- 相続分の譲渡とは何か
- 相続分の譲渡はいつまでできるのか
- 相続分の譲渡をする方法・注意点
相続分の譲渡とは、他の相続人や第三者に「自分の相続分」を譲り渡すことです。
相続分の譲渡は持分の全部や一部、有償もしくは無償など自由度が高く、家庭裁判所での手続きも不要なので比較的簡単に行えるといえるでしょう。
しかし、相続分の譲渡は遺産分割協議が完了する前でないと行えないのでご注意ください。
遺産分割協議後に相続分の譲渡は行えないため、相続した遺産を他の相続人や第三者に譲りたい場合は、単純に贈与と同じ扱いになります。
本記事では、相続分の譲渡はいつまで行えるのか、手続きの流れや注意点を解説します。
目次
1章 相続分の譲渡とは
相続分の譲渡は「自分の相続分を他の相続人や第三者に譲り渡すこと」です。
相続分を譲渡すると、譲渡した範囲で元の相続人は相続分を失います。
例えば、すべての相続分を譲渡した場合は、元の相続人は相続人としての立場を失い、遺産分割協議に参加しなくてすみます。
- 遺産分割協議に参加したくない
- 相続トラブルに巻き込まれたくない
- 特定の人物に自分の相続分を譲りたい
上記に該当するケースは、相続分の譲渡を検討しても良いでしょう。
2章 相続分の譲渡はいつまで?
相続分の譲渡は、遺産分割協議が完了するまでに行わなければなりません。
相続発生から数年たっても遺産分割協議が完了していない場合でも、協議が完了していない限り、相続分の譲渡を行えます。
万が一、遺産分割協議が完了した後に自分の相続分を譲りたい場合、単純に相続した遺産を他の相続人や第三者に贈与する扱いとなります。
次の章では、遺産分割協議が完了した後に、自分の相続分を譲る方法を見ていきましょう。
3章 遺産分割協議後に相続分を譲る方法
先ほどの章で解説したように、相続分の譲渡が認められるのは遺産分割協議が完了するまでです。
遺産分割協議が完了した後に、自分の相続分を他の相続人や第三者に譲る場合、単純に相続した遺産を贈与する形となります。
贈与した遺産が110万円を超えれば、贈与された人物には贈与税がかかります。
加えて、相続税については最初に遺産を相続した人物(贈与者)に対して納税義務が発生するのでご注意ください。
このように、遺産分割協議が完了した後に遺産を他の人に譲ると、贈与税や相続税などの負担がかかってしまいます。
このような事態を防ぐために、相続分の譲渡は遺産分割協議が完了するまでに行っておきましょう。
自分が相続分の譲渡をすべきかわからない場合や遺産分割協議が難航している場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのも有効です。
相続に詳しい専門家であれば、遺産や相続人の状況に合う遺産分割方法を提案してくれます。
遺産分割協議が完了した後にどうしても相続分の譲渡を行いたい場合は、相続人全員で一度完了した遺産分割協議を合意解除して、再度遺産分割協議をやり直すことも可能です。
ただし、税法では最初に行われた遺産分割協議の内容で相続人が遺産を取得したと考えられます。
したがって、相続税については最初の遺産分割協議の内容にしたがって課税されますし、遺産分割協議のやり直しによって行われた相続分の譲渡に対しては贈与税や所得税が課税されます。
税金面の負担のみを考えると、遺産分割協議のやり直しに大きなメリットはないので、相続人全員が遺産分割協議のやり直しを希望するか、後々のトラブルを防ぐために相続人全員で書面にまとめておく必要があるかなどで判断するのが良いでしょう。
4章 相続分の譲渡をする方法
相続分の譲渡は当事者間の合意のみで成立しますが、後からトラブルが発生することを防ぐためにも、下記の流れで行っておくのが良いでしょう。
- 譲渡人と譲受人で相続分譲渡について合意する
- 相続分譲渡証書を作成する
- 相続分譲渡通知書を作成する
- 相続分譲渡通知書を発送する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
STEP① 譲渡人と譲受人で相続分譲渡について合意する
まずは、譲渡人と譲受人で相続分譲渡の条件や内容を話し合い、合意しましょう。
相続分の譲渡は、相続分をすべて譲るだけでなく一部の相続分を譲ることも可能です。
また、相続分の譲渡を有償もしくは無償で行うかも自由に設定できるので、しっかり話し合いを行いましょう。
STEP② 相続分譲渡証書を作成する
双方が話し合いの内容に合意したら「相続分譲渡証書」を作成しましょう。
相続分譲渡証書とは、名前の通り、相続分の譲渡が行われたことを証明する書類であり「相続分譲渡証明書」などと呼ばれる場合もあります。
相続分譲渡証書があれば、他の相続人に対して相続分の譲渡を証明しやすいですし、不動産の相続登記を行う際には相続分譲渡証書の提出が必要となります。
相続分譲渡証書のサンプルは、下記の通りです。
押印は信頼性を高めるためにも、実印を使用しましょう。
STEP③ 相続分譲渡通知書を作成する
続いて、他の相続人に対して相続分の譲渡を知らせるために「相続分譲渡通知書」を作成しましょう。
相続分譲渡通知書とは、譲渡人が他の相続人に対して「相続分を譲渡しましたよ」と伝える書類です。
相続分譲渡通知書のサンプルは、下記の通りです。
なお、譲受人が第三者の場合は、この第三者を交えて遺産分割協議を行うか相続分の取り戻し請求をするかを選択可能です。
STEP④ 相続分譲渡通知書を発送する
