故人に借金などのマイナスの財産がある場合、相続放棄を検討することが有効です。
しかし、相続放棄をすると一切の財産を受け取れなくなるわけではありません。
生命保険金のように、相続放棄をしても受け取れる財産が存在します。
一方で、受け取ってしまうと相続放棄ができなくなるものもあるため、その違いを正しく理解しておくことが重要です。
この記事では、相続放棄をしても受け取れる財産と受け取れないものの違いや、税金に関する注意点を解説します。
目次
相続放棄をしても受け取れる財産・受け取れない財産の一覧
相続放棄をしても受け取れる財産の代表例は、生命保険金や死亡退職金、遺族年金など、受取人固有の権利として取得するものです。
これらは民法上の相続財産とは区別されます。
一方、受け取れない財産は、故人名義の預貯金、不動産、自動車といった相続財産です。
これらの財産を処分・消費すると相続を承認したとみなされ、原則として相続放棄はできなくなります。
相続放棄後も受け取れる「受取人固有の財産」
相続放棄をしても受け取れるのは、法律上「相続財産」ではなく「受取人固有の財産」とみなされるものです。
これは、故人の財産を継承するのではなく、生命保険契約や会社の規定、法律などに基づき、受取人として指定された人が直接受け取る権利を持つためです。
したがって、これらの財産をうっかり受け取ってしまったとしても、相続を承認したことにはならず、相続放棄の手続きに影響はありません。
相続放棄をすると受け取れない「相続財産」
相続放棄をした場合、故人が所有していたプラスの財産もマイナスの財産も一切受け継ぐことができません。
具体的には、預貯金や不動産、株式などが該当します。
これらの財産を受け取ったり、売却したりする行為は「相続する意思がある」とみなされる「法定単純承認」にあたる可能性があります。
借金だけを放棄してプラスの財産だけを受け取ることはできないため、この区別を知っておいてよかったと感じるケースは少なくありません。
相続放棄をしても問題なく受け取れる5つの財産
相続放棄をしても、特定の財産は問題なく受け取ることが可能です。
これらは故人の財産ではなく、受取人自身の権利として扱われるため、受け取っても相続放棄の妨げにはなりません。
ここでは、その代表的な5つの財産について、それぞれ受け取れる理由を具体的に解説します。
契約に基づいて受取人が指定されている生命保険金
生命保険金(死亡保険金)は、保険契約によって受取人が指定されている場合、その受取人固有の財産とみなされます。
これは、保険契約の効力として受取人が保険金請求権を取得するためであり、被相続人(故人)から財産を相続するわけではありません。
したがって、受取人が相続放棄をしたとしても、生命保険金は問題なく受け取ることが可能です。
会社の規定等で受取人が定められている死亡退職金
死亡退職金も、会社の退職金規定などによって受取人が指定されている場合は、その受取人固有の財産となります。
これは生命保険金と同様の考え方に基づくもので、会社の規定が保険契約と同じような役割を果たします。
受取人として指定された遺族が直接受け取る権利を持つため、相続財産には含まれず、相続放棄をしても受領できます。
遺族の生活保障を目的とした遺族年金や未支給年金
遺族年金や、故人が受け取るはずだった未支給年金は、法律(国民年金法や厚生年金保険法など)に基づいて特定の遺族に支払われるものです。
これらの制度は、残された遺族の生活を保障することを目的としています。
そのため、受給権者である遺族固有の権利とされ、相続財産にはあたりません。
したがって、相続放棄をしても受け取ることが可能です。
健康保険から支払われる葬祭費や埋葬料
葬祭費(国民健康保険や後期高齢者医療制度)や埋葬料(健康保険組合など)は、葬儀を執り行った人(喪主など)に対して、その費用を補填するために支払われるものです。
これらは故人の財産ではなく、あくまで葬儀執行者の金銭적負担を軽減するための給付金です。
そのため、相続財産には該当せず、相続放棄をしても受け取れます。
故人への弔意として贈られる香典
香典は、故人への弔意を示すと同時に、葬儀費用などで出費がかさむ遺族(主に喪主)の経済的負担を軽減する目的で贈られるものです。
社会通念上、香典は喪主個人への贈与と解釈されるため、故人の財産ではありません。
したがって、相続財産には含まれず、喪主が受け取っても相続放棄には影響しません。
うっかり受け取ると相続放棄不可に?注意が必要な3つのケース
相続放棄を検討している場合、財産の取り扱いには細心の注意が求められます。
一見すると受け取っても問題なさそうに見えるものでも、状況によっては相続を承認したとみなされる「法定単純承認」が成立し、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
ここでは、特に注意が必要な3つのケースについて解説します。
生命保険金の受取人が「被相続人(故人)」に指定されている場合
生命保険金の受取人が相続人ではなく、被相続人(故人)本人に指定されているケースでは注意が必要です。
この場合、保険金は一度故人の財産、つまり「相続財産」となります。
そのため、相続人がこの保険金を受け取ると、相続財産を処分したとみなされ、法定単純承認が成立します。
結果として相続放棄ができなくなるため、保険証券などで受取人の指定を必ず確認する必要があります。
故人の預貯金を引き出して葬儀費用に充当した場合
故人の預貯金口座から現金を引き出して葬儀費用に充てる行為は、原則として相続財産の処分にあたり、単純承認とみなされるリスクがあります。
ただし、判例では、社会通念上妥当な範囲の葬儀費用への充当であれば、例外的に認められる傾向にあります。
しかし、その判断は非常に難しく、高額な葬儀費用を支払った場合などは問題となる可能性があります。
可能な限り、相続人の自己資金で立て替えるのが安全です。
価値のある遺品を形見分けとして受け取ってしまった場合
