共有名義の不動産を売却したときも単独所有の不動産売却時と同様に利益に対して税金がかかります。
また、売買契約書作成時にかかる印紙税や抵当権抹消登記にかかる登録免許税も共有名義の不動産の売却時にかかります。
共有名義の不動産を売却するときには、いくらで売れそうかだけでなく売却時にかかる費用や税金についても把握しておきましょう。
なお、共有名義で相続した不動産を売却するときには、事前に故人から相続人へ不動産の名義変更手続きをする必要があるのでご注意ください。
本記事では、共有名義の不動産を売却したときにかかる税金の計算方法や確定申告方法を解説します。
共有名義の不動産の売却に関しては下記の記事でも詳しく紹介しています。
目次
1章 共有名義の不動産を売却したときにかかる税金
共有名義の不動産を売却したときにかかる税金は、通常の不動産を売却したときにかかる税金と同じです。
具体的には、下記の3種類の税金がかかる可能性があります。
- 譲渡所得税・住民税
- 登録免許税
- 印紙税
それぞれ解説します。
1-1 譲渡所得税・住民税
譲渡所得税・住民税は不動産を売却したときに発生する利益に対してかかる税金です。
共有名義の不動産売却時に発生した利益は「売却金額-(取得費用+売却費用)」で計算できます。
譲渡所得税の計算方法は少し複雑なので、本記事の2章で詳しく解説します。
1-2 登録免許税
共有名義の不動産を売却するときには名義変更手続きをしなければなりません。
不動産の名義変更手続きは法務局で登記申請を行う必要があり、その際にかかるのが登録免許税です。
不動産売却時に必要な登記申請は、主に下記の2種類です。
登記の種類 | 概要 | 登録免許税を負担する人 |
所有権移転登記 | 不動産の名義を変更する手続き | 買主 |
抵当権抹消登記 | 不動産についている担保を抹消する手続き | 売主 |
上記のように、売主が負担するのは抵当権抹消登記です。
抵当権抹消登記にかかる登録免許税は、不動産1つにつき1,000円です。
例えば、共有名義で所有している土地と建物を売却する場合には、2,000円かかります。
また、抵当権抹消登記の他にも登記簿謄本に記載されている住所と現住所が異なる場合には、氏名住所変更の登記申請が必要です。
氏名住所変更の登記手続き時には、不動産1つにつき1,000円の登録免許税がかかります。
共有名義の不動産を売却する人の中には、不動産を共有名義で相続した人もいるのではないでしょうか。
相続した不動産を売却するには、事前に故人から相続人への名義変更手続きを行わなければなりません。
相続時の名義変更手続きも他の手続き同様に法務局で登記申請を行います。
相続登記の登録免許税は「不動産の固定資産評価額×0.4%」で計算可能です。
また、相続登記を司法書士に依頼する場合には別途数万円の報酬がかかります。
グリーン司法書士法人では、相続登記の相談をお受けしていますのでお気軽にお問い合わせください。
1-3 印紙税
不動産の売買契約書作成時には印紙税がかかります。
印紙税の税額は、契約書に記載されている金額に応じて変わり、それぞれ下記の通りです。
印紙税とは、契約書の作成にかかる税金です。売買するものの価格に応じて税額が決められています。
契約書に記載されている金額 | 印紙税 |
500万円以下のもの | 1,000円 |
1,000万円以下のもの | 5,000円 |
5,000万円以下のもの | 10,000円 |
1億円以下のもの | 30,000円 |
5億円以下のもの | 60,000円 |
10億円以下のもの | 160,000円 |
50億円以下のもの | 320,000円 |
50億円を超えるもの | 480,000円 |
なお、印紙税は登録免許税と異なり負担する人が決められていません。
売主が全額負担するのでも問題ありませんし、買主と売主で折半しても良いでしょう。
実務では、売買契約書は売主と買主がそれぞれ保管するために2部ずつ作成するので売主と買主が折半するケースが多いです。
2章 共有名義不動産売却時の譲渡所得税の計算方法
先ほど共有名義の不動産を売却したときにかかる税金を3つ紹介しましたが、中でも計算が複雑かつ納税額に差が出やすいのが譲渡所得税と住民税です。
譲渡所得税を計算する流れは、下記の通りです。
- 譲渡所得を計算する
- 所有期間に応じた税率を掛ける
- 控除・特例を適用する
