遺族年金は一家の働き手や年金受給者が亡くなったとき、遺された家族の生活を支えるために支給されるものです。
なお、遺族年金は家族を亡くした人の全員に支給されるわけではなく、受給要件を満たした人のみ受け取れます。
また、遺族年金は①遺族基礎年金と②遺族厚生年金の2つに分かれ、それぞれ受給要件が異なるので注意が必要です。
本記事では、遺族年金の種類ごとに受給要件や受給額を解説します。
なお、遺族年金の受給手続きの他にも家族や親族が亡くなった際には行うべき手続きがあります。
相続手続きの流れや期限については、下記の記事で詳しく解説していますのでご参考にしてください。
目次
1章 遺族年金には2種類ある
遺族年金とは、働き手や年金を受け取っていた家族が亡くなったときに遺された家族のために支給される年金です。
遺族年金には、下記の2種類があります。
- 遺族基礎年金
- 遺族厚生年金
家族が亡くなったときにもらえる遺族年金は、亡くなった人が加入していた年金の種類や遺された家族が受給している年金などによって変わってきます。
次章以降では、遺族基礎年金および遺族厚生年金の受給要件を詳しく見ていきましょう。
2章 遺族基礎年金の受給要件
遺族基礎年金とは、国民年金の被保険者であった人が亡くなったときに、子のいる配偶者もしくは子供が受け取れる年金です。
亡くなった人および受給者の要件を詳しく解説していきます。
2-1 亡くなった人の要件
遺族基礎年金を受給するには、亡くなった人が下記のいずれかの要件を満たしている必要があります。
- 国民年金に加入していた
- 国民年金に加入しており日本国内に住所があり、死亡時の年齢が60歳以上65歳未満だった
- 老齢基礎年金を受給していた
- 老齢基礎年金の受給資格を満たしていた
なお、老齢基礎年金を受給していた人以外は、国民年金加入期間に関する要件も満たさなければなりません。
- 亡くなる前日時点で保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が国民年金加入期間の3分の2以上である
- 亡くなった人が65歳未満であり死亡する2ヵ月前までの1年間で国民年金の滞納がない(死亡日が2026年3月末より前の場合のみ)
老齢基礎年金を受給していた人が亡くなった場合は先ほどの要件に加え、保険料納付済期間・保険料免除期間・合算対象期間の合計が25年以上である必要があります。
2-2 支給対象者の要件
遺族基礎年金は、亡くなった人によって生計が維持されていた下記の人物のみが受給できます。
- 子供のいる配偶者
- 子供
遺族基礎年金の受給要件の詳細は、下記の通りです。
【全員共通の受給要件】
- 亡くなった方と生計が同一だった
- 前年収入が850万円未満もしくは前年所得が655万5,000円未満
【遺族(子供)に関する受給要件】
- 18歳になる年度の3月31日を過ぎていない
- 20歳未満で障害等級1級または2級に該当している
3章 遺族厚生年金の受給要件
遺族厚生年金とは会社員など厚生年金の被保険者や被保険者だった人が亡くなったときに、故人に生計を維持されていた人が受け取れる年金です。
亡くなった人および受給者の要件を詳しく解説していきます。
3-1 亡くなった人の要件
故人の家族が遺族厚生年金を受け取るには、故人が厚生年金に加入していたなど下記の要件を満たす必要があります。
- 厚生年金に加入していた
- 厚生年金の加入期間中に初診日のある傷病が原因となり初診日から5年以内に死亡した
- 1級または2級の障害厚生年金を受給していた
- 老齢厚生年金を受給していた
- 老齢厚生年金の受給資格を満たしていた
厚生年金にか加入していた人が死亡した場合は、下記の要件も満たさなければなりません。
- 亡くなる前日時点で保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が国民年金加入期間の3分の2以上である
- 亡くなった人が65歳未満であり亡くなる2ヵ月前までの1年間で滞納がない(死亡日が2026年3月末より前の場合のみ)
また故人が老齢厚生年金を受給していた場合は、保険料納付済期間・保険料免除期間・合算対象期間の合計が25年以上でなければ遺族厚生年金は支給されません。
3-2 支給対象者の要件
遺族厚生年金が支給されるのは、故人に生計を維持されていた遺族です。
