親が亡くなったとき、兄弟・姉妹がいれば「遺産を分割する」ことになります。
実は、どれだけ仲のいい兄弟・姉妹であっても、遺産分割の場面でトラブルになるケースが多くあります。
「自分は親の面倒を見ていた」「一緒に暮らしていたから家はほしい」といった感情的な側面はもちろん、不動産などの分割しにくい遺産があるために平等に分けられないなどの物理的な側面などが複雑に絡むことによって図らずも争いに発展してしまうのです。
兄弟姉妹で、わざわざトラブルを起こしたい人はいませんよね。できれば円満に解決したいでしょう。
では、どうすればトラブルを避けることができるでしょうか。大切なのは「兄弟・姉妹の相続について、詳しく知っておく」ことです。
この記事では、兄弟・姉妹の相続権・相続分についてや、トラブルの事例と対処方法、揉めないための対策などについて解説します。
1章 兄弟・姉妹には平等に相続権がある
相続人やそれぞれの相続分は、民法で決められています。これを「法定相続人」「法定相続分」と言います。
遺言書などがない場合、遺産は「法定相続人」が「法定相続分」を相続することとなります。
親が亡くなった場合、子どもである兄弟・姉妹には平等に遺産を相続する権利があるのです。
具体的な法定相続分は以下のとおりです。
1-1 被相続人に配偶者がいる場合の兄弟の相続分
配偶者がいる場合の相続分は以下の通りです。
配偶者・・・1/2
子ども・・・1/2(人数で頭割り)
子どもが複数人いる、つまり兄弟・姉妹がいる場合は平等に分配されます。
例えば、「長男・次男・長女」という兄弟構成の場合は以下のようになります。
配偶者・・・1/2
長 男・・・1/6
次 男・・・1/6
長 女・・・1/6
1-2 被相続人に配偶者がいない場合の兄弟の相続分
被相続人に配偶者がいない場合、遺産のすべてを兄弟・姉妹で平等に分配します。
長男・長女で相続する場合は以下のとおりです。
長男・・・1/2
長女・・・1/2
法定相続人や法定相続分についてより詳しく知りたい方はこちらを御覧ください。
2章 兄弟が相続で揉めてしまう原因と対処法
「法律どおりに分配すれば、相続トラブルにならないのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、ひょんなことからトラブルになってしまうのが相続トラブルです。
ここでは兄弟間で揉めてしまう原因を紹介します。あらかじめ原因を知っておくことで、事前に対策を講じることができます。
ここでは「兄弟が揉めてしまう原因」について解説しますが、「起こってしまった争い」については兄弟間で冷静に話し合い、お互いの気持ちに寄り添って妥協案を模索することが最善の解決方法です。
争いに収集がつかなくなってしまったら、弁護士に依頼したり、遺産分割調停を行うこととなります。
そのため「相続発生前に対策をしておくこと」が非常に大切です。ここで紹介する原因について理解しつつ、3章で紹介する対策を検討しましょう。
2-1 家族で話し合いができていない
当たり前のようで、多くのご家族ができていないのが「家族での話し合い」です。
相続が発生すると、期限がある手続きも多く、冷静にゆっくり話していられなくなってしまいます。
相続発生後に話し合ってからでは遅いことも多く、「話し合いができていない」ということがトラブルの原因の根源であることも珍しくありません。
- 「面倒を看てもらっていたからすこし多めに相続してほしい」
- 「兄には学費や家の購入費用を出してあげたから少なくてもいいのでは?」
- 「今一緒に暮らしている家は、長男が相続してほしい」
など、親の意見や兄弟の事情をしっかりと聞き、できるかぎり全員が納得の行く形の相続を目指すようにしましょう。
とはいえ、「親が亡くなった後の話」というのは切り出しにくいですよね。
「この前、テレビで遺産トラブルについてやってて、怖いなと思ったから私達も事前に話しておこうよ」と当たり障りのない形で切り出してみてはいかがでしょうか。
また、話し合っている内容をボイスレコーダーなどに録音しておくと、後から聞きなおすこともできるので有益です。
2-2 遺産を平等に分けられない
遺産は現金のように分割できるものだけではありません。不動産や車など、分けられないものもあるでしょう。平等に分け合いたくても、売却したくない不動産などがある場合は、分配が難しくなってしまいます。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
【遺産総額】2200万円(うち、被相続人の土地2000万円・預金200万円)
【相続人】被相続人の配偶者なし、長男(被相続人と同居)、長女、次男
このような場合、土地は売却しなければ分割することができません。そのため、分割方法について兄弟間でトラブルになる可能性があります。
対処法
兄弟間で話し合い、分割できない遺産の分け方について話し合いましょう。
分け方については、以下のような方法があります。
- 誰かが土地を相続することで、全員が合意する
- 土地を相続した人が他の兄弟に不足分を金銭で補填する
- 土地を売却し、兄弟3人で均等に分ける
- 土地を共同名義で所有する
兄弟それぞれの事情を踏まえた上で、納得の行く方法で分割しましょう。
