
- 相続登記の抹消とは何か
- 相続登記の抹消を行うケース
- 相続登記をやり直すメリット・デメリット
- 相続登記の抹消をする流れ・必要書類
相続登記は一度完了すれば安心、と思いがちですが、遺産分割協議の誤りや相続放棄などの事情により、登記を「やり直す」必要が生じることもあります。
このようなケースで行うのが「相続登記の抹消登記」です。
抹消登記は、誤った登記をいったん取り消し、正しい内容で再登記を行うための手続きです。
ただし、登記の修正内容によっては、抹消登記ではなく更正登記と呼ばれる手続きですむ場合も多くあります。
相続登記をやり直したいと思った場合には、どのような手続きが必要になるのか、司法書士などの専門家に一度相談してみると良いでしょう。
本記事では、相続登記をやり直すケースや手続きの流れ、費用について解説します。
目次
1章 相続登記の抹消(所有権抹消登記)とは
相続登記の抹消とは、一度行った相続登記を取り消し、登記名義を元の状態に戻す手続きです。
通常、相続登記は一度完了するとやり直しができませんが、「登記原因に誤りがあった」「登記の前提となる遺産分割協議が無効だった」などの場合には、例外的に抹消登記が認められます。
相続登記の抹消をする際には、誤った内容で登記された部分を削除し、正しい内容で再度登記をやり直す必要があります。
2章 相続登記の抹消を行うケース
相続登記の抹消を行うケースはある程度限定されており、主に以下の通りです。
- 遺産分割協議が無効となった
- 遺産分割協議をやり直した
- 登記名義人が相続放棄した
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 遺産分割協議が無効となった
何らかの理由により、遺産分割協議が無効になった場合には、相続登記の抹消を行う必要があります。
例えば、相続人の1人が認知症などで判断能力を欠いていた場合や、遺産分割協議書に押印をしていない相続人がいた場合などは遺産分割協議が無効になる恐れがあります。
このようなケースでは、遺産分割協議に基づいて行った相続登記も無効になるため、登記の抹消をしなければなりません。
具体的には、抹消登記を行った後、改めて全員が有効な遺産分割協議を行い、正しい内容で登記をし直します。
2-2 遺産分割協議をやり直した
一度成立した遺産分割協議であっても、相続人全員が合意すれば協議のやり直しを行えます。
例えば、相続財産の評価が誤っていた場合や、後から新たな財産が見つかった場合には、遺産分割協議がやり直されることがあります。
遺産分割協議をやり直した場合、過去の協議に基づいて行われた相続登記を抹消し、新しい協議内容で再登記を行う必要があります。
2-3 登記名義人が相続放棄した
相続登記後に登記名義人が相続放棄を行った場合も、抹消が必要となるケースがあります。
相続放棄をした方は、はじめから相続人でなかったものとみなされるため、放棄者の名義で行われた登記は法律上の根拠を失うからです。
この場合、家庭裁判所で相続放棄申述受理証明書を取得し、それを添付して抹消登記を申請します。
その上で、残りの相続人が新たに遺産分割協議を行い、正しい登記を申請する流れとなります。
3章 相続登記をやり直すメリット・デメリット
相続登記をやり直す場合には、すでに完了している登記を一度抹消し、改めて正しい内容で再登記を行う必要があります。
登記内容を正確にできるメリットがある一方で、手続きに手間がかかるデメリットがあります。
本章では、相続登記をやり直すメリットとデメリットを解説します。
3-1 相続登記をやり直すメリット
相続登記をやり直すメリットは、主に以下の通りです。
- 登記内容を正確に整えられる
- 将来の相続トラブルを防止できる
- 相続人全員が納得した形に整えられる
- 相続放棄や追加財産に柔軟に対応できる
最大のメリットは、登記簿上の所有関係を正しい状態に戻せることです。
実際の状況とは異なる内容の登記をそのままにしておくと、将来的な売却や名義変更の際に問題が生じる恐れがあります。
また、登記内容を正しいものにしておくことで、次世代の相続トラブルも防止しやすくなるでしょう。
3-2 相続登記をやり直すデメリット
相続登記をやり直すデメリットは、主に以下の通りです。
- 手続きが複雑で時間がかかる
- 費用がかかる
- 相続人同士の再調整が必要になる
- 誤ったやり直しをしてしまい、さらに複雑化するリスクがある
相続登記をやり直すには、まず既存の登記を抹消しなければなりません。
抹消登記には、既存登記の無効を証明する資料が必要であり、通常の登記よりも多くの手続きと時間を要します。
相続登記のやり直しを行う際には、抹消登記・再登記のそれぞれに登録免許税や司法書士報酬が発生する点もデメリットといえます。
