金は、亡くなった方が会社員や公務員で厚生年金に加入していた場合に支給されます。
遺された家族の生活設計を立てるためにも、遺族厚生年金がいくらもらえるのか、いつまでもらえるのかを把握しておきましょう。
本記事では、遺族厚生年金はいつからいつまでもらえるのか、いくらもらえるのかを解説していきます。
目次
1章 遺族厚生年金とは
遺族厚生年金とは、遺族年金のひとつであり、年金加入者が亡くなったときに家族が受け取れる年金です。遺族年金は、以下の2種類に分けられます。それぞれの特徴は以下の通りです。
遺族厚生年金 | 遺族基礎年金 | |
支給目的 |
| 18歳までの子に対する子育て支援 |
年金受給者 | 亡くなった方の配偶者や子、両親、孫 | 亡くなった方の配偶者と子 |
年金額の計算方法 |
| 子供の人数によって<異なる/td> |
上記のように遺族厚生年金は、亡くなった方が会社員や公務員で厚生年金に加入していた際に、遺族に対して支給される年金です。
次の章で、遺族厚生年金の受給資格について詳しく確認していきましょう。
2章 遺族厚生年金の受給資格
自分が遺族厚生年金の受給資格者かどうかは、以下のチャートで確認できます。
遺族厚生年金を受給するには、亡くなった方と遺族がそれぞれ受給資格を満たす必要があります。
それぞれ詳しく確認していきましょう。
2-1 亡くなった方の受給資格
亡くなった方が以下のどれかに当てはまる際には、遺族厚生年金の受給資格者に該当します。
- 厚生年金の被保険者であった方が亡くなったとき
- 厚生年金の被保険者である期間に初診日がある病気やケガが原因で、初診日から5年以内に亡くなったとき
- 1級、2級の障害厚生年金を受けている方が亡くなったとき
- 老齢厚生年金の受給者もしくは老齢厚生年金を受給するために必要な加入期間を満たしている方が亡くなったとき
2-2 遺族の受給資格
遺族厚生年金を受給するには、生計維持要件を満たし、対象となる遺族の範囲に含まれる必要があります。それぞれ解説していきます。
2-2-1 生計維持要件
遺族は亡くなった方との生計維持要件を満たす必要があります。
生計維持要件は、以下の通りです。
- 亡くなった方と同居している
- 前年の収入が855万円未満(所得655万5千円未満)であること
亡くなった方と別居をしていた場合でも、仕送りを受けていた場合や健康保険の扶養親族であった場合には、生計維持要件を満たしていると判断されます。
2-2-2 遺族に含まれる範囲
遺族厚生年金を受けられる遺族と優先順位は決まっています。
対象となる遺族と優先順位の詳細は、以下の通りです。
順位 | 遺族 | 備考 |
1位 |
|
|
2位 | 子や孫 | 下記に当てはまる子のみが受給できる
|
3位 |
|
|
族厚生年金は優先順位が高い遺族にのみ支給されます。
そのため亡くなった方の妻がいる場合、両親は遺族厚生年金を受け取ることができません。
3章 遺族厚生年金はいつからいつまでもらえる?