相続分譲渡通知書の作成が完了したら、配達証明付き内容証明郵便にて相続人に対して送付しましょう。
内容証明郵便を使うと郵便局と差出人の手元に日付入りの控えが残り確実に証拠を残せますし、配達証明を付けることで相手に郵便がいつ届いたかも明らかになり不着などのトラブルを回避できます。
5章 相続分の譲渡をするときの注意点
亡くなった人が借金を遺していた場合、相続分の譲渡を行っても譲渡人の借金返済義務がなくなるわけではないのでご注意ください。
他にも、相続分の譲渡をするときには、下記に注意しておきましょう。
- 亡くなった人が借金を遺していた場合は相続放棄をすべき
- 相続分の取り戻しの期限は1ヶ月と決められている
- 相続分の譲渡を行うと税金がかかる場合がある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
5-1 亡くなった人が借金を遺していた場合は相続放棄をすべき
亡くなった人が借金を遺していた場合、相続分の譲渡を行っても、元々の相続人が借金の返済義務から逃れることはできません。
譲渡人と譲受人の話し合いにより、借金を含めた相続分を譲渡すること自体は可能です。
ただし、相続分の譲渡について債権者は合意していないため「相続分の譲渡を理由に、亡くなった人の借金の返済を拒めない」と決められています。
亡くなった人が借金をしていて返済義務を負いたくない場合は、相続分の譲渡ではなく相続放棄をすべきです。
相続放棄とは最初から相続人ではなかった扱いになる手続きであり、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続できなくなります。
相続放棄は家庭裁判所で手続きを行う必要があり、自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内に手続きを行うとされているので、手続きする場合は相続発生後、速やかに動き出しましょう。
相続放棄の手続き方法および必要書類は、下記の通りです。
提出先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手続きする人 | 相続放棄する人(または法定代理人) |
手数料の目安 |
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必要なもの |
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5-2 相続分の取り戻しの期限は1ヶ月と決められている
相続分の譲渡が相続人以外の第三者に行われた場合、第三者が相続人として遺産分割協議に参加するのではなく、他の相続人が譲渡された相続分を取り戻すことも可能です。
これを「相続分の取戻権」と呼びます。
ただし、相続分の取戻権を行使できる権利は、相続分の譲渡が行われてから1ヶ月以内でないと行使できないと決められています。
したがって、相続分の譲渡から1ヶ月過ぎてしまうと、相続分を譲り受けた第三者も交えて相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
亡くなった人の遺産を第三者に受け継いでほしくない場合や遺産分割協議に第三者が入ってほしくない場合は、相続分の取り戻しを行いましょう。
ただし、相続分の取戻権を行使する場合、譲渡された遺産の時価や譲渡の際に支払った費用など相応の対価を譲受人に支払わなければなりません。
5-3 相続分の譲渡を行うと税金がかかる場合がある
相続分の譲渡を行うと税金がかかる場合があるのでご注意ください。
なお、相続分の譲渡にかかる税金の種類は、①譲渡を行った相手が相続人もしくは第三者かと②譲渡が有償、無償のどちらで行われたかによって下記のように決まります。
譲渡の相手および有償・無償かどうか | 譲渡人にかかる税金 | 譲受人にかかる税金 |
他の相続人に有償で譲渡した | 相続税 | 相続税 |
他の相続人に無償で譲渡した | かからない | 相続税 |
第三者に有償で贈与した | 相続税 | 贈与税 |
第三者に無償で贈与した | 相続税および譲渡所得税 | 対価が不相当な場合は贈与税 |
このように、相続分の譲渡の内容や相手によって税金が異なるので、相続分の譲渡を行う際には一度、税理士に相談しておくことをおすすめします。
まとめ
相続分の譲渡を行えば、自分の相続分を他の相続人や第三者に譲れます。
しかし、相続分の譲渡はあくまでも遺産分割協議が完了するまでに行わなければなりません。
遺産分割協議が完了した後に相続分を譲渡する場合、単純に相続した遺産を贈与するものとして扱うか、相続人全員で合意して遺産分割協議をやり直さなければなりません。
遺産分割協議後に相続分の譲渡を行おうとすると、税金の取り扱いが複雑になるケースもあります。
そのため、遺産分割協議が完了する前に、譲渡をするのか判断し手続きを完了させましょう。
相続分の譲渡を行うべきか迷っている場合や相続人同士では遺産分割協議がまとまらない場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談してみることもご検討ください。
グリーン司法書士法人では、相続手続きについて相談をお受けしています。
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