さらに、登記名義人全員の同意が必要なため、相続人が多い場合や意見が対立している場合には、手続きが長期化する場合もあるでしょう。
4章 相続登記の抹消をする流れ・必要書類
相続登記の抹消登記は、通常の登記申請よりも慎重さが求められる手続きです。
なぜなら、すでに登記簿上に記載されている「権利関係」を消すことになるため、法務局側でも根拠資料を厳密に確認するからです。
相続登記の抹消は、以下のような流れで進めていきます。
- STEP① 登記原因証明情報を収集・準備する
- STEP② 登記申請書を作成する
- STEP③ その他の必要書類を収集・準備する
- STEP④ 法務局に登記申請書や必要書類を提出する
- STEP⑤ 登記完了通知を受け取る
それぞれ詳しく解説していきます。
STEP① 登記原因証明情報を収集・準備する
まずは、登記を抹消する必要があることを証明する資料を揃えましょう。
なお、この資料のことを「登記原因証明情報」と呼びます。
登記原因証明情報は、登記を抹消する原因によって様々であり、以下のようなものが考えられます。
| 登記を抹消する原因 | 登記原因証明情報の例 |
|---|---|
| 遺産分割協議が無効となった場合 | 協議が無効であることを示す証拠(相続人全員の合意書など) |
| 登記名義人が相続放棄した場合 | 家庭裁判所が発行する相続放棄申述受理証明書 |
| 単純な誤記の場合 | 誤りを証明できる書面や当事者の上申書 |
登記原因証明情報は、法務局が抹消に正当な理由があるかどうかを判断するために重要な書類です。
形式不備があると、抹消登記の申請が却下される恐れもあります。
自己判断で登記原因証明情報を用意するのではなく、司法書士に相談しながら書類を準備することをおすすめします。
STEP② 登記申請書を作成する
登記原因証明情報を揃えたら、次に「登記申請書」を作成します。
抹消登記の申請書には、以下の内容を記載しましょう。
| 記載項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 登記の目的 | 「所有権抹消」または「相続登記抹消」 |
| 登記の原因 | 「○年○月○日 遺産分割協議無効」など具体的な原因と日付 |
| 登記名義人 | 抹消対象の名義人全員の氏名・住所 |
| 不動産の表示 | 地番・家屋番号・所在など |
| 添付書類 | 登記原因証明情報、印鑑証明書、委任状など |
記載内容に誤りがあると登記が受理されないため、法務局の記載例を参照しながら慎重に作成しましょう。
司法書士に依頼する場合は、この書類作成から申請まで一括で任せることが可能です。
STEP③ その他の必要書類を収集・準備する
抹消登記の際には、これまで解説した登記原因証明情報や登記申請書だけでなく、以下のような書類が必要です。
- 登記済証または登記識別情報
- 登記名義人全員の印鑑証明書
- 戸籍謄本や住民票(相続関係を確認するため)
- 固定資産評価証明書(登録免許税の計算用)
上記に加え、司法書士などの代理人が申請する場合には、委任状も用意しなければなりません。
STEP④ 法務局に登記申請書や必要書類を提出する
すべての書類が揃ったら、対象となる不動産の所在地を管轄する法務局に登記を申請しましょう。
提出方法は、下記の3つです。
- 窓口での持参
- 郵送
- オンライン申請
郵送やオンライン申請の場合は、書類不備があると補正を求められるため、事前に法務局へ相談して確認しておくと安心です。
また、申請時には、不動産1件につき1,000円の登録免許税の納付も必要となります。
STEP⑤ 登記完了通知を受け取る
法務局で書類の審査が終わると、登記が完了します。
登記完了までの期間は、申請からおおよそ1〜2週間程度が一般的です。
登記完了後には「登記完了証(登記完了通知)」が発行され、抹消登記が正式に完了したことを確認できます。
この通知を受け取った後、新しい遺産分割協議書に基づいて再度相続登記を申請すれば、正しい内容の所有権登記に修正されます。
5章 相続登記の抹消にかかる費用の内訳・相場
相続登記の抹消を申請する際には、以下のような費用がかかります。
| 費用の内訳 | 相場 |
|---|---|
| 書類の収集費用 | 数百円から数千円程度 (原因によっても異なる) |
| 登録免許税 | 不動産の個数×1,000円 |
| 司法書士報酬 | 数万円程度 (原因や状況によっても異なる) |
6章 相続登記の抹消以外の選択肢
相続登記の抹消は、誤った登記をいったん取り消して正しい状態に戻すための手続きですが、場合によっては「抹消」を行わずに別の方法で登記内容を修正できることもあります。
