資産承継信託とは、親から子供など次世代への資産承継に利用される信託です。
資産承継信託には複数の種類があり、家族間で契約する家族信託や信託銀行に財産の管理を任せる商事信託などがあります。
遺言書の作成や生前贈与など次世代に財産を受け継ぐ方法はいくつかありますが、資産承継信託は認知症対策になる点や二次相続対策になる点がメリットです。
一方で、信託しにくい財産や信託できない財産もあるため、資産承継信託で相続対策をする際には、家族信託を専門とする司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
本記事では、資産承継信託とは何か、種類やメリット、デメリットを解説します。
1章 資産承継信託とは
資産承継信託とは、名前の通り親から子供など次世代への資産承継に利用される信託です。
資産承継信託には複数の種類があり、家族間で契約する家族信託や信託銀行に財産の管理を任せる商事信託などがあります。
資産承継信託は、自分が希望する人物に財産を受け継げるだけでなく、将来の認知症対策や二次相続対策としても有効です。
次の章では、資産承継信託の種類について詳しく見ていきましょう。
2章 資産承継信託の種類
資産承継信託と一言で言っても、非常に様々な種類があり、信託目的や費用、信託財産の種類などによって最も合う種類を選ぶ必要があります。
資産承継信託の種類は、主に下記の通りです。
- 認知症対策信託
- 遺言代用信託
- 事業承継信託
- 受益者連続信託(後継ぎ遺贈型)
- 生命保険信託
- 暦年贈与信託
- 結婚・子育て資金支援信託
- 教育資金贈与信託
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 認知症対策信託
家族信託とは、信頼できる家族と契約を結び、自分の財産を管理、運用、処分してもらう制度です。
家族信託では、主に下記の3つの人物が登場します。
- 委託者:財産を託す人
- 受託者:財産を託されて、管理・運用・処分をする人
- 受益者:信託した財産から発生する収益を受取る権利(受益権)を持つ人
上記の図解のように、委託者と受益者が同一人物であっても契約可能です。
例えば、上記のイラストの家族信託では、委託者である父が受託者である息子に不動産および預貯金の管理や運用、処分を任せています。
家族信託の契約により、委託者が認知症などで判断能力を失っても息子が自分で判断し、父が所有する不動さんの処分などを行えます。
なお、家族信託に対応する言葉として「商事信託」があります。
商事信託とは家族間で契約を結ぶのではなく、信託銀行などに財産を預け、管理や運用、処分を行ってもらう制度です。
これ以降に紹介する信託契約はいずれも商事信託に含まれます。
2-2 遺言代用信託
遺言代用信託とは、契約者が自分の財産を信託銀行などに預け、本人が死亡した後に信託銀行などが故人の配偶者や子供に払い出す制度です。
遺言のように、亡くなった人が希望する人物に財産を受け継げるので遺言代用信託と呼ばれています。
遺言代用信託を利用すれば、通常の相続と異なり契約者が死亡した後に口座が凍結されず、あらかじめ設定しておいた第二受益者が資産を受け継げます。
凍結解除の手続きや相続手続きを行う必要がなく、スムーズな資産承継を行えるのがメリットといえるでしょう。
2-3 事業承継信託
事業承継信託とは、会社経営者が自社株を信託し、後継者に承継させることを目的とした信託契約です。
契約を結んだあとも、契約者が生きている間は自社株を所有し続け、会社の経営を続けられるのがメリットです。
契約者が亡くなった後は、通常の相続と異なり遺産分割協議などが不要で後継者に自社株を受け継げます。
2-4 受益者連続信託(後継ぎ遺贈型)
受益者連続信託は「後継ぎ遺贈型」とも呼ばれ、数世代にわたり資産の承継先を指定する信託契約です。
遺言書などの相続対策では、自分が亡くなった後の資産の承継先しか指定できません。
それに対し、受益者連続信託は自分が亡くなった後の次の次の承継先まで指定可能です。
受益者連続信託を活用すれば「自分が亡くなった後は配偶者に財産を遺し、配偶者死亡後は前妻の子に承継させる」など、より自分の希望を反映した資産承継を行えます。
2-5 生命保険信託
生命保険信託とは、生命保険金の受取人を信託銀行などに設定し管理や運用、支払いをしてもらう制度です。