ただし、長男が暮らすための不動産を共同名義で所有することはおすすめできません。売却が自由にできなくなりますし、共同名義の人が亡くなった際には疎遠の親族が共有者になってしまう可能性があるためです。
このようなトラブルを避けるためにも、あらかじめ遺言書を作成し、分割方法についても記載しておくことをおすすめします。
2-3 遺言書の内容が偏っている
遺言書は法定相続に優先するため、遺言書がある場合は原則として遺言書の内容に従って相続します。
その遺言書の内容が、兄弟間で差が大きく偏っているとトラブルの原因になります。
例えば「遺産は同居していた次男にすべて相続させる」と書いてあったらどうでしょう。同居した事実があったとはいえ、同じ被相続人の子供として育った他の兄弟は納得できないのも無理はありませんよね。
その際、同意なしに遺言書の内容を覆すことは難しいですが、取り分が法定相続分より少ない場合は、相続人として遺留分を請求する権利があります。
遺言書は、遺産相続において最も効力が強く、原則として遺言書通りに遺産が承継されます。しかし、遺留分を請求すれば、法定相続人は一定の遺産を受け取ることができます。
遺留分についてより詳しく知りたい方はこちらを御覧ください。
対処法
遺留分の請求は正当な権利です。他の兄弟が遺留分を強く望むのならそれに応じるのが良いでしょう。
もし、不動産などの分けられない遺産しかない場合は兄弟を説得し、遺留分の請求を取り下げてもらうしかありません。また、遺留分を支払うために、不動産の売却がやむを得なくなる場合などはよりトラブルに発展しやすくなります。
相続が発生してからは、遺留分を対策する手段がありません。生前に対策をしておくことをおすすめします。
2-4 財産に多額の借金がある
遺産を相続する場合、プラスの財産だけを相続できるわけではありません。借金などのマイナスの財産も相続することとなります。
相続することにデメリットが大きい場合は、相続放棄をすることが一般的ですが、被相続人と同居していた場合など、実家を手放してしまったら困るケースもあるでしょう。
借金のせいで全員が相続放棄をしなければいけなくなる、同居していた方は実家を手放さないためにすべての借金を負わなければいけなくなる、といったトラブルになる可能性があります。
対処法
借金によるデメリットが大きい場合は、相続放棄を選択しましょう。
プラスの財産と借金がある場合、それを差し引いてプラス部分だけを相続する「限定承認」という方法もあります。
もし、同居していた場合は、「家を選ぶか」「借金をしないか」の2択となってしまいます。自身の状況を鑑みて慎重に検討しましょう。なお、相続放棄するかしないかは、各人が選択することができるのがポイントです。
借金の相続についてはこちらの記事もご覧ください。
2-5 兄弟の嫁が口を出してくる
兄弟同士で相続について納得の行く形で話し合いをまとめていても、事情を把握していない兄弟の嫁(姉妹の夫)が口を挟んでくるケースでは、どうしても話がこじれてしまいます。
例えば、以下のようなケースがあります。
被相続人の生前に話し合った上で
- 同居して、面倒を見てくれている長男には自宅を相続
- 次男は生命保険金1000万円の受取人にする代わりに相続放棄をする
- 長女は預金の1000万円を相続する
と決めて、兄弟たちは上記の内容で納得をしていた上で遺言書を残していた。
しかし、次男の嫁が「生命保険金は遺産じゃないから遺留分を請求する権利がある!」と主張してきたことにより、話し合いがややこしくなってしまった。
対処法
奥様もご家族ではありますが、亡くなった方のご意向を優先してあげるのが大切です。
兄弟間で合意しているにであれば、ご兄弟の奥様には納得してもらい、遺留分の請求を取り下げてしまいましょう。
2-6 兄弟間で介護負担が偏っている
親と同居をしていたり、近所に住んでいたりする子供は、親の介護負担が他の兄弟に比べて大きくなることも多いでしょう。
そのような場合、「寄与分」として介護をしていた兄弟は他の兄弟より多く遺産を取得することが認められる場合があります。
この寄与分を巡ってトラブルになるケースも少なくありません。
例えば、以下のようなケースがあります。
長男夫婦は母の生前、近くに住んでおり、日常的なお世話や病院の付添などを献身的に行い、旅行に連れて行ってあげたり、日用品を買ってあげたりもしていた。
母が認知症になってからは、とても大変だったが、亡くなる直前まで介護をし続けた。
そこで長男は「これまで親の面倒を見てきたから、多く遺産を受け取る権利があるはずだ」と主張しています。
一方で他の兄弟は「私達は遠くに住んでいたから面倒は見られなくても仕方ない。近くに住んでいる長男が介護をするのは子供として当然のこと。兄弟なんだから平等に相続するべきだ」主張。
対処法
長男が「被相続人の介護をどれだけしていたか」「どれくらい大変だったか」という話に耳を傾け、気持ちを汲み取ることが大切です。
「親の面倒を見ることは子供として当たり前」「同居しているのだから当然」と思うかもしれません。しかし、親の介護というのは想像以上に大変です。
もしそれでも納得が行かない場合は、裁判所に判断を委ねましょう。介護の程度などを鑑みて寄与分が発生するか否か、発生するならどの程度かというのを決定してくれます。