特に、相続人同士で合意が得られている場合は、贈与や交換などを原因とする所有権移転登記によって実質的に同じ結果を得ることが可能です。
本章では、相続登記を抹消せずに修正を行う代表的な方法を紹介します。
6-1 更正登記を行う
相続登記の内容に誤りがある場合でも、その原因が登記申請時の記載ミスや表示の誤りにとどまる場合には、抹消登記や新たな移転登記を行わず「更正登記」によって修正できるケースがあります。
更正登記とは、登記の実体関係自体は正しいものの、登記簿の記載内容のみが誤っている場合に、その誤りを正しい内容に訂正する手続きです。
例えば、以下のような修正であれば、更正登記で対応できる可能性があります。
- 相続人の氏名の誤記
- 持分割合の記載ミス
- 地番・家屋番号の記載違い
ただし、遺産分割の内容そのものを変更する場合や、実体関係が異なっている場合は更正登記は利用できません。
どの手続きが適切かは、誤りの性質によって判断が分かれるため、司法書士などの専門家に確認した上で進めることが重要です。
6-2 贈与を原因とする所有権移転登記
すでに完了している相続登記の内容を修正したい場合でも、相続人間で合意があれば「贈与」という形で持分を移転することも可能です。
例えば、当初の遺産分割協議で長男が土地を単独相続する登記をしたものの、後日「実際は次男と半分ずつにしたい」となった場合、登記を抹消してやり直すのではなく、長男から次男に対して「贈与」を原因として所有権移転登記を行えます。
贈与を原因として所有権移転登記を申請するメリットは、抹消登記を経由するよりも手続きが簡単であり、法務局での審査もスムーズに進むことです。
一方、相続登記後に無償で持分を移転した場合、税務上は「贈与」とみなされ、贈与税の課税対象となる可能性があります。
たとえ、家族間でのやり取りでも、一定額を超えると申告義務が発生するため注意しましょう。
6-3 交換を原因とする所有権移転登記
もうひとつの方法が、「交換」を原因とする所有権移転登記であり、相続人同士でそれぞれが所有する不動産や持分を交換することで、登記内容を整理します。
例えば、長女が土地Aを相続し、長男が土地Bを相続したものの、後から「立地的に逆の方が便利」となった場合、両者で土地Aと土地Bを交換する契約を結び、所有権移転登記を行うことが可能です。
これにより、抹消登記を行わずとも登記簿上の所有者を実質的に入れ替えられます。
交換登記のメリットは、双方が財産を授受するため、贈与よりも公平で税務上も中立的な取扱いがしやすい点です。
原則として「時価が等しい不動産を交換する場合」は贈与税の対象とはならず、必要に応じて譲渡所得税の課税が発生するケースもありますが、差額が小さい場合は課税上の影響も限定的です。
一方で、交換登記を行う際は、登記原因証明情報として不動産交換契約書を添付し、互いの同意と意思表示を明確にしておかなければなりません。
また、交換による所有権移転も「移転登記」となるため、登録免許税(固定資産税評価額×2%)が発生します。
まとめ
相続登記のやり直しは、手間や費用こそかかりますが、誤った登記を放置するよりも長期的には大きな安心を得られる手続きです。
遺産分割協議が無効になった場合や、相続放棄をした相続人がいた場合には、抹消登記を行いましょう。
抹消登記や再登記の申請時には、登記原因証明情報の準備や登記申請書の作成などをしなければなりません。
自分で行うのが難しい場合には、司法書士に相談することをおすすめします。
グリーン司法書士法人では、相続登記や抹消登記についての相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
相続登記の抹消に税金はかかりますか?
相続登記の抹消を行う場合、「登録免許税」という税金が発生します。
相続登記の抹消登記にかかる登録免許税は、原則として不動産1件につき1,000円です。相続のやり直しに期限はありますか?
相続登記のやり直しには、明確な期限は定められていません。
ただし、相続登記や相続放棄には期限があるので注意しなければなりません。
2024年からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に登記申請をしなければなりません。
また、相続放棄は「自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内」に行う必要がありますし、遺産分割協議の無効を主張する場合には「詐欺や強迫、錯誤を受けたことを知ったときから5年」または「行為の時から20年」で消滅します。
このため、登記のやり直し自体はいつでも可能でも、その根拠となる法的手続きが期限切れになると、やり直し自体が認められなくなる恐れもあるのでご注意ください。








