相続発生後に作成する遺産分割協議書は、誰がどの財産をどれくらいの割合で相続するかを記載します。
遺産分割協議書は法律で決められた形式があるわけではなく、預貯金などの金額を書かなくても問題ありません。
遺産分割協議書に預貯金などの金額を明記すると、各相続人の取り分を把握しやすくなるのがメリットです。
一方で、故人の預貯金を払い戻すまでに利子が振り込まれると、遺産分割協議書に書かれた金額と預貯金の残高に差異がでてしいます。
場合によっては、遺産分割協議書の修正が必要になり、余計な手間がかかります。
本記事では、遺産分割協議書に金額を書くメリットやデメリット、金額を書かないときの記載例を解説します。
遺産分割協議書については、下記の記事もご参考にしてください。
目次
1章 遺産分割協議書は金額を書かない場合も有効
遺産分割協議書には、金額の記載は必須ではありません。
相続人間で合意した内容が正しく記載されていれば、被相続人の預金残高を明記する必要はなく、金額を書かない場合も有効となります。
ただし、金額を書かないと相続人間で後々トラブルになる恐れがあります。
そのため状況に応じて、遺産分割協議書に金額を書くか書かないかを決めるのが良いでしょう。
次の章では、遺産分割協議書に金額を書くメリットとデメリットを解説します。
2章 遺産分割協議書に金額を書くメリット・デメリット
遺産分割協議書に金額を書くと、各相続人の取り分について把握しやすくなるメリットがあります。
一方で、遺産分割協議書に金額を書く場合、手間がかかりますし金額が異なると遺産分割協議書の修正が必要になってしまいます。
遺産分割協議書に金額を書くメリットとデメリットを見ていきましょう。
2-1 金額を書くメリット
遺産分割協議書に預貯金などの金額を記載しておくと、相続人全員が誰がどのくらいの額の財産を相続するか把握しやすくなります。
遺産のほとんどが預貯金を占める場合や預貯金の金額が大きい場合は記載をしても良いでしょう。
2-2 金額を書くデメリット
当たり前ですが、遺産分割協議書に預貯金などの金額を書こうとすると、その分の手間がかかります。
また、遺産分割協議書を作成した後に故人の口座に利息が振り込まれると、遺産分割協議書に書かれた金額と口座の残高が変わってしまいます。
その結果、銀行で預貯金の名義変更手続きをしようとしたとき、遺産分割協議書と金額が異なり受け付けてもらえない恐れや修正が必要な場合もあるでしょう。
場合によっては、遺産分割協議書の修正が必要になりかなりの手間となります。
さらに、遺産が預貯金以外に不動産や有価証券も含まれる場合は、遺産分割協議書に預貯金の金額のみ記載しても遺産の全容や各相続人の取り分がすぐにはわからない可能性もあります。
このことから、すべてのケースで遺産分割協議書に預貯金などの金額を記載する必要はなく遺産や相続人の状況に応じて記載すべきか判断するのがおすすめです。
3章 遺産分割協議書に金額を書かない場合の記載例
遺産分割協議書は金額を記載しなくても有効ですが、実際にどのように記載すれば良いかわからず悩んでしまう人もいるでしょう。
本記事では、下記のケースごとに遺産分割協議書に金額を書かない場合の記載例を紹介します。
- 預金口座の残高をひとりの相続人が受け継ぐケース
- 預金口座の残高を複数の相続人が受け継ぐケース
- 遺産分割協議書に金額を記載するケース
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 預金口座の残高をひとりの相続人が受け継ぐケース
預金口座の残高を相続人がひとりで受け継ぐ場合は、相続手続きを行う金融機関が故人の口座を特定できれば金額の記載がなくても問題ありません。
預金口座の残高をひとりの相続人が受け継ぐ場合の遺産分割協議書の記載例は、下記の通りです。
銀行などの金融機関が相続手続きを行う際に必要な情報は、下記の5つです。
- 銀行名
- 支店名
- 口座の種類
- 口座番号
- 口座名義人
遺産分割協議書には上記を必ず記載しましょう。
3-2 預金口座の残高を複数の相続人が受け継ぐケース
故人の預金口座の残高を複数の相続人が受け継ぐ場合、金額を記載するのではなく相続分について記載するのでも問題ありません。
遺産分割協議書の記載例は、下記の通りです。
上記のサンプルのように、金額ではなく各相続人が取得する割合を記載しておくと、遺産分割協議書を作成した日と金融機関で手続きを行う日で残高が違っても対応できます。
3-3 遺産分割協議書に金額を記載するケース
