相続対策で公正証書遺言を作成したものの相続人や資産状況が変わり、書き換えをしたいと考えることもあるでしょう。
公正証書遺言は原本を公証役場で保管しているので、作成した遺言書そのものを修正することはできません。
公正証書遺言の書き換えをする際には、新しく遺言書を作成しなおす必要があります。
なお、相続対策で用いられる遺言書は主に3種類ありますが、それぞれの遺言書には優劣がありません。
そのため、遺言書の種類に関わらず最も新しく作成された遺言書が効力を発揮します。
ただし、書き換え時には法律によって決められた方法で遺言書を作成しないと、修正前の遺言書が有効になってしまうので注意が必要です。
本記事では、公正証書遺言の書き換え方法や注意点を解説していきます。
遺言書の種類については、下記の記事で詳しく解説していますので、ご参考にしてください。
1章 公正証書遺言の書き換え・変更はできる
過去に公正証書遺言を作成していたとしても内容の変更や書き換えを行うことは全く問題ありません。
ただし、遺言書は法律で決められた要件を満たさなければ効力を持ちません。
公正証書遺言の書き換えや変更に関する取り扱いは、下記の通りです。
- 法律で決められた流れで変更しなければ書き換えはできない
- 遺言書の種類の変更もできる
- 生前の行動で公正証書遺言を無効にできる
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 法律で決められた流れで変更しなければ書き換えはできない
公正証書遺言の書き換えや変更をする場合は、法律によって決められた流れで書き換えをしなければなりません。
決められた手順に従わず公正証書遺言を書き換えても無効になり、変更前の遺言書が効力を持ったままになってしまいます。
1-2 遺言書の種類の変更もできる
相続対策で使用される遺言書は主に3種類ありますが、遺言書の種類によって優先順位が決まっているわけではありません。
要件を満たした遺言書が複数ある場合、遺言書の種類に関わらず最も後に作成されたものが効力を持ちます。
そのため公正証書遺言を書き換えるのであれば、公正証書遺言を作り直すのではなく、新たに自筆証書遺言を作成するのでも法的には問題ありません。
ただし、自筆証書遺言は下記のリスクやデメリットがある点には注意が必要です。
- 作成後は原本を自宅で保管する必要があり、紛失や改ざん、破損リスクがある
- すべて自筆で記載しなければならず、内容に不備があると無効になる
- 相続発生後、家庭裁判所で遺言書の検認手続きをしなけらばならない
自筆証書遺言は自宅などで保管するので保管場所によっては、自分が亡くなった後に遺族が遺言書の存在に気付かない可能性もゼロではありません。
また自筆証書遺言が無効になると、書き換えたかった公正証書遺言が効力を持ってしまうのでご注意ください。
そのため、公正証書遺言を書き換えたいときは自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言で変更もしくは作り直しをするのがおすすめです。
1-3 生前の行動で公正証書遺言を無効にできる
公正証書遺言の内容を変更や無効にするには、遺言書の書き換えだけでなく、生前の行動によっても可能です。
遺言書に記載していた財産を自分で処分する、他の人に贈与すれば遺言書を撤回できます。
例えば、土地を長男に相続させると遺言書に書いていたものの長男に遺したくないと考えたのであれば、土地を売却してしまうか長男以外の人物に贈与しても良いでしょう。
ただし、相続が発生したときに遺言書に記載された財産が処分されている、他の人の財産になっていると当事者が混乱しますしトラブルに発展する恐れもあります。
可能であれば、次章以降で紹介する方法で公正証書遺言を書き換えるのがおすすめです。
2章 公正証書遺言を書き換える流れ・必要書類
公正証書遺言の書き換えの流れは、公正証書遺言をいちから作成する方法と同様です。
具体的には、下記の流れで書き換えが行われます。
- 必要書類を収集する
- 証人2人を揃える
- 変更したい遺言書の文案を作成する
- 公証人に遺言内容を確認してもらう
