子供がいなく財産を遺したい家族や親族がいないケースや自分が亡くなった後の財産を世の中のために使ってほしい場合、遺産を寄付したいと考える人もいるでしょう。
遺言書にて財産を特定の団体に寄付するよう指定することを「遺贈寄付」と呼びます。
遺贈寄付には、遺言による寄付や相続財産による寄付、生命保険・信託による遺贈寄付の3種類があり、それぞれ税金の取り扱いが変わってきます。
本記事では、遺贈寄付の種類や相続税の取り扱い、注意点を解説します。
1章 遺贈寄付には3種類ある
遺贈寄付には、遺言による寄付や相続財産による寄付など下記の3種類があります。
- 遺言による寄付とは
- 相続財産による寄付とは
- 生命保険・信託による遺贈寄付とは
それぞれ税金の取り扱いや手続きが異なるのでご注意ください。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1-1 遺言による寄付とは
遺言による寄付とは、遺言書に遺産を特定の団体に寄付するように記載しておくことです。
遺言者が亡くなり相続が発生した後は、相続人や遺言執行者が記載された内容に従って寄付を行います。
なお遺言書作成時には、寄付先の団体に寄付したいことや寄付したい財産を伝えておきましょう。
寄付について伝えておかないと、手続きに時間がかかる、寄付を断られる恐れがあるからです。
1-2 相続財産による寄付とは
相続財産による寄付とは、故人から団体に直接寄付をするのではなく、遺産を受け継いだ相続人や受遺者が寄付することです。
相続財産による寄付を行うためには、遺産を受け継ぐ人物に寄付について伝え理解をしてもらうことが大切です。
また、遺言による寄付と同様に寄付先の団体について寄付について連絡、許可をもらっておくことも必要です。
1-3 生命保険・信託による遺贈寄付とは
生命保険・信託による寄付とは、生命保険金や生命保険契約により発生した利益を寄付することです。
保険契約の締結や管理、運用を信託銀行に任せて行うのが一般的です。
2章 遺贈寄付が行われたときの相続税の取り扱い
本記事の1章で解説した遺贈寄付の種類によって、下記のように相続税の取り扱いが変わります。
相続税の課税対象 | 相続税の寄附金控除の対象 | |
遺言による寄付 | ならない (法人に寄付した場合) | ならない |
相続財産による寄付 | なる | なる |
遺贈寄付を考える際には相続税の負担や寄附金控除の対象かどうかまで考えておく必要があります。
遺言による寄付、相続財産による寄付を行った際の相続税の取り扱いを詳しく解説していきます。
2-1 遺言による寄付は相続税の課税対象にならない
遺言による寄付は、原則として相続税の課税対象にはなりません。
相続税とは、相続もしくは遺贈により財産を取得した「個人」に対してかかる税金だからです。
したがって、遺言による寄付で各種法人に寄付した場合、法人が相続税を負担する必要はありません。
ただし寄付先の法人を故人の遺族のみで管理しているケースなど、寄付が相続税の納税回避目的で行われたと疑われる場合は、相続税が課税される恐れがあるのでご注意ください。
なお、寄付先が個人であるケースや法人格を有していない団体の場合は、課税対象になる場合は寄付先に相続税がかかります。
2-2 相続財産による寄付は寄付金控除の対象になる場合がある
相続財産による寄付を行った場合は、相続人に対して相続税がかかります。
相続財産による寄付は、相続人が一度財産を受け継いでから寄付をしていると考えられるからです。
したがって、相続財産による寄付を行った場合、相続人は相続発生から10ヶ月以内に相続税の申告をしなければなりません。
一方で、相続財産による寄付をした場合、条件を満たせば相続税の寄附金控除を適用できます。
相続税の寄附金控除を適用できれば、寄付した財産には相続税がかからないため、相続税を大幅に軽減可能です。
相続税の寄附金控除の適用要件は、下記の通りです。
- 相続税の申告期限までに寄付を完了させる
- 相続財産を現金化せず、そのままの形で寄付している
- 国や地方公共団体、特定の公益法人に寄付している
特定の公益法人とは、主に下記が該当します。
- 独立行政法人
- 社会福祉法人
- 一定の学校法人
- 公益社団・財団法人
- 認定NPO法人
一般社団法人や認定されていないNPO法人、宗教法人は対象外なのでご注意ください。
また相続財産による寄付は相続人が寄付をしたと考えられるため、寄付する団体によっては相続税の寄附金控除だけでなく、相続人の所得税の寄附金控除も適用可能です。
3章 遺産を寄付するときの注意点
遺産を寄付する場合には、確実に寄付を実行してもらうため遺言書を作成しておくなどの点に注意しなければなりません。
具体的には、下記の5点に注意しておきましょう。
