遺産がいらないときの3つの選択肢|相続放棄・相続分の放棄・譲渡とは

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司法書士中川 徳将

 監修者:中川 徳将

この記事を読む およそ時間: 5
この記事でわかること

  • 遺産がいらないときの選択肢
  • 相続放棄・相続分の放棄・譲渡が適しているそれぞれのケース
  • 相続放棄の手続き方法・必要書類

相続が発生した際、「遺産はいらない」「借金を引き継ぎたくない」と考える方は少なくありません。
しかし、「遺産はいらない」と口頭で伝えるだけでは法的な効力は発生せず、放置していると思わぬトラブルにつながることもあります。

本記事では、遺産を受け取らない方法やそれぞれの手続きの流れについて解説します。


1章 遺産がいらないときの3つの選択肢

相続が発生しても「自分は遺産はいらない」と考えるケースは少なくありません。
例えば、故人と疎遠だった場合や、兄弟姉妹や親族に譲りたい場合、相続すると借金まで引き継ぐ可能性がある場合など、様々な理由が考えられます。

「遺産を受け取らない」意思を明確にする方法は、主に以下の3つです。

  • 相続放棄
  • 相続分の放棄
  • 相続分の譲渡

似ているようでまったく異なる制度なので、それぞれの違いを理解しておきましょう。

1-1 相続放棄

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくする制度です。
家庭裁判所に申し立てを行い、受理されると、その方は初めから相続人ではなかった扱いになります。
したがって、遺産の一部だけを相続放棄することはできず、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がなくなるのが特徴です。

相続放棄の申立て期間は、原則として「自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内」に行わなければなりません。

相続放棄をした人の分の相続権は、他の相続人に再分配されます。
例えば、父の遺産を長男が相続放棄した場合、その分は他の兄弟や母親に移ります。
相続放棄により、同順位の相続人が1人もいなくなれば、次の順位の相続人に相続権が移る仕組みです。

なお、一度家庭裁判所で相続放棄が受理されると、原則として撤回はできないので慎重に判断する必要があります。

相続放棄とは?検討すべきケース3つや手続きの流れ・注意点まとめ

1-2 相続分の放棄

相続分の放棄とは、遺産分割協議の場で「自分の取り分を放棄します」と他の相続人に伝える方法です。

家庭裁判所への申立ては不要であり、相続人としての地位は残り続けます。
つまり、法律上の相続人ではあるものの、実際の財産分割では何も受け取らないという立場です。

例えば、兄弟3人で相続する際に、長男が「自分は遺産を受け取らなくていい」と発言し、他の兄弟がその意向を尊重して合意すれば、それが「相続分の放棄」となります。

相続分の放棄は家庭裁判所での申立てが不要な分、手軽に行えます。
一方で、相続分の放棄では相続人としての地位が残り続けるので、故人に借金がある場合には、相続分の放棄をしても返済義務が残り続けてしまいます。

相続分の放棄とは?相続放棄との違いやおすすめな人の特徴について

1-3 相続分の譲渡

相続分の譲渡とは、「自分の相続権を他の人に譲る」制度です。
相続分の放棄と同様に、相続人の地位は維持したまま、自分の持分を他人に移転します。
例えば、次男が「自分の相続分を兄に譲る」とするケースは、相続分の譲渡に該当します。

譲渡の相手は、他の相続人でも第三者でも構いません。

相続分の譲渡をする際には、家庭裁判所への申立ては不要ですが、トラブルを避けるために「相続分譲渡証明書」を作成しておくことをおすすめします。

また、相続分の譲渡も相続人としての地位は残るので、個人が借金を遺していた場合には、返済義務を負う恐れがあるのでご注意ください。
なお、第三者に譲渡した場合、相続人には相続税が課税され、譲り受けた側には贈与税が課税されます。

このように、「遺産がいらない」と一口にいっても、取るべき手続きは状況によって異なります。

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2章 相続放棄が適しているケース

相続放棄は、家庭裁判所への申述により最初から相続人ではなかったことになり、プラスの遺産もマイナスの遺産も一切受け取れなくなる制度です。

相続放棄が適しているのは、主に以下のようなケースです。

  • 故人に多額の借金がある場合
  • 故人と生前から疎遠であり、遺産を受け取る理由がない場合
  • 他の相続人とのトラブルに巻き込まれたくない場合

故人が借金を遺している場合には、相続分の放棄や譲渡ではなく、相続放棄を選択することをおすすめします。
相続分の放棄や譲渡は、相続人としての地位が残り続けるため、債権者から請求を受ける恐れがあるためです。

また、故人と長年疎遠であり、遺産を受け取る気持ちになれない場合や相続手続きを負担に感じる場合にも相続放棄をしても良いでしょう。
相続放棄をすれば、遺産分割協議に参加する必要がなくなるので、相続手続きや他の相続人とのやり取りを回避しやすくなります。


3章 相続分の放棄・譲渡が適しているケース

相続放棄とは異なり、相続分の放棄や相続分の譲渡は、相続人としての立場を残したまま「遺産を受け取らない」または「他の方に渡す」という柔軟な方法です。
家庭裁判所への申立ては不要であり、遺産分割協議や書面による合意で成立します。

