- 両親が認知症と診断されたときにすべきこと
- 認知症になった両親を放置してしまうリスク
- 認知症になった人の財産管理方法
ご両親が認知症と診断された場合「これからどんな生活になってしまうのだろう」「介護サービスや施設について調べないと」と不安に襲われ、何からすべきかわからなくなってしまう人もいるでしょう。
ご両親が認知症と診断された場合、今後の介護や資産管理に備えて、資産状況の確認や資産凍結を防ぐための対策を行わなければなりません。
また、認知症になった両親を放置してしまうと、事件に巻き込まれるリスクもありますし、預金口座が凍結されてしまうリスクもあるのでご注意ください。
本記事では、両親が認知症と診断されたときにすべきことや放置するリスク、財産管理方法について解説します。
目次
1章 父親・母親が認知症と診断されたらすべき9つのこと
父親や母親が認知症と診断されたら、まずは資産状況の確認や今後の財産管理の準備を進めるのが良いでしょう。
具体的には、下記をしておくのがおすすめです。
- 資産状況を確認する
- 資産の凍結を防ぐために対策する
- 認知症の症状および進行について理解する
- 認知症の治療を受けてもらう
- 地域包括支援センターに相談する
- 免許を返納する・車の運転を止めてもらう
- 今後起きうるトラブルについて把握しておく
- 今後の相談窓口について調べておく
- 本人の不安な気持ちに寄り添ってあげる
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 資産状況を確認する
両親が認知症と診断されたら、症状が軽度なうちに両親の資産状況を確認しておきましょう。
認知症の症状が進み判断能力が失われてしまうと、本人もどんな財産を持っていたか答えられなくなり、資産の全容を把握することが難しくなってしまうからです。
兄弟間でどんな財産があるか把握しやすくするためにも、現時点での財産目録を作成しておくのも良いでしょう。
1-2 資産の凍結を防ぐために対策する
資産状況の確認と共に、両親の資産が凍結されないように財産管理の準備をしておくことも大切です。
認知症になり判断能力を失ってしまうと、預貯金の引き出しや不動産の売却などの財産管理を行えなくなってしまうからです。
認知症になった人の財産管理方法には、家族信託や任意後見制度、成年後見制度などがあります。
本記事の3章で財産管理方法について解説しているので、あわせてお読みください。
1-3 認知症の症状および進行について理解する
両親が認知症と診断されたら、医師から話を聞き、現時点での症状や今後の進行について理解を深めましょう。
認知症と一言でいっても、症状や今後の進行は人それぞれだからです。
また、配偶者だけでなく子供たち全員で認知症について理解を深めておけば、誰か1人が不安や悩みを抱えるのではなく家族全員でサポート体制を整えやすくなります。
1-4 認知症の治療を受けてもらう
認知症であると診断された場合や認知症が疑われる場合、できるだけ早く医療機関を受診し、治療を始めましょう。
認知症の進行度や種類によっては、治療によって進行を遅らせることができるからです。
認知症の種類によって適切な治療方法が異なるので、認知症を専門としているクリニックや「認知症疾患医療センター」に指定されている病院を受信してみるのが良いでしょう。
1-5 地域包括支援センターに相談する
父親や母親が認知症と診断されたら、将来的に介護が発生する場合に備え、地域包括支援センターに相談に行きましょう。
地域包括支援センターとは、介護や医療、保険、福祉など高齢者についての総合的な相談窓口です。
地域包括支援センターは全国各地に約5,000箇所設置されているので、まずは最寄りのセンターを調べてみましょう。
最寄りのセンターがわからない場合は、市区町村役場に問い合わせれば回答をもらえます。
1-6 免許を返納する・車の運転を止めてもらう
認知症と診断された時点で免許を返納し、車の運転を止めてもらうように働きかけましょう。
認知症の症状はゆっくり進行していくため、すぐに日常生活に支障をきたさない場合もあります。
しかし、車の運転は事故を起こしたときの責任が大きいため、認知症と診断された時点でやめておくことを強くおすすめします。
認知症と診断されたにもかかわらず、本人が運転を続け事故を起こした場合、本人だけでなく家族も監督責任に問われる恐れもあるのでご注意ください。
1-7 今後起きうるトラブルについて把握しておく
