電話加入権とは、NTT東日本またはNTT西日本の固定電話を利用する際に必要な権利です。
電話加入権は相続財産に含まれ、相続税の課税対象財産でもあります。
そのため家族や親族が亡くなった際には相続税の申告漏れや相続トラブルを防ぐために、亡くなった人が電話加入権を所有していたか調べなければなりません。
亡くなった人が電話加入権を保有していた場合は、名義変更もしくは解約などの手続きが必要です。
本記事では、相続発生時の電話加入権の取り扱いや行うべき手続きについて解説します。
なお、家族や親族が亡くなった際には電話加入権の手続き以外にも様々な手続きを行わなければなりません。
家族や親族が亡くなったときの手続きについては、下記の記事で詳しく解説しているのでご参考にしてください。
目次
1章 電話加入権とは
電話加入権とは、NTT東日本またはNTT西日本の固定電話を利用する際に必要な権利であり、施設設置負担金や電話回線の権利とも呼ばれています。
電話加入権は個人間で売買も可能なため、権利として扱われています。
1-1 電話加入権は相続財産に含まれる
電話加入権は、預貯金や不動産などと同様に相続財産に含まれます。
先ほど解説したように、電話加入権は個人で売買できる権利として扱われているからです。
電話加入権を相続すれば電話番号を変更する必要がなく、電話の種類によっては停電時も使えるなどのメリットがあります。
電話加入権を相続するメリットは本記事の2章で解説します。
1-2 故人が所有していた電話加入権を調べる方法
電話加入権は相続財産に含まれるため、家族や親族が亡くなった際には電話加入権を所有していたか調査する必要があります。
近年では、光ファイバーなどが普及したこともあり、固定電話を所有している人でも電話加入権を購入していないケースもあるからです。
亡くなった人が電話加入権を所有していたか調べる方法は、主に下記の通りです。
- NTT東日本やNTT西日本に問い合わせをする
- 電話料金の請求書等に記載されているプラン名を確認する
故人が電話加入権を保有していた場合は、相続人が受け継ぐかどうかの判断や相続税評価額の計算が必要になります。
次の章では、電話加入権を相続するメリットを詳しく見ていきましょう。
2章 電話加入権を相続するメリット
電話加入権を相続すれば、故人が利用していたものと同じ電話番号を受け継げます。
加えて、電話の種類によっては災害によって停電したときにも、アナログ回線やISDN回線により電話を利用できる可能性があります。
電話加入権を相続するメリットを詳しく見ていきましょう。
2-1 同じ電話番号を受け継げる
故人から電話加入権を受け継げば、相続人が同じ電話番号を利用できます。
下記のように、電話番号を変更したくない事情がある場合は、電話加入権の相続を検討しましょう。
- 亡くなった人が経営していたお店を引き継ぐケース
- 亡くなった人の電話番号を勤務先や緊急連絡先などに指定しているケース
他にも、固定電話の電話番号を所有していると、ローン審査で有利に働く場合があるなどのメリットもあります。
2-2 災害時の通信手段として使える
電話加入権を相続すれば、停電時でも電話を使用できる可能性があります。
災害による停電でも、アナログ回線やISDN回線は利用できる場合があるからです。
災害発生時の連絡手段を残しておきたい場合は、電話加入権を受け継いでも良いでしょう。
ただし電話加入権を保有していても、光回線を使用しているIP電話や停電時に対応していない電話機を使用している場合は、災害時に使えない可能性があります。
災害時の連絡手段を残すために電話加入権を受け継ぐのであれば、電話の種類に関しても確認しておきましょう。
3章 電話加入権の相続手続き・必要書類
相続人や受遺者が電話加入権を受け継ぐ場合は、名義変更手続きが必要です。
また、相続人が電話加入権を受け継がない場合は、解約や利用停止、一時中断などの手続きが必要になります。
それぞれの手続きについて、必要書類とともに詳しく解説していきます。
3-1 相続人・受遺者が電話加入権を受け継ぐ場合
相続人や受遺者が電話加入権を相続する場合、故人から相続人や受遺者に名義変更手続きが必要です。
電話加入権の名義変更手続きは、受け継ぐ人物が相続人か受遺者によって下記のように手続き名が変わります。
相続人が受け継ぐ | 承継 |
受遺者が受け継ぐ | 譲渡 |
それぞれの手続きは必要書類が異なるのでご注意ください。
相続人が電話加入権を受け継ぐ「承継」に必要な書類は、主に下記の通りです。
【承継に必要な手続き】
- 電話加入権等承継・改称届出書
- 相続人の本人確認書類
- 故人の死亡の事実がわかる戸籍謄本類
- 故人と相続人の関係性を証明する戸籍謄本類
など
承継手続きの場合は、手数料は発生しません。
遺言書などで相続人以外に電話加入権を遺贈したときに行う「譲渡」に必要な書類は、主に下記の通りです。
【譲渡に必要な書類】
- 電話加入権等承継・改称届出書
- 相続人の本人確認書類
- 故人の死亡の事実がわかる戸籍謄本類
- 遺言書
など
譲渡手続きの場合は、1契約もしくは1利用権ごとに手数料880円がかかります。
3-2 相続人・受遺者が電話加入権を受け継がない場合
故人が電話加入権を保有していたものの相続人や受遺者が受け継がない場合は、解約や利用停止、一時中断手続きが必要です。