遺族厚生年金をいつまで受給できるかは、受給者によっても異なります。
なお、遺族厚生年金の支給開始時期は、年金加入者が死亡した日の翌月からです。
本記事では亡くなった方の妻と夫、子供が遺族厚生年金をいつからいつまで受給できるのか、解説していきます。
3-1 妻の場合
亡くなった方の妻が遺族厚生年金を受け取れる期間は、子供の有無と自分の年齢によって異なります。
上記のように妻の場合は、子供がいるもしくは自分の年齢が30歳以上の場合で、配偶者が死亡した日の翌月から生涯にわたって遺族厚生年金を受給できます。
3-2 夫の場合
妻が亡くなった時点で55歳以上だった夫は、60歳から生涯にわたり、遺族厚生年金を受給できます。
ただし夫が妻が亡くなった時点で55歳以上かつ、遺族基礎年金を受給中の子がいる場合には60歳未満でも遺族厚生年金を受給可能です。
3-3 子供の場合
亡くなった方の子供は、以下のいずれかの期間まで、遺族厚生年金を受給できます。
- 年金加入者が亡くなった翌月から18歳に到達する年度末(3月31日)
- 年金加入者が亡くなった翌月から20歳を超えるまで(障害等級1級・2級の場合)
4章 遺族厚生年金の計算方法【受給額目安の早見表】
続いて、遺族厚生年金がいくらくらい受け取れるのか受給額の早見表や計算方法を紹介していきます。遺族厚生年金の金額は、亡くなった方の収入によって支給額が変わります。
遺族厚生年金の受給額の目安
遺族年金の支給額の早見表は、以下の通りです。
上記の表の通り、遺族厚生年金は亡くなった方の平均標準報酬月額によって異なります。
また亡くなった方に18歳未満の子供がいる場合には、遺族厚生年金と合わせて遺族基礎年金も支給されます。
遺族厚生年金の計算方法
実際に自分がもらえる遺族厚生年金を計算したいときには、以下の計算式を用います。
遺族厚生年金の計算方法は、非常に複雑であり、自分で支給額を計算するのはあまり現実的ではありません。
また計算する際に必要になる平均標準報酬月額や厚生年金の加入月額がわからない場合もあるでしょう。
自分がいくら遺族厚生年金を受け取るのか知りたいときには、ねんきん定期便を確認するのがおすすめです。
ねんきん定期便には、以下の情報が記載されています。
- 厚生年金や国民年金の加入実績
- 現段階で受け取れる年金額
- 60歳まで年金に加入した場合に受け取れる年金の見込み額
遺族厚生年金の支給額は、老齢厚生年金の3/4です。
ねんきん定期便で、老齢厚生年金の支給額を確認すれば、遺族厚生年金の支給額も比較的簡単に計算できます。
4-1 遺族厚生年金が上乗せされる要素
遺族厚生年金には、支給額が上乗せされる制度が2つ用意されています。
1)中高齢寡婦加算・・・子がいない40歳以上の妻に対する加算
2)経過的寡婦加算・・・中高齢寡婦加算の終了後、受け取れる年金額の減少を防ぐための加算
それぞれ確認していきましょう。
中高齢寡婦加算
中高齢寡婦加算年金とは、子がいない40歳以上の妻が受けられる制度です。
受給資格や加算金額は、以下の通りです。
受給資格 | 下記全ての条件を満たす方
|
受給期間 | 妻が40歳から65歳になるまでの期間 |
加算金額 | 遺族基礎年金の満額の3/4 |
遺族基礎年金は、年金額の改訂によって毎年金額が変動します。
妻が65歳になると、中高齢寡婦加算年金は打ち切られますが、かわりに妻の老齢基礎年金の支給が開始されます。
経過的寡婦加算
経過的寡婦加算とは、中高齢寡婦加算を支給が終了したときに、受け取れる年金額の減少を防ぐための補填制度です。
経過的寡婦加算は、遺族厚生年金同様に自分が亡くなるまでずっと支給されます。
経過的寡婦加算の受給資格や加算金額は、以下の通りです。
受給資格 | 下記全ての条件を満たす方
|
受給期間 | 妻が65歳以上になってから生涯 |
加算金額 | 年齢に応じて異なる |
経過的寡婦加算は、昭和31年4月2日より前に生まれた方に適用される加算制度です。