形見分けも、その対象によっては相続財産の処分とみなされる危険性があります。
衣服や写真など、客観的に見て財産的価値がほとんどないものであれば問題ありません。
しかし、骨董品、美術品、貴金属、高級腕時計、ブランド品など、換金価値の高いものを形見分けとして受け取ると、財産を相続したと判断される可能性があります。
価値の判断が難しいものは、安易に持ち帰らないように注意が必要です。
絶対に受け取ってはいけない相続財産の具体例
相続放棄を成立させるためには、故人の相続財産に一切手をつけてはいけません。
これらの財産を消費したり、売却したり、名義変更したりする行為は、相続を承認したとみなされる「法定単純承認」に該当します。
ここでは、相続放棄を検討している場合に絶対に受け取ってはならない相続財産の具体例を挙げます。
故人名義の預貯金、現金、有価証券
故人名義の銀行預金や郵便貯金を引き出したり、解約したりする行為は、典型的な単純承認事由です。
タンス預金などの現金を使用することも同様です。
また、株式や投資信託などの有価証券を売却したり、自分名義の口座に移管したりする行為も、相続財産の処分にあたるため絶対に行ってはいけません。
これらの財産はそのままの状態で保全する必要があります。
土地や建物などの不動産
故人が所有していた土地や建物などの不動産も、当然ながら相続財産です。
相続登記を行って自分の名義に変更する、第三者に売却する、賃貸に出して家賃収入を得る、取り壊すといった行為はすべて財産の処分とみなされます。
これらの行為を行うと、借金も含めたすべての財産を相続する意思があると判断され、相続放棄は認められなくなります。
自動車や宝飾品などの動産
自動車や宝飾品、骨董品など、財産的価値のある動産も相続財産です。
これらの動産を売却して換金する行為はもちろん、自分自身で使用したり、名義変更したりする行為も財産の処分とみなされます。
価値のある遺品については、形見分けのつもりであっても単純承認が成立するリスクがあるため、慎重な対応が求められます。
医療費や税金の還付金
故人が生前に支払った医療費の還付金(高額療養費など)や、所得税・住民税の還付金も、故人に帰属する財産(債権)です。
したがって、これらも相続財産に含まれます。
市区町村や税務署から還付の通知が来た際に、相続人がこれを受け取ってしまうと、相続財産を受領したことになり、単純承認が成立する可能性があるため注意が必要です。
相続放棄で財産を受け取る際に知っておくべき税金の注意点
相続放棄をしても生命保険金などを受け取れる場合がありますが、税金の取り扱いについては注意が必要です。
民法上の相続財産ではなくても、税法上は「みなし相続財産」として課税対象になることがあります。
また、相続放棄によって税制上の優遇措置が受けられなくなるケースもあり、事前に理解しておくことが重要です。
生命保険金や死亡退職金は「みなし相続財産」として相続税の対象になる
相続放棄によって受け取った生命保険金や死亡退職金は、民法上は相続財産ではありませんが、相続税法上は「みなし相続財産」として扱われます。
これは、被相続人の死亡を原因として取得する財産であるため、実質的に相続によって得た財産と同等とみなされるからです。
そのため、これらの財産の合計額が相続税の基礎控除額を超える場合は、相続税の申告と納税が必要となります。
相続税の生命保険金非課税枠が適用できなくなる
相続税法には「500万円×法定相続人の数」で計算される生命保険金の非課税枠が設けられています。
しかし、この非課税枠を適用できるのは「相続人」に限られます。
相続放棄をした人は、法律上、初めから相続人ではなかったとみなされるため、この非課税枠を利用することができません。
したがって、受け取った生命保険金の全額が相続税の課税対象となり、税負担が増える可能性があります。
相続放棄で財産を受け取る際によくある質問
相続放棄と財産の受け取りに関しては、さまざまな疑問が生じることがあります。
ここでは、特によくある質問とその回答をまとめました。
Q. 故人の借金の連帯保証人になっている場合、支払い義務は残りますか?
はい、支払い義務は残ります。
連帯保証人としての責任は、相続によって発生したものではなく、保証人自身が債権者と結んだ保証契約に基づく個人の義務です。
そのため、相続放棄をして故人の借金を相続しなかったとしても、自身の連帯保証人としての支払い義務が消えることはありません。
Q. 相続放棄の手続きはいつまでに行う必要がありますか?
原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述(申立て)を行う必要があります。
この期間を「熟慮期間」と呼びます。
この期間を過ぎてしまうと、原則として相続放棄はできなくなるため、注意が必要です。
Q. 仏壇やお墓などの祭祀財産は相続放棄しても引き継げますか?
はい、引き継げます。
仏壇、仏具、墓地、墓石といった祭祀財産は、先祖を祀るための特別な財産として、一般的な相続財産とは区別されます。
これらは相続の対象とはならず、「祭祀承継者」が引き継ぐことになります。
そのため、相続放棄をしたとしても、祭祀承継者としてこれらの財産を承継することは可能です。
まとめ
相続放棄をしても、生命保険金や死亡退職金、遺族年金など、受取人固有の権利として定められている財産は受け取ることが可能です。
一方で、故人名義の預貯金や不動産といった相続財産に手をつけてしまうと、相続を承認したとみなされ、放棄が認められなくなるリスクがあります。
また、受け取った生命保険金には相続税がかかる場合があり、非課税枠が使えないなどの税務上の注意点も存在します。
財産の判断に迷う場合や手続きに不安がある場合は、司法書士などの専門家に相談することが賢明です。
グリーン司法書士法人では、相続放棄を含む、相続全般についての相談をお受けしています。
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