両親が認知症と診断されたら、今後症状が進行すると、どんなトラブルが起きる可能性があるのか理解しておきましょう。
認知症になり判断能力を失ってくると、下記のトラブルが発生する恐れがあります。
- 金銭管理や預貯金を引き出せなくなる
- 不動産売却や各種契約ができなくなる
- 火の不始末により火事になる
- 食生活が偏り不健康になる
- トイレができなくなり不衛生になる
- 服薬管理ができなくなる
- ご近所関係で揉めてしまう
- 外出時の事故や行方不明になる
特に、認知症になり判断能力を失うと資産が凍結され、預貯金の引き出しや不動産売却、相続対策ができなくなる可能性があるのでご注意ください。
1-8 今後の相談窓口について調べておく
今後発生しやすいトラブルを把握しておくと共に、何かあったときの相談窓口も確認しておきましょう。
認知症についての相談窓口は複数あり、それぞれ相談できる内容は主に下記の通りです。
医療機関 | 治療や医療についての相談 |
地域包括支援センター 市区町村の高齢者支援窓口 | 介護についての相談 |
司法書士・弁護士 | 財産管理や相続対策についての相談 |
1-9 本人の不安な気持ちに寄り添ってあげる
親が認知症と診断された場合、まずは本人の不安な気持ちに寄り添ってあげましょう。
認知症の症状が軽度のうちは、本人の意識がしっかりしているときも多いため「何だかわからないことが増えてきて不安だ」と感じている場合や感情の制御が突然難しくなり本人も戸惑いを感じている場合があるからです。
そんなとき家族が本人の気持ちに寄り添えば、将来はどんな介護を受けたいのかの希望も聞きやすくなりますし、運転をやめてほしいことや治療に前向きになってほしいなどこちらの希望も受け入れてもらいやすくなるはずです。
2章 父親・母親の認知症を放置してしまうリスク
認知症になった両親を放置していると、事件などに巻き込まれるリスクや生活が不規則になり別の病気になるリスクなどがあるのでご注意ください。
認知症になった両親を放置するリスクは、主に下記の通りです。
- 事故や行方不明になるリスク
- 別の病気になるリスク
- 預貯金・不動産に手を付けられなくなるリスク
- 高額な訪問販売や泥棒など犯罪に巻き込まれるリスク
- 契約や遺産分割協議が無効になってしまうリスク
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 事故や行方不明になるリスク
認知症の症状が進んでしまうと、本人が長年住んでいてなじみのある土地でも道に迷ってしまい、行方不明になる恐れがあります。
徘徊の結果、事故に巻き込まれる場合もありますし、脱水症状や低体温症になる場合もあるので注意しなければなりません。
2-2 別の病気になるリスク
認知症の症状が進むと、同じものを食べ続ける、栄養バランスの良い食事を摂れないなどの理由で、生活習慣病など別の病気になるリスクも増えてしまいます。
他にも、認知症の人が自分で服薬管理をできず、持病が悪化する恐れもあるでしょう。
2-3 高額な訪問販売や泥棒など犯罪に巻き込まれるリスク
認知症になった人や一人暮らしをしている老人は、高額な訪問販売や泥棒などに狙われる恐れもあります。
中には、犯罪に近い高額商品を売りつけられるケースや鍵の締め忘れなどを狙った高齢者ターゲットの泥棒もいるので、注意しなければなりません。
2-4 預貯金・不動産に手を付けられなくなるリスク
認知症になり判断能力を失うと、財産管理や契約行為を行えなくなってしまいます。
その結果、預貯金の引き出しができない、不動産を売却できないこともあるでしょう。
親の資産から介護費用を捻出できないなんてことがないように、親が元気なうちから認知症対策や財産管理について考えておきましょう。
2-5 契約や遺産分割協議が無効になってしまうリスク
認知症になり判断能力を失うと、契約や相続手続きなども行えなくなってしまいます。
結果として、詐欺などの被害に巻き込まれる、高額な商品を購入してしまうなどのトラブルが起きる恐れもあります。
また、認知症になり判断能力を失った人が相続人になると、遺産分割協議に参加できないため、相続手続きを進められず、他の相続人も遺産を受け取るのが遅くなる点に注意しましょう。
3章 【症状別】認知症になった人の財産管理方法
本記事で解説してきたように、認知症になり判断能力を失うと財産管理を自分で行えなくなってしまいます。
