株を持っている方は、遺産が高額になりやすいため、相続税の対象となるケースが多くあります。
そのため、相続財産に株が含まれる場合には、相続税についてもしっかりと考えておきましょう。
とはいえ、株だからといって相続税の計算方法が変わるわけではありません。特別なのは評価の方法です。
株には大きく分けて「上場株式」と「非上場株式」の2つがあり、それぞれ評価方法は異なります。
この記事では、株の相続税の計算方法や評価方法、節税方法などについて解説します。
なお、株の相続方法については以下の記事を御覧ください。
目次
1章 株を相続した時の相続税の計算方法
株だからといって、相続税の計算方法が違うわけではありません。相続税は相続財産の総額に応じて課税されます。
相続税の計算方法は以下のとおりです。
(相続財産-相続税の基礎控除)×相続税率-控除額
※基礎控除=3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
相続税率と控除額は以下のとおりです。
課税対象額 ※基礎控除を引いた後の額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
例えば、遺産総額1億円、法定相続人5人の場合の相続税は以下のとおりです。
基礎控除=3,000万円+(600万円×5人)=6,000万円
相続税=(1億円-6,000万円)×30%-700万円=500万円
株については、株の評価額が相続税の対象となります。
株の評価方法については、次章で解説します。
2章 相続における株の評価方法
株の評価方法は、上場株式と非上場株式によって異なります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2−1 上場株式の場合
上場株式の場合、原則として相続発生日の終値を評価額とします。しかし、相続発生日に突然株価が高騰し、相続人の相続税負担が大きくなってしまう可能性も否めません。そのため、以下の3つのうち最も低いものを評価額として良いとされています。
- 相続が発生した月の終値の平均
- 相続が発生した前月の終値の平均
- 相続が発生した前々月の終値の平均
株価の終値はインターネットや証券会社が発行する残高証明書で確認できますので、自身で集計するようにしましょう。
なお、残高証明書の受け取りは名義人の死亡が分かる戸籍謄本が必要なので注意してください。
2−2 非上場株式の場合
非上場株式の場合、株価のデータが乏しいため、以下の2つのいずれかの方法で評価額を算出します。
- 原則的評価方式
- 配当還元方式
一般的には、評価方式を用いて算出しますが、持ち株数が少なく、経営にもあまり関与していない場合には配当還元方式を用いることがあります。
2−2−1 原則的評価方式
原則的評価方式にも、さらに以下の3つの評価方法があり、発行会社の規模や業績に応じて選択します。
- 類似業績比準方式・・・業績が類似する上場会社の株価を基準にする方法
- 純資産価額方式・・・会社を清算すると仮定し、株主1人あたりの分配額を評価額とする方法
- 併用方式・・・類似業績比準方式と純資産価額方式を、90:10、75:25、60:40、50:50のいずれかの割合で併用する方法
2−2−2 配当還元方式
配当目的で株を保有しており、特に経営には関与していないような場合などには、配当還元方式を用いて評価額を算出します。
具体的な算出方法は以下のとおりです。
(過去2年間の1株あたりの配当額×1/2÷10%)×(1株あたりの資本金額÷50円)
※過去2年とは、相続開始前の2期分の決算期を指す
※1株あたりの資本金額とは、資本金と剰余金の合計金額
計算に必要な情報は、発行会社に問い合わせることで開示してもらえます。
3章 株の相続税に関する特例
株は高額になりやすいことから、相続税を軽減するための特例が設けられています。
特例を利用することで相続税を抑えることが可能ですので、株を相続するのであれば理解しておきましょう。
3−1 相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例
株式を売却し、その利益を相続税の支払いに当てるケースもあるでしょう。
非上場株式の場合、買い手が見つかりにくい傾向にあるため、発行会社に買い取ってもらうことが多くあります。
買い取ってもらった場合に譲渡益が出た場合、譲渡所得税とみなし配当課税が発生し、税率は最高で45.945%と高い税率になります。
