
- 遺産分割協議書に記載のない財産が発見された場合の取り扱い
- 遺産分割協議書に記載のない財産が発見された場合、協議のやり直しは必要なのか
- 遺産分割協議書に記載のない財産が見つかったときの注意点
亡くなった人が遺言書を用意していない場合、相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
そして、協議でまとまった内容をもとに遺産分割協議書を作成し、遺産の名義変更手続きを進めます。
万が一、遺産分割協議書を作成した後に記載のない財産が発見された場合、原則として、一から遺産分割協議をやり直す必要はなく、新たに追加された財産のみ遺産分割協議をするだけですみます。
ただし、記載のない財産が最初から発見されていたら協議がまとまらなかった場合には、例外的に記載のない財産を含めて遺産分割協議をやり直さなければなりません。
本記事では、遺産分割協議書に記載のない財産が見つかったときの対処法や注意点を解説します。
遺産分割協議については、下記の記事で詳しく解説しているので合わせてお読みください。
目次
1章 遺産分割協議書に記載のない財産が発見されたらどうなる?
遺産分割協議書に記載のない財産が見つかった場合、新たに発見された財産について協議を行い決定した内容を遺産分割協議書にまとめる必要があります。
ただし、作成済みの遺産分割協議書に包括的な記載をしていた場合、新たに作成する必要はありません。
詳しく解説していきます。
1-1 記載のない財産が見つかった場合は新たに遺産分割協議書を作成する必要がある
遺産分割協議書に記載のない財産が新たに見つかった場合、その財産についても遺産分割協議を行い、決定内容を協議書にまとめる必要があります。
法律上は遺産分割協議書の作成は義務付けられてはいないものの、金融機関や証券会社、法務局などで遺産の名義変更手続きを行う際には遺産分割協議書の提出が求められるからです。
したがって、二度手間にはなってしまいますが、新たに見つかった財産についても相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
1-2 包括的な記載をしていれば新たに遺産分割協議書を作成する必要はない
最初に作成した遺産分割協議書に包括的な記載をしていた場合、新たに遺産が見つかった場合でも協議書を作成する必要はありません。
遺産分割協議書における包括的な記載の例は、下記の通りです。
- 本遺産分割協議書に記載のない一切の財産は、配偶者〇〇が相続する
- 〇〇を除く一切の財産は、長男◇◇が相続する
遺産分割協議書作成時に上記のような記述をしていれば、万が一新たに遺産が見つかったとしても、再び話し合いを行う必要はなく手間がかかりません。
遺産分割協議書の作成を司法書士や行政書士に依頼すれば、包括的な記載についても考慮してもらえるので、漏れのない内容や後からトラブルにならない協議書を作成したい場合は相談することをおすすめします。
2章 【原則】記載のない財産が見つかっても遺産分割協議のやり直しは不要
遺産分割協議が完了した後に、協議書に記載されていない遺産が新たに見つかったとしても、原則として遺産分割協議のやり直しは必要ありません。
本記事の1章で解説したように、新しく発見された遺産についてのみ話し合いを行い、決定した内容を協議書にまとめるだけで問題ありません。
ただし、新たに発見された遺産の金額が大きく影響度が大きいケースや相続人が遺産隠しを行っていたケースなどでは、遺産分割協議のやり直しが認められる場合もあります。
次の章では、記載のない財産が新たに見つかった際に遺産分割協議をやり直せるケースについて詳しく解説していきます。
3章 【例外】記載のない財産が見つかり遺産分割協議のやり直しが必要になるケース
遺産分割協議書に記載されていない財産が新たに見つかった場合、相続人の1人による遺産隠しが発覚したケースや記載のない財産が最初から発見されていたら協議がまとまらなかったケースでは、やり直しが認められる可能性があります。
記載のない財産が新たに発見されたとき、遺産分割協議のやり直しが認められるのは、主に下記のケースです。