なお、共有持分の売却であっても、譲渡所得税を計算する流れは単独所有の不動産売却時と同様です。
それぞれの流れを詳しく解説していきます。
STEP① 譲渡所得を計算する
まずは、共有名義の不動産を売却したときに発生した譲渡所得を計算します。
譲渡所得とは簡単に言えば売却によって生まれた利益であり、下記の計算式で算出します。
譲渡所得=売却金額-(取得費用+売却費用)
例えば、下記ケースの譲渡所得を計算してみましょう。
【条件】
- 売却金額:1,500万円
- 取得費用:500万円
- 売却費用:100万円
譲渡所得=1,500万-(500万+100万)=900万円
取得費用とは名前の通り、売却した不動産を取得したときにかかった費用です。
不動産購入時の契約書などの資料が残っていれば、資料をもとに取得費用を計算できます。
一方で、相続によって取得した不動産や何十年も前に購入した不動産で購入時の資料が残っていないケースもあるでしょう。
その場合には、売却金額の5%を取得費として譲渡所得税を計算可能です。
また、実際には取得費がわからないケース以外にも、取得費が売却代金の5%を下回るときも取得費を売却代金の5%として譲渡所得税を計算できます。
売却費用とは売却時にかかった費用の合計額であり、下記の費用などが含まれます。
- 不動産会社に支払う仲介手数料
- 売主が負担した印紙税
- 測量費用
- 更地にするための解体費用
なお、抵当権抹消登記にかかる登録免許税は売却に直接影響しないと考えられるので、売却費用に含めることはできません。
STEP② 所有期間に応じた税率を掛ける
譲渡所得を計算したら、不動産の所有期間に応じた税率を掛けて譲渡所得税と住民税を計算します。
所有期間ごとの税率は、それぞれ下記の通りです。
所有期間 | 譲渡所得税率 | 住民税率 | 合計税率 |
5年以上 | 15% | 5% | 20.315% (復興特別所得税0.315%を含む) |
5年未満 | 30% | 9% | 39.63% (復興特別所得税0.63%を含む) |
譲渡所得税の計算時には、下記の点にご注意ください。
- 2037年は復興特別所得税がかかる
- 不動産の所有期間は、不動産を売却した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかで決まる
- 相続した不動産を売却する際には相続時点ではなく、故人が取得した日が所有期間の起算点になる
以下の例で譲渡所得税を計算してみましょう。
【条件】
- 譲渡所得:900万円
- 取得費:2010年12月1日(故人が購入した不動産を相続、売却することになった)
上記のケースでは、所有期間が5年を超えていて長期譲渡所得に分類されます。
「900万円×20.315%=182,835」となりますが、1,000円未満の端数は切り捨てできるので、納税額は182,000円となります。
STEP③ 控除・特例を適用する
不動産を売却したときには、売却目的や不動産の種類によって譲渡所得税の控除や特例が適用できます。
具体的には、下記の控除や特例などが用意されています。
控除・特例 | 概要 |
居住用財産の3,000万円特別控除 | マイホームを売却したときに使える控除 |
10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例 | 売却した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えるマイホームを売却したときの譲渡所得税・住民税率が軽減される特例 |
特定の居住用財産の買換え特例 | マイホームの買換えをしたときに譲渡所得税を将来に繰延できる特例 |
相続空き家の3000万円特別控除 | 故人が住んでいた自宅を相続し売却したときに使える控除 |
例えば、夫婦で共有名義で所有していたマイホームを売却する際には、居住用財産の3,000万円特別控除を適用できる可能性があります。
居住用財産の3,000万円特別控除は名義人である夫と妻両方に適用できるので、合計6,000万円まで譲渡所得を控除可能です。
このように、共有名義の不動産を売却する際には譲渡所得税や住民税を節税できる控除や特例を使える可能性があります。
控除や特例はそれぞれ適用要件が決められているので、売却時の状況や売却する不動産の種類によって適用できる制度がないか確認してみましょう。
