土地を相続した場合、小規模宅地の特例で土地の評価額を減額し、相続税を節税することが可能です。
土地の用途によっては、小規模宅地の特例に関する条件の一つに「生前、故人と同居していること」がありますが、この「同居」とは具体的にどのような状況を指すのか分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
例えば、「単身赴任をしていて、一時的に別居していた」「亡くなる直前、介護施設に入っていた」などの状況でも認められるのか悩みますよね。
そこで本記事では、小規模宅地の特例における「同居」とはどういった範囲を指すのか、具体的な事例を交えながら解説いたします。
目次
1章 小規模宅地の特例における「同居」とは
土地の使用用途によっては、小規模宅地の特例を適用するために「同居の家族であること」が要件とされているケースがあります。
例えば、故人と同居している家に住み続けるケースが当てはまります。
この「同居」とは、「亡くなった日まで、同じ家で生計を共にしながら生活をしていること」を指します。
なお、「同居」である必要があるのは、配偶者以外の親族のみであり、配偶者であれば生前に同居していなくても小規模宅地の特例を適用することが可能です。
小規模宅地の特例の概要や、その他要件については以下の記事をご確認ください。
2章 同居の家族が小規模宅地の特例を受けるための要件
故人と同居している人であっても、下記の2つの要件を満たす必要があります。
- 同居の親族であること
- 相続税申告期限まで自宅に居住していること
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2−1 同居の親族であること
同居の親族とは、同じ家で生活をする「配偶者」と「6親等以内の血族」「3親等以内の姻族」です。 br>
血族とは血の繋がった親戚であり、血が繋がっていなくても養子縁組をしている場合には血族に含まれます。 br>
姻族は配偶者の血族であり、3親等以内の姻族は、義父母・義祖父母・義兄弟姉妹・義甥姪・義叔父叔母(伯父伯母)が含まれます。
なお、同居と認められる期間に関しては制限がなく、極端な話ですが亡くなる1週間前に故人と同居を始めた場合でも、同居親族として認められる可能性があります。
2−2 相続税申告期限まで自宅に居住していること
同居の親族が小規模宅地の特例を適用する場合、相続発生前から、相続税申告期限まで自宅に居住している必要があります。
相続税の申告期限は、相続の発生もしくは相続の発生を知った日から10ヶ月です。
なお、相続発生前から同居している必要はありますが、同居期間は法律上定められていません。亡くなる直前に同居したとしても、その自宅が生活拠点であると認められれば、この要件を満たしていると認められます。
3章 小規模宅地の特例が認められるケースと認められないケース
「同居」と言っても、ケースによっては同居と認められるか判断が難しい状況もあるでしょう。
ここでは、小規模宅地の特例における同居に認められるケースとそうでないケースについて解説します。
一時的に単身赴任していた | 〇 |
亡くなられた方が施設に入居していた | △ (要件を満たしていれば適用可能) |
二世帯住宅に暮らしていた | △ (一つの建物として登記されていれば適用可能) |
亡くなった方の自宅の住所に住民票はあるが、居住していない | × |
介護などのために一時的に同居していた | × |
同じ土地に別々に自宅を建てて暮らしていた |
3−1 【◯】一時的に単身赴任をしていた
元々同居をしていたものの、仕事の関係でやむを得ず単身赴任している場合には「同居」として認められます。
生活拠点は故人と同居していた自宅であり、赴任期間が終了すれば、同居することが想定できるためです。
3−2 【△】亡くなられた方が施設に入居していた
元々同居していた故人が介護を要する状態となり老人ホームなどの施設に入居し、入居したまま亡くなった場合、以下の要件を満たしていれば「同居」として認められます。
- 故人が生前に要介護認定または要支援認定を受けていること
- 自宅を賃貸にしていないこと
- 都道府県知事へ届け出ている介護施設であること
上記の要件を満たしていない場合、小規模宅地の特例を適用できないので注意してください。
3−3 【△】二世帯住宅に暮らしていた
二世帯住宅に暮らしている場合、以下の2つの条件を満たすことで小規模宅地の特例が適用されます。
●条件①登記上一つの建物として登記している
二世帯住宅は見た目上一つの建物だとしても、
- ①登記上一つの建物として登記しているケース
- ②居住スペースに応じて区分登記(別々に登記している)ケース
の2つのケースがあります。
小規模宅地の特例で「同居」認められるのは「①登記上一つの建物として登記しているケース」のみです。
「②居住スペースに応じて区分登記(別々に登記している)ケース」は、登記上別々の家と判断されるからです。
●条件②建物の名義が故人の名義であること
自宅の名義が亡くなった方の名義でなければ小規模宅地の特例は適用できません。
名義は、単独名義でも共有名義でも良いですが、共有名義の場合、亡くなった方の持ち分のみに適用されます。