家族仲が円満であり、自分は遺産を受け取る意思がない場合は、相続分の放棄で事足りるケースもあります。

相続分の譲渡は、遺産を譲りたい相手が具体的にいる場合に選択すると良いでしょう。
具体的には、以下のようなケースでは相続分の譲渡が適しています。

  • 特定の家族・親族に財産を集中させたい場合
  • 故人の介護などをしてくれた相続人に遺産を譲りたい場合

例えば、両親の面倒を見てきた兄弟に多く遺産を渡したい場合や、実家を守るために1人に遺産を集中させたい場合などは相続分の譲渡を検討しましょう。

ただし、相続分の放棄や譲渡は相続人としての地位が残り続けるため、故人の借金の返済義務を負ってしまう可能性があります。
そのため、相続分の放棄や譲渡をする際には、故人に借金がなかったか念入りに調査しなければなりません。


4章 相続放棄の手続き方法・必要書類

相続放棄をする際には、家庭裁判所に申立てをする必要があります。
申立て方法と必要書類は、下記の通りです。

申立てする人相続放棄する人(または法定代理人)
申立て先故人の住所地を管轄する家庭裁判所
申立て費用
  • 収入印紙800円
  • 郵便費用1,000円程度
必要書類
  • 相続放棄申述書(裁判所窓口またはHPからダウンロード)
  • 故人の死亡および相続人であることがわかる戸籍謄本
  • 故人の住民票除票または戸籍附票

など

相続放棄は自分で申立てすることもできますが、司法書士や弁護士に依頼すればより確実です。

相続放棄の手続を徹底解説|流れ・注意点・専門家に依頼すべきケース

5章 相続分の放棄・譲渡の手続き方法・必要書類

相続分の放棄や譲渡は、家庭裁判所での申立ては不要であり、遺産分割協議や書面の合意にて成立します。
それぞれの手続き方法を解説していきます。

5-1 相続分の放棄の手続き方法・必要書類

相続分の放棄をする際には、以下のような流れで手続きを進めます。

  1. 相続人全員で遺産分割協議を行う
  2. 遺産分割協議書を作成する
  3. 協議書の内容に従い、登記や名義変更の手続きを行う

まずは、遺産分割協議にて相続人全員で、「誰がどの財産を相続するか」を話し合いましょう。
その際、相続分の放棄を希望する方は「自分の相続分を放棄します」と明確に意思表示します。

話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作成し、その内容にしたがって遺産の名義変更手続きを行います。

5-2 相続分の譲渡の手続き方法・必要書類

相続分の譲渡を手続にする際には、以下のような方法で手続きを進めます。

  1. 譲渡契約書を作成する
  2. 他の相続人への通知または承諾を行う
  3. 遺産分割協議に譲受人が参加する

まずは、譲渡を希望する相続人と、譲渡を受ける相手との間で「相続分譲渡契約書」を作成します。
契約書には、以下のような項目を記載しておきます。

  • 譲渡する相続分の範囲
  • 譲渡日
  • 対価(無償または有償)

そして、相続分を第三者に譲渡する場合は他の相続人への通知または承諾が必要です。
通知書や内容証明郵便で正式に伝えると良いでしょう。

相続分を譲り受けた方は、相続人としての同等の立場となるため、遺産分割協議に参加し、遺産の取り分について話し合います。
遺産分割協議がまとまった後は、内容を遺産分割協議書にまとめ、遺産の名義変更手続きを進めます。

なお、相続分を第三者に譲渡した場合には、他の相続人には「相続分の取戻権」が認められています。
相続分の取戻権とは、他の相続人が、譲受人に対して譲渡と同一条件(原則として同一の対価)で相続分を買い戻すことができる権利です。

この取戻権は、相続分が第三者に譲渡された場合に限って行使でき、相続人同士で相続分を譲渡した場合には認められません。
また、行使には相続分が譲渡されたことを知った時点から一定期間内に行う必要があるとされており、期間を経過すると取戻しができなくなる点にも注意が必要です。


まとめ

「遺産はいらない」と一言でいっても、状況に応じて選ぶべき制度は異なります。
故人の借金を受け継ぎたくないのであれば、家庭裁判所での相続放棄、家族内で柔軟に整理したいなら相続分の放棄や譲渡を検討しましょう。

いずれも手続きの誤りや書類の不備があると無効になる恐れがあるため、早い段階で相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。

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よくあるご質問

相続放棄すれば介護や扶養もしなくてよくなりますか?

相続放棄は財産の承継を放棄する手続きであり、家族関係を断つものではありません。
したがって、相続放棄をしても法律上の親族関係や扶養義務はそのまま残ります。
例えば、親が亡くなった後に相続放棄をすると決めていたとしても、生前における介護や生活費の支援義務が消えるわけではありません。

相続放棄したのに請求書が届くのはなぜですか?

相続放棄をしても、家庭裁判所が金融機関や債権者に個別に連絡をすることはありません。
そのため、裁判所で放棄が受理されても、しばらくの間は「相続人」として請求書や督促状が届くことがあります。
万が一、相続放棄された後も債権者から借金の返済を請求されたら相続放棄申述受理通知書の写しを提出しましょう。

不動産だけ相続したくない場合にはどうすれば良いですか?

相続放棄はすべての遺産を受け取らなくする手続きであり、一部の財産だけを放棄することはできません。
不動産だけ相続したくない場合には、以下のような方法が考えられます。
・遺産分割協議で不動産を他の相続人に譲る
・相続土地国庫帰属制度を利用して、相続した土地を国に引き取ってもらう

相続放棄すれば親族と縁が切れますか?

相続放棄をしても、親族関係そのものが法的に消滅するわけではありません。
民法上の親族関係は、相続放棄によっては変わらないためです。
そのため、相続放棄をしても親族としての冠婚葬祭の関係や扶養義務などが消えることはありません。

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