
【この記事でわかること】
- 国際相続の基本ルール
- ケース別の国際相続の取り扱い
- 海外在住の相続人がいるときの必要書類
- 国際相続が発生したときの注意点
国際相続とは、遺産や相続人などの関係者が国境をまたいで発生する相続です。
故人が海外の不動産を所有していた場合や、相続人に海外在住者がいる場合などが、国際相続に該当します。
国際相続が発生したときには、遺産の取り扱いや相続税の申告などの手続きが複雑になるので、注意しなければなりません。
国際相続の手続きを自分で行うことは現実的ではないので、相続に精通した司法書士や行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。
本記事では、国際相続の取り扱いや発生時の注意点について詳しく解説します。
1章 国際相続の基本ルール
国際相続が発生したときには、故人の国籍によってどこの国の法律が適用されるかが決まります。
本章では、国際相続の基本的なルールについて詳しく見ていきましょう。
1-1 故人の国籍によって適用される法律が決まる
国際相続が発生したとき、どこの国の法律に基づいて手続きを進めれば良いのかわからなくなってしまうこともあるでしょう。
相続については、故人の国籍によって適用する法律を決定します。
(相続)
36条 相続は、被相続人の本国法による。
(遺言)
37条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。
引用:法の適用に関する通則法
したがって、故人が日本国籍だった場合は日本の法律に則って相続が行われます。
相続人の中に外国人がいたとしても、故人が日本人の場合は、日本の法律にしたがう必要があるのでご注意ください。
1-2 遺産に海外資産が含まれると複数国の法律に則って手続きを行う必要がある
故人が日本国籍を有していた場合は、日本の法律にしたがって相続が行われると解説しましたが、遺産に海外資産がある場合は、海外の法律も適用される場合があるのでご注意ください。
国際相続の際に適用される法律を整理すると、下記のようになります。
故人が外国籍 | 故人が国籍を有している国の法律に則って相続が行われる | |
---|---|---|
故人が日本国籍 | 遺産に海外資産が含まれる |
|
遺産に海外資産が含まれない | 日本の法律に則って相続が行われる |
国によっては「財産の所在地の法律を適用する」などと決まっている場合もあります。
したがって、国際相続が発生した場合、故人の国籍や所有している資産の状況によって、どこの国の法律を適用するのかを判断しなければなりません。
相続についての専門的な知識と経験が必要となるので、相続に詳しい専門家に相談することを強くおすすめします。
次の章では、国際相続の取り扱いについてケース別に詳しく見ていきましょう。
2章 【ケース別】国際相続の取り扱い
国際相続が発生した場合、どの国の法律を適用するのかを判断する必要があります。
本章では、下記のケース別に国際相続の取扱いを解説していきます。
- 日本在住の故人が海外資産を所有していたケース
- 故人が海外在住であり遺産を日本在住の相続人が相続したケース
- 故人が日本在住であり遺産を海外在住の相続人が相続したケース
- 日本国籍を有する故人・相続人が海外移住先で亡くなったケース
- 海外在住の相続人が外国籍を有しているケース
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 日本在住の故人が海外資産を所有していたケース
日本に住んでいた故人が海外に不動産や金融資産を所有していた場合、遺産分割および相続税については日本の法律が適用されます。
ただし、不動産の相続については、所在地国の法律が適用される場合があるので、注意しなければなりません。
具体的には「相続分割主義」を採用している下記の国などの不動産を故人が所有していた場合、相続手続きが複雑になる恐れがあります。
- アメリカ
- イギリス
- 中国
後述しますが、アメリカなどでは裁判所に遺産分割の許可をもらう検認(プロベート)が必要になるため、遺産を受け取れるまでに時間がかかる可能性もあります。
2-2 故人が海外在住であり遺産を日本在住の相続人が相続したケース
故人が海外在住であり、日本在住の相続人が相続した場合、すべての遺産について、日本の相続税がかかります。
ただし、故人が海外在住の場合、その国でも相続税がかかる可能性があります。
①故人が生前に住んでいた国と②日本の両方で相続税がかかった場合は、外国税額控除を適用できる可能性があるので、税理士などに相談してみると良いでしょう。
2-3 故人が日本在住であり遺産を海外在住の相続人が相続したケース
故人が日本在住であった場合、遺産分割および相続税には日本の法律が適用されます。
相続人が海外在住だったとしても、すべての遺産について日本の相続税が課税されます。
2-4 日本国籍を有する故人・相続人が海外移住先で亡くなったケース
故人が移住先の海外で亡くなった場合も、日本国籍であれば、日本の法律によって相続が行われます。
ただし、相続税については故人と相続人が10年以上前から海外移住していたかによって、取扱いが下記のように変わります。
故人・相続人ともに10年以上前から海外に移住していた場合 | 日本の財産にのみ、日本の相続税がかかる |
---|---|
故人・相続人のどちらかが10年以内に海外に移住した場合 | 日本・海外の資産問わず、すべての遺産に対して日本の相続税がかかる |
このように、相続税の節税対策として海外移住をする場合、故人と相続人も相続発生10年以上前から移住していなければなりません。
ハードルが高いので、海外移住による節税を検討する場合は、計画的に行動する必要があります。
2-5 海外在住の相続人が外国籍を有しているケース