妻の生年月日に応じて、加算額も異なります。
5章 遺族厚生年金の手続き方法や必要書類
遺族厚生年金は自動で支給開始されるのではなく、年金加入者が亡くなったときに手続きを行う必要があります。
手続きの流れは、以下の通りです。
- 死亡届を提出する
- 資格喪失届もしくは年金受給権者死亡届を提出する
- 年金事務所もしくは年金相談センターに必要書類を提出する
家族が亡くなった際には、様々な手続きが必要です。
手続きの中には期限が決められているものも多いので、漏れが内容に計画的に行っていきましょう。
家族が亡くなった後にすべき手続きは、以下の記事で詳しく解説しています。
5-1 死亡届を提出する
家族が亡くなったら、まずは死亡届を提出しましょう。
死亡届を提出すると亡くなった方の住民票に死亡と記載され、遺族厚生年金を始めとした手続き時に死亡を証明できます。
遺族厚生年金やその他の相続手続きをスムーズに行うためにも、まずは死亡届を市区町村役場に提出しましょう。
死亡届の提出方法や必要書類は、以下の通りです。
提出期限 | 死亡から7日以内 |
提出する人 | 亡くなった方の配偶者や親族、同居人 (提出自体は上記の方以外も可能) |
提出先 |
|
必要書類 |
|
5-2 資格喪失届もしくは年金受給権者死亡届を提出する
続いて、資格喪失届もしくは年金受給権者死亡届を提出します。
亡くなった方が現役の年金加入者だった場合には、会社等を通じて資格喪失届を提出します。
資格喪失届の提出方法や必要書類は、以下の通りです。
提出期限 | 死亡後、5日以内 |
提出する人 | 亡くなった方が勤めていた会社の事業主 |
提出先 | 事業所の所在地を管轄する年金事務所 |
必要書類 |
以下の書類は、支給されている場合のみ提出
|
加入している健康保険や厚生年金によって、必要書類が異なる可能性もあります。
勤め先の会社から指示された書類を用意するようにしましょう。
亡くなった方が年金受給者だった場合には、社会保険事務所へ年金受給権者死亡届を提出します。
年金受給権者死亡届の提出方法や必要書類は、以下の通りです。
提出期限 | 死亡日から10日以内 |
提出する人 | 亡くなった方の配偶者や親族、同居人 |
提出先 | 社会保険事務所 |
必要書類 |
|
なお、年金受給権者死亡届の提出は、提出期限に間に合わなくても罰則等はありません。
ただし提出が遅れ、死亡後に支給された年金に関しては返還義務が生じるので、ご注意ください。
5-3 年金事務所もしくは年金相談センターに必要書類を提出する
最後に年金事務所もしくは年金相談センターにて、遺族厚生年金の支給手続きを行いましょう。
遺族厚生年金は、死亡の翌日から5年以内に手続きをしないと支給されなくなってしまうので、ご注意ください。
手続き方法や必要書類は、以下の通りです。
提出期限 | 死亡日の翌日から5年以内 |
提出する人 | 遺族厚生年金を受け取る方 |
提出先 | 年金事務所もしくは年金相談センター |
必要書類 |
|
住民票の写しや収入確認書類に関しては、マイナンバーを提出すれば書類の添付を省略可能です。
上記以外にも、亡くなった方の死亡理由が交通事故など第三者行為によるものの場合には、以下の書類も必要です。
- 第三者行為事故状況届
- 交通事故証明もしくは事故が確認できる書類
- 確認書
- 被害者が扶養していたことがわかる書類(源泉徴収票など)
- 損害賠償金の算定書(すでに決定している場合)
この他にも書類が必要になるケースがあるので、お近くの年金事務所や年金相談センターにまずは問い合わせてみるのが良いでしょう。
自分で遺族厚生年金の手続きが難しい場合には、社会保険労務士に依頼することも可能です。
6章 遺族厚生年金を受け取るときの注意点
最後に遺族厚生年金を受け取る際に、注意すべきことを3つ紹介していきます。
- 子供がいない20代の妻は遺族厚生年金が5年間しか支給されない