2-7 財産内容を開示してくれない・財産の管理がずさん
親が認知症などになっていて子供が同居している場合、財産を同居している子供が管理していることも少なくありません。
いざ、遺産分割協議をしようとしたときに、管理していた兄弟が財産をすべて開示しなかったり、思っていたよりずっと財産が少なかったりするケースがあります。
そうなると、他の兄弟から「使い込んでいたのでは?」「本当は他のところに財産を隠していたのでは?」と疑心暗鬼になってしまうでしょう。場合によっては、使い込みもせず、しっかりと財産内容を開示していたとしても、疑いが生じてしまうこともあります。
兄弟が疑心暗鬼になってしまうと、話し合いは一向に進まず、争いに発展してしまうこともめずらしくありません。
対処法
財産内容を明確にできる資料を開示してください。また、親の介護や日常生活にお金がかかったのであればその証明となる領収書などを提示するのも良いでしょう。
また、財産調査に時間がかかりそうなら、相続手続きのスケジュールについても共有しておきましょう。
2-8 被相続人に 前妻・愛人との間に子供がいた
被相続人の前妻や愛人に子供がいた場合、その子供も同じく「被相続人の子供」として扱われます。
つまり、異母兄弟として均等に遺産が渡ることになるのです。
このケースの場合、兄弟同士で争うことはなくても、異母兄弟と争う可能性は大いにあります。
最悪なケースは、兄弟が誰も異母兄弟について知らなかった場合です。被相続人が亡くなった途端、突然「被相続人の子供です」と現れると、話が複雑になってしまいます。
対処法
突然、知らない人が「相続人です」と名乗りを上げてきたら驚きますよね。
しかし、異母兄弟であっても平等に相続権があることも事実です。その権利を行使されたら拒否することは難しいでしょう。
冷静に話し合い、納得の行く形を目指しましょう。もし、まとまらない場合は、法定相続分通りに相続することも視野に入れなければいけません。
また、分割方法などの話し合いはつきそうだが、気持ち的に直接対面したり連絡をとったりしたくない場合は、相続手続きを司法書士や弁護士へ一任するなど検討しましょう。
3章 兄弟が遺産相続で揉めないために行うべき4つの対策
前章で紹介したトラブルは、起こってしまったら争いを収束させるために話し合うか、調停を行うしかありません。
そのため「トラブルを事前に防ぐ」ことが大切です。
ここでは、兄弟で揉めないための対策について解説します。
3-1 家族で話し合っておく
シンプルですが、最も大切なのは「家族で話し合うこと」です。
「親が亡くなった後の話」となると、どうしても避けてしまいがち。親にも言い出しにくいですよね。
しかし、だからといって避け続けてしまうといざという時、トラブルになってしまうのです。
生前の対策は話し合わなければなにもできません。兄弟はもちろん、ご両親も一緒に話し合っておくことが大切です。
できればボイスレコーダーや、話した内容のメモなどの残しておくとよいでしょう。
3-2 遺言書を書いておく
遺言書は、相続トラブルを防ぐために最も効果的です。
- 一緒に暮らしていた長男には家を残す
- 面倒を見てくれた長女には多く残してあげる
といった、家族の背景を踏まえた相続を記載しておくと良いでしょう。
また、前妻・愛人との間に子供がいる場合も、その子供の相続に対しても明記しておくと相続発生時に残された人たちがトラブルにならずに済みます。もちろん、遺言書は生前本人以外に見せる必要はありません。
親に「遺言書作ってほしい」と言うのは気が引けますよね。しかし、親も自分の亡き後に兄弟が争うことなど望んでいないと思います。
「弁護士や司法書士などの専門家に一度相談してみない?」と連れ出して、作成するメリットについて説明してもらうのも良いでしょう。
遺言書の作成について詳しく知りたい方はこちらを御覧ください。
3-3 財産目録を作っておく
財産目録とは、被相続人の財産が明記された表です。
相続時によくあるのが「財産がどこにあるか分からない」「どれだけ財産があるのか分からない」というトラブルです。
財産目録を作っておけば相続発生時に、相続人たちがひと目で遺産の内容が分かるため、使い込みや財産隠しが疑われることを防ぐことができます。
財産目録には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産についても記載しておきましょう。
こちらの記事も合わせてご覧ください。
3-4 親の財産を管理する際は情報共有をする
同居していたり、面倒を見ていたりする家族は、被相続人の生前に財産を管理していることも珍しくありません。
その時は何も思っていなくても、いざ相続の場面になると「実は使い込んでいたのでは?」と他の兄弟に疑われてしまうことがあります。
そうならないよう、高額な出費があったときは報告したり、定期的に通帳を見せるなど、親の財産の支出を共有しておくことが大切です。
まとめ
どれだけ仲の良い兄弟でも、相続の場面では争いに発展してしまうことは珍しくありません。
一度揉めてしまうと、話し合うか、遺産分割調停をするしかなくなってしまいます。
そのため、生前にしっかりと対策をしておくことが重要です。
どのように対策すれば良いか分からない、不安という方は司法書士や弁護士などの専門家に相談してみましょう。