土地や建物などの不動産は相続財産に含まれますが、土地とその上に建っている建物の名義が異なるケースは少なくありません。
土地と建物の名義人が異なる状況で相続が発生したときには、相続時にどんなことに注意すべきなのかを把握しておく必要があります。
例えば、建物は元から相続人名義であり土地は故人の持ち主であった場合、土地のみが相続財産として扱われます。
相続人が複数人いた場合は、建物所有者以外の相続人と建物の持ち主である相続人で土地の遺産分割方法や処分方法に揉めてしまうケースもあるでしょう。
本記事では、相続時に土地と建物の名義が違うケースを紹介します。
目次
1章 土地と建物の名義が異なるケースとは
土地とその上に建っている建物の名義が異なるケースは、決して珍しくありません。
親が所有している土地の上に子供が自宅を建設する場合もありますし、建物を建てる目的で土地を借りる場合もあるからです。
相続時に起きやすい土地と建物の名義が異なるケースとは、主に下記の通りです。
- 親が所有する土地に子供が建物を建てた
- 親が所有する土地に親子で共有名義の建物を建てた
- 相続した土地に建物を建てたが土地の名義変更手続きをしていなかった
- 故人が賃貸していた土地に賃借人が建物を建てていた
- 故人が借りた土地に故人名義の建物を建てていた
それぞれのケースについて、相続財産は何になるのか、相続時の注意点について解説します。
1-1 親が所有する土地に子供が建物を建てた
親が所有している土地の上に子供が自宅を建てるケースは、珍しくありません。
なお、無償で土地などの財産を貸す契約は使用貸借と呼ばれています。
- 亡くなった父親が土地を所有していた
- 長男がその土地の上に建物を建てた
- 土地の所有者である父親が亡くなり相続が発生した
上記のケースにおける相続財産および相続時の注意点は、下記の通りです。
相続財産 | 土地 |
相続時の注意点 | 建物の名義を所有している相続人が優先して土地を相続できるわけではない |
相続財産は土地のみになり、故人が遺言書を用意していなかった場合には遺産分割方法が決定するまで土地は相続人全員の共有財産として扱われます。
- 長男A(土地の上に建っている建物の所有者)
- 次男B
例えば、相続人が上記の2人の場合には、土地の分割方法でトラブルになる恐れもあるでしょう。
次男Bは「活用予定のない土地を売却したい」と考える一方で、長男Aは「自宅も建っているし土地をすべて相続したい」と主張する可能性もあるからです。
1-2 親が所有する土地に親子で共有名義の建物を建てた
亡くなった親と子供世帯が同居していた場合には、親が所有する土地に親子で共有名義の建物を建てているケースも多いです。
- 父親が土地を所有していた
- 長男と父親が共有名義で建物を建てた
- 土地および建物の共有名義人である父親が亡くなり、相続が発生した
この場合、相続財産および相続時の注意点は下記の通りです。
相続財産 |
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相続時の注意点 |
|
亡くなった親が所有する土地に親子で共有名義の自宅を建てていた場合、共有名義人である相続人が土地および自宅の共有持分を相続したがる可能性が高いです。
相続財産が土地や建物の共有持分しかなかった場合、共有名義人である相続人は残りの相続人に対して多く受け取った遺産相当分の金銭を支払わなければならない恐れもあります。
1-3 相続した土地に建物を建てたが土地の名義変更手続きをしていなかった
不動産を相続したときには名義変更手続きが必要であり、不動産の名義変更手続きは法務局で相続登記を行います。
相続登記は2024年までは義務化されておらず、相続人が自主的に行うものとされているので、相続登記が行われないまま受け継がれてしまう土地も珍しくありません。
- 父親が亡くなったときに長男が土地を相続した
- 長男が相続した土地の上に自宅を建てた
上記のケースにおける相続財産および相続時の注意点は、下記の通りです。
相続財産 | なし (父親が亡くなったときの遺産分割が完了していた場合) |
相続時の注意点 |
|
上記のように、過去に発生した相続の遺産分割が完了しているのであれば、現時点で未分割の相続財産はありません。
土地の名義人を故人から相続人へと変更すれば、問題ありません。
一方で、土地の名義が代々変更されておらず父親ではなく、祖父やその上の世代だった場合には過去の相続で遺産分割協議がどのように行われたのか調査が必要です。
調査の結果、父親の他に土地を相続した人物がいるのであれば、現時点で自宅を建てている長男が他の名義人から共有持分を買い取り権利関係を整理しておくのが良いでしょう。
不動産の名義変更手続きである相続登記は、これまで義務化されておらず、相続人の判断で行われていました。
しかし、長年にわたり相続登記が放置され所有者や権利関係がわからなくなった土地が増えるのを防ぐため、2024年4月から相続登記が義務化されます。
相続登記後の義務化後は、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科される恐れがあるのでご注意ください。
なお、相続登記の義務化は過去に発生した相続に関しても適用されるので、まだ相続登記がおすみでない不動産をお持ちの人は早めに手続きをしましょう。
相続登記は自分でも行えますが、司法書士に依頼すれば数万円程度で代行可能です。
1-4 故人が賃貸していた土地に賃借人が建物を建てていた
故人が自宅以外の土地を所有していた場合、第三者に土地を貸し、第三者が建物を建て活用することもあるでしょう。
この場合、第三者は建物が存在する間、土地を使用する権利(借地権)を有しています。
- 土地を所有していたのは父親
- 土地はAさんに貸し出していた
- Aさんは借りた土地に自宅を建てて住んでいる
- 父親が亡くなり相続が発生した
上記のケースにおける相続財産および相続時の注意点は、下記の通りです。
相続財産 | 底地 |
相続時の注意点 |
|