認知症の症状が重度の場合は、成年後見制度を活用して後見人に財産管理や契約行為をサポートしてもらわなければなりません。
ただし、成年後見制度は一度利用すると被後見人が亡くなるまで利用が続く、希望の人物が後見人に選ばれるとは限らないなどのデメリットがあります。
一方で、認知症の症状が軽度であれば家族信託や遺言書の作成が認められる場合もあります。
そのため、認知症が疑われる場合はできるだけ早く司法書士や弁護士などの専門家に相談して財産管理方法を用意しておきましょう。
認知症になった人の財産管理方法は、主に下記の通りです。
- 【軽度】家族信託を活用する
- 【軽度】遺言書を作成してもらう
- 【軽度】生前贈与を活用する
- 【軽度】任意後見制度を活用する
- 【重度】成年後見制度を活用する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 【軽度】家族信託を活用する
家族信託を活用すれば、認知症になった親の財産を子供などが代わりに管理や運用、処分できます。
家族信託とは、親が元気なうちに家族で信託契約を結び受託者が信託財産の管理をする制度です。
家族信託は成年後見制度と比較して柔軟な財産管理を行えるのが特徴であり、裁判所を介さずに手続きできる点も魅力です。
信託契約の内容によっては、預貯金の引き出しだけでなく親名義の不動産の売却やリフォームなども行えます。
ただし、家族信託を利用するには財産を信託する委託者に判断能力が求められるのでご注意ください。
したがって、重度の認知症の人は家族信託を利用できません。
3-2 【軽度】遺言書を作成してもらう
認知症症状が軽度であれば、遺言書を作成してもらい相続対策を行えます。
遺言書があれば、相続が発生したときに希望の人物に希望の財産を譲れます。
例えば、自分と同居してくれる長男に自宅を遺す、多く遺産を遺すなども可能です。
ただし、遺言書を作成するときには判断能力が求められるため、重度の認知症患者が遺言書を作成しても無効になってしまいます。
加えて、相続発生後に遺言書の有効性でトラブルにならないように、遺言書作成時には医師の診察を受けておく、専門家に遺言書の作成を依頼するなどがおすすめです。
3-3 【軽度】生前贈与を活用する
生前贈与をすれば、親が亡くなり相続が発生する前に子供に資産を譲れます。
生前贈与をすることにより、資産の所有者が親から子供に移るので、子供が自由に財産の管理や運用、処分を行えるようになります。
生前贈与を行うと贈与税がかかりますが、年間110万円以内の贈与であれば贈与税はかかりません。
また、親子間の贈与であれば控除や特例を利用できる場合もあります。
生前贈与も家族信託や遺言書の作成と同様に、贈与者に判断能力が備わっている必要があるため、重度の認知症の人は生前贈与を行えません。
3-4 【軽度】任意後見制度を活用する
認知症の症状が軽度で判断能力が残っている場合は、成年後見制度ではなく任意後見制度を活用できます。
任意後見制度とは、自分が元気なうちに任意後見人および契約内容を設定しておき、認知症の症状が進行したら後見人に財産管理や契約行為などをサポートしてもらう制度です。
任意後見制度は成年後見制度と比較して、下記のメリットがあります。
- 本人が希望する人物を任意後見人として指定できる
- サポートしてもらいたい内容を決められる
家族や親族に後見人となってもらいたい場合や成年後見制度よりも柔軟な財産管理をしたい場合は、任意後見制度の利用を検討しましょう。
3-5 【重度】成年後見制度を活用する
重度の認知症であり判断能力を失っている場合、成年後見制度を活用して本人の財産を管理するしか選択肢はありません。
成年後見制度とは、認知症になった親のかわりに成年後見人が財産管理や契約行為の支援を行うための制度です。
成年後見制度は、希望の人物が後見人として選ばれるとは限らない、専門家が後見人に選ばれた場合、費用がかかるなどのデメリットがあります。
そのため、認知症と診断されたらすぐに財産管理方法について検討し、家族信託や任意後見制度などを利用できないか模索すべきです。
自分たちで適切な財産管理方法を見つけ手続きする、家族信託や任意後見制度を利用できるか判断するのは難しいので、認知症対策に精通した司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
4章 認知症になったときに行うべき手続き
父親や母親が認知症になったら、要介護認定の申請手続きや財産管理、相続対策についての準備を進めましょう。