生命保険金の受託者を信託銀行に設定し子供を受益者にすれば、事前に決定したタイミングで保険金を分割で支払ってもらえます。
例えば、未成年の子供を生命保険金の受取人にすると、自分が亡くなった後の資産管理や養育者の使い込みに不安を持つ人もいるでしょう。
その場合は、生命保険信託を活用すれば、毎月決まったタイミングなどで養育者に保険金を振り込んでもらえます。
2-6 暦年贈与信託
暦年贈与信託とは、贈与税の基礎控除額110万円の範囲内で毎年贈与を行い、次世代に資産承継する信託契約です。
基礎控除に収まる範囲で毎年贈与を繰り替えすため、贈与税の負担はありません。
暦年贈与信託では、受託者である信託銀行が下記のような贈与のサポートを行います。
- 贈与契約書を作成する
- 信託財産を受贈者の銀行口座に振り込む
暦年贈与を行って相続税や贈与税の対策をしたいが、贈与契約書の作成や手続きに不安を感じている人に適しています。
2-7 結婚・子育て資金支援信託
結婚・子育て資金支援信託とは、子供や孫への贈与で利用できる「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度」を活用した資産承継に関するサービスです。
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を利用すれば、最大1,000万円まで結婚、子育て資金を非課税で贈与できます。
結婚や子育てなどお金のかかるライフイベントに備え、子供や孫に贈与をしておきたい人に適した信託契約です。
2-8 教育資金贈与信託
教育資金贈与信託とは、子供や孫への教育資金贈与で利用できる「教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置」を利用した信託契約です。
教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置を利用すると、30歳未満の子供や孫に行う教育資金贈与が1,500万円まで非課税になります。
ただし、教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置を利用するには、信託銀行などで専用口座を作成し資金を一括で預け入れる必要があります。
一度にまとまった金額の教育資金を贈与したい、相続対策も兼ねて贈与したい人は利用を検討しても良いでしょう。
3章 資産承継信託を利用するメリット
資産承継信託は遺言書作成や生前贈与などと同様に、親から子、祖父母から孫など次世代に財産を受け継げるメリットがあります。
他にも信託契約の期間や内容によって、下記のメリットもあります。
- 認知症対策になる
- 二次相続対策になる
- 信託財産や内容を自由に決められる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 認知症対策になる
家族信託などの資産承継信託は、高齢者の認知症対策として非常に有効です。
認知症になり判断能力を失うと、自宅の売却などの契約手続きや自分の財産管理を行えなくなってしまいます。
しかし、元気なうちに家族信託などの契約を結んでおけば、自分が認知症になったとしても受託者である家族が自分のかわりに財産の管理や運用、処分をしてくれます。
家族信託などの資産承継信託で認知症対策するメリットは、下記の通りです。
- 認知症を発症しても資産が凍結されない
- 資産承継信託では贈与税や不動産取得税がかからない
- 成年後見制度と比較して柔軟な財産管理を行える
なお、資産承継信託は契約行為に該当するため、認知症になり判断能力を失った後は制度を利用することができません。
元気で判断能力が残っているうちに契約を結ぶことが非常に大切なので、家族の負担を減らすためにも早めに準備を始めるのが良いでしょう。
3-2 二次相続対策になる
家族信託などの資産承継信託は、二次相続対策としても有効です。
資産承継信託を利用すれば、自分が亡くなった後の財産の承継先だけでなく、次の次の承継先まで設定できるからです。
例えば、下記のケースを考えてみましょう。
上記のケースでは、自分(現在の夫)が亡くなった後は、妻の生活が困らないように財産を妻に譲りたいと考えています。
