- 特別受益の時効は何年か
- 特別受益の対象となる贈与・遺贈は何年前まで遡ることができるか
- 特別受益を主張する方法・主張されたときの対処法
特別受益とは、ある相続人が亡くなった人から特別に得ていた利益です。
例えば、過去に受けた贈与が特別受益であると判断されると、過去の贈与も相続財産に含めて遺産分割を行わなければならない場合があります。
特別受益の対象となる贈与や遺贈については時効という概念がなく、どんなに過去に行われた贈与であっても特別受益として判断される可能性があります。
しかし、令和5年の法改正により、特別受益を請求する時効は「相続開始から10年以内」と定められました。
したがって、相続人の1人が過去に贈与を受けていた可能性がある場合、相続発生から10年以内に特別受益についての証拠を集め、相手方に主張しなければなりません。
本記事では、特別受益の時効はいつか、特別受益を主張する方法について解説します。
目次
1章 特別受益とは
特別受益とは、ある相続人が亡くなった人から特別に得ていた利益です。
例えば、下記のように長男が3,000万円の不動産を生前贈与されていたケースを考えてみましょう。
上記ケースの場合、相続発生後に遺産3,000万円を3兄弟でそれぞれ等分するのは不公平だと考えられます。
そこで、過去に生前贈与を受けていた長男の遺産取得分を少なくするのが特別受益の持ち戻し計算の考え方です。
特別受益は生前贈与に限らず、相続人の1人が亡くなった人から特別に得ていた利益すべてが該当します。
例えば、下記の援助や贈与、行為も特別受益に該当する可能性があります。
- 生活費の援助
- 不動産の贈与
- 養子縁組したときに家を用意した
- 車の贈与
- 持参金
- 事業を始めるときの援助
- 学資の援助
- 無償で家に居住させていた
相続人の1人が特別受益を得ていたのではないか、と考えられるケースでは、まず証拠集めをしてから遺産分割調停などで特別受益を主張する必要があります。
特別受益の主張方法については、本記事の5章で詳しく解説します。
2章 【令和5年改正】特別受益の時効は相続開始から10年
令和5年に相続放棄が改正され、特別受益を主張、請求する際の時効が「相続開始から10年」となりました。
したがって、相続人の1人が認知症であり遺産分割協議を行えないケースや相続人同士で揉めてしまい遺産分割協議が10年経ってもまとまらないケースなどでは、特別受益を相手方に請求できなくなる可能性があります。
遺産分割協議にて特別受益を主張しようと考えている場合は、時効が成立しないようにご注意ください。
特別受益の主張時効は、令和5年以降に発生する相続のみに適用されるわけではありません。
令和5年4月1日以降は、過去に発生した相続についても相続開始から10年経過してしまうと特別受益を主張できなくなるのでご注意ください。
特別受益の主張時効が成立してしまいそうな場合は、本記事の5章で詳しく解説する遺産分割調停や審判を行うことも検討しましょう。
3章 特別受益の対象となる贈与・遺贈には時効がない
特別受益の時効で誤解されがちな要素のひとつに、特別受益の対象となる贈与や遺贈を行った期間があります。
先ほどの章で解説したように、特別受益の主張時効は相続開始から10年以内ですが、特別受益の持ち戻し対象となる贈与・遺贈は期間が設定されていないのでご注意ください。
したがって、遺産分割協議で特別受益を主張する場合、相続開始から10年以上前に行われた生前贈与についても特別受益であると主張可能です。
過去の贈与を特別受益の対象から外したい場合は、遺言書などで特別受益の持ち戻し免除を主張しておく必要があります。
特別受益の持ち戻し期間や持ち戻し免除については、下記の記事で詳しく解説しているので、あわせてお読みください。
4章 遺留分計算時の特別受益の時効は10年
本記事の3章で解説したように、遺産分割協議にて特別受益を主張する場合、持ち戻しの対象となる贈与や遺贈の期間が制限されていません。
しかし、遺留分を計算する場合、対象となる特別受益の期間は相続10年以内の生前贈与や死因贈与、遺贈のみであると限定されました。
したがって、遺留分を計算する際には、相続開始の10年より前に行われた贈与については特別受益に該当せず遺留分の計算対象に含めることができません。
このように、特別受益の持ち戻し期間は遺産分割協議時と遺留分計算時で変わるため、非常に取り扱いが複雑です。
万が一、特別受益が認められる場合、相手への請求も必要なことを考えると最初の段階から相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
5章 特別受益を主張する方法
自分以外の相続人が亡くなった人から贈与などを受けていた場合には、特別受益を主張できる可能性があります。
他の相続人に特別受益があったと疑われる場合、下記の流れで主張しましょう。