- 遺族厚生年金は非課税かつ申告不要
- 種類が異なる年金を両方満額受け取ることはできない
それぞれ詳しく解説していきます。
6-1 子供がいない20代の妻は遺族厚生年金が5年間しか支給されない
子供がいなく30歳未満の妻は、遺族厚生年金の受給要件を満たしていても、5年間しか遺族厚生年金が支給されません。
遺族厚生年金の支給目的は、遺族の短期的な生活支援と遺族の老後の生活支援です。
30歳未満かつ子供がいない妻は、今後も働きに出るなど自分で生計を立てていくことができると考えられ、遺族厚生年金の支給は5年間のみとなっています。
子供がいない30歳未満の妻は、遺族厚生年金の支給が5年間のみであると把握しておき、支給停止となるまでに生活基盤を整えておきましょう。
6-2 遺族厚生年金は非課税かつ申告不要
遺族厚生年金は、支給額に関わらず所得税や住民税の課税対象には含まれません。
確定申告の必要もないので、ご安心ください。
一方で老齢厚生年金は、年齢に応じた一定の範囲内までであれば非課税になります。
6-3 種類が異なる年金を両方満額受け取ることはできない
公的年金制度は、1人1年金という原則があります。
そのため種類が異なる年金を同時に受給することは、原則としてできません。
例えばこれまで遺族厚生年金を支給されていた方が、障害厚生年金も支給対象になった場合には、両方の年金は受給できないので自分でどちらの年金を受給するか選択する必要があります。
ただし以下の年金は公的年金の2階建て構造として支払われる年金なので、合わせて1つの年金とみなされ、両方を受給できます。
- 老齢基礎年金と老齢厚生年金
- 遺族基礎年金と遺族厚生年金
- 障害基礎年金と障害厚生年金
また上記の年金の組み合わせ以外でも、種類の異なる年金を2種類以上受給できる場合があります。
詳しくは以下の組み合わせ表をご確認ください。
6-4 再婚・養子縁組をすると遺族厚生年金の受給が止まる
遺族厚生年金の受給者が再婚した場合や直系血族もしくは直系姻族以外の養子になった場合、受給権があっても遺族厚生年金の受給が停止されるのでご注意ください。
まとめ
遺族厚生年金とは、年金加入者が亡くなったときに遺された家族への生活支援を目的に支給される年金です。
遺族厚生年金は、亡くなった方と生計を共にしていた配偶者や子供、両親や祖父母などが受給できます。
支給額は亡くなった方の平均標準報酬月額や厚生年金の加入月額によって決まりますが、計算方法は複雑です。
計算に使用する資料を集めるのも大変なので、ねんきん定期便を見て遺族厚生年金の支給額を計算するのが良いでしょう。
遺族厚生年金は、家族が亡くなったときに自動で支給が開始されるのではなく、お近くの年金事務所もしくは年金相談センターにて手続きを行う必要があります。
手続きは年金加入者の死亡の翌日から5年までに行う必要があるので、ご注意ください。
家族が亡くなった際には、遺族厚生年金の支給手続き以外にも様々な手続きを行わなければなりません。
手続きを漏れなくスムーズに行うためにも、必要に応じて司法書士や税理士などの専門家に相談することもご検討ください。
グリーン司法書士法人では、家族が亡くなったときの相続手続きに関する相談を受け付けています。
初回相談は無料ですし、オンラインによる相談も可能なのでまずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
夫が死んだら妻は厚生年金をいくらもらえる?
遺族厚生年金の金額は、亡くなった方の収入によって支給額が変わります。
例えば、平均標準報酬月額が20万円の場合で妻のみの場合、遺族厚生年金は年間32万円支給されます。
▶遺族厚生年金について詳しくはコチラ遺族年金と自分の年金は両方もらえる?
公的年金制度は、1人1年金という原則があります。
そのため種類が異なる年金を同時に受給することは、原則としてできません。
▶遺族厚生年金について詳しくはコチラ