遺産のほとんどを預貯金が占める場合や預貯金の金額が大きい場合は、遺産分割協議書に預貯金の金額を記載したいと考える場合も多いでしょう。
遺産分割協議書に預貯金の金額を記載するときの例は、下記の通りです。
上記のように、遺産分割協議書に金額を記載するのであれば残高確認をした日付も記載しておきましょう。
4章 遺産分割協議で預貯金を相続するときの注意点
故人が遺言書を用意していなかった場合、相続人全員で遺産分割協議を行い誰がどの遺産をどれくらいの割合で相続するかを決定しなければなりません。
故人の相続財産に預貯金が含まれる場合に遺産分割協議で注意すべき点を解説します。
4-1 現金・預貯金の金額を相続人同士で確認しておく
遺産分割協議書に金額を記載する、しないにかかわらず、故人が現金や預貯金を遺して亡くなった際には相続人善人で金額を確認しておきましょう。
預貯金に関しては、記帳や残高証明書の発行で金額を確認しやすいです。
一方で、故人が遺した現金に関しては金額や存在を証明できないため、最初に現金を見つけた相続人の発言を信じるしかありません。
また、故人が亡くなる前後に預貯金を降ろして現金として保管するケースも珍しくありません。
故人が亡くなった後は、入院費用や葬儀費用の支払いなどでまとまった現金が必要な場合も多いからです。このように、故人の預貯金を引き出し現金として保管する場合はトラブルを避けるため、下記の対策もしておきましょう。
- 使途不明金がないように、領収書や費用明細を残す
- 100万円の戒名料など高額な支出に関しては、相続人全員の合意を取る
4-2 遺産分割協議書に疑問点がある場合は署名・押印しない
遺産分割協議書に疑問点や不審な点がある場合は、署名や押印をしないようにご注意ください。
一度、遺産分割協議書に署名、押印してしまうと、無効を主張するのは難しい場合もあるからです。
例えば、遺産分割協議書にあえて金額を書かず、財産を多く取得しようと考える相続人もゼロではありません。
具体例付きで見てみましょう。
- 相続財産:A口座800万円、B口座600万円
- 相続人:長男および次男
長男主導で遺産分割協議や相続手続きを進め、次男に対して「口座残高はあまり変わらなかったから、手続きも面倒だしA口座は自分が相続し、B口座は次男が相続しよう」と伝えてきたとします。
遺産分割協議書にA口座およびB口座の金額を記載していない場合、次男がA口座の方が200万円の残高が多いことに気付かない恐れもあるでしょう。
遺産分割協議書に署名、押印した後に気付いて無効を主張しても、残高を確認せず署名と押印をした次男にも責任があると無効を認めてもらえない可能性もあります。
このようなトラブルや自分にとって不利な相続を避けるためにも、遺産分割協議書に金額を書かない場合も財産に関して疑問点がある場合は納得するまで署名、押印をしないでおきましょう。
まとめ
遺産分割協議書に決まった形式はなく、預貯金など相続財産の金額を記載していなくても有効です。
金額を記載した方が後々も各相続人ごとの取得分を把握しやすいと考えるときは、金額を記載しても良いでしょう。
ただし、遺産分割協議書に金額を記載すると余計な手間がかかりますし、遺産分割協議書を作成した日と預貯金の払い戻し手続きを行う日で残高が変わっていれば遺産分割協議書の修正が必要です。
相続人同士のトラブルを避け全員が納得する遺産分割を行いたいのであれば、当事者のみで遺産分割協議を行うのではなく相続に詳しい専門家に依頼するのも良いでしょう。
相続に精通した司法書士や弁護士であれば、第三者の中立的な立場から公平な遺産分割協議を提案可能です。
グリーン司法書士法人では、相続手続きに関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
遺産分割協議書が必要ないケースとは?
下記のケースでは、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
・故人が遺言書を作成していたケース
・相続人が一人しかいないケース
▶遺産分割協議書が必要ないケースについて詳しくはコチラ
遺産分割協議書を書かないとどうなる?
遺産分割協議書を作成しないリスクは、下記の通りです。
・新たな相続が発生し相続人が増えて遺産分割協議が難航する
・相続人の気が変わって相続手続きに協力してくれなくなる
・相続人が認知症などになって必要なときに手続きができなくなる
・不動産の権利を失う可能性がある
・相続税の申告に間に合わなくなる
・相続財産に対する責任を相続人全員が負うこととなる
▶遺産分割協議書を作成しないリスクについて詳しくはコチラ