- 記載のない財産が最初から発見されていたら遺産分割協議がまとまらなかったケース
- 相続人の1人が遺産を隠していたケース
- 相続人全員が遺産分割協議のやり直しに合意しているケース
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 記載のない財産が最初から発見されていたら遺産分割協議がまとまらなかったケース
新たに発見された遺産の金額が大きい場合や重要度が非常に高いケースなどでは、遺産分割協議のやり直しが認められる可能性があります。
具体的には、その遺産が発見されていたら遺産分割協議に合意しなかった、話し合いがまとまっていなかったと考えられるケースではやり直しが認められます。
ただし、あくまで認められるだけに過ぎないため、相続人全員が合意する場合はやり直さずに新たに発見された遺産について話し合いを行うだけでも問題ありません。
3-2 相続人の1人が遺産を隠していたケース
相続人の1人が遺産を隠していたケースでは、過去に行われた遺産分割協議のやり直しも認められる可能性があります。
遺産隠しは詐欺や錯誤に該当するため、遺産分割協議の取消権を行使できるからです。
遺産隠しの被害にあった相続人からしてみれば「最初に行った遺産分割協議だって納得できない」「もう一度まっさらな状態ですべて調べつくしてから協議を行いたい」と考えることも多いでしょう。
ただし、遺産隠しなど詐欺や錯誤による遺産分割協議の取り消しを認めてもらうには、相続人の1人が遺産隠しを行っていたという証拠を用意しなければなりません。
3-3 相続人全員が遺産分割協議のやり直しに合意しているケース
相続人全員が合意すれば遺産分割協議をやり直せます。
ただし、遺産分割協議のやり直しには、下記のデメリットがあるのでご注意ください。
- 遺産分割協議をやり直す手間がかかる
- 相続税の修正申告が必要な場合がある
- 相続税とは別に所得税や贈与税がかかる場合がある
- 最初の遺産分割協議後に相続人から善意の第三者に遺産の所有権が移転されていた場合、その行為は取り消せない
遺産分割協議のやり直しには相続人全員が合意する必要があるため、1人でもやり直しに反対している場合は認められません。
4章 遺産分割協議書に記載のない財産が見つかったときの注意点
遺産分割協議書に記載のない財産が新たに見つかった場合、見つかった遺産が借金だとしても相続放棄することは難しいのでご注意ください。
また、遺産分割協議をやり直したとしても、すでに遺産が第三者のもとにわたっていると返還してもらえない可能性があります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 新たに借金が見つかっても相続放棄することは原則として認められない
遺産分割協議が完了した後に、亡くなった人の借金が見つかったとしても、原則として相続放棄は認められません。
遺産を使用、処分してしまうと、相続放棄が認められなくなるからです。
遺産分割協議への参加は、自分の相続分を決め処分する行為であると考えられるため、相続する意思があると判断されてしまいます。
遺産分割協議後に亡くなった人の借金が見つかってしまうと、返済義務を受け継いでしまう恐れがあるのでご注意ください。
このような事態を避けるためには、遺産分割協議を行う前に亡くなった人に借金がなかったかを調べる必要があります。
4-2 遺産分割協議をやり直しても遺産を返還してもらえない可能性がある
遺産分割協議をやり直したとしても、すでに遺産が第三者の手にわたっている場合、返還してもらえない可能性があるのでご注意ください。
遺産分割協議のやり直しをする前に、相続人から善意の第三者に遺産の所有権が移転されていた場合、その行為は取り消せないと決められているからです。
具体例を共に確認していきましょう。
- 相続人は長男および次男であり、長男が不動産を受け継ぐことに長男および次男が同意した
- 長男が相続不動産を第三者に売却した
- その後、新たに故人が所有していた株式が見つかり、双方が遺産分割協議のやり直しに合意した
- 最終的には、次男が不動産を受け継ぎ、長男が株式を受け継ぐことに同意した