外国籍かつ海外在住の相続人がいたとしても、故人が日本国籍であれば日本の法律によって相続が行われます。
相続税については、故人がどこに住んでいたかなどによって取扱いが変わります。
故人が10年以上前から海外在住の場合 | 外国籍の相続人については、日本の財産にのみ、日本の相続税がかかる |
---|---|
上記以外の場合 | 日本・海外の資産問わず、すべての遺産に対して日本の相続税がかかる |
このように、国際相続は①どこの国の法律を適用するのかや、②どの財産にどこの国の相続税がかかるのかが変わってきます。
ケースバイケースで対応が変わってくるので、自分たちでミスなく手続きをすることは難しいでしょう。
国際相続が発生した場合は、相続に精通した税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
3章 海外在住の相続人がいるときの必要書類
相続手続きの際には、戸籍謄本や印鑑証明書などの書類が必要となります。
しかし、海外在住の相続人がいる場合、これらの書類を用意できないこともあるでしょう。
その場合、下記の書類などで代用しなければなりません。
- サイン証明書(署名証明書)
- 在留証明書
- 相続証明書
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 サイン証明書(署名証明書)
サイン証明書(署名証明書)とは、海外在住の相続人が相続手続きに必要な書類に署名する際、その署名が本人によるものであることを証明する書類です。
海外在住の相続人は印鑑証明書を取得できないため、サイン証明書で代用します。
サイン証明書は、下記の流れで取得します。
- 遺産分割協議書を現地の在外公館に持参する
- 係官の前で遺産分割協議書にサインをする
- 在外公館の発行する証明書を綴じ込んでもらう
3-2 在留証明書
在留証明書とは、海外在住の相続人がその国に実際に居住していることを証明する書類であり、住民票の代わりに使用します。
在留証明書は、現地の在外公館(日本大使館・領事館)で取得可能であり、取得するための条件は、下記の通りです。
- 日本国籍がある
- 現地にすでに3ヶ月以上滞在し、かつ現在も居住している
在留証明書の取得の際には、パスポートだけでなく賃貸契約書など滞在期間や居住地がわかる書類が必要です。
在外公館によって必要書類が異なる場合もあるので、事前に確認しておくことをおすすめします。
3-3 相続証明書
相続証明書とは、外国籍の相続人と個人の関係を証明する書類であり、戸籍謄本の代わりに使用されます。
相続人の国籍や故人との関係にもよりますが、下記の書類などを相続証明書として使用可能です。
- 出生証明書
- 婚姻証明書
- 宣誓供述書
上記野書類を相続手続きで使用する場合は、日本語訳も添えておきましょう。
4章 国際相続が発生したときの注意点
国際相続が発生した際には、相続財産調査に漏れが生じないようにしなければなりません。
他にも、下記の点などに注意しましょう。
- 相続財産調査に漏れがないようにする
- 検認裁判(プロベート)が必要か確認する
- 外国税額控除を適用できる可能性がある
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 相続財産調査に漏れがないようにする
国際相続では通常の相続よりも、念入りに相続財産調査を行う必要があります。
国際相続の場合、故人が複数の国に財産を持っている可能性が高いからです。
故人が日本国籍の場合は、原則としてすべての遺産に対して日本の相続税がかかります。
海外資産の調査が漏れてしまうと、相続税を過少申告してしまい、追徴課税が科せられる恐れもあるのでご注意ください。
自分で相続財産調査を行うことが難しい場合は、司法書士や行政書士などに相続財産調査を行う依頼することも検討しましょう。
4-2 検認裁判(プロベート)が必要か確認する
故人が海外資産を所有していた場合は、検認裁判(プロベート)を行う必要があるかも確認しておきましょう。
検認裁判とは、故人の遺言の有効性を裁判所が確認し、遺産分割手続きを認める制度です。
アメリカやイギリスなどの資産を故人が所有していた場合は、原則として遺産を受け取る前に検認裁判をしなければなりません。
検認裁判は日本で行われる遺言書の検認手続きよりも時間と手間がかかる点に注意しましょう。
海外資産を持っている場合、遺族の負担を減らすために検認裁判をしなくてすむように、下記の対策なども検討しておくことをおすすめします。
- 財産をトラスト名義にしておく
- 財産をジョイント形式で所有しておく
- TODDやPODを活用しておく
いずれにせよ、自分で対策することは難しいので、国際相続に精通した専門家二相談することをおすすめします。
4-3 外国税額控除を適用できる可能性がある
国際相続が発生し、日本と海外両方で相続税がかかった場合は、外国相続控除を適用できる可能性があります。
外国税額控除とは、海外で支払った相続税額を日本の相続税額から控除できる制度です。
外国税額控除の適用を受けるには、一定の条件を満たす必要があるのでご注意ください。
加えて、外国税額控除を適用するには、海外で支払った相続税の証明書などが必要になります。
まとめ
遺産や相続人などの関係者が国境をまたぐ相続は、国際相続と呼ばれ、通常の相続よりも手続きや相続税の計算が複雑になります。
国際相続が発生した場合は、故人の国籍を確認し、どこの国の法律が適用されるかを判断しなければなりません。
また、国際相続は通常の相続よりも、海外資産が多くなる傾向があります。
相続財産調査に漏れが発生しないように、司法書士や行政書士などの専門家に依頼することを強くおすすめします。
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