底地とは他人に貸していた土地のことであり、相続財産に含まれます。
底地は借地人が建物を建てるなどしてしている土地であり、相続しても自由に活用できるわけではありません。
相続した底地の売却自体は可能ですが、自由度が少ない底地は売却金額が安くなりがちです。
また、底地を相続人全員で共有持分で相続すると、借地人とのやり取りや管理、地代の分配方法などで揉めやすい点にも注意しましょう。
1-5 故人が借りた土地に故人名義の建物を建てていた
故人が第三者から土地を借りて自宅を建設して住んでいた場合も、土地と建物の名義人が異なります。
- 父親がAさんに土地を借りた
- 父親は借りた土地の上に自宅を建て住んでいた
- 父親が亡くなり、相続が発生した
上記のケースでの相続財産は相続時の注意点は、下記の通りです。
相続財産 |
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相続時の注意点 |
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第三者から土地を借り活用する権利である「借地権」も相続財産に含まれます。
また、借りていた土地の上に故人が建てていた自宅は、通常の不動産同様に相続財産として扱われます。
借地権の売却は地主の許可が必要ですので、故人が遺した建物を活用する予定がない場合には、地主に下記の内容について交渉を持ちかかしけるのもおすすめです。
- 借地権および建物を地主に買い取ってもらう
- 借地権と建物、底地を共同で第三者に売却する
なお、借地権を相続した相続人が故人が遺した自宅に住み続ける場合などは地主への許可は不要です。
契約更新も不要ですので、地主に契約更新および更新料を求められたとしても法的には応じる必要はありません。
このように、相続時点で土地と建物の名義が異なるケースでは、相続手続きが複雑になりがちです。
また、親が所有する土地に相続人の一人が建物を建てていた場合など、相続人同士で遺産分割方法に揉めてしまい相続トラブルが発生する恐れもあるでしょう。
土地と建物の名義が異なり、相続トラブルが起きそうなときには遺言書の作成や生前贈与などで相続対策を行い、相続トラブルを予防しておくのも大切です。
2章 土地と建物の名義が違う不動産を売却する方法
相続人全員で遺産分割協議が行われた結果、相続時に土地と建物の名義が異なる不動産を共に売却してしまいたいと考えるケースもあるでしょう。
土地と建物の名義が違う不動産は、購入後の自由度が少ないことを理由に買い手が見つかりにくい傾向にあります。
スムーズな売却をするためには、下記の方法で売却するのが良いでしょう。
- 土地と建物を単独で売却する
- 土地もしくは建物の名義を変更した後に売却する
- 土地と建物の名義を変更せず同時売却する
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 土地と建物を単独で売却する
土地と建物の名義が異なる場合でも、それぞれ単独で売却可能です。
なお、土地もしくは建物を売却する場合には、原則としてお互いの許可は必要ありません。
- 父親が土地を所有している
- 長男が無償で土地を借り自宅を建てて使用している
上記のケースでは、父親が土地を売却することも長男が建物を売却することも認められています。
ただし、現実的には土地と建物の名義が異なるケースでどちらかを単独で売却するのは難しいでしょう。
- 土地を購入したとしても、建物が建っていて自由に活用するのは難しい
- 建物を購入したとしても土地を無償で利用し続けられるとは限らない
上記の理由により、土地も建物も使い勝手が非常に悪く、購入後も土地もしくは建物の所有者とトラブルになる可能性が高いからです。
2-2 土地もしくは建物の名義を変更した後に売却する
土地と建物の名義が異なる場合、どちらかを買い取って名義を統一してからの方が売却しやすいです。
土地および建物を単独で所有した状態で売却すれば、買主は建物と土地を同時に購入できるので使い勝手が良くなりますし、トラブルも起きにくくなります。
一方で、売主は土地もしくは建物のどちらかを購入するだけの費用を用意しなければなりません。
2-3 土地と建物の名義を変更せず同時売却する
土地と建物の名義を統一しなくても、所有者同士が売却の意思を確認し合い同時に売却することも可能です。
買主側からすれば、父親名義の土地と長男名義の建物を同時に購入できれば、購入後の権利関係も整理しやすくなります。
同時売却するときには、土地と建物でそれぞれ売買契約を結んだ上で「片方の契約が成立して、初めて有効に成立する」といった内容にしておく必要があります。
- 契約内容が複雑になること
- 買主側が結ぶ売買契約が2つになること
上記の2点に注意が必要であり、対応できる不動産会社を見つけなければなりません。
まとめ
土地と建物の名義が違う状態で、片方の名義人が亡くなり相続が発生してしまうことは珍しいケースではありません。
土地と建物の名義が異なる状態で発生した相続は、相続財産が何になるのかを個別に判断し、遺産分割を進める必要があります。
また、相続人や故人が遺す財産の状況によっては、相続人同士で遺産分割を行うことが難しく相続トラブルに発展する可能性もあるでしょう。
相続トラブルを避け遺族の相続手続きの手間をできるだけ減らすには、遺言書の作成や生前贈与、家族信託などの相続手続きも検討するのがおすすめです。
どの相続対策を選べば良いか自分で判断するのが難しい場合には、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談すれば最も適した対策を提案可能です。
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よくあるご質問
不動産の名義変更手続きをしないとどうなる?
不動産の名義変更手続きをしなくても住むことはできますが、トラブルが生じる恐れがあります。
そのため、早めに名義変更手続きをするのが良いでしょう。
▶不動産の名義変更手続きをしないとどうなるか詳しくはコチラ