「相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例」を利用することで、この税率を20.42%に下げることが可能です。
この特例は、相続開始から3年10ヶ月以内に譲渡しすることと、税務署への申告が必要ですので注意してください。
3−2 非上場株式の納税猶予および免除の特例
中小企業の場合、自社の非上場株式に高額な相続税が課税されると、会社の存続に影響が出てしまうでしょう。
事業を承継する人が役員に就任している場合「非上場株式の納税猶予および免除の特例」を利用することで、一定条件を満たしていれば半永久的に納税を猶予してもらうことが可能です。
3−2 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を利用することで、株を譲渡したときに課税される譲渡所得税を軽減することができます。
株を含め、相続した財産を譲渡(売却)したことによって利益を得ると、譲渡所得税が課税されるため、すでに相続税を支払っている場合、相続税と譲渡所得税の2つの税金を支払わなければいけません。
譲渡所得税は【譲渡利益ー(取得費+譲渡費用)】に課税されますが、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月)から3年以内に売却した場合には「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を利用することで、すでに支払った相続税の一部を取得費に加算することができます。
課税対象額が減額されますので、結果的に譲渡所得税が軽減されることとなります。
4章 株の相続税の節税方法
株は高額になりやすいため、生前に節税対策をしていなければ相続人が困ってしまう可能性があります。
ここでは、株の相続税の節税方法について解説します。
4−1 生前贈与する
株が今後高騰する可能性があるのであれば、その前に生前贈与をしておくのも良いでしょう。
また、2章でも解説したとおり、株価は2ヶ月前まで遡って評価することが可能です。そのため、すでに高騰した株であっても過去の株価が低い時点での評価額で贈与することもできます。
例えば、1月時点で1,000万円、3月時点で3,000万円となった株を3月に生前贈与するのであれば、1月の株価1,000万円を贈与税の対象額として贈与することができるということです。
4−1−1 相続時精算課税制度を利用して贈与税を節税することも可能
贈与税の課税を避けたいのであれば、相続時精算課税制度を利用することも検討しましょう。
相続時精算課税制度とは、2,500万円までは贈与税を非課税とし、相続時に相続税を課税する制度です。2,500万円を超えた分の税率は一律20%ですので、贈与税の節税効果があります。
相続時精算課税制度を利用すれば贈与時点の評価額に相続税が課税されるので、現時点で株価が下がっている、もしくは将来高騰する可能性が高いのであれば、この制度を利用して生前贈与するのも良いでしょう。
これまで相続時精算課税制度を利用すると、毎年の贈与税の基礎控除額110万円は利用できませんでした。
しかし、2024年1月1日以降は相続時精算課税制度を選択した人にも毎年110万円の基礎控除額が与えられます。
相続時精算課税制度に基礎控除額が導入されたことにより、下記のメリットがあります。
- 毎年110万円以下の贈与であれば贈与税の申告および納税は不要
- 毎年110万円以下の贈与であれば贈与財産を相続税の加算対象に含めなくて良い
贈与者の年齢によっては毎年の基礎控除額を利用して贈与すれば、贈与税および相続税を大幅に節税できるでしょう。
制度改正により相続時精算課税制度を利用すべきかお悩みの人は、相続に精通した税理士に相談するのがおすすめです。
4−2 自社株の評価額を下げる
ご自身が会社のオーナーであれば、自社株(非上場株式)の評価を下げるのも1つの手段です。
配当や利益、薄価純資産を引き下げると株価を下げることができます。類似業績比準方式では、特別配当や記念配当は除外されるため、そちらに比重をおき、通常配当を少なくするよう切り替えるなどが有効です。
利益を減少させるには、社員への決算賞与や役員の退職金支給を支給したり、不良在庫処分したりする方法があります。
5章 まとめ
株は高額になりやすいため、相続税について考えておく必要があります。
相続税がかかる場合には、株の評価方法についても理解しておきましょう。
また、所有している株が高額なのであれば、生前贈与をしたり自社株の評価額をさげたりと生前に対策しておくことをおすすめします。