3章 共有名義の不動産売却時の確定申告方法
共有名義の不動産を売却し、譲渡所得税が発生したときには確定申告が必要です。
売却時の確定申告は、共有持分の名義者ごとにしなければならないのでご注意ください。
確定申告時の注意点や時期、方法について詳しく解説していきます。
3-1 共有持分の名義者ごとに確定申告しなければならない
共有名義で所有している不動産を売却したときには、共有名義人の代表者だけでなく、譲渡所得税が発生するすべての共有名義人が確定申告をしなければなりません。
共有持分の売却ではなく、共有名義人全員で不動産を一括売却したときにはご注意ください。
3-2 確定申告の期限は売却の翌年2月16日~3月15日
譲渡所得税の確定申告の期限は、売却した抑止の2月16日から3月15日です。
申告期限に間に合わないと、延滞税が発生してしまうのでご注意ください。
また、納税期限も申告期限と同様に3月15日までとなっています。
確定申告の方法や必要書類は、下記の通りです。
提出する人 | 共有名義の不動産売却によって譲渡所得税が発生した人 |
提出先 | 申告者の住所地を管轄する税務署 |
提出方法 |
|
必要書類 |
など |
4章 共有名義の不動産売却時の注意点
共有名義の不動産売却は、基本的に単独所有している不動産を売却するときと変わりません。
ただし、共有名義の不動産売却時のみ注意しなければならないことがいくつかあるので解説していきます。
4-1 居住用財産の3,000万円控除は共有名義者それぞれが適用できる
共有名義の不動産売却時に居住用財産の3,000万円控除を適用する場合には、共有名義者それぞれが控除を適用です。
居住用財産の3,000万円控除とは、マイホームを売却したときに譲渡所得から最大3,000万円控除できる特例です。
例えば、夫婦もしくは親子などで共有名義で所有している自宅を売却した場合には、最大6,000万円の控除を適用できる可能性があります。
ただし、居住用財産の3,000万円控除は家屋を売却したときに適用できる控除です。
そのため、「夫が建物、妻が土地」「父親が土地、息子が建物」などのように不動産の所有者を分けている場合には建物の所有者しか控除を適用できません。
居住用財産の3,000万円控除は節税効果の大きい制度ですが、住宅ローン控除と併用できない点に注意が必要です。
住宅ローン控除とは、住宅ローンで自宅を購入したときに「年末時点での住宅ローンの残高×0.7%」を最長13年間にわたり所得税や住民税から控除できる制度です。
共有名義の自宅を売却し、新たに住まいを購入予定の人は居住用財産の3,000万円の控除と住宅ローン控除のどちらが節税効果が高いか事前にシミュレーションしておきましょう。
4-2 共有持分の譲渡後の売却は贈与税がかかる
共有名義で所有している不動産を売却するには、共有名義人全員の承諾が必要であり、単独所有の不動産を売却するときよりも必要書類の数が多く手間がかかります。
そのため、手間を削減するために、共有持分を代表者に譲渡し単独名義にしてから売却しようと考えるケースもあるでしょう。
- 共有持分を代表者に譲渡し単独名義にする
- 代表者が土地を売却する
上記のケースでは、共有持分を譲渡したときに代表者に対して贈与税がかかる恐れがあります。
そのため、自分たちの判断で「単独名義にしてから売却しよう」と考えるのはリスクが高いです。
共有名義の不動産売却は手間がかかる上に、判断が難しい部分もあります。
売却時には共有名義の不動産売却の実績を持つ会社に相談するのがおすすめです。
まとめ
共有名義の不動産を売却したときも、単独所有の不動産売却時と同様に各種税金がかかります。
共有名義人全員で不動産を一括売却したときには、所有している持分割合に応じて税金を分担して支払う必要がありますし、共有名義人それぞれが確定申告をしなければなりません。
少しでも譲渡所得税や住民税を節税したいのであれば、適用できる控除や特例がないか確認しましょう。
また、共有名義の不動産売却は共有名義人全員の承諾が必要であり、必要書類の数も増えるので信頼できる不動産会社を見つけるのも大切です。
グリーン司法書士法人では、相続登記を始めとする登記申請に関する相談をお受けしています。
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