遺族厚生年金を受給できる人物は下記のように優先順位が決められており、最も順位が高い人物のみ年金を受け取れます。
優先順位 | 受給対象者 |
第一順位 | 妻 夫(妻の死亡当時に55歳以上の人が対象) 子ども |
第二順位 | 父母(故人の死亡当時に55歳以上の人が対象) |
第三順位 | 孫 |
第四順位 | 祖父母(故人の死亡当時に55歳以上の人が対象) |
また遺族厚生年金に関しても遺族基礎年金と同様に、収入および子や孫の年齢については下記の要件が設定されています。
【全員共通の受給要件】
- 亡くなった方と生計が同一だった
- 「前年収入が850万円未満」もしくは「前年所得が655万5,000円未満」
【遺族(子供)に関する受給要件】
- 18歳になる年度の3月31日を過ぎていない
- 20歳未満で障害等級1級または2級に該当している
遺族基礎年金と比較して、遺族厚生年金は受給できる人の範囲が広い点が特徴です。
遺族基礎年金は子供や子供のいる配偶者しか受給できないのに対し、遺族厚生年金は子供のいない配偶者や両親、祖父母も受給できます。
ただし、遺族厚生年金には下記の受給制限が設定されています。
- 30歳未満子供がいない妻:5年間しか受給できない
- 夫:受給開始年齢は60歳(遺族基礎年金の受給条件も満たしている場合は60歳未満でも受給開始となる)
- 父母・祖父母:受給開始年齢は60歳
4章 遺族年金の支給額
遺族基礎年金は、受給者ごとに定められた基本額と子供の人数に応じて加算額が支給されます。
対して遺族厚生年金は、故人の平均標準報酬月額や厚生年金の加入月数に応じて支給額が決定します。
遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給額を詳しく見ていきましょう。
4-1 遺族基礎年金の受給額
遺族基礎年金は、①基本額と②加算額の合計額が支給されます。
基本額は、下記の通りです。
受給者 | 基本額 |
子供のいる配偶者(67歳以下) | 79万5,000円 |
子供のいる配偶者(68歳以上) | 79万2,600円 |
子供 | 79万5,000円 |
そして加算額は子供の人数に応じて、下記の金額が支給されます。
受給額 | 加算額 |
子供のいる配偶者 |
|
子供 |
|
4-2 遺族厚生年金の受給額
原則として、遺族厚生年金は老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4が支給されます。
計算方法の詳細は、下記の通りです。
厚生年金受給額=(①+②)×3/4
①平均標準報酬月額×(7.125/1000)×2003年3月までの加入期間の月数
平均標準報酬月額:2003年3月までの加入期間の各月の標準報酬月額の総額÷2003年3月までの加入期間の月数
②平均標準報酬額×(5.481/1000)×2003年4月からの加入期間の月数
平均標準報酬額:(2003年4月以降の加入期間の各月の標準報酬月額+標準賞与額)÷2003年4月以降の加入期間の月数
なお、厚生年金の加入期間が300月に満たない場合は、300月として計算します。
5章 遺族年金以外の年金制度
遺族基礎年金や遺族厚生年金以外にも、寡婦年金や死亡一時金など亡くなった家族に支給される年金があります。
遺族年金以外の年金制度は、主に下記の通りです。
- 寡婦年金
- 死亡一時金
- 遺族補償年金
それぞれ詳しく見ていきましょう。
5-1 寡婦年金
寡婦年金とは、子供のいない妻が受給可能な年金です。
寡婦年金を受給するには、下記のすべての要件を満たさなければなりません。
- 夫が第1号被保険者として国民年金の保険料を10年以上納付していた
- 夫との婚姻期間が10年以上である(事実婚も含む)
- 夫が老齢基礎年金や障害基礎年金などを受給していない
- 夫によって生計を維持されていた
- 夫が亡くなってから5年以内に請求している
第1号被保険者とは自営業者や農業従事者など、国民年金保険料を自分で納付する人物です。
要件を満たした場合「亡くなった夫が65歳に達したとき受給できたであろう老齢基礎年金の年金額×3/4相当額」を受給できます。
5-2 死亡一時金
死亡一時金とは、家族を亡くした遺族が受給できるお金です。
死亡一時金を受給するには、下記のすべての要件を満たす必要があります。