- 特別受益に関する証拠を集める
- 遺産分割協議で特別受益を主張する
- 遺産分割調停や審判を行う
- 特別受益も考慮した遺留分侵害額請求を行う
それぞれ詳しく見ていきましょう。
5-1 特別受益に関する証拠を集める
遺産分割協議などで証拠もなく特別受益を主張するだけでは、相続人が「過去に贈与を受けました」と特別受益を認める可能性が低いです。
そのため、まずは特別受益に関する証拠を集めましょう。
具体的には、以下が特別受益の証拠になる可能性があります。
- 不動産の全部事項証明書
- 家の評価に関する書類
- 親名義の預貯金通帳
- 定額貯金の払い戻しを証明する書類
どんなものが証拠になるかわからない場合や自分で証拠を集めるのが難しい場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談しても良いでしょう。
5-2 遺産分割協議で特別受益を主張する
特別受益に関する証拠を集めたら、まずは遺産分割協議で特別受益を主張しましょう。
特別受益を受け取った相続人が納得してくれたら、遺産分割協議書にその旨を記載し、特別受益を含めた金額で遺産分割を行います。
相続人同士の話し合いでは解決が難しい場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士が間に入ることで話し合いがスムーズに進む場合もあります。
特別受益を主張された側も専門家の意見であれば、受け入れざるを得ないと考える場合もあるからです。
5-3 遺産分割調停や審判を行う
遺産分割協議で相続人が特別受益を認めず、協議がまとまらなかった場合は、遺産分割調停や審判へと手続きを進めることも検討しましょう。
遺産分割調停では、調停員が当事者の間に入って話し合いを進めてくれます。
遺産分割調停で解決できなかった場合には、裁判官が遺産分割の方法を決定する遺産分割審判へと手続きを進めます。
遺産分割審判では、裁判官が最終的に遺産分割の方法や割合を決定するので、特別受益を認めてもらうための証拠を提出しなければなりません。
証拠の用意が難しい場合や遺産分割調停や審判の手続き準備が難しい場合は、相続トラブルに詳しい弁護士に相談しましょう。
5-4 特別受益も考慮した遺留分侵害額請求を行う
亡くなった人が遺言書を作成していたものの特別受益を考慮しておらず、内容が偏っている場合、遺留分侵害額請求も同時に行っておくのがおすすめです。
遺留分侵害額請求とは、最低限度の遺産を受け取れなかった相続人が遺産を多く受け取った人物に対して金銭を請求する手続きです。
遺留分侵害額請求を行えば、特別受益を含め遺産を多く相続している相続人に遺留分相当額の金銭の支払いを求めることができる可能性があります。
6章 特別受益を主張された・されそうなときの対処法
亡くなった人から過去に贈与を受けたことで特別受益を主張されてしまった場合、相手方が贈与の具体的な証拠を用意できない場合は、特別受益を認めないことも選択肢のひとつです。
しかし、特別受益を認めない場合、いつまでも遺産分割協議が完了せず、場合によっては調停や審判などに進み遺産分割まで非常に手間と時間がかかる場合もあると理解しておきましょう。
生前贈与をするのがこれからならば、特別受益についてのトラブルが発生しなくてすむように、遺言書を作成し特別受益の持ち戻し免除をしておくのがおすすめです。
遺言書にて特別受益の持ち戻し免除を記載しておけば、過去に行った相続人への贈与を特別受益の対象から除けます。
このように、生前贈与や遺言書の作成はひとつだけ行うのではなく、複数の対策を組み合わせることでトラブルも回避しやすくなりますし、自分の希望する人物に遺産を受け継いでもらいやすくなります。
複数の相続対策を組み合わせるには、相続についての専門的な知識や経験が必要なので、相続に精通した司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
まとめ
令和5年の相続法改正により、特別受益の主張時効が相続開始から10年以内とされました。
相続開始から10年を過ぎてしまうと、特別受益を主張できなくなるのでご注意ください。
なお、特別受益の主張時効は令和5年以降に発生する相続のみに適用されるのではなく、過去に発生した相続についても適用されます。
また、遺産分割協議にて特別受益を主張する場合、持ち戻し期間に制限はなく相続開始10年より前に行われた贈与についても対象にできます。
特別受益が発生していると考えられるケースでは、まずは亡くなった人が相続人に対して贈与を行っていたという証拠を集めましょう。
これから贈与をして相続対策する場合は、将来の相続トラブルを防ぐためにも遺言書にて特別受益の持ち戻し免除を行っておくことを強くおすすめします。
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