特別受益とは、故人が生きているうちに相続人が特別に受け取った利益であり生前贈与などが該当します。
遺産分割方法や割合を決定する際には特別受益を相続財産に含めて計算する必要があるため、特別受益を主張する相続人と認めたくない相続人でトラブルに発展する場合もあります。
結論から言うと、他の相続人が特別受益を受けていたと主張したいのであれば、贈与の事実などに関する証拠が必要です。
証拠を用意できない場合、贈与を受けていた相続人はいくらでも言い逃れできてしまうからです。
本記事では、特別受益の証拠として認められるものや特別受益を主張する方法を解説します。
特別受益については、下記の記事で解説していますのでご参考にしてください。
目次
1章 証拠がないと特別受益を主張できない
相続人が故人から個別に受けていた利益を特別受益と呼び、故人から相続人に行われた生前贈与などが該当します。
特別受益が認められる場合、相続分を決める際に特別受益も相続財産に合算して各相続人の取り分を計算します。
そのため、長男が故人から生前贈与を受けていた場合、贈与を受けていなかった次男や長女より相続分が少なくなる可能性があります。
相続人全員で相続分について話し合う遺産分割協議では、特別受益を主張する際に証拠は必要ありません。
当事者間の話し合いで解決できるのであれば、客観的な証拠がなくてもそれぞれの相続人の相続分を自由に決定できるからです。
一方で、贈与を受けた相続人が特別受益を認めず、遺産分割調停や審判に発展するのであれば、裁判所が納得するだけの証拠が必要になります。
特別受益の証拠にあたるものは、特別受益の種類によって異なります。
次の章で詳しく見ていきましょう。
2章 特別受益の証拠として認められるもの6つ
特別受益には生前贈与や借金の肩代わりなど複数の種類があり、種類ごとに証拠として認められるものが変わってきます。
具体的には、下記の6つが特別受益の証拠になり得ます。
- 故人の銀行口座の取引履歴
- 登記事項証明書
- 車検証
- 学費の領収書
- 故人と受贈者のメールや日記・メモ
- 完済明細書や取引明細
それぞれ解説していきます。
2-1 故人の銀行口座の取引履歴
故人が相続人に生前贈与をしていた場合、故人の銀行口座の取引履歴が特別受益の証拠になる可能性があります。
- 故人が現金や預貯金を支出したことがわかる資料(預金通帳や銀行の取引履歴)
- 相続人が贈与を受けたことがわかる資料(預金通帳や銀行の取引履歴)
なお、銀行が保管する取引履歴は10年と決められていることが多いため、10年より前の取引履歴は調べられない可能性が高いです。
上記の両方が揃えば特別受益の証拠になりますが、相続人の預金通帳や銀行の取引履歴を取得するのは難しくあまり現実的ではありません。
その際には、故人が多額の現金や預貯金を支出した前後に、一部の相続人が高額な買い物をしたことを示す資料が見つかると証拠になる場合もあります。
相続人が不動産や車などを購入した時期と故人の支出時期が近ければ近いほど、贈与が認められやすくなるでしょう。
贈与が疑われる場合は、故人のメモや過去のメールなども確認し少しでも証拠となるものがないか探しましょう。
2-2 登記事項証明書
故人から相続人に不動産の贈与が疑われる場合は、登記事項証明書を取得しましょう。
不動産の登記事項証明書を取得すれば、誰から誰に不動産の名義が移ったかや名義が移った時期を確認できるからです。
中には、故人が所有していた不動産を贈与するのではなく、相続人に不動産の取得資金を贈与するケースもあるでしょう。
不動産の取得費用の贈与は、下記の書類を用意できれば証明できる可能性があります。
- 不動産売買契約書
- 故人の預金通帳や取引履歴
故人が預貯金を支出したタイミングと相続人が不動産を取得した時期が近ければ、贈与があった可能性が高いといえます。
2-3 車検証
自動車の贈与が疑われる場合は、下記の資料が特別受益の証拠になる可能性があります。
- 自動車の車検証
- 自動車の売買契約書
- 故人の預金通帳や取引履歴
相続人が自動車を購入した前後に、故人が預貯金を引き出していれば自動車の購入資金を贈与していた可能性があります。
2-4 学費の領収書
故人が一部の相続人の学費を負担していた場合、下記の資料が特別受益の証拠になり得ます。
- 学費の領収証
- 学費納入に関する書類
正確な学費がわからなければ、学校に問い合わせをして金額を確認することもご検討ください。
2-5 故人と受贈者のメールや日記・メモ
故人から一部の相続人に生活費の援助や生前贈与をしていた場合、メールやメモなどの記録が残っている可能性も高いです。
- 故人と受贈者が交わしたメール、手紙
- 故人の日記やメモ
- クレジットカード明細
例えば、故人が一部の相続人に故人名義のクレジットカードを使用させていた場合、明細が特別受益の証拠になり得ます。
2-6 完済明細書や取引明細
故人が一部の相続人の借金を肩代わりしていた場合、下記の資料が特別受益の証拠になります。
- 完済証明書
- 取引明細
- 故人の預金通帳や取引履歴
完済証明書や取引明細の発行可否や対応は、金融機関や債権者によって異なりますので、まずは借入先に連絡してみましょう。
3章 特別受益を主張する流れ
特別受益があった場合、自動で相続財産に特別受益を含めて各相続人の取り分を計算するわけではありません。
特別受益を相続財産に含める場合、証拠を集め遺産分割協議で主張する必要があります。
具体的には、下記の流れで特別受益の主張をしていきましょう。
- 特別受益に関する証拠を集める
- 遺産分割協議で特別受益の持ち戻しを主張する
- 遺産分割調停を申立てる
- 遺産分割審判を申立てる