- 故人が第1号被保険者として保険料を3年以上納付していた
- 故人が老齢基礎年金や障害基礎年金などを受給していない
- 故人と生計を同じくしていた
- 故人の死亡からから2年以内に請求している
- 遺族基礎年金の受給条件を満たしていない
なお、寡婦年金や遺族基礎年金と異なり、死亡保険金は亡くなった人の妻以外も受給できます。
ただし、受給者には下記のように優先順位が決められており、最も順位が高い人のみ受給可能です。
- 配偶者
- 子ども
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
死亡一時金の金額は、故人が納めていた保険料の月数によって決まります。
5-3 遺族補償年金
遺族補償年金とは、業務中や通勤中の事故などで家族を亡くした遺族が受給できる年金です。
遺族補償年金を受給できるのは、亡くなった人によって生計を維持されていた人物です。
ただし、生計を維持されていた人物全員が受給できるわけでなく、下記のように優先順位が決められています。
優先順位 | 受給対象者 |
第一順位 |
|
第二順位 |
|
第三順位 |
|
第四順位 |
|
第五順位 |
|
第六順位 |
|
第七順位 | 55歳以上60歳未満の夫 |
第八順位 | 55歳以上60歳未満の父母 |
第九順位 | 55歳以上60歳未満の祖父母 |
第十順位 | 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹 |
遺族補償年金の金額は、遺族の人数や給付基礎日額によって決まります。
給付基礎日額は「事故発生日または病院での診断確定日の直前3カ月間の賃金額÷3カ月の暦日」で計算します。
6章 遺族年金の受給期間
遺族基礎年金や遺族厚生年金は家族が亡くなるまで支給されるとは限らず、受給期間が決まっている場合があります。
遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給期間を見ていきましょう。
6-1 遺族基礎年金の受給期間
遺族基礎年金の受給期間は、子供が18歳に到達する年度末までです。
ただし、障害等級2級以上の子の場合は20歳を超えるまでです。
6-2 遺族厚生年金の受給期間
遺族厚生年金の支給開始時期は、年金加入者が死亡した日の翌月からです。
受給できる期間は、受給対象者の年齢や子供の有無で下記のように変わります。
妻 | 【夫死亡時に子供がいる場合もしくは30歳以上の場合】 亡くなった翌月から一生涯 【夫死亡時に子供がいなく30歳未満の場合】 亡くなった翌月から5年間 |
子・孫 | 亡くなった翌月から18歳の年度末まで(障害等級1級・2級の場合は20歳まで) |
夫・父母・祖父母 | 【被保険者が亡くなった時点で55歳以上の場合】 60歳から一生涯 【遺族基礎年金を受給中の子供がいる夫】 60歳未満でも受給可能 |
7章 遺族年金を申請する流れ
遺族年金の申請をする際には、年金の被保険者が死亡したことを証明する書類や申請者の収入に関する書類などを提出する必要があります。
申請の流れは、下記の通りです。
- 死亡届を提出する
- 被保険者資格喪失届(故人が現役加入者の場合)、年金受給権者死亡届(故人が年金受給者の場合)を提出する
- 遺族年金を請求する
遺族年金の請求先および必要書類は、下記の通りです。
請求先 | 【遺族基礎年金】 故人の住所地の市区町村役場 ※国民年金の第3号被保険者期間中に亡くなった場合は年金事務所もしくは年金相談センター 【遺族厚生年金】 年金事務所もしくは年金相談センター |
必要書類 |
|
まとめ
家庭の収入を支えていた家族が亡くなったとしても、遺族年金を受給できれば遺された家族の収入も安定します。
しかし、遺族年金を受給するには要件を満たす必要がありますし、支給額は子供の人数や故人の平均標準報酬月額によっても変わってきます。
遺された家族が生活する際に遺族年金のみでは不安が残る場合は、相続手続きを速やかに行い遺産を使えるようにしましょう。
相続手続きは自分でも行えますが、相続に詳しい司法書士や行政書士であればミスなくスムーズに行えます。
グリーン司法書士法人では、相続手続きに関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。