- 公証人役場で公正証書を作成する
- 公証役場で公正証書遺言の原本を保管してもらう
それぞれ解説していきます。
STEP① 必要書類を収集する
公正証書遺言を新しく作成するときと同様に、まずは必要書類を収集しましょう。
必要書類は、下記の通りです。
自筆証書遺言と違って公正証書遺言は一部修正はできないので、書き換えをするときも新規で遺言書を作成するときと同じ書類を用意しなければなりません。
STEP② 証人2人を揃える
公正証書遺言の書き換え時にも証人2人が必要になります。
証人は下記の欠格事由に該当しない人であれば、誰でもなれます。
- 未成年者
- 推定相続人や受遺者・これらの配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者や四親等内の親族・書記および使用人
公正証書遺言の書き換え時に証人を用意する方法は、下記の通りです。
- 自分で証人になってくれる人を探す
- 司法書士や弁護士などの専門家に依頼する
- 公証人役場で証人を準備してもらう
自分で証人になってくれる人物を探す場合、費用はかかりませんが証人が欠格事由に該当すると作成した公正証書遺言が無効になってしまうのでご注意ください。
STEP③ 変更したい遺言書の文案を作成する
必要書類を収集したら、公正証書遺言の文案を作成しましょう。
以前、公正証書遺言を作成していて書き換えをしたいのであれば、自分の財産はある程度把握できているはずです。
そのため、書き換え時には下記の点を確認しながら遺言書の文案を考えていきましょう。
- 前回の遺言書を作成したときと状況はどのように変化したか
- 遺言書のどの部分を書き替えしたいのか
- 書き換え後、誰にどの財産をどれくらいの割合で相続させたいのか
遺言書の文案を考えるのが難しい場合や次は書き換えをしなくてすむように、不測の事態まで考慮した遺言書にしたいのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士に依頼するのがおすすめです。
STEP④ 公証人に遺言内容を確認してもらう
公証役場に行ってその場で公正証書遺言を作成してくれるわけではなく、事前に公証人と打ち合わせをし、遺言書の原案を作ってもらう必要があります。
公証人との打ち合わせ内容は、主に下記の通りです。
- 遺言者について
- 相続人について
- 遺言内容
- 証人の準備について
- 遺言作成の日時や場所
遺言書の作成場所は原則として公証役場ですが、体調不良などで難しい場合は自宅や病院への出張も可能です。
STEP⑤ 公証人役場で公正証書を作成する
予約した遺言書作成の日時になったら証人2人と公証役場に行き、公正証書遺言を作成しましょう。
公証人との打ち合わせは事前にすんでいるので、当日は遺言書の文言を最終確認し署名と押印を行います。
遺言書作成の当日の流れは、下記の通りです。
- 公証人が証人2人の前で遺言者の本人確認を行う
- 公証人が用意していた遺言書の原案を読み上げる
- 内容に問題がなければ、遺言者本人が遺言書に署名押印する
- 証人2人と公証人が遺言書に署名押印する
- 公正証書遺言の写しを受け取る
STEP⑥ 公証役場で公正証書遺言の原本を保管してもらう
作成し直した公正証書遺言は公証役場で原本が保管されます。
そのため、自筆証書遺言と違って改ざんや紛失、隠ぺいされる心配もなく、遺言者が死亡した後も遺言書の検認手続きは不要です。
なお、公正証書遺言の書き換えをした場合、修正前の公正証書遺言も公証役場にて引き続き保管されます。
認知症になり判断能力を失った遺言者が公正証書遺言の修正をしたため、修正後の公正証書遺言が無効になってしまう恐れもあるからです。
3章 公正証書遺言を書き換えるときの注意点
公正証書遺言の修正をしても書き換え後の遺言書に不備があると無効になるので、書き換え前の遺言書が効力を持ち続けてしまいます。
そのため、公正証書遺言の書き換え時には決められた手順に従って修正を行わなければなりません。
他にも、書き換えをする際は下記の3点に注意しましょう。
- 修正後の遺言書に不備があると修正前の遺言書が効力を持つ