それぞれ詳しく解説していきます。
STEP① 特別受益に関する証拠を集める
特別受益があったと疑われる場合は、本記事の2章で紹介した証拠を集めましょう。
相続人間の話し合いであれば、特別受益の証拠は必ずしも必要ではありません。
しかし、実際には証拠がなく特別受益を主張しただけでは相続人が納得しないケースも多いです。
証拠がない状態では、話し合いがまとまらず遺産分割調停や審判に進んだとしても解決しない、特別受益が認められない可能性が高いでしょう。
さらに特別受益の証拠が揃わないと、遺産分割調停や審判を弁護士に依頼しても納得のいく結果にならず費用倒れになる恐れもあります。
証拠を自分で集めるのが難しい場合は相続を専門にする司法書に依頼して、証拠集めをしてもらうのも良いでしょう。
STEP② 遺産分割協議で特別受益の持ち戻しを主張する
特別受益の証拠が揃ったら遺産分割協議で、特別受益の持ち戻しを主張しましょう。
遺産分割協議とは、相続人全員で誰がどの遺産をどれくらいの割合で相続するかを決める話し合いです。
遺産分割方法や相続分について話し合う際に、過去に生前贈与があったことや特別受益に該当することを主張します。
主張時には証拠を提示できれば、話し合いも進めやすくなるはずです。
特別受益者含む相続人全員が納得したら、特別受益の持ち戻しをして相続分を計算します。
STEP③ 遺産分割調停を申立てる
遺産分割協議では相続人全員が合意できなかった場合、遺産分割調停の申立てをして特別受益を主張します。
遺産分割調停では、調停委員が間に入り相続トラブルの解決を目指します。
家庭裁判所が解決案を提案してくれる場合もあるので、遺産分割協議よりも解決しやすいのが特徴です。
遺産分割調停の申立て方法や必要書類は、下記の通りです。
申立てできる人 |
|
申立て先 | 相手方(ほかの相続人)のジュいう処置を管轄する家庭裁判所 |
申立て費用 | 収入印紙代:200円分 連絡用の郵便切手代:、数千円程度 |
必要書類 |
|
STEP④ 遺産分割審判を申立てる
遺産分割調停でも話し合いがまとまらず不成立になった場合、遺産分割審判にて特別受益を主張します。
これまでの遺産分割協議や遺産分割調停と異なり、遺産分割審判は当事者全員の主張や提出した証拠を確認して裁判所が最終的な決定を下します。
遺産分割審判で特別受益を認めてもらうには、客観的な証拠が必要です。
また、裁判所への対応も難しく相手方が弁護士を用意している場合もあるので、自分で遺産分割審判を申立てるのはあまりおすすめできません。
遺産分割審判で特別受益を主張するのであれば、弁護士に依頼しましょう。
弁護士に依頼して勝てそうか判断がつかない場合は、司法書士や行政書士に相続人調査や財産調査を依頼してから遺産分割審判を行う価値があるかどうか検討するのも良いでしょう。
4章 証拠がないのに特別受益を主張されたときの対処法
相続人同士の関係性や故人と相続人の関係によっては、証拠や事実がないにもかかわらず他の相続人から特別受益があったと疑われるケースもあるでしょう。
証拠がないのに特別受益を疑われた、主張されたときには下記の対処法をお試しください。
- 司法書士や弁護士に中立的な立場で遺産分割協議を依頼する
- 遺産分割調停や審判を検討する
- 生前贈与の証拠がないと反論する
- 生前贈与ではなく売買だったと主張する
- 生前贈与ではなく扶養義務の一環だったと主張する
- 故人が「特別受益の持ち戻し免除」を意思表示していたと主張する
- 他の相続人にも特別受益があると主張する
- 寄与分を主張する
- おしどり贈与による生前贈与だと主張する(婚姻期間20年を超える夫婦の場合)
生前贈与の事実がない場合や証拠がない場合は、他の相続人の主張に応じる必要はありません。
しかし、他の相続人が特別受益を主張している以上、簡単に遺産分割協議がまとまる可能性は低いでしょう。
トラブルの泥沼化を防ぎ相続人全員が納得する遺産分割協議を行うためにも、相続に詳しい司法書士や弁護士に間に入ってもらい遺産分割協議を進めるのも良いでしょう。
まとめ
特別受益の持ち戻しを主張する際には、客観的な証拠が必要です。
証拠が見つからない場合、残念ながら特別受益を主張しても相続人が納得する可能性は低いでしょう。
また、遺産分割審判に進み特別受益を主張するのであれば、裁判所が納得する証拠を用意しなければなりません。
特別受益に該当する証拠があるかわからない場合やどのように証拠を集めて良いかわからない場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのもおすすめです。
専門家であれば、特別受益の証拠集めや特別受益の主張が通りそうかの判断を行えます。
また、相続人同士のトラブルが泥沼化する前に専門家に間に入ってもらうことで、中立で相続人全員が納得できる遺産分割協議を行える場合もあるでしょう。
グリーン司法書士法人では、遺産分割協議や相続人調査、相続財産調査の相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
特別受益の証拠にあたるものは何ですか?
特別受益の証拠として認められるのは、主に下記の書類です。
・故人の銀行口座の取引履歴
・登記事項証明書
・車検証
・学費の領収書
・故人と受贈者のメールや日記・メモ
・完済明細書や取引明細
▶特別受益の証拠について詳しくはコチラ特別受益にあたるかはどのように判断される?
特別受益かどうかの判断は、親族間の扶養的金銭援助を超えるかどうかで判断されます。
親族間の扶養的金銭援助を超えている場合は、特別受益に該当する可能性があります。
▶特別受益について詳しくはコチラ