親が認知症になってしまい、判断能力を失ったと判断されると親名義の不動産を活用したり、売却することができなくなります。
そのため、親が介護施設に入居することが決まったとしても売却できないので、空き家のまま管理しなければなりません。
空き家は固定資産税などの維持費もかかりますし、治安や衛生面で周辺環境に影響を及ぼす恐れもあり注意が必要です。
また、実家を売却したお金で、介護費用に充てようと思っていた方は非常に困ったことになってしまいます。
ただし、認知症の症状が軽度であれば実家を売却できる場合もあるので、まずは司法書士や弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。
本記事では、認知症の親名義の空き家を売却する方法を解説していきます。
目次
1章 認知症の親名義の空き家は勝手に売却・活用できない
親が重度の認知症になってしまい意思疎通が取れなくなった場合には、子供であっても勝手に親名義の空き家を売却できません。
また、売却だけでなく他人に貸し出すなど空き家を活用することもできないので、ご注意ください。
親が重度の認知症となってしまった場合でも、成年後見制度の活用などで空き家を売却できる場合もありますが、売却の必要性がなければ家庭裁判所に認められない可能性もあります。
しかし、親名義の空き家を長年放置してしまうのは様々なリスクがあるため、次の章で詳しく確認していきましょう。
2章 空き家を放置しておくリスクやデメリット
認知症の親名義の空き家は勝手に売却することができないので、空き家のまま管理をする必要があります。
しかし、空き家を放置しておくと様々なリスクやデメリットがあります。
主なリスクやデメリットは、以下の5つです。
- 固定資産税などの維持費がかかる
- 住宅や土地の価値が下がってしまう可能性がある
- 放火や犯罪に使用される可能性がある
- 災害時に倒壊してしまう可能性がある
- 周辺景観の悪化につながる恐れがある
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 固定資産税などの維持費がかかる
使い道のない空き家や土地に対しても、固定資産税は毎年かかります。
空き家や土地の固定資産税評価額にもよりますが、毎年数十万円近く固定資産税がかかってしまうケースもあります。
さらに、空き家を放置してしまった結果、管理が行き届いていない「特定空き家」と認定されてしまうと、固定資産税の減免制度を受けられなくなり、最大6倍まで固定資産税の金額が上がってしまうので、注意が必要です。
2-2 住宅や土地の価値が下がってしまう可能性がある
人が住んでいない空き家は老朽化しやすく、放置していると住宅の価値が下がってしまう可能性が高いです。
また少子高齢化が進み、今後は土地の価格も徐々に下落していくと予想されています。
長期間、空き家を放置していると不動産の売り時を逃してしまい、売却益が減ってしまう恐れがあります。
2-3 放火や犯罪に使用される可能性がある
空き家は放火や犯罪に使用されるリスクもあり、注意が必要です。
さらに、空き家が放火被害に遭ったときには発見が遅れてしまい、火災の規模が大きくなってしまうことも少なくありません。
放火の他にも、犯罪者が住みついてしまう恐れもありますし、不法投棄場所として利用されてしまうかもしれません。
2-4 災害時に倒壊してしまう可能性がある
老朽化した空き家は、災害が発生したときに倒壊してしまう恐れもあります。
空き家が倒壊したときに隣家の建設物を壊してしまう可能性もありますし、通行人にケガをさせてしまう可能性もあるでしょう。
場合によっては、損害賠償トラブルに発展する場合もあるので、ご注意ください。
2-5 周辺景観の悪化につながる恐れがある
空き家を放置していると、周辺景観の悪化につながり、地価の下落も引き起こしてしまう恐れがあります。
周辺地域に住む人や会社から苦情が出て、自治体から是正勧告を受ける可能性もあるでしょう。
空き家に関する苦情が自治体に寄せられた場合には、自治体は空き家の持ち主に対して改善要求を出せますし、繰り返し要求や命令に従わなかった場合には強制取り壊しになる場合もあります。
このように、空き家を放置することは様々なリスクやデメリットがあります。
認知症となった親名義の空き家は使い道がないのであれば、売却を検討するのが良いでしょう。
次の章では、認知症となった親名義の空き家を売却する方法を紹介していきます。
3章 重度の認知症の親が住んでいた空き家を売却・活用する方法
親が重度の認知症になってしまい判断能力を失ったとされると、親名義の不動産を売却するのがかなり難しくなります。
具体的には、成年後見制度を活用して成年後見人に空き家を売却してもらうか、親が亡くなって子供が空き家を相続してから売却するしかありません。
それぞれの方法について詳しく解説していきます。
3-1 成年後見制度を活用する
成年後見制度を活用すれば、認知症になった親名義の空き家を売却できる可能性があります。
成年後見制度とは、認知症や知的障がいなどで判断能力を失った方が生活をしていく上で不利益を被らないように、成年後見人を選任しサポートしてもらう制度です。
上記の図の通り、成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
ただし、認知症の症状が進行し判断能力を失っている場合には、法定後見制度しか利用できません。
法定後見制度を利用する際には、家庭裁判所での申立てが必要ですし、希望した人物が成年後見人に指定されない場合もあります。