具体的には、下記の準備を進めることをおすすめします。
- 要介護認定の申請手続き
- 財産管理や相続対策
- 金融機関での代理人手続き
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 要介護認定の申請手続き
認知症になった親が介護保険サービスを利用するために、要介護認定の申請手続きを行っておきましょう。
要介護認定の申請手続きは本人もしくは家族が自治体の窓口にて行う必要があります。
要介護認定の申請手続き方法および必要書類は、下記の通りです。
申請できる人 | 本人 家族 成年後見人 |
申請先 | お住まいの地域の地域包括支援センター お住まいの地域の自治体役場の高齢者福祉窓口 |
必要書類 | 申請書 介護保険証 かかりつけ医がわかるもの マイナンバー確認書類 健康保険証(要介護者が64歳以下の場合) |
4-2 財産管理や相続対策
本記事で解説してきたように、親が認知症と診断されたら財産管理や相続対策の準備も進めましょう。
認知症の症状の進行度によって利用できる財産管理方法が異なるので、できるだけ早く認知症対策に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
4-3 金融機関での代理人手続き
認知症になった親の口座が凍結されないように、金融機関にて代理人手続きを行っておくと安心です。
金融機関では、高齢になった親の代わりに預貯金を引き出せる代理人カードを発行してくれるところもあります。
ただし、金融機関にて「親が認知症になったから代理人カードを発行してほしい」と伝えると、その時点で口座を凍結され手続きできなくなる恐れもあるのでご注意ください。
可能であれば、本人が意思疎通できる段階のうちに手続きしておきましょう。
まとめ
親が認知症と診断されると、介護サービスの利用手続きや財産管理、運転免許返納など様々なことをしなければならず負担に感じることもあるでしょう。
しかし、自分も毎日の生活で忙しいから、症状がまだ軽度だからといって放置してしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれる恐れがありますし、資産が凍結され介護費用を捻出できない恐れもあります。
そのため、認知症と診断された時点、もっと言うなら親が元気なうちから認知症対策を進めておくことが肝心です。
認知症対策には、家族信託や遺言書の作成、任意後見制度など複数の方法があり、資産や家族の状況によってベストな対応が変わってきます。
自分に合う方法を選ぶためには専門的な知識があるので、認知症対策に精通した司法書士や弁護士にご相談ください。
グリーン司法書士法人では、家族信託や任意後見制度など認知症対策についての相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
親が認知症になったかも?と心配しているのですが診察を受けてもらう方法はありますか?
本人の気持ちに寄り添った上で、自分が心配している気持ちを伝えましょう。
認知症を放置するデメリットやリスクを伝えることで、受診に前向きになってくれる場合もあります。認知症だと疑われる場合は誰に相談すべきですか?
親が認知症かもしれないと感じたときには、医療機関や地域包括支援センターなどに相談してみましょう。これらの相談窓口で親の様子を伝えれば、本当に認知症の疑いがあるのかや今後の受診の流れについてアドバイスをもらえます。
父親が認知症と診断されましたが本人にどのように伝えるべきでしょうか?
認知症であることを本人に伝えるかは、慎重に判断しなければなりません。
本人に告知するのであれば、治療をするメリットなども伝え申告に受け止めすぎないように言葉や伝え方を選ぶ必要があります。本人が傷つきそう、重く受け止めそうであれば、告知はしないと家族で判断しても問題ありません。
認知症になると何ができなくなりますか?
認知症になり判断能力を失うと、財産管理や契約行為を行えなくなってしまいます。
また、物忘れや意思疎通が難しくなることにより、事故や事件に巻き込まれるリスクも上がります。認知症と診断されると保険金を受け取れますか?
加入している生命保険の種類によっては、保険金を受け取れる場合があります。
例えば、死亡保障を受け取れる条件が「死亡もしくは所定の高度障害条件に該当した場合」とされている場合は生命保険金が支給される可能性があります。