- 公正証書遺言は書き換えではなく作り直しが必要
- 書き換えを防ぐために予備的遺言も定めておく
それぞれ解説していきます。
3-1 修正後の遺言書に不備があると修正前の遺言書が効力を持つ
遺言書は法律で決められた要件を満たさなければ効力を持ちません。
そのため、修正後の遺言書に不備があると無効になり、修正前の遺言書が効力を持ち続けてしまいます。
公正証書遺言は公証人が作成するので形式不備により無効になることはほぼありませんが、修正後の遺言書を自筆証書遺言で作るときは特に注意が必要です。
また、遺言者が認知症で判断能力を失っているなどの理由で修正後の公正証書遺言が無効になってしまう可能性もゼロではありません。
遺言書が無効になるリスクを少しでも下げるために、遺言書を書き換える際には相続に詳しい司法書士や弁護士への相談がおすすめです。
3-2 公正証書遺言は書き換えではなく作り直しが必要
公正証書遺言は原本を公証役場にて保管しているので、一部だけ修正することはできません。
そのため、内容を修正するときは公正証書遺言もしくは自筆証書遺言を新たに作る必要があります。
なお、自筆証書遺言は形式不備による無効リスクや改ざんや紛失リスクもあるのでおすすめできません。
書き換え後の遺言内容を確実に実行したいのであれば、相続対策に精通した司法書士や弁護士に遺言書作成を依頼しましょう。
3-3 書き換えを防ぐために予備的遺言も定めておく
そもそも遺言書を作成する段階で不測の事態が発生したときと対応できるように予備的遺言も定めておきましょう。
予備的遺言とは、遺言者が亡くなる前に相続人や受遺者が死亡した場合に備えて予備的な内容を定めておくことです。
例えば「長男に土地を相続させる」と遺言書に記載していたとしても、自分が亡くなる前に長男が亡くなっていると土地は相続人全員で遺産分割をしなければならなくなってしまいます。
相続人同士のトラブルを避けたい場合は「長男が亡くなっていた場合、孫に土地を相続させる」などと予備的遺言を定めておきましょう。
予備的遺言を定めておけば相続人や財産の状況が変わっても対応可能です。
ただし、予備的遺言まで考慮した遺言書を作成するには専門的な知識も必要です。
グリーン司法書士法人であれば、予備的遺言の内容も提案できますし、無料で遺言書の見直し相談もおこなっています。
まとめ
公正証書遺言は作成した後は原本が公証役場に保管されるので、直接自分で書き換えを行うことはできません。
一度作成した公正証書遺言の内容を変更したいのであれば、再度遺言書を作り直す必要があります。
なお、公正証書遺言を書き換える際には、公正証書遺言でなく自筆証書遺言で作り直すことも可能です。
ただし、自筆証書遺言は形式不備による無効リスクもありますし、紛失や改ざんの恐れもあるのであまりおすすめできません。
将来にわたり、公正証書遺言に効力を持たせ書き換えを防ぎたいのであれば、不測の事態まで考慮した予備的遺言まで定めておく必要があります。
予備的遺言まで考慮した公正証書遺言を作成したいのであれば、相続に精通した司法書士や弁護士に依頼し内容を提案してもらうのも良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、遺言書の作成や内容見直しに関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですのでまずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
公正証書遺言は書換できる?
公正証書遺言は原本を公証役場で保管しているので、作成した遺言書そのものを修正することはできません。
公正証書遺言の書き換えをする際には、新しく遺言書を作成しなおす必要があります。公正証書遺言の書換にかかる費用は?
公正証書遺言の書換にかかる費用は、いちから公正証書遺言を作成する際にかかる費用とほぼ同じです。
・公証人役場へ支払う手数料:4~10万円程度
・専門家への報酬:8~20万円程度
上記の費用がかかることが一般的です。
▶公正証書遺言作成にかかる費用について詳しくはコチラ