さらに、成年後見制度を活用したとしても、親が必要としている医療費や介護費用を捻出できないなど正当な理由がない限り、空き家になっている自宅の売却が裁判所に認められないケースがあることにも注意が必要です。
法定後見制度の申立ての概要と必要書類は、以下の通りです。
申立てする人 |
|
申立先 | 本人の所在地を管轄する家庭裁判所 |
申立費用 |
|
必要書類 |
など |
3-2 親が亡くなってから空き家を売却・活用する
先ほど解説したように、成年後見制度を活用したとしても親名義の空き家を売却できるとは限りません。
売却を急いでいない場合は、親が亡くなって空き家を相続した後に売却もしくは活用することも検討しましょう。
ただし、相続した空き家を売却する際には、事前に不動産の名義変更(相続登記)をしておく必要があります。
相続した空き家を売却する際には相続登記が必要であり、さらに2024年より相続登記を行うことが法律上義務化されます。
もし相続した不動産の変更登記がお済みでないのであれば、まずは相続登記を行いましょう。
相続登記は司法書士に代行してもらうことも可能です。
相続登記の義務化に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
4章 軽度の認知症の親が住んでいた空き家を売却する方法
物忘れは時折あるものの意思疎通は問題なくできる場合など、親が軽度の認知症であれば、親名義の空き家を売却できる可能性があります。
親が軽度の認知症であれば、主に以下の方法で空き家の売却が可能です。
- 家族信託を活用する
- 生前贈与を活用する
- 任意後見制度を活用する
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 家族信託を活用する
家族信託を活用すれば、親の認知症が進み介護施設に入居するタイミングなどで、信託契約を結んだ子供などが代わって空き家を売却できます。
家族信託とは、信頼できる家族に自分の財産を託して、管理や運用を任せる制度です。
家族信託は近年注目を集めている制度であり、成年後見制度よりも自由度が高い点が魅力です。
家族信託の主なメリットは、以下の通りです。
- 親が亡くなる前に受託者が空き家を売却できる
- 成年後見制度と異なり家庭裁判所での申立てが不要
- 信託内容によっては空き家の売却だけでなく活用も検討できる
上記のように家族信託はメリットが多い一方で、信託契約を結ぶ際には公正証書作成費用や不動産の変更登記費用などがかかります。
司法書士や弁護士などに家族信託の手続きを依頼した場合には、数十万円程度の費用がかかるケースもあります。
とはいえ、慌てて安値で売却しようとしてしまい不動産会社に足元を見られるよりは、経済的メリットがあると言えるでしょう。
親の認知症が進行しようが、「焦らず必要なタイミングでじっくり希望の価格で売却活動できること」がこの家族信託の最大のメリットです。
4-2 生前贈与を活用する
生前贈与を活用すれば、親が所有していた空き家を子供に引き継げるので、子供が自由に売却や活用を行えます。
生前贈与を行うと贈与された側には贈与税がかかります。
ただし、毎年110万円までであれば贈与税はかかりませんし、一定の要件を満たせば控除や特例が利用でき、贈与税が非課税になるケースもあります。
生前贈与は贈与者と受贈者の合意があれば行えますが、ミスな贈与や不動産の名義変更を行いたいのであれば、司法書士に手続きを依頼することもご検討ください。
4-3 任意後見制度を活用する
3章で解説したように成年後見制度には2種類あり、親の判断能力が残っているのであれば任意後見制度も活用できます。
任意後見制度の場合、契約時には家庭裁判所での申立ては不要ですし、親が希望する人物を任意後見人として指定できます。
例えば、子供を任意後見人に指定し、親の認知症の症状の様子を見ながら、親が自ら売却するのか、子供が任意後見人になって売却するのか、経過を見ながら判断することが可能です。
ただし、任意後見人に1回なってしまうと、親名義の空き家を売却した後も親が亡くなるまで任意後見人の義務を全うしなければなりません。
また、後見監督人(司法書士や弁護士など)が付くため、毎月1~2万円のランニングコストが本人が亡くなるまでかかり続けます。
メリット・デメリットをしっかり考慮して判断したい方は、司法書士や弁護士といった専門家への相談もご検討ください。
まとめ
親が認知症になって意思疎通ができなくなると、判断能力を失ったと判断される可能性があります。
また、重度の認知症になると、契約行為ができなくなるので親名義の空き家は売却できなくなります。
当然、子供や親族が親のかわりに、空き家を売却もしくは活用することは法律上<認められません。
重度の認知症になった親名義の空き家を売却するのであれば、成年後見制度を活用するか親が亡くなって空き家を相続した後に売却を行うしかありません。
一方で、親の認知症の症状が軽度であり意思の疎通ができる場合には、他の方法を選択し空き家を売却できる可能性があります。
具体的には、家族信託や生前贈与、任意後見制度を活用して空き家の売却や活用を検討できます。
認知症の症状には個人差が大きく、どの方法が良いかを判断するのは難しいので、司法書士や弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
グリーン司法書士法人では、家族信託や成年後見制度などに関する相談をお受けしています。
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