- 法的に有効な遺言書を作成しておく
- 遺言執行者を選任しておく
- 遺留分を考慮した遺言書を作成する
- 寄付をする際には事前に寄付先団体に確認しておく
- 寄付時に含み益が発生していると譲渡所得税がかかる
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 法的に有効な遺言書を作成しておく
遺贈寄付をする際には、遺言書で寄付について記載しておく必要がありますが、要件を満たさないと効力を持たないのでご注意ください。
相続対策や遺贈寄付で用いられる遺言書には、下記の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
上記のうち、自筆証書遺言は自分で気軽に作成できるメリットがあるものの形式不備による無効リスクがあります。
形式不備による無効や遺言書の紛失や改ざんリスクを極力排除したいのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士に公正証書遺言の作成を依頼しましょう。
3-2 遺言執行者を選任しておく
遺贈寄付を行いたい場合、遺言書の作成とともに遺言執行者を指定しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するための相続手続きを単独で行う義務・権限を持つ人物です。
遺言執行者を指定しておけば、相続発生後の寄付の手続きなどを行ってもらえます。
相続人の負担を減らせますし、相続人が遺言書の内容に従わず寄付をしないで遺産を受け継ぐことも防止可能です。
遺言執行者は相続人でなく第三者を指定できるので、遺言書作成を依頼した司法書士や弁護士を指定しておくのが良いでしょう。
3-3 遺留分を考慮した遺言書を作成する
配偶者や子供、両親が存命であり、遺贈寄付をする場合は遺留分を考慮した遺言書を作成しましょう。
遺留分とは、故人の配偶者や子供、両親に認められている遺産を最低限度受け取れる権利です。
遺留分は遺言に書かれた内容より優先されるため、「全財産を◯◯団体に寄付する」などと記載していても、故人の配偶者や子供は遺留分を主張できます。
遺留分を主張された場合、寄付先の団体が遺留分侵害相当分の金銭を請求者に支払わなければならず負担がかかります。
相続に詳しい司法書士や弁護士であれば、遺留分対策や遺留分を侵害しない遺言書を作成可能です。
3-4 寄付をする際には事前に寄付先団体に確認しておく
遺贈寄付をする際には、遺言書を作成するにあたり寄付先の団体に下記の内容を確認しておきましょう。
- 寄付を受け付けているか
- 特定遺贈だけでなく包括遺贈の寄付も受け付けているのか
- 現金や預貯金だけでなく不動産や株式など現物の寄付も受け付けているか
特定遺贈とは「預貯金を◯◯団体に寄付する」などのように、寄付する財産や金額を指定する方法です。
それに対し、包括遺贈は「遺産の半分を◯◯団体に寄付する」などのように寄付の割合を指定することです。
包括遺贈は寄付先の団体が相続人同様の権利と義務を負う必要があるため、受け付けていない団体がほとんどです。
また、不動産や株式の現物寄付も受け付けていない団体がほとんどであり、実際には不動産などの遺産を現金化した上で寄付しなければなりません。
相続財産の売却および寄付の手続きをしなければならないため、遺言執行者を選任し手続きを任せる必要があります。
3-5 寄付時に含み益が発生していると譲渡所得税がかかる
遺贈寄付の種類にかかわらず、不動産や株式など現物で寄付をすると、譲渡所得税がかかる恐れがあります。
相続財産の価値が故人の取得時より寄付時に値上がりしていた場合は、みなし譲渡所得が発生するからです。
遺贈寄付によりみなし譲渡所得が発生した場合は、相続人が譲渡所得税の申告や納税をしなければなりません。
ただし、先ほど解説したようにそもそも現物での寄付を受け付けていない団体がほとんどのため、寄付時に譲渡所得税がかかるケースは多くありません。
まとめ
遺贈寄付をする際には、遺言書に寄付についての内容を記載しておく必要があります。
遺言書は要件を満たしたものを作成する必要がありますし、相続人に財産を遺したくなく寄付を検討している場合は、遺言書作成だけでは相続人が寄付に反発する可能性もゼロではありません。
遺族の負担を減らし、寄付を確実に実行するためには遺言書作成とあわせて遺言執行者も指定しておきましょう。
遺言執行者を指定しておけば、寄付の手続きを相続人の代わりに行ってもらえます。
遺言執行者は相続人も指定できますが、司法書士や弁護士に依頼すれば、確実に寄付をしてもらえるのでおすすめです。
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