失踪宣告後に行方不明者が生きていた場合に必要な手続き・法的な取り扱い
失踪宣告とは、長年にわたり行方不明の人を法律上死亡した扱いにする手続きです。
長年にわたり行方不明者の相続人がいた場合、失踪宣告を行い行方不明者を死亡したものとみなした後に相続手続きを進めなければなりません。
しかし、中には失踪宣告が完了していたものの行方不明者が生きていたケースもあります。
このようなケースでは、失踪宣告の取り消しなどが必要です。
そして、失踪宣告が取り消しとなった後は、行方不明者に財産が返還され相続も取り消しとなります。
本記事では、失踪宣告によって死亡とされた行方不明者が生きていたと判明した場合の手続きや取り扱いについて解説します。
失踪宣告については、下記の記事で詳しく解説しているので合わせてお読みください。
目次
1章 失踪宣告後に行方不明者が生きていたとわかったら失踪宣告の取り消し手続きが必要
失踪宣告により死亡とされた行方不明者が実は生きていたとわかった場合は、失踪宣告の取り消しをしなければなりません。
失踪宣告の取り消し手続きは、失踪宣告の手続きと同様に家庭裁判所にて行います。
そして、申立て完了後は下記の流れで手続きが進みます。
- 申立て
- 家庭裁判所の審理
- 審判
- 結果の連絡
- 審判確定
失踪宣告の取り消し方法および必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 |
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手続き先 | 行方不明者本人が現実に居住している地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
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必要書類 | 【本人が申立てをする場合】
【本人以外が申立人の場合】
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2章 失踪宣告後に行方不明者が生きていた場合の取扱い
失踪宣告の取り消しが認められた後は、行方不明者の死亡が取り消されるだけでなく失踪宣告の手続きが最初からなかったものとして扱われます。
したがって、失踪宣告の取り消し後は財産の返還や相続の取り消しなどが行われます。
失踪宣告後に行方不明者が生きていたとわかった場合の取り扱いは、主に下記の通りです。
- 行方不明者の財産が返還される
- 行方不明者の相続が取り消される
- 婚姻の解消が取り消される
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 行方不明者の財産が返還される
失踪宣告が取り消されると、行方不明者の財産が返還されます。
返還される財産は不動産や預貯金などすべての資産が含まれますが、行方不明者の生存を知らずにすでに使用されていた分については返還の必要がありません。
2-2 行方不明者の相続が取り消される
失踪宣告が取り消されると、行方不明者の死亡もなかったことになるので相続も取り消されます。
そのため、相続人は自分が受け取った遺産を行方不明者に返還しなければなりません。
なお、失踪宣告により影響を受ける相続は、下記の2つと考えられます。
- 行方不明者が相続人となっている相続
- 行方不明者が死亡となったことにより発生する相続(行方不明者が被相続人)
長年にわたり行方不明の家族や親族がいて、行方不明者が相続人になったことで相続手続きを進められず失踪宣告の手続きを進めることもあるでしょう。
その後、失踪宣告が取り消された場合は行方不明者の死亡が取り消されるため、代襲相続の取り消しや各相続人の相続分が変更になる可能性があります。
また、失踪宣告の取り消しにより行方不明者が被相続人となる相続は取り消されるため、遺産を返還しなければなりません。
2-3 婚姻の解消が取り消される
失踪宣告が取り消されると、行方不明者との婚姻関係が復活します。
失踪宣告により行方不明者が死亡ととして扱われると、行方不明者との婚姻関係は解消される仕組みです。
あくまでも失踪宣告では「婚姻関係の解消」となるだけであり離婚とは異なるため、行方不明者の失踪宣告が取り消されれば解消自体が取り消しとなります。
したがって、行方不明者となった妻もしくは夫と完全に離婚したい場合は、失踪宣告ではなく裁判離婚の手続きをしなければなりません。
3章 失踪宣告後の相続・婚姻の取り消しの取扱い
先ほど解説したように、失踪宣告が取り消されると相続の発生や婚姻関係の解消が取り消されます。
ただし、すべての手続きを取り消す必要があるわけではなく、行方不明者の生存を知らずに行われた行為などは取り消す必要がありません。
失踪宣告後の相続および婚姻の取り消しの取り扱いは、下記の通りです。
- 失踪宣告の取り消しがあった場合は遺産を返還する
- 行方不明者の生存を知らずに行われた行為には影響しない
- 行方不明者の生存を知っていた行為は取り消される
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 失踪宣告の取り消しがあった場合は遺産を返還する
失踪宣告の取り消しが行われると、相続の取り消しもしくは代襲相続の取り消しなどが発生します。
相続の取り消しや代襲相続の取り消しなどが行われると、行方不明者に遺産を返還しなければなりません。
相続の状況別に遺産の返還についてまとめると、下記のようになります。
行方不明者が相続人となっている相続 | 代襲相続の取り消しや相続分の調整を行う (行方不明者が相続人として存在している場合の遺産分割を行う) |
行方不明者が死亡したことによる相続 (行方不明者が被相続人) | 行方不明者に遺産を返還する (行方不明者の死亡が取り消しとなり、相続自体が無効になる) |
なお、遺産の返還については、失踪宣告時が取り消されたときに残っている分を返還するだけで問題ありません。
行方不明者の生存を知らずに行われた行為であり、すでに使用してしまった分については返還する必要がないと決められているからです。
3-2 行方不明者の生存を知らずに行われた行為には影響しない
失踪宣告が取り消されたとしても、取り消し前に行われた行為のうち、行方不明者の生存を知らずに行っていたものは取り消す義務は発生しません。
例えば、下記のケースを見てみましょう。
- 長年にわたり行方不明だった父親の失踪宣告を行い、長男が不動産を相続した。
- 長男は相続した不動産を知人に売却した。
- その後、父親が生きていることがわかり失踪宣告が取り消された。
上記のケースでは、失踪宣告が取り消される前に行われた「長男による相続不動産売却」は、失踪宣告取消後も有効です。
そのため、相続不動産を買い取った人物は行方不明だった人物に不動産を返還する必要はありません。
ただし、不動産の返還義務がないのはあくまでも不動産の売主である長男と買主である知人がそれぞれ行方不明者の生存を知らなかったケースのみです。
3-3 行方不明者の生存を知っていた行為は取り消される
失踪宣告後に行方不明者が実は生きていることを知っていて行われた行為は、失踪宣告取消後に取り消されてしまいます。
例えば、3-2で紹介したケースにおいて、長男もしくは知人が行方不明となっている父親が生きていることを知っていた場合は不動産売買が取り消され、不動産は父親のもとに返還されます。
まとめ
行方不明の状態が続き失踪宣告を行ったものの実は生きていることがわかった場合は、失踪宣告の取り消し手続きを行わなければなりません。
関係者が行方不明者の生存を知っただけでは、死亡の事実は覆りませんし相続の取り消しや婚姻関係の復活もされないのでご注意ください。
失踪宣告が取り消されると、行方不明者の財産は本人のもとに返還されます。
ただし、すでに他の相続人が使用してしまった分については「行方不明者が生きていることを知らなかった場合に限り」返還する必要はありません。
相続人の中に行方不明者がいると、相続手続き時に失踪宣告が必要であり、万が一手続き後に生存が確認されると遺産分割協議や相続手続きのやり直しも必要です。
遺族の負担を減らすためには、相続人にあたる人物に行方不明者がいる場合は、遺言書の作成や生前贈与などの相続対策をしておきましょう。
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