しかし、妻が亡くなったときに自分と血縁関係のない「前夫との子」に自分が先祖代々受け継いできた財産が渡るのは阻止したいと希望するケースも多いです。
資産承継信託を利用し、自分が亡くなった後と妻が亡くなった後の資産承継先を決定しておけば、前夫の子に財産が受け継がれることはなく、自分と血縁関係のある人物に財産を遺せます。
このように、資産承継信託は先祖代々受け継いできた財産を持っていて、自分の血縁者に財産を受け継いでほしいと考えている人にも有効な選択肢といえるでしょう。
3-3 信託財産や内容を自由に決められる
資産承継信託では、委託者が信託する財産や信託内容を自由に設定可能です。
遺言書でも自分が希望する人物に財産を遺すことは可能ですが、相続人全員が合意すれば遺言書に書かれた内容と異なる遺産分割もできてしまいます。
自分が希望する人物に確実に財産を遺したい、と閑雅ている場合は資産承継信託を利用しても良いでしょう。
4章 資産承継信託を利用するデメリット
資産承継信託にはメリットだけでなく、信託しにくい財産がある点や契約時に専門的な知識が必要なことなどのデメリットがあります。
資産承継信託のデメリットは、下記の3点です。
- 信託しにくい財産もある
- 専門的な知識が必要になる
- 資産承継信託自体に節税効果はない
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 信託しにくい財産もある
資産承継信託では委託者が自由に信託財産を決定できるものの、中には信託しにくい財産や信託できない財産もあるのでご注意ください。
信託しにくい財産や信託できない財産は、主に下記の通りです。
- 公的年金受給権・生活保護受給権
- 上場株式
- 農地
- 預貯金
公的年金受給権などは、本人のみに認められた一身専属的な権利であり、受け継ぐことはできません。
また、上場株式は信託自体は可能ですが、株主名簿の書換や売買などを証券会社経由で行う必要があり、証券会社によっては対応が難しい可能性があります。
農地は、信託時に農業委員会への届出や許可が必要になるため、対応が難しいのが現実です。
預貯金に関しては、委託者が普段利用している口座で信託することはできず、信託口口座を新たに作成し預貯金を預け入れることによって信託できるようになります。
4-2 専門的な知識が必要になる
資産承継信託には法律や税金、相続など幅広い専門的な知識が必要です。
そのため、多くの人にとっては家族信託の契約や手続きを自分たちで進めることも難しいですし、信託銀行が用意している資産承継信託の比較検討をすることも難しいでしょう。
家族信託をはじめとする資産承継信託の利用を検討しているときは、家族信託に精通した司法書士や弁護士に相談するのが確実です。
司法書士や弁護士であれば、資産や家族の状況にあった契約内容の提案が可能ですし、その後の手続きまで一括で対応可能です。
4-3 資産承継信託自体に節税効果はない
資産承継信託は次世代に資産を受け継ぐ方法を決定するだけであり、信託契約そのものに相続税の節税効果はありません。
ただし、資産承継信託を結んだ結果、委託者が認知症になった後も所有不動産の適切な管理が行われ、価値が損なわれずにすんだなど、間接的なメリットが生じる可能性はあります。
まとめ
資産承継信託を利用すれば、親から子、祖父母から孫への資産承継をスムーズに行えます。
元気なうちに資産承継信託を契約しておくことで、自分が認知症になり判断能力を失った後も財産の管理や運用、処分を任せられるのも魅力です。
資産承継信託はメリットが大きいものの、信託に適さない財産もある点や契約や手続きを進める際には専門的な知識が必要な点などのデメリットがあります。
資産承継信託は契約期間も長期にわたるケースが多いため、利用を検討する際には、家族信託に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、家族信託に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
資産承継信託とは?
資産承継信託とは、親から子供など次世代への資産承継に利用される信託です。
家族信託や商事信託も資産承継信託に含まれます。資産承継信託のデメリットとは?
資産承継信託のデメリットは、主に下記の通りです。
・信託しにくい財産もある
・専門的な知識が必要になる
・資産承継信託自体に節税効果はない