上記のケースでは、遺産分割協議のやり直しをした際にすでに相続不動産の権利が長男から第三者に移っています。
長男から第三者に売却する際に、第三者が発見されていなかった遺産の存在について知らなかった場合、第三者は購入した不動産を返還する必要はありません。
したがって、次男は遺産分割協議のやり直しにより不動産を受け継ぐことになったものの、実際には相続不動産の所有権を得ることができなくなってしまいます。
このように、遺産の状況によっては遺産分割協議のやり直しを行っても望む結果が得られない場合もあるのでご注意ください。
5章 遺産分割協議書作成後に新たに財産が見つかるのを防ぐ方法
遺産分割協議書を作成した後に、新たな遺産が見つかってしまうと、もう一度遺産分割協議を行う必要があり二度手間となってしまいます。
場合によっては、遺産分割の内容に納得できない相続人が現れトラブルに発展する恐れもあるでしょう。
このような事態を防ぐためには、そもそも最初の時点で相続財産調査を念入りに行い新たな遺産が見つかるような状況を防ぐ必要があります。
また、遺産分割協議書に包括的な記載をしておき、万が一の事態に備えておくのも有効です。
それぞれ詳しく解説していきます。
5-1 相続財産調査を念入りに行う
遺産分割協議を行う前には、相続財産調査を念入りに行っておきましょう。
相続財産調査とは、名前の通り、亡くなった人が所有していた遺産の内訳や金額を調査することです。
相続財産調査を漏れなく行っておけば、遺産分割協議書を作成した後に、新たな遺産が見つかるなんてことはありません。
例えば、亡くなった人が利用していたメインバンクを特定するだけでなく、現役時代に住んでいた土地の地方銀行の口座がないか調べる必要もあるでしょう。
他には、実家不動産だけでなく他にも不動産を所有していないか、実家の前の道は私道ではないかなども確認すべきです。
これらの調査は、思い当たる財産に対してひとつずつ行っていく必要があるので、非常に手間がかかりますし、場合によっては専門的な知識や経験が必要となります。
そして、相続財産調査で特に重要となってくるのは、亡くなった人の借金に関する調査です。
先ほどの章で解説したように、遺産分割協議が成立した後に故人の借金が見つかっても相続放棄することは原則として認められないからです。
亡くなった人に借金があるか不安な場合や相続財産調査を漏れなく行いたい場合は、相続に精通した司法書士や行政書士に相談することをご検討ください。
5-2 遺産分割協議書に記載のない財産についての取扱いを記載しておく
相続財産調査に漏れがあったときに備えて、遺産分割協議書を作成するときには、記載のない財産についての取り扱いを記しておくのも有効です。
例えば、下記のように記載しておけば、新たな遺産が発見されても遺産分割協議を再度行う必要がなくなります。
上記のように記載しておけば、亡くなった人が他に証券口座を持っていたことがわかっても、遺産分割協議を行わなくてすみます。
まとめ
遺産分割協議書に記載されていない遺産が新たに見つかった場合、その遺産について遺産分割協議を行い、決定した内容を協議書にまとめなければなりません。
なお、原則として新たに遺産が発見されたとしても、過去に行われた遺産分割協議のやり直しは必要ありません。
とはいえ、何度も新たに遺産が発見され遺産分割協議を行うことは避けたいですし、場合によっては遺産隠しなどが疑われトラブルに発展するケースもあるでしょう。
そのような事態を防ぐために、最初の遺産分割協議を行う前に相続財産調査を念入りに行っておかなければなりません。
相続財産調査は、亡くなった人の生前の暮らしを紐解き、どんな財産を所有していたかひとつずつ調査していく必要があります。
場合によっては、専門的な知識や経験が必要となることもありますので、ミスなく確実に行いたい場合は、相続に詳しい司法書士や行政書士に相談することもご検討ください。
グリーン司法書士法人では、相続財産調査をはじめとする相続手続きについて相談をお受けしています。
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