具体的には以下のとおりです。
父が亡くなった場合 | |
自宅の名義人 | 適用の可否 |
父 | 適用可能 |
父と息子 (持ち分/1:1) | 父の持ち分である土地の半分に適用可能 |
息子 | 適用不可 |
3−4 【×】亡くなった方の自宅の住所に住民票はあるが、居住していない
- 亡くなる前に故人の家に住民票を移した
- 転居したが、転居先に住民票は移さず、故人の家のまま
上記のように、住民票のみが亡くなった方の自宅にあるものの、居住していないようなケースは、亡くなった方の自宅は生活の拠点ではないため、「同居」とは認められません。
3−5 【×】介護などのために一時的に同居していた
生活の拠点は別にあるものの、亡くなった方の介護や看病をするために一時的に同居していたような場合や、週末だけ生活のお世話をするために通っていた場合は「同居」として認められません。
介護のための一時的な同居では、亡くなった方の自宅が生活の拠点であるとは認められないためです。
3−6 【×】同じ土地に別々に自宅を建てて暮らしていた
同じ土地に、2棟家を建て、それぞれに暮らしていたような場合、「同居」として認められません。
建物が2つの場合、登記上も別々にされていますので、登記上別々に暮らしていると判断されるためです。
4章 【家なき子の特例】同居していない家族でも小規模宅地の特例が認められるケース
亡くなった方と同居をしていなくても、小規模宅地の特例が適用されるケースがあります。
それは、持ち家を所有していない親族が、亡くなった方が一人暮らしをしていた家を相続する場合です。この特例を通称「家なき子の特例」と言います。
「家なき子の特例」が適用される要件は以下のとおりです。
- 被相続人に配偶者や同居の親族がいない
- 宅地を相続した親族は、相続開始前の3年間に「自己または自己の配偶者」「3等身以内の親族」「特別な関係がある法人」が所有する持ち家に住んだことがない
- 相続した宅地を相続税の申告期限まで保有する
- 相続開始時に居住している家を過去に所有していたことがない
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4−1 被相続人に配偶者や同居の親族がいない
被相続人が、独身(または死別)かつ、同居している家族がいないことが条件です。
4−2 宅地を相続した親族は、相続開始前の3年間に「自己または自己の配偶者」「3等身以内の親族」「特別な関係がある法人」が所有する持ち家に住んだことがない
相続時点で、相続する人が持ち家に住んだことないことが条件です。
「持ち家」には、自身名義のものだけではなく、配偶者や3親等以内の親族や、特別な関係のある法人(親族が経営する会社など)が所有する家も含まれます。
なお、3親等には、義理の両親や祖父母も含まれるので、注意しましょう。
4−3 相続した宅地を相続税の申告期限まで保有する
相続した家・土地を相続発生から相続税の申告期限(10ヶ月)以上所有していることが条件です。
本来、相続した家を引き継ぐこと人の負担を軽減するための特例ですので、この特例を利用した後すぐ売却することを防止するために設けられた条件です。
なお、「売却しないこと」が条件であり、住み続ける必要はありません。
4−4 相続開始時に居住している家を過去に所有していたことがない
現在は手放していたとしても、過去に亡くなった方の家を所有していたことがある場合、適用されません。
まとめ
小規模宅地の特例は、適用されれば土地の評価額を最大80%まで減額できる特例です。
相続税がかかる場合には、税額を大きく軽減できるため、ぜひ利用したいですよね。
しかし、小規模宅地の特例は、子供などが相続する場合「同居」の事実がなければ適用されませんので注意しましょう。
なお、土地や家を相続する場合には相続登記の手続きなどが必要です。
グリーン司法書士法人では、相続登記の手続きを33,000円~で承っております。そのほか、相続手続きを一括で任せられるサポートプランなどもご用意しておりますので、お気軽にご相談ください。
よくあるご質問
小規模宅地等の特例の要件は?
小規模宅地等の特例の適用要件は適用する土地と人ごとに決められています。
例えば、亡くなった人の自宅であれば、下記の要件を満たさなければなりません。
・亡くなった方が所有している土地であること
・建物が建っている土地であること
▶小規模宅地等の特例の適用要件について詳しくはコチラ小規模宅地等の特例を適用するにはいつまで住めばいい?
亡くなった人と同居していた人が小規模宅地等の特例を適用するには、相続してから10ヶ月は不動産を所有し続ける必要があります。
所有し続けているのであれば、住んでいなくても問題ありません。
▶小規模宅地等の特例の適用要件について詳しくはコチラ小規模宅地等の特例で同居親族と認められるのに必要な同居期間はどれくらい?
小規模宅地等の特例では、相続後は親族は相続税の申告期限まで故人の自宅に住み続ける必要があります。
一方で、相続前に関しては同居期間に制限はなく、亡くなる1週間前から同居したケースでも小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。