それぞれの手続きの概要は、下記の通りです。
手続き名 | 特徴 |
解約 |
|
利用停止 |
|
一時中断 |
|
電話加入権の名義変更および解約、利用停止、一時中断に関しては電話もしくはインターネットでNTT東日本やNTT西日本に問い合わせをして行います。
固定電話からであれば「116」に電話すれば手続き可能であり、NTT東日本であればインターネットで手続きできます。
解約をする際には、下記の2種類の書類提出が必要です。
【解約時に必要な書類】
- 故人の死亡の事実が確認できる書類
- 解約手続きをする人(相続人など)の本人確認書類
利用停止もしくは一時中断に関しては、故人から相続人や受遺者へ名義変更を行った後にそれぞれの手続きを行わなければなりません。
そのため、まずは相続人や受遺者の中で電話加入権を受け継ぐ人物を一度決定し、承継や譲渡の手続きを行ってから利用停止や一時中断の手続きに移ります。
4章 電話加入権の相続税評価額の計算方法
故人が電話加入権を保有していた場合、相続税評価額を計算しなければなりません。
しかし、電話加入権は取引相場が存在せず、標準価格も1,500円と非常に安いです。
そのため、電話加入権の相続税評価額は「家財一式」として計算します。
家財一式とは、家具などの家庭用財産をまとめて評価することであり、1個もしくは1組の価値が5万円以下の財産に対して行えます。
一方で、自動車や宝石類など1個が5万円を超える財産に関しては、それぞれ個別に相続税評価額を計算しなければなりません。
家財一式の相続税評価額は10~50万円程度が相場であり、故人がどんな家庭用財産を所有していたかによって評価額が変わってきます。
税務署からの指摘をできるだけ避けたい場合や故人が所有していた財産の評価が難しい場合は、相続税申告を税理士に任せることも検討しましょう。
5章 電話加入権を相続した際の注意点
故人が多額の借金を遺していて相続放棄を検討している場合は、電話加入権の名義変更や解約手続きを行うのは避けましょう。
他にも、故人が電話加入権を保有していた場合は、下記の点に注意しなければなりません。
5-1 相続放棄を検討している場合は電話加入権の手続きをしないでおく
故人が多額の借金を遺していて相続放棄を検討しているのであれば、電話加入権の名義変更、解約手続きを行うのはやめましょう。
故人の財産を勝手に処分、使用してしまうと「相続する意思がある」とみなされ、相続放棄が認められなくなる恐れがあるからです。
電話料金の滞納に関する督促が来るのであれば「相続放棄する予定である」と伝えておきましょう。
また、相続放棄の申立てが受理されれば、故人の電話料金の滞納分を相続人が支払う義務もなくなります。
ただし、故人と同居していた配偶者の場合、相続放棄しても電話料金の滞納分は請求される恐れがあります。
同居していた夫婦には「日常の家事に関する債務の連帯責任」があり、電話料金などの公共料金の支払いは日常の家事に関する債務に該当すると考えられるからです。
とはいえ、相続放棄をするのであれば自己判断で電話料金の滞納分を支払う、電話加入権を処分することは絶対に避けましょう。
相続放棄には、故人の財産の処分や滞納していた料金に関する督促など、判断や対応が難しい部分が多いです。
相続放棄を確実に行いたいのであれば、自己判断せずに相続放棄に詳しい司法書士や弁護士に相談しながら進めましょう。
5-2 利用停止は5年ごとに更新手続きが必要
亡くなった人が保有していた電話加入権を利用停止した場合、毎月の回線使用料を支払わず、最大10年にわたり電話加入権の権利を存続できます。
しかし、利用停止をする際には5年ごとに更新が必要です。
更新を行わないと電話加入権が消滅してしまうので、ご注意ください。
電話加入権の消滅後に、新たに購入しなおす場合は約4万円の施設設置負担金がかかってしまいます。
5-3 電話加入権を解約しても施設設置負担金は返金されない
亡くなった人の電話加入権を解約したとしても、契約時に支払った施設設置負担金は返金されないのでご注意ください。
少しでも電話加入権をお金にしたいのであれば専門業者に売却することも検討しましょう。
ただし、電話加入権の買取業者は少なくなっており、買取価格も1,000円程度となっています。
まとめ
電話加入権は相続財産に含まれ、相続税の課税対象でもあります。
相続税の申告漏れを防ぐためには、亡くなった人が電話加入権を保有していたか調べなければなりません。
電話加入権を保有していたかは、NTT東日本やNTT西日本に問い合わせをするのが確実でおすすめです。
なお、電話加入権を受け継いだ際には名義変更手続きが必要です。
故人の電話番号を受け継がなくて良い場合は、解約手続きなどを行いましょう。
また、故人が借金を遺して亡くなり相続放棄をしたい場合は、電話加入権の名義変更手続きや解約を行ってはいけません。
最悪の場合、財産を処分したとみなされ、相続放棄が認められなくなってしまいます。
相続放棄は専門的な知識や経験が必要な場合もあるため、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談しながら行うのが良いでしょう。
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